21 走ってる間に、いろいろ大変みたい!
森から魔物どもが突進してくる。――壁の前に広がる原野に姿を現しただけでその数、数千。それでも木々の揺れは収まらず、まだまだ魔物が溢れ出てくる。
壁の前に設置された“魔物止め”と呼ばれる、鋭利な先端を森に向けた丸太の柵が、数百のオークを串刺しにして受け止めた。絶命するオークどもの背をグレイハウンドが乗り越え、柵の隙間をずる賢いゴブリンが抜けてくる。オークは仲間の死に躊躇することなく柵に突進を続けた。――決壊するのも時間の問題だ。
狂気をはらんだ魔物どもの赤い目と対称的に、騎士たちの顔が恐怖で色を失っていった。
「臆するな! “魔物止め”を越えてきた魔物を着実に仕留めよ! 3対1で当たれ!」
グレゴリオが襲いかかるグレイハウンドを一刀で斬り伏せた。3対1と言いながら、己は1人で魔物に立ち向かっていく。その姿に騎士たちは奮い立った。
「グ……グレゴリオ様に続けーっ!」
我に返った騎士たちは雄叫びを上げ、魔物たちに突進していった。
◆ ◆ ◆
宰相の部屋の扉を王都の騎士たちがようやく蹴破った。先頭を切って、エルウィックが中に入っていく。
「これはエルウィック殿下。どうぞこちらへ、遠くに戦局が見えますぞ」
エルウィックは険しい顔のまま、詰め寄っていく。
「なぜ明かりを消さなかった? お前が魔物を呼び寄せたんだぞ?」
「暗がりでは地図が見えませぬ故。殿下の退路を思案しておりました」
テーブルの上にはオーキンの地図が広げられている。宰相ジェラルドは窓を離れ、地図の南に指を走らせた。
「馬車と騎兵10を厩舎に控えさせております。街を横切り、裏門から隣の領地へ向かいましょう」
誰でもわかる退路をもっともらしく言うジェラルドに、エルウィックは失笑した。
「私が逃げ出すとでも思っているのか?」
――なっ!? 冷静な宰相らしからぬ戸惑いが口から漏れた。
「恐れながら殿下に武はありませぬ。ここはオーキンの者たちに護りを任せて、引き上げるのが得策でございます」
「武がなくとも、出来ることはある」
エルウィックは振り返ると、騎士に告げた。
「馬が残っているのは都合がよい。早馬をゲンベルクに出して、援軍を要請しろ。私と兄上の命が危ないとな」
「はっ!」
騎士の1人が頭を下げたかと思いきや、すぐさま部屋から駆け出した。
「まさか……その身を……盾にされるおつもりですか?」
「王族の命など、使い捨てればよい。私と兄上が死んでも、王の妾がいくらでも世継ぎを産むであろう」
「なりませぬ! エルウィック殿下こそが国を継がれるお方! 私の策に従っておれば……」
「私に――」
エルウィックの瞳が、12歳らしからぬ鋭さを帯びた。
「お前の傀儡になれというのか?」
「そ、そのようなことは――」
狼狽するジェラルドをよそに、エルウィックは脇を固める騎士たちに命じた。
「ジェラルドを連れてこい。共に壁へ向かうぞ。魔物暴走を何としてもオーキンで食い止めるんだ」
「はっ!」
騎士たちがジェラルドを囲んだ。
「バカな! 戦えもしないのに死地へ赴くなど殿下は正気ではない! 取り押さえて馬車に乗せるのです!」
わめき立てるジェラルドに従う者はなく、いずれも蔑んだような鋭い眼光でにらみ返している。
「無駄だよ、ジェラルド。私と死を共にするのは、護衛の者たちにとってこの上ない誉れ。――どうやら、お前は違うようだが」
ジェラルドは、がっくりと膝をついた。与しやすいと目論んでいた12歳の第二王子は、すでに王に相応しい覚悟を身につけていたのだ。子供とは思えぬ賢さを買ったのだが――。
(取り込むなら直情的なアーヴァイン殿下の方であったか――。だが、まだ機会はある。あれが召喚されれば……)
ジェラルドの口端がいびつに上がった。この男の野心は、まだ潰えていないのだ。
次回更新は、10/16(日)に『転生少女の七変化 ~病弱だった少女が病床で作った最強7キャラで、異世界をちょっと良くする物語~』をアップ予定です。
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