13 森の奥へ行くなんてバカなの? 王子なの?
「ハアァアァァッ!」
王家の剣が一閃し、ホーンラビットが斬り倒された。
「何だ、歯ごたえのない。これでは訓練にもならん!」
ホーンラビットは大型であれば、その突進力と額の大きな角で冒険者を苦しめるが、襲ってきたのはまだまだ小型の個体。森での野戦に不慣れな王太子や王都の騎士団でも難なく凌げた。
大きなホーンラビットはうちの騎士団が討伐してますから――。そんなことを考えながらエリスティアはニッコリと微笑んだ。
「もっと奥へ行くぞ! フォレストウルフを狩るのだ!」
うねる木の枝が日の光を遮る細い獣道を、アーヴァインは自信満々に突き進んでいく。それだけの剣の腕を持っているお方だが、エリスティアはハラハラして気が気でない。
(森を侮ってはいけないのに……)
ポールソンはエリスティアのそばを離れず、周囲に気を配っている。――それ故に、森の微妙な変化を見逃さなかった。前方の右奥の茂みが微かに赤く光ったのだ。
(今の光は……?)
同時に、アーヴァインの持つ王家の剣に備わる魔石も、うっすらと赤く輝いたように見える。
(呼応している? ……悪い予感がしますね)
ポールソンは、淀みない足取りでエリスティアの前に出た。
「ポールソン?」
執事であるポールソンが自分の前に出るなど、余程のことだ。
「私の後ろから離れませぬように」
身構えながらも、穏やかな声だった。ポールソンは命に代えてでもエリスティアを守る覚悟がある。鋭い眼光が、赤く光った辺りを見据えた。
――赤い光は、魔法陣の輝きだった。王家の魔石が呼び寄せたかのように、数体の狼らしき魔物が浮かび上がり、一際大きな二本足の巨体がのそりと立ち上がった。
茂みから出てきた狼の魔物の群れに、アーヴァインは大喜びだ。
「おお! フォレストウルフが出てきたぞ! ……全部で5頭か、陛下の手土産には十分だな」
「いえ……あれは、違います……」
エリスティアの顔が青ざめている。フォレストウルフより灰色がかった毛並みに、唇から飛び出した大きな犬歯、あれは――
「グレイ……ウルフ……。ずっと強い……魔物です……」
グレイウルフは以前、ポールソンが左腕と引き換えに討伐した手強い魔物だ。その傷はアリスティアが初めて使った桁違いの回復魔法によって治癒されたのだが……。
グレイウルフがあんなに……。たった1頭でもポールソンの腕を深く傷つけたのに……。エリスティアはすくみそうになる身をポールソンの背に預けた。
「ご安心を。このポールソン、本日は準備万端でございます」
そう言うと、腕をクロスさせてスーツの脇に手のひらを這わせた。そのまま両手を構えると、いつの間にか忍ばせていた2本のナイフが手中にあった。
「今夜は、グレイウルフのステーキですな」
エリスティアを巧みな所作で守るポールソンが気に入らないのか、アーヴァインがうそぶいた。
「執事は下がっていろ! グレイウルフは私と騎士たちで討伐する」
その時だった。――森が、大きく縦に揺れたのは。
ズシン……ズシン……。地が打ちのめされる音と共に、揺れが近寄ってくる。
「な、何だ!? 地震か!?」
バランスを崩すアーヴァインが目にしたのは、樹木をなぎ倒しながら出てくる巨体。――その高さは穀物を蓄えるサイロほどもあり、はち切れんばかりの肉体は人などひと千切りにしてしまいそうだ。
その豚に似た凶悪な顔を、エリスティアは知っている。もっとも、見たことがあるわけではない。幼少のころから父によく聞かされた、オーキン家の英雄譚に出てくる最狂の魔物。オークキラーであるオーキン家の宿敵――。
「オーク……キング……」
グオォオォォォォォォォ!
豚鼻の下の大きな口から、地獄の底のような咆哮が轟いた。
次回更新は、5/27(金)に『転生少女の七変化 ~病弱だった少女が病床で作った最強7キャラで、異世界をちょっと良くする物語~』をアップ予定です。
https://ncode.syosetu.com/n2028go/
もしくは画面上の、作者:イリロウ のリンクから
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