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29 どんな時でも、お茶は淑女の嗜みよ

 ポールソンの目の高さまで掲げられたティーポットから、腰の高さに持たれたティーカップへ向けて、琥珀色の液体が注がれていく。空気に多く触れさせることによって香りが膨らみ、飲みやすい適温になるとは、以前ポールソンがアリスティアとエリスティアに行った説明だ。


 エリスティアと向かい合って座るアリスティアが鼻を揺らした。


「よい香りね」

「王家より贈られた茶葉でございます」


 ポールソンの陰から、エルウィックがひょっこりと顔を出した。


「王都でも選りすぐりの茶葉を厳選したスペシャルティです」

「まぁ、もしかして、噂のロイヤルブレンドティですか?」


 エリスティアが思わず口を挟んだ。両手の指先で口元を覆い、頬が上気している。


「そうです。王妃陛下との茶会でしか出されぬ茶葉を、無理言って分けてもらいました」

「素敵! そんな特別なお茶をいただけるなんて。ね、お姉さま」

「そうね。――あ、殿下、ご一緒いたしませんか? お座りください」

「よろしいのですか? お2人の大事なお茶の席にお邪魔するなど……」

「お気になさらずに。ね、エリス?」

「はい。ぜひご一緒させてください」


 2人の姫はニッコリと微笑んだ。


 ポールソンが目配せすると、オーキン家の従者たちが椅子を1脚、アリスティアとエリスティアの間に置いた。


「では、失礼して――」


 座ったエルウィックの元に、ポールソンがいれ立てのティーを置いた。続いて、アリスティアとエリスティアの元にも、全く音を立てぬ優雅な手つきでティーが置かれていく。


 アリスティアはすっかり細くなった指先でティーカップを持つと、そっとロイヤルブレンドティに口をつけた。痩せて花弁のように生まれ変わった唇が、オーキン家に伝わる白磁のティーカップとよく似合う。


「何て華やかな……。まるで王宮の庭園で、王妃陛下とお話ししているかのよう」


 エリスティアもティーを傾けた。


「お姉さまのおっしゃるとおり……薔薇を思わせる優雅な香りですね」


 うっとりとした笑みを浮かべる美しい姫2人の間で、エルウィックも満足げだ。


「それほどお褒めいただければ、陛下も満足でしょう。今度、ぜひ王宮にお越しください」

「もちろんですわ。こんな場所(・・・・・)で王妃陛下の心づくしをいただけるなんて、御礼を申し上げなければ」


 エリスティアは、アリスティアの言葉にうんうんと頷いている。



「うおぉおぉぉぉぉぉぉ!」


 アーヴァインが吠えた。こんな場所(・・・・・)を死守するべく、騎士たちはオークエンペラーと血みどろの死闘を演じている。


 ヴオォオオォォォォォォ!


 オークエンペラーの戦斧が振り下ろされた。人の胴体3つ分はあろうかという巨大な刃は、まともに当たれば鎧ごと体を真っ二つにされるだろう。


密集隊形ファランクス!」


 騎士団長ゲイブルの号令で、アーヴァインの前で数名の騎士が立ちはだかった。騎士たちは速やかに鉄の盾を組み合わせて壁を作る。


「ぐはあぁっ!」


 オークエンペラーの斧が盾ごと騎士たちを蹴散らした。――だが、重なり合った盾のおかげで致命傷は逃れた。アーヴァインは騎士たちの体を踏み台にして、オークエンペラーに飛びかかる。


「くらえぇえぇぇぇぇ!」


 王家の剣が、オークキングの隆起した右上腕の筋肉に刺さった。


「チィッ! 浅い!」


 アーヴァイン渾身の一撃も、オークエンペラーの全身に残る無数の傷跡を1つ増やしたに過ぎない。


 ギロリと理性のない獣の眼光がアーヴァインを見た。


 まずい――。王家の剣を引き抜いて身構えた。


 オークエンペラーの巨大な左拳が迫る。


 死――その刹那、オークエンペラーの巨体が揺らいで、拳が空を切った。オークエンペラーの足首を、グレゴリオが大剣で刺したのだ。


 身を翻して地に降りたアーヴァインにグレゴリオが告げた。


「殿下、良き攻めでございますぞ!」


 グレゴリオは続けて騎士たちに命じた。


「身軽な王都の騎士が上から! 我が騎士たちは足下を攻めるのだ! アリスティアの茶会が終わるまで耐えるぞ!」


 おう! 全ての騎士が声を揃えた。



「さ、お姉さま、好きなだけお食べください」


 エリスティアが差し出したバスケットには、色とりどりのドーナツが30ほど詰め込まれている。


「これが揚げたてにシュガーをたっぷりまぶしたもの、これが砕いたナッツを飴でコーティングしたもの、これが煮詰めたイチゴをかけたもので、こちらが西方より取り寄せたチョコレートを溶かして……」


 エリスティアは、ドーナツを1つ1つ丁寧に説明していく。


「うわぁ、どれもおいしそう。どれから食べるか迷っちゃうわね~」

「まぁ、お姉さまったら」


 フフッと2人の姫が微笑みあった。


 ――迷わずにさっさと食ってくれ!


 死闘を繰り広げる騎士たちが、心を1つにしてアリスティアにツッコんだ。

 視線を感じたのか、アリスティアは小さく咳払いすると、エルウィックに向き直った。


「それでは殿下、少々はしたない姿をお見せしますが、お許しいただけますか?」

「気にせずお召し上がりください、兄上と騎士たちの命が尽きぬうちに」


 いつも落ち着いた振る舞いを見せるエルウィックだが、額に大粒の汗が浮かんでいる。冷静を装っているが、内心気が気でないのだ。


「では――」


 アリスティアは無造作に両手をバスケットに突っ込み、右手にチョコレート、左手にイチゴのドーナツをつかんだ。


「いただきま~す!」


 もっもっもっもっもっもっもっもっもっもっもっ。


 右を食べては左を食べ、ティーをすするとまた右を食べ――。猛烈な勢いでドーナツが口の中に消えていく。ドーナツ1つが約350キロカロリーで、30個平らげれば1万500キロカロリー。森を吹き飛ばした隕石落下メテオのカロリーが7万2千キロカロリー(脂肪10キロ相当)なので、その約5分の1(脂肪2キロ相当)を一気に摂取して、オークエンペラーを倒そうというのだ。


 夕食の際、母イサドラがいかに戒めようと、ステーキを勢いよくパクついていた理由がここにある。


 脂肪がMPマジックポイントの最強魔法使いは、いざという時のために大食いと早食いの鍛錬を欠かさなかったのだ。


次回更新は1週お休みして、2/26(日)に『転生少女の七変化キャラクターチェンジ ~病弱だった少女が病床で作った最強7キャラで、異世界をちょっと良くする物語~』をアップ予定です。

https://ncode.syosetu.com/n2028go/

↑もしくは画面上の、作者:イリロウ のリンクから

どちらも読んでもらえるとうれしいです!


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ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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