07 晩餐会って、だいたい何かあるよね?
今夜は、エリスが聖魔法を授かったお祝いの晩餐会。オーキン城の一番大きな広間は、たくさんのお客様でにぎわってる。街を預かる貴族や、有力な騎士、聖職者などなど、300人ほどの領地の有力者の方々が集まった。
エリスは会場の真ん中で、ひっきりなしに来賓の皆様からの挨拶を受けてる。チラチラこっちを見て「お姉助けて」ってサインを送ってくるけど、どーしようもない。今日の主役なんだから、がんばって笑顔を振りまいて。
そんなことを考えながら、アリスティアは大きめに切ったミートパイを頬張った。貴族の令嬢たちが「まぁ、あんなに召し上がられて」だの、「ますますお太りになられたのでは?」だの、「なんて恥ずかしい」だのささやいているが気にしない。
「淑女が陰口などと、嘆かわしい」
後ろで控えているポールソンが、不機嫌そうに独りごちた。怒ってるオーラが伝わってくるけど、あくまで笑顔なのがむしろ怖い。
ミートパイのおかわりを……と思ったところで入口の扉が開き、会場の令嬢たちが「わぁ」と感嘆の声を漏らした。2人の殿下の来場だ。
先頭をかっ歩するのがアーヴァイン王太子殿下。年齢はアリスティアと同じ14歳で、身長は頭1つ分アリスティアより高い。肩まで伸びた金髪がワイルドなウェーブを描き、勝ち気な赤い瞳と似合っている。
後ろに続くのが第二王子のエルウィック殿下。歳は12歳で、身長はアリスティアとエリスティアのちょうど中間ぐらい。ミディアムにスッキリとまとめられた金髪の下の青い瞳は穏やかで、大人しそう。
その後ろに、宰相らしき人や数人の騎士たちが続いた。
アーヴァインはそのままエリスティアの正面に進んだ。
すかさず、グレゴリオが前に出て頭を下げ、イサドラとエリスティアがスカートの裾をつまんで礼をした。遅れて、早足で駆け寄ったアリスティアとポールソンが続く。
「アーヴァイン殿下、エルウィック殿下、よくぞいらして下さった」
「うむ、久しぶりだな、グレゴリオ」
「ははっ」
アーヴァインは、顔を上げたエリスティアを見定めるようにジロジロと見た。
「そなたがエリスティアだな? 聖魔法を授かるとは喜ばしい。褒めてつかわすぞ」
「あ……その……ありがたきお言葉でございます」
初めて会う王族に、エリスティアはうろたえ気味だ。
「その隣がアリスティアか……噂通り、随分太っているな」
「お目汚し申し訳ありません。何事も自然体でと考えておりまして」
「自然体? フン……ものは言いようだな」
アーヴァインは鼻を鳴らしながら、恐縮しているグレゴリオを見た。
「グレゴリオ、知らぬわけではあるまいな? 我が父、コーエル陛下の意向を」
「はっ、もちろん存じております。同じ年に生まれたアリスティアを、アーヴァイン殿下の嫁にと望んでいるとのこと」
「そうだ! よりにもよってこのデブを、俺の嫁にしろとおっしゃっているのだ!」
あ~、デブですみませんね。気持ちはわかるけど、面と向かって言われるとイラッとする。
「“神託”にて、王となるに相応しい“軍神の威光”を授かった私が、なぜ魔法も使えず、己の体重も管理できぬ愚か者と一緒にならねばならぬのだ?」
「……痩せるよう言って聞かせているのですが」
グレゴリオはハンカチを取り出し、平身低頭しながら額の汗を拭った。
「それに比べて、エリスティア嬢は聖魔法を授かり、“天使姫”と謳われるほど美しい。――私に相応しいと思わぬか?」
イサドラがここぞとばかりにしゃしゃり出た。
「もちろんでございます! 我が愛娘エリスティアこそが、殿下に相応しく存じます!」
エリスティアが王太子妃になれば、自らはいつしか国母となる。アリスティアでは同じ国母でも義母となり威光が陰る。野心丸出しのアピールだ。
「うんうん、そうであろう。では、異存がなければエリスティアを我が婚約者に……」
「お断りです」
意外な言葉が、意外な人物から出た。
「い、今、何と言った?」
「お断りだと言ったんです」
普段の軽やかな声からは想像もつかないような怒気を含んだ低音が、天使のような唇から発せられていた。
「お姉さまのことを悪く言う方のところへ嫁ぐ気はありません。どうぞ、お引き取りください」
エリスティア!? グレゴリオ、イサドラ、アリスティアの3人が珍しく声を揃えた。
「な、何を言うのです! アリスティアが何を言われようと自業自得ではないですか!」
「そうそう! 殿下への不敬よ、不敬! 取り消して!」
「おお、エリスティア、父を困らせないでくれ!」
あたふたと取り囲む3人に構わず、エリスティアはこれでもかと据わった目で言い放った。
「王太子殿下であろうと、誰であろうと、お姉さまを侮辱する方を許すつもりはありません――」
すーっと息を吸って、止めの一言。
「大っ嫌いです!」
ガーーーン!!! 鐘を打ち鳴らしたように、アーヴァインの体がグラグラと揺れた。
「この俺を……大っ嫌いと……次期国王の……この俺を……」
「あ、兄上……」
アーヴァインの後ろでエルウィックがオロオロしているが、事態が良くなるわけでもない。
「別邸へ引き上げるぞ……エルウィック……日を改める」
「は、はい!」
傷心でよろめきながらアーヴァインが退場していく。苦笑いを残して、エルウィックが続いた。
宰相らしき人がジロリとグレゴリオを睨んだが、こうなっては開き直るしかない。
「今日はエリスティアの祝いの席だ。面倒な話は明日にしてくれ、ジェラルド殿」
わかったとばかりに目を伏せ、ジェラルドと呼ばれた宰相らしき人は踵を返した。歳のころは20半ばといったところで、ストレートのロングヘアーが知的な印象を与える。
王太子一行が去ったところで、イサドラが爆発した。
「エリスティア、何てことを申すのです! 不敬罪で投獄されても仕方のないところですよ!」
「私が……投獄ですか?」
「そうです!」
「いや、それはない」
グレゴリオが否定した。
「王都と闘うことになったとしても、我が命に代えてエリスティアをそのような目には遭わせぬ」
いつの間にか背後に控えていた屈強な騎士たちが一斉にうなずいた。辺境を護る騎士団は王都のお上品な騎士たちより強い――と、みんな自負しているので、一戦交えるぐらい望むところだ。
「それはそうなのだが、お手柔らかにしてくれ、エリスティア。なぜ、そなたはアリスティアのことになると向きになるのだ?」
「そうです! せっかくの良い話なのにあのような……」
「私は――」
イサドラの言葉をエリスティアが遮った。キッとした目を母に向ける。
「太っているという見た目だけで、アリスティアお姉さまの素晴らしさを知ろうともしないお方と親しくなるつもりはありません。お姉さまは私より賢く、武術にも長け、礼儀作法もダンスも完璧です。私など、お姉さまから教わってばかりで……。そのことは、お母さまもご存じのはず」
「う……」
イサドラが口ごもった。どうして我が愛娘は、太った血の繋がらぬ姉をこうも慕うのか……。
「お姉さま、あちらに私の作ったフルーツタルトがあるんですよ。一緒に食べましょう?」
「う、うん。食べよっか」
「はい!」
パアァとエリスティアに天使の微笑みが戻った。
ゴメンねとばかりにアリスティアが両親を横目で見るが、2人とも魂が抜けたように呆然としている。
(しばらく、王太子殿下は滞在するみたいだし、一悶着ありそう)
ゆったりとしたドレスを揺らしながら、脂肪がMPの最強魔法使いは、ため息交じりに天井を見上げるのだった。
次回更新は、3/23(水)に『転生少女の七変化 ~病弱だった少女が病床で作った最強7キャラで、異世界をちょっと良くする物語~』をアップ予定です。
https://ncode.syosetu.com/n2028go/
もしくは画面上の、作者:イリロウ のリンクから
どちらも読んでもらえるとうれしいです!
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