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31 これが辺境の底力よ!

 脂肪がMPマジックポイントの最強魔法使いが、右の手のひらをオークエンペラーに向けた。左手を手首に添えて、狙いを定める。


「行けーっ! 炎弾フレイムバレット!」


 手のひらから、顔ほどの炎の塊が飛び出した。


 ズガァーン!


 炎はオークエンペラーの胸板に炸裂した。


「まだまだぁ!」


 アリスティアの手のひらから、炎の塊が連続して放たれる。


 ズガガガガガガガ!


 炎は瞬く間に全て命中し、炸裂したことで発生した煙がオークエンペラーの巨体を覆った。


「おおっ! やったか!」


 感喜したグレゴリオであったが、煙が棚引くと共に、その喜びも霧散した。

 肩を怒らせながら、オークエンペラーがアリスティアに向かい始めたのだ。


「無傷……だと……」


 絶句するグレゴリオをよそに、オークエンペラーはアリスティアとの距離を詰めていく。


「おのれ! 我が剣で――」


 王家の剣を構えて立ちはだかろうとするアーヴァインを、アリスティアが止めた。


「大丈夫! 下がってて!」

「しかし……」

「ドーナツを食べ終わるまで、時間を稼いでくださっただけで十分です。さすが王太子殿下ですね」

「アリスティア姫……」


 ニッコリ微笑むアリスティアに、アーヴァインは下がるしかなかった。傷ついた体には、もう力など残っていないのだ。


 グオオォオオォォォォ!


 オークエンペラーが雄叫びを上げた。ビリビリと振動する空気が肌を震わせ、騎士たちが青ざめた。

 この化け物を倒す術はあるのか? ――そんな恐れが伝わってくる。


「さすが最上位のオークね、ちまちま攻撃してもダメみたい。隕石落下メテオが撃てればいいんだけど、そんな脂肪(MP)はないし……」


 アリスティアは覚悟を決めた。


「こうなったら、次の一撃に全てを賭ける!」


 アリスティアは、体に残された力を高めるように手を合わせた。


身体強化・筋力ストレングス・ブースト10000キロカロリー!」


 アリスティアの全身から、真っ赤なオーラが舞い上がる。詰め込んだドーナツでぽっこり膨らんだお腹が、一気に引っ込んだ。


「名付けて……」


 ピンクのロングヘアーが逆立ち、金色の瞳が爛々と輝いた。


辺境の底力(オーキン・バースト)!」


 アリスティアの小さな体が砲弾のように放たれた。屈めた身が肩からオークエンペラーに向かって突進していく。


 これは――演習場でアーヴァインに食らわせた辺境騎士の武骨な技、ぶちかましだ。


 オークエンペラーが渾身の力で戦斧を振り下ろす。だが、闇雲な攻撃がアリスティアを捉えることはない。真っ赤な火の玉と化したアリスティアは難なくすり抜け、右肘を突き出した。


 ドゴオォオォォォォォォン!


 アリスティアの小さな体がオークエンペラーのみぞおちに吸い込まれた。10000キロカロリーが生み出した破壊力が肘の1点に込められ、オークエンペラーの心臓を捉えたのだ。


「これが、オーキンを守ってきた騎士の力よ!」


 オークエンペラーの体がグラリと傾いた。それでも、アリスティアの体をつかもうと、震える両手を動かす。


「お姉さま!」


 エリスティアが叫んだ。


「アリスティア姫!」

「アリスティア!」


 アーヴァインとグレゴリオが残された力を振り絞って足を動かした。アリスティアがすべての魔力を使い果たしたなら、もう抗う力は残っていない。オークエンペラーの手にかかれば、か細くなってしまった体など引きちぎられてしまう。


 ――だが、巨木のような両腕が、アリスティアを捉えることはなかった。


 難攻不落に思えた巨体が天を仰ぎ、仰向けに倒れ落ちたのだ。両目に生気はなく、力無く開いた大口からはだらりと舌が垂れている。


 アリスティアはゆっくりと、巨体の上で立ち上がった。

 歓喜の声を上げながら、騎士たちが痛んだ体を忘れて駆け寄っていく。


「最後に頼りになるのは、やっぱりオーキン伝統のぶちかましね」


 歓喜の輪が広がる中、脂肪がMPマジックポイントの最強魔法使いは、満足げに片目を閉じるのだった。


次回更新は、3/26(日)に『転生少女の七変化キャラクターチェンジ ~病弱だった少女が病床で作った最強7キャラで、異世界をちょっと良くする物語~』をアップ予定です。

https://ncode.syosetu.com/n2028go/

↑もしくは画面上の、作者:イリロウ のリンクから

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