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15 バカな王太子の尻ぬぐいはた~いへん

 いた! あそこだ! 森の奥へ進む小道で、木よりも大きなオークが立ちはだかっている。


「ホウキよ、ストーーップ!」


 アリスティアの太ましい体を乗せたホウキが、オークキングの手前で急停止した。上空数百メートルでフワフワと浮かぶ。


 騎士たちはジリジリと後退しているので、防戦一方のようだ。ん? 騎士が1人倒れてる。あれは――ジャレンス! 一番、頼りになりそうな騎士が真っ先にやられてんの!?


「お前たち! オークを取り囲んで足止めしろ!」

「はっ!」


 アーヴァインの号令に従い、警護していた3人の騎士がオークの左右に散った。


「あっ、バカ! バラバラになっちゃダメだって!」


 アリスティアが恐れたとおり、オークキングは囲んだ騎士には目もくれずアーヴァインに突進していく。


「なっ!? 戻れ! 俺を守れ!」


 遅いって! でっかい敵には全員で突進するのが正解なの! 心の中で毒づきながらも、アリスティアは唱えた。


「7千キロカロリーいってこい! 【鈍重スロウ】!!」


 人は7.2キロカロリーを消費すると、約1グラムの脂肪を燃焼する。つまり、【鈍重スロウ】は約1キログラムの体重と引き換えなのだ!


 アーヴァインに迫る戦斧の勢いが鈍った。これなら身をすくめていたアーヴァインでも避けられる。


 ヴゥ……ウオォォ……。


 戦斧を振るった後も、オークキングは体を縛る力に身もだえている。


「なんだ、図体はデカいが所詮オークではないか。動きが鈍いぞ! 足を狙って斬りつけろ!」


 騎士たちはアーヴァインの命令に戸惑い、顔を見合わせる。


「何をしている! やれ!」


 一喝されて、一斉に斬りかかった。オークキングは戦斧を振り回すが、騎士たちを捉えることはなく、両足に剣を浴びせられていく。


(これは……アリスティア様の【鈍重スロウ】。駆けつけて下さったのか!)


 ポールソンは目を閉じて、アリスティアの気配を探った。


(背後の上空にいらっしゃる!)


 アリスティアは弱体化デバフの手を緩めない。


「【重力増加グラヴィトン】! 1万2千キロカロリー!!!」


 脂肪1.6キロと引き換えに、4倍の重力がオークキングにのし掛かった。


 グオォオォォォォ!


 地響きのようなうめき声を上げて、オークキングが膝を屈した。巨体の体重が仇となったのだ。


 好機とばかりに、ポールソンがエリスティアの元を離れて駆けた。蟷螂カマキリのように両手のナイフを構え、戦斧を握る手を切りつける。


 グアァアァァァァ!


 オークキングの指のほとんどが切り落とされ、戦斧がゴトリと地に落ちた。


「下がれ! 止めは俺が刺す!」


 アーヴァインの体が跳ね、王家の剣が水平に斬り払われた。ゴトリ――。王家の剣は流石の切れ味を見せつけ、見事にオークキングの首を刎ねた。


「見たか! これが我が力だ!」


 崩れ落ちる巨体に恐れをなしたグレイハウンドは四散して森の中へ消え、誇らしげに剣を掲げるアーヴァインを宰相ジェラルドは手を叩いて讃えた。


 エリスティアの体が、ふわりとした金色の輝きに包まれた。


(これは、回復力アップの魔法……)


 はっとした視線が、横たわる騎士に転じた。


(いけない! 助けなければ!)


 エリスティアは血だまりを作る騎士に駆け寄り、ドレスが汚れることも気にせず両膝をついた。


聖回復ホーリーヒール!」


 かざした両手から金の光がほとばしり、体の内側がのぞく断面に吸い込まれていく。

 みるみる塞がっていく傷に、後ろから覗くアーヴァインが感嘆の声を上げた。


「おお、これが天使姫の聖魔法か……素晴らしいな」


 あなたが森に入らなければ、こんなことにならなかったのです! 文句の1つも言いたいところだが、エリスティアはグッと堪えて、聖魔法をかけ続けた。


 アリスティアとポールソンは、ジェラルドのそばに集まる騎士たちの姿を見逃さなかった。何やらひそひそと話している。


 森の中に入ったとはいえ、まだ深みではない。オークキングが突如現れるのはおかしい。


 何かある――そう感じて、ポールソンは上空にいる脂肪がMPマジックポイントの最強魔法使いを、チラリと見るのであった。

次回更新は、6/26(日)に『転生少女の七変化キャラクターチェンジ ~病弱だった少女が病床で作った最強7キャラで、異世界をちょっと良くする物語~』をアップ予定です。

https://ncode.syosetu.com/n2028go/

↑もしくは画面上の、作者:イリロウ のリンクから

どちらも読んでもらえるとうれしいです!


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ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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