24 無能だけど、かっこいいんじゃない?
「……俺は……お前と同じく……何の力もない……。何の恩恵も授かっていないんだ!」
アーヴァインの告白に、周囲の者たちが凍りついた。アリスティアはもちろん、エリスティアも、ポールソンも、ジャレンスも、ゲイブルも、耳にしてしまった騎士たちも、呆然と立ち尽くしている。
アリスティアは、どう答えていいものか窮した。この世のあらゆる魔法を授かりながらMPがないために、宝の持ち腐れとされる辺境の姫――。MPの代わりとなる脂肪を蓄えたがゆえにオーク姫呼ばわりされ、心ない言葉を浴びせられてきた。
――この王太子は、“神託”で何も授からなかったことを隠すために虚勢を張り、剣の腕を磨いてきたのだ。
アリスティアにはその気持ちがよくわかる。自身も太った体が弱みとならぬようにと、剣技を磨いてきたのだから。
「殿下は――」
アリスティアの言葉を狂気じみた声が遮った。
「何て事だ! 無能であることをさらけ出してしまうとは! やはり、バカ王子に次代の王は務まらぬ!」
アリスティアが振り返ると、そこには騎士に囲まれて連れ出された宰相ジェラルドがいた。大きく広げた両手が天を仰ぎ、いつも整っていた髪が粗雑に乱れている。
「不敬だぞ、ジェラルド」
ジェラルドを囲む騎士の横に、マント姿の小柄な少年が現れた。――エルウィックだ。
「無能をバカと言って何が悪いのです!? 無能な王太子が生まれたことで困るコーエル王に“軍神の威光”の策を授けたのは私! 私がいなければ、あの無能はとっくに病死として葬られているのです!」
「兄上には比ぶ者のない剣技がある。幼少からどれほど鍛錬されたか――」
「その剣技も魔物の軍勢の前には役に立たぬようですぞ? 戦う前から無様に膝を屈しておられるのですから」
ジェラルドの言う通り、地に膝を着いたアーヴァインはうな垂れ、戦意を喪失してしまっている。“軍神の威光”が通じぬ魔物の群れに立ち向かう勇気など、持ち合わせていないのだ。
「まったく……兄弟揃って“神託”で何も授からないとは……。王家も終わりですな」
「それは違うぞ、ジェラルド!」
いつの間にか、アーヴァインの背後に血まみれの大男が立っていた。鎧の上からでもわかる屈強な肉体は、人というよりまるでオークだ。
大男は膝を着いて、アーヴァインに顔を寄せた。
「殿下、そなたに“神託”がないことを漏らすような者は、ワシが首を刎ねましょう。“軍神の威光”の力が揺るぐことはありませぬ。王家の威光にひれ伏さぬ者などおらぬのですから」
無能の王太子は、ゆっくりと顔を上げた。
「グレ……ゴリオ……」
「鍛えた剣技は嘘をつきませぬ。どうか、殿下の力をお貸し下さい」
エリスティアが駆け寄った。スカートを持ち上げることもせずに膝をついたので、白いドレスが泥で汚れた。
「アーヴァイン殿下……殿下は無能などではありません。賢明な――王に相応しいお方です。私は……殿下の真意を察せなかったことを恥じます」
「エリスティア……姫……」
妃にと懇願した美しい姫が、我が前に跪いている。この世の誰よりも求めたというのに、得られなかった“神託”である“聖魔法”を授かった天使姫が――。
アーヴァインが立ち上がった。瞳には力が戻り、ふてぶてしい面構えの上で威を放っている。腰に携える王家の剣が抜かれ、天を指した。
「グレゴリオ! ジャレンス! 騎士たちよ、我に続け! 魔物などいくら来ようが蹴散らしてくれる!」
おーっ! と騎士たちが力強い声を発した。
死地を前にして、アーヴァインは己の剣のみで立ち向かう強き王子となったのだ。
アリスティアは思う。――殿下がホントの自分を晒したんだから、私も力を隠してる場合じゃない、と。
脂肪がMPの最強魔法使いは、ついに人前でその強大な魔法を発する決意を固めた。
次回はまた1週お休みで、12/4(日)に『脂肪がMPの無敵お嬢さまは、美少女なのにちっともモテない!』を更新する予定です。
『転生少女の七変化キャラクターチェンジ ~病弱だった少女が病床で作った最強7キャラで、異世界をちょっと良くする物語~』の更新は、3章の構想がまとまるまでもうしばらくお待ちください。
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