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01 MP0の大魔法使い

 うっそうとした森の奥、傷ついた騎士団が押し寄せる魔物と対峙していた。


 魔物暴走スタンピード――それは、数十年に一度発生するといわれる魔物の大量発生。

 倒しても倒しても現れるゴブリンやオークに疲弊し、騎士たちの顔に絶望の色が浮かんでいた。


 領地を預かる公爵、グレゴリオ・オーキンは、2メートルはあろうかという巨躯の片膝をついた。


「もはやこれまで……か。コーエルよ……すまぬ……」


 友であり、忠誠を誓う王の名が口から漏れた。もう万策は尽きたのだ。


 そこに、2本の大根足が立ちはだかった。のっしりと大地に広げられた足首には、くびれなど微塵もない。


「アリスティア!」


 大きなローブをはためかせた少女は、父親の声をスルーして、太ましい右腕を天に掲げた。


「体重10キロくれてやる! いけぇ、7万2千キロカロリー!」


 丸っこい指を、ぐっと握った。


隕石落下メテオ!」


 夜空の雲が渦を巻き、巨大な隕石が現れた。――その大きさは、月が落ちてきたのかと錯覚するほどである。

 人知を越えた極大魔法だ。魔物はおろか、騎士たちも呆然と天を見上げるしかできない。


 ブシュウゥゥゥゥン! 何かに吸われるようにアリスティアの三重顎が薄くなり、ローブ越しに見えるシルエットが少し細くなった。……ついでに、胸も小さくなった……気がするが、ここでは言及しない。


「私の領地で暴れようなんて、後悔しても遅いわよ!」


 ピンクのロングヘアーが逆立ち、金色の瞳が爛々と輝いた。


 後に世界に名を轟かせる大魔道士、アリスティア・オーキン14歳の、初めての大きな戦いが始まったのだ。



  ◆  ◆  ◆



 時は少し遡り――10日ほど前。


 辺境らしい飾り気のない無骨な城では、領主一族が夕食を取っていた。


 細長いテーブルの上座に公爵であるグレゴリオ・オーキン卿が座り、グレゴリオから見て右に公爵夫人のイサドラ、左に長女のアリスティアと次女のエリスティアが並んで座っていた。


 イサドラは、脂身の少ないフィレステーキを慎ましやかに口へ運びながら、チラリとアリスティアを見た。


 我が娘――といっても病死した先の夫人の子であるアリスティアの、淑女らしからぬ食べっぷりが見るに堪えない。


 もっ、もっ、もっ、もっ、もっ、もっ。


 巨大なサーロインステーキの肉塊が、みるみるなくなっていく。


「お姉さま、私のお肉も食べますか?」


 妹のエリスティアが、愛くるしい微笑みを向けた。アリスティアの5つ下の9歳であるエリスティアは、母親であるイサドラ譲りのブロンドヘアーにブルーの瞳を携え、まるで天使のような見た目をしてた。体型はもちろん、無駄なく均整が取れている。


「いいの? 食べる食べる! ちょうだい!」

「ちょうだいではありません! それ以上、太るつもりですか!?」


 イサドラが思わず立ち上がり、公爵夫人らしからぬ大きな声を上げた。


「ん~、あと3キロは太りたいかなぁ」

「なっ……」


 目まいを覚えたのか、イサドラが椅子の背もたれに倒れ込んだ。「奥様!」そばにいたメイド2人が慌てて駆け寄る。オーキン家ではよくある光景だ。


 娘の食べっぷりに、“バレンシアの盾”と謳われたグレゴリオも溜息しか出ない。


「まったく、お前という娘は……。そんな体型では、王太子の婚約者にとおっしゃっている王に申し訳が立たぬ」

「政略結婚ですか? 私は構わないですよ。ポールソンから淑女教育はバッチリ受けておりますし」


 もっ、もっ、もっ、もっ、もっ、もっ、と淑女らしからぬ食を進めるアリスティアの背後で、初老の執事が頭を下げた。


「お前が良くても、先方がどう思うかであろう! そんなに太ましくなってしまって……」


 正直なところ、アリスティアの体型は太ましいどころではない。はっきり言って、太っている。特注のAラインのドレスにはウエストのくびれなど皆無で、リボンで飾られた襟から上の顔は、リンゴのごとく丸々としている。


「幼いころは、あんなに美しかったのに……」


 ゴツゴツとした指で顔を覆うグレゴリオの脳裏に、痩せていたころのアリスティアの姿が浮かんだ。揺れるピンクブロンドに、つぶらな金色の瞳。そう――素材は一級品なのだ。


「お姉さまの魅力がわからない王子など、捨て置けばよいのです」


 愛くるしいエリスティアから、さらっと暴言が飛び出した。ニッコリとした微笑みのままなのがむしろ怖い。メイドたちは必死に聞かなかったフリをした。


「エリス! 滅多なことを言うものではありません!」


 ますます目まいに襲われ、イサドラはまたメイドに気遣われた。


 イサドラはいつも思う。なぜ、我が娘エリスティアは、血の繋がらぬ姉を慕うのか? 淑女たる体型を維持できない、愚か者だというのに……。



  ◆  ◆  ◆



 4年前――。


 10歳になるとすべての子供が受ける“神託”で、アリスティアは前代未聞の判定を受けた。


「さ、アリスティア様、この水晶球に手を」


 神官に促されるまま、神殿の祭壇に歩み寄ったアリスティアは、右手をおずおずと差し出した。


 誰もが振り返る美少女であり、素直で、何事も勉強熱心なアリスティアなら、素晴らしい“神託”が授かるに違いない。グレゴリオを始めとする立ち会いの者たちは皆、そう確信していた。


 ――そして、期待は現実となった。


 まばゆい閃光を発した水晶球が、2重らせん状に連なる魔法名を浮き上がらせ、天井まで伸びたのだ。


「こ、これは!? 何という魔法の数!」


 神殿の天井まで届く魔法名の列に、誰しも目を見張った。


「何じゃあれは……私の見知らぬ魔法がある」


 年老いた神官は、らせんの頂上に未知の魔法があることに気づいた。それも1つではない、いくつも連なっている。

 あまりの事態に、白い髭の奥の歯がガチガチと音を立てた。


 幼いエリスティアを片腕に乗せたグレゴリオは、イサドラの肩を抱き寄せて喜んだ。我が娘は前代未聞の魔術師だぞ! イサドラも、実の娘を見つめるかのように、暖かい眼差しを向けた。


 ――だが、感喜の時はそこまでだった。


「な、何ということだ……MPマジックポイントが……ない」


 凍り付く神官に、グレゴリオが声を荒げた。


「何だと!? そんなバカな! もっとよく見ろ!」

「何度見ても……ありませぬ。アリスティア様は、MPマジックポイントが……0です」


 何ということだ。いくら魔法を授かっても、MPマジックポイントがないのでは宝の持ち腐れ。使えないのではまったく意味がない。


 真っ青になって固まるグレゴリオの腕から、エリスティアが滑り落ちた。

 誰もが茫然自失となってピクリとも動かない中、エリスティアはトコトコとアリスティアに歩み寄り、しがみついた。まるで、エリスティアの時間だけが動いているかのように。


「お姉さま、もう終わった? 一緒に遊ぼ?」


 屈託のない笑顔に、放心状態のアリスティアが我に返った。

 妹を心配させちゃいけない。MPマジックポイントがなくたって、がんばれば、きっと使えるようになる。


「いいよ、遊ぼっか。お姉ちゃんのお手伝いをしてね、エリス」

「うん! もちろん! お手伝いする!」


 この世のあらゆる魔法だけ(・・)を授かったアリスティアと、姉が大好きなエリスティア――ふたりの特訓が始まるのだった。

【次回予告】

アリスとエリスが、MPを増やそうと特訓を始めます。


【大切なお願い】

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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