27 美少女、再び!
地に伏せていた騎士たちが、おずおずと立ち上がっていく。
周囲を覆う防御魔法の向こうで吹き荒れる業火をよそに、内側にはそよ風すら吹かない。街を滅ぼしかねない衝撃波を完全に弾き返しているのだ。
喜びの雄叫びが巻き起こった。
「アリスティア姫ェエェェェェ!」
「なんて魔法だーーっ!」
「オーク姫、バンザーーイ!」
オーク姫は余計だと思いながらも、アリスティアは防御魔法を貼る両手に魔力を送り込み続ける。ふくよかな体を包んでいたローブがしぼみ始めた。
隕石落下に、広範囲防御――見たこともない高位魔法の連続に、宰相ジェラルドは言葉を失っていた。
「バカな……魔法が使えない無能なオーク姫ではなかったのか? こんな魔法、存在すら知らぬ……」
そこまでつぶやいて、はっとした。オーク姫は“神託”において、神殿の天井まで届く無数の魔法を授かったという。その中には、神官すら知らない魔法の名があったといわれる……。
荒れ狂う衝撃波が次第に収まり、辺りに静けさが戻り始めた。
アリスティアは広範囲防御を解くと、再び詠唱を始めた。
「天よ、恵みの雨を森に! 集中降雨!」
隕石落下の余韻で渦を巻いていた暗雲が、まるで意志を持ったかのように森の上空に敷き詰められ、強い雨を降らせていく。
森を焼いていた炎はくすぶる煙へと変わり、魔法陣があった辺りにはぽっかりと大穴が空いていた。
「魔法陣を消すためとはいえ、ちょっとやり過ぎたかな?」
小さな口から、ペロッと舌が出た。その悪戯っぽい表情を、グレゴリオはあんぐりと口を開けて見つめている。
「天候を……操るだと……? まるで、神の御業ではないか……」
「便利でしょ? 雨でも嵐でも自由自在なんだから」
「な、なぜ、魔法が使えることをずっと隠して……」
グレゴリオは気づいた。言葉を交わす娘の顔が一回りも二回りも小さくなっていることを。
「む? 顔が……随分すっきりして……」
「美しい……」
少し離れたところで伏せていたアーヴァインから思わず息が漏れた。森からの風を受けて棚引くピンクブロンドの髪が、白くて小さな顔を引き立てる。はためくローブに浮き出る体はまだ幾分太いが、もうオークとは言わせない。
――なぜ、いきなり痩せたのだ?
ジェラルドは考えを巡らせた。痩せる魔法があるなら、普段から使えばよい。オーク姫などと呼ばれるのは本意ではないだろう。ならば、痩せる魔法ではなく、魔法を使ったから痩せた――。
「まさか……体重をMP代わりに……」
アリスティアがニッコリと笑った。
「ご名答! さすが宰相、頭が回るのは悪だくみだけじゃないのね」
体重をMPに――。騎士たちが息を飲んだ。
「そう! お姉さまはいざという時に備えて、あえて体重を増やしていたのです! 魔法で皆を守るために!」
エリスティアの声に、騎士たちは頭を打たれたような衝撃を受けた。アリスティア姫は自堕落なのではない、わざと太っていたのだ。民や騎士がオーク姫と揶揄しても、この地を守るために……。
1人、また1人と、騎士たちが跪いていく。もうオーク姫などではない。我らの命を救ってくれた偉大なる魔法使いの姫様だ。
跪く騎士の間を、エリスティアがゆっくりとアリスティアに歩み寄る。
「痩せたお姉さまに会うのは久しぶり……。その美しさ……真の天使姫はあなたです」
「フフッ、エリスにそう言われると、その気になっちゃうわね。けど――」
むにゅっと、ローブの上からお腹をつまんだ。
「お腹にまだ脂肪が残ってるのよね。ここが一番落ちにくいの」
「クスッ、お姉さまったら」
微笑み合う2人の天使姫に周りが和んだ。――その時だった。
グオオォオォオォォォ! 静まっていた森が再び揺れ、オークの一群が現れた。その数、数百は下らない。
「やれやれ、まだいたの? 今夜はとことんダイエットしなきゃならないみたいね」
脂肪がMPの最強魔法使いは森に向き直ると、不敵に口端を上げた。
※更新延期のお知らせ。
急なエアコン故障の対応に追われているので、本日予定していた「脂肪がMPの無敵お嬢さまは、美少女なのにちっともモテない!」の更新は、来週1/29日曜日に延期させてください。すみません…。
リーゼ3章の構想もかなりまとまったので、こちらも復活間近です!
次回の更新は、また1週お休みいただいて、
1/22(日)に『脂肪がMPの無敵お嬢さまは、美少女なのにちっともモテない!』を更新する予定です。
「転生少女の七変化」の3章は、もうしばらくお待ちください。
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