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25 炸裂! 7万2千キロカロリー!

 左にグレゴリオとゲイブル、右にジャレンスとポールソンを従え、王太子であるアーヴァインが剣を振るう。その勢いは半壊した“魔物止め”を乗り越え、魔物の軍勢を森まで切り裂かんばかりだ。


 エルウィックが小さな体を弾ませた。


「それでこそ、兄上です! “神託”など授からずとも、あなたこそ王に相応しい!」


 ハーーッハッハハーーッ!


 アーヴァインの高笑いが轟いた。


「魔物など所詮、深い考えのない(けもの)! 動きを読めば何て事はない!」


 その言葉の通り、王家の剣が魔物をなぎ倒していく。


 王太子の奮闘に勢いづいた騎士たちは、左右に分断された魔物の群れを森へ押し返していく。


 ――勝てるかも知れない。魔物暴走スタンピードを止められるぞ! 皆がそう思った瞬間だった。


 森から新たな魔物の群れが現れた。数千はあろうかという、オークの軍勢だ。中には、一際大きな個体がいくつかある。


 あれは――オークキングだ。


 アーヴァインの脳裏に、森の視察の際に出くわした圧倒的な暴力がよぎった。あいつはバカではない。賢い上に木を一撃でなぎ倒す。


 サーッと血の気が失せた。


 歴戦の騎士であるグレゴリオは冷静であった。大柄なオークに比べても巨大であるオークキングの姿を捉え、数えていく。1……2……3……4……5……それ以上は数えるのをやめた。疲弊した騎士たちに、あれだけのオークキングに抗う力は残っていまい……。


 絶望に支配され、片膝が落ちた。


「もはやこれまで……か。コーエルよ……すまぬ……」


 友であり、忠誠を誓う王の名が口から漏れた。もう万策は尽きたのだ。


 アーーッハッハッハッ!


 背後から、勝ち誇ったような高笑いが響いた。


「バカ王子や辺境の田舎騎士に魔物暴走スタンピードを止めるなど叶わぬこと! 魔法陣がある限り、魔物は湧き続けるのだ!」

「ふうん、やっぱりそうなんだ」


 ジェラルドの傍らには、いつの間にかアリスティアが立っていた。


「ア、アリスティア……姫……」

「なぜそのことをあんたが知ってるのかは、今は問わずにおいてあげる」


 腫れぼったいまぶたの片方が閉じて、愛嬌たっぷりのウィンクを作った。――そして、ズカズカと大根足が魔物の群れへ向かっていく。


「な、何をしようというのだ!? 魔法の使えぬオーク姫が! 無駄なことはやめろ! もうおしまいなんだ! お前も……私も……皆……死ぬのだ……」


 ジェラルドの体が崩れ落ちてボロ布の山のように小さくなった。アリスティアは意に介さず、ズンズンと進んでいく。


「お姉さま!」


 真ん丸の顔が振り返った。その視線の先には、揺るぎない姉への信頼に満ちた笑みがある。天使のように可憐な細い指が、グッと握られた。


「やっちゃってください!」

「任せて!」


 関節がどこにあるのかよくわからない太ましい親指が、グッと天を指した。



 一方、片膝をついたグレゴリオにはオークの軍勢が迫っていた。血走った赤い目で我先に押し寄せるオークどもを、止める術はもうない。


(せめて盾となり、殿下の退路を……)


 傷ついた巨躯に鞭をくれて立ち上がろうとするグレゴリオを、2本の大根足がのしのしと追い抜いていった。


「アリスティア!? 下がれ! 死ぬ気か!」


 父親の制止も聞かず、くびれなど微塵もない2本の大根がのっしりと大地に広げられた。


 大きなローブをはためかせ、白く太ましい右腕が天に掲げられる。


「体重10キロくれてやる! いけぇ、7万2千キロカロリー!」


 丸っこい指が拳を作り、振り下ろされた。


隕石落下メテオ!」


 ゴロゴロゴロゴロ……。


 稲光と共に暗雲立ちこめる夜空が渦を巻き、渦の中心から何かが現れる。鈍い金色に輝く岩の塊――それは、月が落ちてきたのかと見紛うような、巨大な隕石だった。


次回もまた1週お休みで、12/18(日)に『脂肪がMPの無敵お嬢さまは、美少女なのにちっともモテない!』を更新する予定です。


『転生少女の七変化キャラクターチェンジ ~病弱だった少女が病床で作った最強7キャラで、異世界をちょっと良くする物語~』の更新は、3章の構想がまとまるまでもうしばらくお待ちください。


【大切なお願い】

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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