20 最強魔法使いにだって、苦手なことがある!
隣国との国境にほど近い、森の奥に浮かび上がった巨大な魔法陣――。そこから続々と召喚された魔物たちが一斉にオーキンの街へ向かってくる。街の明かりが魔物を引き寄せているのだ。
壁の上の見張り台にある鐘が、けたたましく鳴らされた。
「魔物暴走だーっ! 明かりを消せーっ!」
街中の油灯が消され、民家の窓が閉ざされていく。その淀みない動きは、日頃の訓練の賜物だった。辺境の民は常に魔物の襲来に備えているのだ。もちろん、オーキン城の明かりも全て消えている。
――だが、ただ1つだけ明かりの消えていない窓があった。
小高い丘の上にある王族の別邸の一室。その部屋の明かりが、まるで灯台のように街の在処を照らしている。
「何だあの明かりはーっ! 誰か消せーっ!」
悲痛な騎士の怒号であったが、壁から離れた別邸には届くはずもなかった。
窓の明かりにはマント姿のシルエットが浮かんでいる。
「ジェラルド様、明かりをお消し下さい! ジェラルド様!」
部屋の向こうから扉がけたたましく叩かれるが、ジェラルドは振り向こうともしない。それどころか、口元に笑みさえ浮かんでいる。
(これでオーキンは終わりだ……無能なアーヴァインの命と共に……)
男の視線の先には、明かりの消えた街と、未だ森の奥で光を放つ魔法陣の妖しい輝きがあった。
ゆっくりとした歩みで、オーキンの領主であるグレゴリオが壁の門へ進んでいく。
壁の上から騎士が叫んだ。
「閣下! 魔物の群れが迫っています! 森の揺れから見てその数……数千……いや、おそらく数万!」
「なんだと!?」
過去に例を見ない規模の魔物暴走だ。定期的に討伐しているというのに、なぜそんなにも大量の魔物がいきなり現れたのか――。
「あの魔法陣と思わしき光のせいか……一体何者が……。もう戦いは避けられん! 明かりを灯せ!」
壁の上に並んだたいまつに火が放たれていく。明るくなったことで魔物をますます引き寄せるが、暗がりでは同士打ちを引き起こし、大規模な戦いで統率を取ることが難しい。
「命知らずのオーキンの騎士たちよ! 我に続け! 魔物を迎え討つぞ!」
おおーっ! という雄叫びと共に、グレゴリオの背後で無数の剣が突き上げられた。
◆ ◆ ◆
レストランを飛び出したアリスティアたちは、壁に向かって走っていた。先頭を切るのはアーヴァインで、一番後ろがアリスティア。体の重いアリスティアにとって、長距離を走るのは最も苦手なことだ。
「ハァ……ハァ……殿下……下がって…………魔物暴走……なんだから……」
息も絶え絶えなアリスティアを尻目に、アーヴァインはマントをなびかせて疾走していく。
「大げさな! どうせ百かそこらの魔物であろう! 我が剣でなぎ払ってくれる!」
身体強化魔法を使えば矢の如く走れるが、人前で魔法を使うわけにいかない。――いや、いざとなれば使わざるを得ないが、まだその時ではない。脂肪は温存しなければ。
「ゲイブル、殿下をお守りして! すぐ行くから!」
ゲイブルは頷いたが、その走りはドスドスと覚束ない。辺境の騎士は速さより力なのだ。
「私がおります! 元より命に代えて殿下をお守りするのが私の使命!」
アーヴァインの背をジャレンス率いる王都の騎士たち数名が追いかけていく。
脂肪がMPの最強魔法使いは、大根のごとき足をバタバタと動かして、必死についていくのだった。
次回更新は、9/25(日)に『転生少女の七変化 ~病弱だった少女が病床で作った最強7キャラで、異世界をちょっと良くする物語~』をアップ予定です。
https://ncode.syosetu.com/n2028go/
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