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23 軍神の威光ってそういうこと!?

「あ……あぁ……そんな……」


 歯がガチガチと鳴り、足がすくむ。全身の震えが止まらない。壁の周りを埋め尽くす魔物の数に、アーヴァインは恐怖に囚われていた。


 それは、王都の騎士であるジャレンスたちも同様だった。眼前の辺境の騎士たちが魔物の鋭い爪に切り裂かれ、次々と倒れていくのをただ愕然と見ている。これほど凄惨な戦場を、敵のいない王都でぬくぬくと過ごしてきた騎士たちは経験したことがないのだ。


 どんなに傷つこうと辺境の騎士たちは立ち上がり、魔物に向かっていった。


 最初に我に返ったのは、ジャレンスだった。


「う……うろたえるな! 王家直属の騎士である誇りを思い出せ! 殿下を――国を守るのだ!」


 王太子に同行していた騎士たちの眼に力が戻り、剣を抜いた。


 うおおぉおぉぉぉぉぉ!


 雄叫びを上げながら、血みどろの最前線へと駆けていった。――震える王太子を置き去りにして。



  ◆  ◆  ◆



 砂埃を上げて、何かが迫ってくる。ヨタヨタと走っていたゲイブルを巻き込み、ぐんぐんと大きくなる。目を凝らすエリスティアは悟った。


「お姉さま!」


 砂埃はエリスティアのすぐ横の門前で急停止した。勢いをなくしたゲイブルの体は地面に叩きつけられ、「グエッ」とカエルみたいな声を上げた。


「エリス! 戦況は!?」

「よくわかりません。けど、たくさんの騎士が傷ついて……」


 エリスティアの後ろでは、包帯で覆われた騎士たちが何十と横たわっている。


「アーヴァイン殿下は!?」

「壁の向こうへ向かわれました。功を焦っておられるようで……」

「まずい! ゲイブル、行くよ!」

「は、はっ……」


 無理矢理アリスティアに引っ張られてここに来たゲイブルは、まだ目を回しているようだ。それでも身を起こし、アリスティアに続く。


「私も行きます! ポールソン!」

「我が命、姫君お2人のために!」


 エリスティアと共に騎士の治療にあたっていたポールソンが、襟を整えながら立ち上がった。



  ◆  ◆  ◆



「これが……魔物暴走スタンピード……」


 脂肪がMPマジックポイントの最強魔法使いであるアリスティアとはいえ、流石に息を飲んだ。


 これまでに経験した魔物の討伐は、小競り合いだったと言うほかない。“魔物止め”は幾重にも突き刺さったオークの体ですでにその意味を無くし、森からは未だに魔物の波が押し寄せてくる。


 領主である父グレゴリオは、魔物が溢れるその先頭で剣を振るっている。血だらけであるが動きは雄々しく、おそらくほとんどが返り血だろう。


 門を出てすぐのところで王太子が呆けていた。


 ――なんで突っ立ってんの!?


 アリスティアはドスドスとアーヴァインの正面に回り込んだ。


「殿下! 殿下!」


 空虚に泳いでいた瞳が、呼びかけに答えた。


「お……おぉ……アリスティア……姫か……」

「お気を確かに! ここは戦場です!」

「わ……わかって……おる…………これほどの……数……とは……な」

「殿下……」


 目の前の王太子に、いつもの自信に溢れた傲慢すぎるほどの不遜さはない。まるで、初めての戦場に我を失う新兵のようだ。


 ――なぜ? 絶対的な力を持っているというのに。


「殿下にお願いがあります! どうか“軍神の威光”を! 一時でよいのです、魔物暴走スタンピードをお止め下さい!」


 ゲイブルが拳を握った。そうだ! その手があったか! 相手の動きを止める殿下のお力ならば――。


 前線の騎士たちも振り返った。

 追いついてきたエリスティアも、胸に置いた手をきゅっと結んだ。


 期待がアーヴァインを包んでいく。


「殿下! 殿下!」

「王家の力を!」


 壁の上で弓を引いていた騎士たちも、足を踏み鳴らした。


「殿下! 殿下! 軍神! 軍神!」


 さぁ、お膳立ては揃った。いつものアーヴァインであれば、集めた注目を楽しむかのように、存分に力を振るうはず。


 だが――違った。


「それは……出来ぬ……」

「なぜですか!? 殿下の力を示すまたとない機会だというのに! 辺境など捨て置くと言うことですか?」

「違う…………出来ぬのだ……」


 金の装飾で彩られた膝当てが、がっくりと地に落ちた。


「我が力は……偽りだ。“軍神の威光”など……ないのだ……。皆、王太子である俺の言われるまま、動けぬフリをしてしまうだけ……」


 え? 何を言っているのかわからない。演習場で確かにゲイブルは動けなく……


「どういうこと!?」


 振り返ると、目を伏せているゲイブルがいた。


「そういうこと……でしたか……。“軍神の威光”を受けても何ともなく……長旅でお疲れなのかと……」


 うな垂れる王太子の肩が、わなわなと震えている。


「皆……そうだ……。軍神……いや、“王家の威光”を恐れ、金縛りに遭ったフリをする……」


 哀しげな瞳がアリスティアを睨みつけた。まるで、同類を見るかのように――。


「……俺は……お前と同じく……何の力もない……。何の恩恵も授かっていないんだ!」


次回は1週お休みで、11/20(日)に『脂肪がMPの無敵お嬢さまは、美少女なのにちっともモテない!』を更新する予定です。

『転生少女の七変化キャラクターチェンジ ~病弱だった少女が病床で作った最強7キャラで、異世界をちょっと良くする物語~』の更新は、3章の構想がまとまるまでしばらくお待ちください。


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ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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