02 宝の持ち腐れにも程がある
MPは0だけれど、この世にある全ての魔法を覚えたっぽい。火、水、風、土の4大魔法はもちろん、光、氷、雷、聖、闇、回復、補助などなど……まるで、頭の中に分厚い魔法書があるみたい。中には使うと天変地異が起きそうなヤバいのとか、地獄の拷問まがいのエグいのもあって、大賢者にも大悪人にもなれそう。
けど、それもMPがあればって話。
「さぁ、アリスティア、このロウソクに【ファイア】で火を灯してみるのだ!」
グレゴリオはそう言うと、芝生の上に燭台を置いた。
MPが0でも、もしかしたら生活魔法ぐらいは使えるかも知れない。神殿から帰るなり、アリスティアは城の中庭に連れ出された。
イサドラやエリスティアはもちろん、執事のポールソンやメイドたちも固唾を呑んで見守っている。
「わかりました、使ってみます」
【ファイア】は燭台やかまどに火をつける生活魔法で、魔術師でなくても使える者はそれなりにいる。オーキン家でもポールソンや料理長のゴードン、メイド長のシーラなどが使えた。
消費するMPはたったの1。魔術師ならば、消費しないようなものだ。一縷の望みを込めて、アリスティアは唱えた。
「ファイアーッ!」
…………ロウソクに変化は起きない。
「ファイアーッ! ファイアッ! ふぁいあぁあぁぁぁ!」
ヤケになって連続で唱えたが、ロウソクにかざした手からは、火はおろかくすぶりの煙すら起きない。
「ダメか……」
「あぁ……」
グレゴリオが肩を落とし、イサドラが天を仰いだ。
「お姉さま……」
気遣うエリスティアの視線の先で、アリスティアの体がグラリと傾いた。
「お姉さま!?」
エリスティアが駆け寄る前に、アリスティアはグレゴリオの鍛え上げられた腕に支えられた。
「MPが枯渇すると魔術師は気を失う。無理をさせてしまったか……」
名高い騎士である父の腕の中で、アリスティアの大きな瞳がグラグラと揺らいでいた。
「目が……回るうぅ……」
◆ ◆ ◆
自室のベッドで目を覚ますと、辺りはすっかり暗くなっていた。
(そっか……あのまま気を失っちゃったのか)
ベッドの隅っこでは、椅子から体を預けたエリスティアが寝息を立てている。
(そばにいてくれたんだ)
金色の長いまつげに、花のつぼみのような唇。天使がいるなら、こんな顔をしてるんじゃないかってぐらいかわいい。
「ん……んん……」
天使のまつげが開いて、宝石のようなブルーの瞳が現れた。
「お姉さま……目が覚めた?」
「うん……ゴメンね、心配かけて」
「ううん、そんなこと!」
一生懸命首を振るので、長い金色の髪がぶるぶると揺れた。天使すぎじゃない?
「けど……お姉さま……もう、魔法は使っちゃダメ。すごく……苦しそうだった」
「そっか……」
窓から三日月がのぞいてる。あの夜空に浮かぶ月に、手が届く人はいない。闇夜を照らす輝きに感謝して、祈りを捧げるだけ。けど――
「あのね、すっごくおいしいクッキーの作り方を知ってるのに、作れないとしたらどうする?」
「え?」
「どうしても作りたいって思わない? 作って食べたくない?」
「うん……食べたい……」
「でしょ? だからね、がんばりたいの。いつか……作れるかも知れないから」
「お姉さま……」
「ほら、MPって、魔法を使ってるうちに増えていくでしょ? だから、使ってるうちに私も増えるかも」
「そっか! お姉さまかしこい!」
幼いエリスティアの顔が、パァッと明るくなった。
「また倒れたら……こうしてそばにいてね」
「……うん。けど、無理しないでね」
「わかってる」
コンコン、と部屋の戸がノックされた。
「誰?」
「ポールソンでございます」
「入って」
一礼しながら、執事のポールソンが入ってきた。
「お声が聞こえましたもので」
その後ろから、メイドが配膳用のワゴンを運んでくる。
「スープをお持ちしました。お腹を空かせてらっしゃると思いまして」
さすが、執事長! 気が利く!
「ありがとう。すっごく減ってたの」
「朝食を召し上がってから、何も口にしておられませんでしたから」
メイドがスープをよそうと、ほっとする香りが漂ってきた。
(そういえば、魔法を使って倒れた時って、お腹が減って目を回すのに似てたかも?)
そう考えて、アリスティアはクスッと笑った。
カロリーという言葉すら知らないアリスティアには、魔法と体脂肪が関係しているなどと、まだ思いもよらない。10歳とはいえ、公爵令嬢として節制した食生活を送ってきたアリスティアには、生活魔法である【ファイア】を唱えるだけの脂肪すらなかったのだ。
【次回予告】
特訓でついに魔法の秘密に気づく!?
【大切なお願い】
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