28 かわいい妹あっての最強魔法使いってこと
「エリス! みんなを回復して!」
「はい!」
アリスティアの呼びかけに応じて、エリスティアが華奢な両手を天に広げた。
「範囲回復魔法!」
辺りに金色の光の粒が降り注ぎ、騎士たちの傷を癒していく。
「おぉ……これぞ天使の輝き……。力が戻ってくる……」
天を仰ぎながらアーヴァインが拳を握った。膝を折った騎士たちが、剣を支えに立ち上がっていく。
今度はアリスティアが、オークの一団に向かって両手を広げた。
「範囲拘束魔法!」
無数の雷が鞭のようにしなって、オークたちの体にまとわり付いていく。
グギギ……。歯ぎしりしながらオークたちはもがくが、体はピクリとも動かない。
「さぁ、今のうちよ! かかれーっ!」
「美しい……」
アーヴァインが思わず漏らすほど、号令をかけるアリスティアの頬はますますほっそりとしていた。
グレゴリオが剣を掲げた。
「皆の者! 容赦はいらぬぞ! オーキンの騎士の名に相応しい働きを見せよ!」
おおぉおおぉぉぉ! 雄叫びと共に騎士たちがオークどもに斬りかかっていく。人の身の丈を優に超す巨漢も動けないのでは為す術がない。1体、また1体と地に伏していった。
ウガアァアァァァ! 数体のオークキングが力ずくで拘束魔法を破った。
「氷結弾!」
「火炎波!」
「旋風斬!」
すかさずアリスティアから縦横無尽に魔法が発せられていく。
後方で見守るエルウィックが息を飲んだ。
「すごい……あらゆる属性の魔法で攻撃を……。ほとんどの魔法使いが、1つの属性しか使えないというのに……」
「そう、お姉さまはすごいんです!」
天使姫が我がことのように胸を張った。普段、真の力を隠している姉が、存分に力を振るっていることがうれしくて仕方ない様子だ。
ぐうぅうぅぅぅぅ……。
ほとんどのオークを制圧したところで、アリスティアの引っ込んだお腹が鳴った。
「あうぅ……お腹減ったぁ~。も~っ、すっかり痩せちゃったわよ」
ピンクブロンドの美少女がいかに痩せたかを示すように、たわんだローブのお腹辺りの布を持ち上げた。細く白い脚が常より少し上まで露わになり、その姿はおどけた様子ではあるがあまりに美しく――。アーヴァインのみならず武骨な騎士であるゲイブルまでが「ほう……」と息を漏らした。
――だが、戦いはそれで終わりではなかった。
焼け焦げた森の木々が大きく揺れ、オークキングよりもさらに大きな巨体が、のそりと姿を現した。傷跡だらけのその体は難攻不落の崖のようにそびえ、厳つい面構えは地獄の鬼を連想させる。
「な、なんだあれは……」
グレゴリオですら見たことのない異形のオークだった。オークキングなど及びもつかない威圧感は、更なる上位種であることを示している。
「まさか……オークエンペラー……」
声を漏らしたエルウィックに皆が振り返った。あれが、オークエンペラーであると!? 国を滅ぼしかねない神話級の魔物だ。
「ジェラルド! あんなものまで召喚したのか!」
主君であるエルウィックの問いにジェラルドは高笑いで返した。
「あーっはっはっはっ! それだけ森に瘴気が溜まっていたのでしょう! 終わりだ! みんな死ぬんだーっ! あっはっはっはっ!」
覚束ない足取りで彷徨いながら、ジェラルドは狂ったように笑い続けた。
アリスティアは焦った。そんなバカな宰相どうでもいいから、なんとかオークエペラーを倒さなきゃ! けど――
「まずい、脂肪がもうない! ハンガーノックになっちゃう!」
「お姉さま、お任せ下さい! ポールソン、用意を」
「はっ!」
ポールソンが指を鳴らすと、オーキン家の使用人がテキパキとテーブルと椅子を運び始めた。エリスティアは使用人の1人から大きなバスケットを受け取ると、アリスティアに見せるように蓋を開いた。中には色とりどりのドーナツがギッシリと並んでいる。
「手作りのドーナツアソートです。お茶にいたしましょう、お姉さま」
「でかした! エリス!」
パァッと笑顔が弾けた脂肪がMPの最強魔法使いは、場違いなほどウッキウキな足取りで天使姫の元へ向かうのだった。
お待たせしました! いよいよ第3章スタート!
次回更新は、2/5(日)に『転生少女の七変化 ~病弱だった少女が病床で作った最強7キャラで、異世界をちょっと良くする物語~』をアップ予定です。
https://ncode.syosetu.com/n2028go/
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どちらも読んでもらえるとうれしいです!
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