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19 陰謀が思ったより大規模なんだけど?

 それからアリスティアは、夜討ち朝駆けでアーヴァイン王子の元を訪れた。


 王族の別邸で朝食を共にし、午前中は王都騎士団の訓練にお付き合い。午後は街の視察に同行して案内をした。

 美しいエリスティアではなく、太ったアリスティアとの実質デートにアーヴァインは不愉快そうにしていたが、3日も続くと反応が変わってくる。


(余程、我が妃になりたいらしい)


 不遜な態度は変わらないが、満更でもない様子は護衛がやりやすい。その献身的な振る舞いは、同行している弟のエルウィックをも驚かせた。


(……アリスティア姫は、兄上の元へ嫁ぐ覚悟を決められたのだろうか? 国にとって望ましいことだけど……)


「エルウィック殿下、食が進まないようですが、お口に合いませんでしたか?」


 分厚いステーキを前にして浮かない顔のエルウィックは、これではいけないと我に返った。


「いえ、とてもおいしいです。さすが、オーキン名物ですね」

「はい。豊かな自然の恵みを活かすのが、オーキンの調理法ですから」


 今日の夕食は、おいしいと評判の貴族向けレストランの一室。粗野な辺境では珍しく内装がきらびやかで、給仕たちの教育も行き届いている。間違っても、飲んだくれの荒くれが来る店ではない。


「料理はいいが、なぜエリスティア姫がいないのだ?」


 いつ刺客が襲ってくるかもしれないのに、かわいい妹を連れてくるわけがないでしょ? 命を狙われてる自覚がないってのはのんきなものだ。


「エリスは静養しておりますので。先日のオークキングとの戦いで、聖魔法を使いすぎてしまったものですから」


 ホントはすこぶる元気だけど、こうでも言わないと会わせろとうるさい。


「だから、見舞いに行こうと何度も言っておるではないか! 街の花をすべて買い占めて枕元に飾らせようぞ!」

「お気持ちだけで十分でございます、殿下。街から花がなくなっては民が悲しみますし、エリスは体を休めているだけで、病気ではございませんから」

「む……」


 いちいち口答えをするのが、アーヴァインにしてみれば腹立たしい。普段は従順な女しかそばにいないから、余計に生意気と感じてしまう。


「アリスティア姫、このお肉のソースは何ですか? ほのかな甘味がよく合います」


 場の空気が悪くなるのを避けようと、エルウィックが話を逸らした。この第二王子はまだ12歳だというのに、兄よりよっぽど気遣いが出来る。


「それは、山葡萄の実を潰したものをワインと煮込んであるのです。野生の実はなかなか採れないので、貴重なんですよ」

「ああ、それで味も香りも新鮮なのですね。山から離れた王都ではとても食べられません」

「葡萄など特に珍しくもなかろう、王都でも食べられる」


 はぁ……せっかく和みかけた雰囲気が台無しにされた。ソースを褒められて一瞬顔がほころんだ給仕たちも残念そうだ。


 けど、オーキンの案内もほぼ終わったし、来週には王都に帰るだろう。もう少しだから、がまんがまん。


 その時だった――。大きな力が加わったかのように部屋が揺さぶられ、テーブルに並んだグラスが倒れた。頭上ではロウソクを灯したシャンデリアが振り子のように激しく動いている。


「なんだッ!? 地震か!?」


 よろめきながらも立ち上がったアーヴァインだったが、テーブルにつかまるのが精一杯だ。


「ゲイブル! 殿下たちをお守りして!」


 部屋の隅で控えていた辺境の騎士たちが、アーヴァインとエルウィックに駆けた。ジャレンスたち王都の騎士も遅れまいと、仕える王子2人に覆い被さる。


 その間、アリスティアはフォークに刺さった肉を持ったまま、仁王立ちしていた。大根のような太ましい足は、この程度の揺れなどビクともしないのだ。


(おかしい……この揺れには魔力を感じる……ただの地震じゃない)


 やがて揺れは収まり、ガラスが擦り合う不快な音を立てていたシャンデリアも静まった。


 折り重なった騎士の体とテーブルの間から、アーヴァインが安堵の息を漏らした。


「止まった……のか……。まったく……地が揺れるなどと、これだから辺境は……」


 アーヴァインのお小言をスルーして、アリスティアは魔力が伝わってきた方向を探る。まさか――。


(お姉さま、森を見て!)


 エリスティアの思念が飛び込んできた。叫びに似た声色はただ事ではない。


 窓へ走って、カーテンを払いのけた。

 街並みの先にある壁の向こう――オーキンの森が赤い光で浮かび上がっている。


「何だあれは?」


 アーヴァインの問いに、アリスティアは静かに答えた。


「魔法陣……」

「何だと!? あれが魔法陣だというのか!? 森を覆わんばかりではないか!」


 アリスティアは、エリスティアが見ている光景に意識を集中した。オーキン城のテラスからなら森が見渡せる。


 震えるエリスティアの息とともに、森の奥で怪しい光を放つ、巨大な魔法陣が見えた。


 この規模……人為的な魔物暴走スタンピードを引き起こそうとしている――。刺客はオーキンの街ごと王族を葬ろうとしているのだ。


「上等じゃない……この私が受けて立ってあげるわよ」


 脂肪がMPマジックポイントの最強魔法使いは、フォークに刺さった大ぶりの肉にがぶりと噛みついた。

次回更新は、9/11(日)に『転生少女の七変化キャラクターチェンジ ~病弱だった少女が病床で作った最強7キャラで、異世界をちょっと良くする物語~』をアップ予定です。

https://ncode.syosetu.com/n2028go/

↑もしくは画面上の、作者:イリロウ のリンクから

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