表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/34

14 猛るオークキングと怠惰な時間

 オークキングの右腕には、斧というにはあまりにも大きな戦斧が持たれている。騎士の剣より遙かに分厚く重々しいその刃は、まともに受ければ剣ごと体を真っ二つにしてしまいそうだ。


 騎士たちが王太子アーヴァインを守るように取り囲み、ジャレンスがオークキングの前に立ちはだかった。


「殿下、ここは私に任せてお逃げ下さい!」

「何を言う! たかがオークに背など向けたら国中の笑い者だ!」


 たかがオーク? 相手は体躯も力も段違いなオークキングだというのに――。ジャレンスの歯がギリッと音を立てて軋んだ。


 統制が取れた兵隊のように、グレイウルフが騎士とエリスティアたちを取り囲んでいく。


「まずいですね、これでは後退もままなりません」

「ポールソン……」

「私の背から離れませんように」


 地響きのような咆哮とともに、オークキングの戦斧が振り下ろされた。


「くっ!」


 かろうじて弾き返したジャレンスだったが、たったの一撃で剣の刃が欠けてしまった。


「何という力だ……」


 まるで重さがないかのように戦斧が振り回され、再びジャレンスを襲う。


「ぐはあっ!」


 迎え討ったジャレンスの剣が叩き折られ、強打を受けた体が茂みまで吹き飛ばされた。


「ジャレンス!」


 アーヴァインは絶句した。こんな力任せの戦いでは、流麗な王都の剣が通じないではないか。――演習でのアリスティアの戦いぶりが思い出される。初手でいきなり体当たりされ、無様に尻を地に着かされた――。己の体重を活かしたぶちかまし、それこそが辺境を生き抜く剣なのだ。


 床に転がったジャレンスの脇腹は切り裂かれ、どくどくと血が流れ出している。


「いけない! 聖回復ホーリーヒールを!」


 駆け出そうとするエリスティアをポールソンが止めた。


「なりません! 近寄ればオークキングの餌食です!」


 では、このまま放っておけと言うの? エリスティアの天使の顔が歪んだ。――そうだ!


「殿下、“軍神の威光”を! オークキングの動きを封じて下さい!」

「な、なんだと? オークごときに我が恩恵を使えというのか? エリスティア姫とはいえ、不敬だぞ!」


 ダメ……この王太子は、騎士の血が流れることなど厭わない。このままじゃ、みんな死んじゃう!


 お姉さま!!!! 助けて!!!!


 エリスティアの心の叫びが飛んだ。



  ◆  ◆  ◆



 そのころアリスティアはというと、フカフカのベットに寝転がりながら、エリスティアお手製のドーナツを頬張り、だらだらと読書にふけっていた。


「んぐんぐ……街で流行ってるっていうから買ってきてもらったけど、何これ? 魔物から偶然助けてくれたのが、身分を隠した王子様って……。いやいや出来すぎだし、1人で行動する王子なんていないって」


 ゴロゴロとベッドの縁まで転がって、サイドテーブルに置かれたティーをひとすすり。


「だいたい、王子妃になんて憧れる? 自由のないお飾り人生だってのに、幻想抱きすぎ」


 そしてまたゴロゴロと転がって、ベッドの真ん中でドーナツを頬張る。


 ああ、至福……。くだらない本を読みながら、おいしいドーナツを食べるこの幸せ。怠惰な時間をむさぼりながら、ふと思った。


(愛があれば……耐えられるのかな? 好きな人と一緒なら、お飾りでも楽しい?)


 丸いほっぺが熱を帯びてくるのがわかる。何だかむずむずして、ぼすぼすと枕を叩いた。


「ないない! 太っててもいいなんて王太子、いるわけないって!」


 身をよじるアリスティアの背を電流が走った。ビクッとのけ反った体に、遠くの感覚が入ってくる。――エリスが叫んでる! これは……オークキング!?


「エリス! どうしたの!?」


 お姉さま! オークキングが……ああっ!


「今、行くっ!」


 アリスティアは異変をいち早く察知するために、常に探索サーチ魔法を辺境の森全体にかけてある。ただしカロリーの消費を抑えるため、その感度はうっすらとしていて、大怪我をするような重大事でなければ察知できない。その網にエリスティアの叫びがかかったのだ。


 太ましい腕が、壁に掛けてあるホウキをつかんだ。


「ホウキよ飛べ! 飛空フライ!」


 城の中庭の上にあるバルコニーから、ホウキをつかんだ丸い体が砲弾のごとく飛び出した。飛空フライは物質を空に飛ばして操る魔法――。なので、ホウキから手を放せば空中で置いてきぼりになってしまう。アリスティアは風圧に抗いながらホウキをたぐり寄せ、またがった。


「ホウキよ! もっと速く!」


 妹を守るためなら、空をも駆ける――。脂肪がMPマジックポイントの最強魔法使いは、いかなる時でも駆けつけるのだ。


次回更新は、6/12(日)に『転生少女の七変化キャラクターチェンジ ~病弱だった少女が病床で作った最強7キャラで、異世界をちょっと良くする物語~』をアップ予定です。

https://ncode.syosetu.com/n2028go/

↑もしくは画面上の、作者:イリロウ のリンクから

どちらも読んでもらえるとうれしいです!


【大切なお願い】

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

 応援して下さる方、ぜひとも

 ・ブックマーク

 ・高評価「★★★★★」

 ・いいね

 を、お願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ