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16 命を狙われたのは?

 日が西に傾いたころ、アーヴァイン殿下一行がオーキン城へ戻ってきた。騎士たちの足取りは重く、皆疲れ切っている。特に重症を負っていたジャレンスの疲弊はひどく、まるで死人が歩いてるかのようだ。――実際、死にかけたので無理もない。


 アーヴァインに出発した際の威勢はなく、立ちはだかったオークキングの恐ろしさが忘れられないのか、肌に血の気がない。


 そんな一行を、空を飛んで先に戻っていたアリスティアは、白々しくも満面の笑みで迎えた。


「殿下、随分とお疲れのようですが、何かありましたか?」


 アーヴァインが声を荒げた。


「何をのんきな! オークキングが現れたのだぞ!」

「オークキングが? それは、とんだ災難でございましたね。まさかとは思いますが……私の大切な妹を連れて、森の中へ入ったわけではありませんよね?」


 うっ……と、アーヴァインは言葉に詰まった。


「よ、予期せぬことであったが、我が剣で斬り伏せた、文句はあるまい!」


 止めをポールソンから奪っただけのくせに――とは思ったが、作り笑いを崩さない。


「無事でなによりでございます、殿下。それでは、妹が疲れているようですので、ここで失礼いたします」

「む……そうか」


 アーヴァインが視線を移すと、ポールソンの腕につかまり、体を預けているエリスティアがいた。魔力を使いすぎた上に帰路を歩いたので、苦しそうな息をしている。


 アーヴァインはあろうことか、そんなエリスティアに歩み寄り、手の甲に口づけた。


「エリスティア姫、見事な聖魔法であった。ジャレンスの命があるのはそなたのおかげ。後日改めて、感謝の意を伝えさせてくれ」


 もっともらしく理由を付けて、次に会う約束を取り付けているのだが、断るに値する言い逃れを思いつかない。何よりエリスティアは、一刻も早くベッドに横たわりたかった。


「……承知しました。殿下もお戻りになって、ゆっくりと体をお休め下さい」

「おぉ、我が身を案じてくれるとは、何と心優しい。……太った姉とは大違いだ」


 エリスティアの瞳がキッと手を取る男を睨んだが、憤る体力が残っていない。手を引っ込めて精一杯優雅にカーテシーを見せると、ポールソンの手を借りて城内へ向かった。


「引き上げるぞ!」


 アーヴァインの号令で一行は踵を返した。――なのだが、何故か宰相ジェラルドだけはその場を動かず、アリスティアをじっと見ている。


 何? 私に何か用?


「アリスティア姫、少々お痩せになりましたか? 顎の肉が小さくなっておられる気が……」


 な、何こいつ? 目ざといんだけど?


「え、ええ……少し、節制しておりますの。母が痩せろとうるさいもので。オホホホホホ」


 口を押さえて、白々しく貴族風の笑顔を見せた。


「それはよいことですね。殿下に気に入られるよう、せいぜい努力することです」


 侮蔑した目を残して、ジェラルドはアーヴァインたちを追った。辺境の姫に随分と不遜な態度を取るが、今はそれどころじゃない。エリスティアに駆け寄ると、そのふくよかな体で包んだ。


「お姉さま……」

「魔力が尽きるまで、よくがんばったわね。部屋に着いたら回復してあげる」

「お姉さまの助けがなければ……私……」


 きっと……死んでいた……。


「な~にしんみりしてんのよ? 早く元気になってドーナツを作ってもらわなくっちゃ。痩せたの宰相にバレちゃったわよ」


 脂肪がMPマジックポイントの魔法使いは、おどけた笑顔を向けた。妹が恐れることなど何もない。何故なら、アリスティアは太っている限り最強なのだから。


「それは……いけませんね。腕によりをかけて……甘~く仕上げます」


 蒼白の顔に、生気が少し戻った。


「そうそう。エリスは笑顔でなくっちゃ」


 微笑み合う姉妹だったが、和やかな雰囲気はそこで終わり。アリスティアはポールソンに口を寄せた。


「夜になったら、オークキングが現れた辺りを調べて。いきなり現れるなんておかしい」

「御意にございます。私も何かあると疑っておりました」

「え……」


 エリスティアの顔が曇った。オークキングが現れたのが偶然でなかったとしたら、それは――魔物を利用した襲撃ということになる。


「アーヴァイン殿下を狙ったのか、エリスを狙ったのか、どっちかわからないけど、可能性が高いのは……」


 顔を見合わせる3人の考えが一致した。辺境の第二姫を亡き者にしても国は変わらない。天使姫が失われたと嘆くだけだ。ということは――アーヴァイン殿下は、命を狙われている。


「まったく、面倒ごとばっかり持ち込んでくれちゃって」


 ため息をこぼす脂肪がMPマジックポイントの最強魔法使いであったが、まだ推察の域であり、何も確証がない。


 ――大事な妹ごと殿下の命を狙うなんて、太いヤツらね(私に言われたくないだろうけど)。絶対に捕まえて、こらしめてやる。


 太ましい指が、丸々とした握りこぶしを作った。

次回更新は、7/17(日)に『転生少女の七変化キャラクターチェンジ ~病弱だった少女が病床で作った最強7キャラで、異世界をちょっと良くする物語~』をアップ予定です。

https://ncode.syosetu.com/n2028go/

↑もしくは画面上の、作者:イリロウ のリンクから

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