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The侍ガールズ

作者: 日下千尋
掲載日:2021/04/04

1、 ご先祖様は有名な剣豪


 安政7(1860)年3月、江戸では水戸藩からの脱藩者と薩摩藩士らによる、当時老中だった井伊直弼の暗殺事件、いわゆる桜田門外の変が起きて、町中が大騒ぎしていました。

 町では読売屋が井伊直弼の暗殺事件の記事を読み上げて町人たちを呼び集めていました。

騒ぎのきっかけは寛永6(1853)年に黒船に乗ってきたマシューペリーが日本への開国を要求してきたことがすべての始まりでした。

 安政5(1958)年6月19日、井伊直弼が日米修好通商条約に調印したのですが、その内容がいわゆる不平等条約で、具体的には関税自主権が無かったり、治外法権(領事裁判権)が無かったりと、すなわち日本にとって不利な条約となってしまいました。

 それらが原因で今まで静かに平和で暮らしていた江戸の町も大きく変化していったのでした。


 井伊直弼が暗殺されてから1か月後、江戸の町では桜が満開していたので、町人たちは桜の木の下で花見を満喫していて、私の家でも近所の小川の近くで花見をしていました。

 私は宮本かえで。ご先祖様は有名な宮本武蔵で、家が二刀流の道場ということもあって、幼いころから二刀流を仕込まれていました。そのせいか二本の刀を腰から下げて、服装も武士のように袴を履いているので男の子と間違われています。

 小川のほとりで大きくため息をついていたら、後ろから幼馴染の佐々木つばきが後ろから肩を軽くたたいてきました。

「かえで、どうしたの?ため息なんかついて。もしかして男に振られた?」

「ううん、そうじゃない。」

「じゃあ、何でため息なんかついているの?」

「できたら、女の子らしく可愛い服を着てみたい。これだと男の子みたいだよ。」

「そんなことないよ。すごく可愛いよ。」

「変じゃない?」

「変じゃないよ。私だってあんたと同じような格好しているわけなんだし・・・。」

 幼馴染の佐々木つばきは先祖が佐々木小次郎で、家が燕返しの道場をやっています。

今日は門下生を連れて花見に来たのですが、門下生から無理やりお酒を飲まされそうになったので、逃げてきたそうなのです。

 私とつばきは15歳で、お酒を飲むにはまだ早かったので、飲み物はお茶か井戸水になっています。

「可愛い服を着て街を歩いてみたい。」

「諦めな。侍の家として生まれた以上、この格好から(のが)れられないよ。それに袴だって、充分可愛いと思うよ。かえで、もう少し自分のスタイルに自信を持った方がいいよ。なんでも否定した考え方で生きていたら、いつか大損するから。」

「私、つばきがうらやましくて・・・。」

「何が?」

「つばきって顔も人形のように可愛くて、体もスタイル抜群じゃん。私もそういう風になりたいと思って・・・。」

「あんた、それ本気でそう思っているなら今すぐ目の治療を受けた方がいいわよ。」

「つばきこそ、もう少し自分のスタイルに自信を持った方がいいわよ。」

 その時、遠くから門下生の声が聞こえてきました。

「おじょうさまー、つばきおじょうさまー。」

「じゃあ、私そろそろ行くね。おそらく父さんが門下生に呼びに来させたと思うから。」

「お嬢様、ここにおられたのですね。お父上がご心配なさっていたので。」

「わかった、すぐに戻るから。かえで、悪いけどこの続きはまた今度にしてくれる?」

「うん、わかった。またね。」

 つばきは物干し竿の刀を持って、戻りました。

 その直後、私の道場の門下生も迎えにやってきて、両親のところへ戻りました。

 気が付いた時には太陽が傾きかけていたので、みんなは片付けに入っていました。


 次の日、私は朝から道場で稽古をしていました。父さんは道場の師範代で門下生はもちろん、私や母さんにまで厳しくしていました。

「次の挑戦者は誰だ!」

「私が行きます。」

「かえでか。娘だからと言って手加減はせぬぞ。」

「覚悟の上です。」

 私は大小の二本の木刀を持って、父さんに向かいました。

 しかし、父さんの方が数段も上でしたので、私が構えた時には返り討ちにされて、なかなか勝てませんでした。

「私に勝とうなど10年も早い。顔を洗って出直して来い!今日の稽古は終わりだ。掃除と後片付けをきちんとやっておけ!」

 父さんはそう言って、道場からいなくなりました。

 私は悔しくて、その場で泣いていました。

「お嬢様、気を落とさないでください。お嬢様はまだお若いので、これからだと思っています。たくさん修行をされて、お師匠様を超える強さを目指してください。掃除と片付けは自分がやります。お嬢様はお部屋に戻ってください。」

「ううん、ここは私がやります。」

「なら自分がお手伝いしますので、一緒にやりませんか?」

 門下生は優しい笑顔を見せて、私と一緒に片付けと掃除を手伝ってくれました。


 部屋に戻って腰に刀を下げて外出をしようとしたら、父さんに「どこへ行く?」と尋ねられました。

「つばきちゃんのところへ。」

「掃除は終わったのか?」

「道場の掃除なら、終わりました。」

「2階の部屋と廊下の掃除は?」

「それなら、先ほど自分たちがやっておきました。」

 近くにいた門下生たちが横から口をはさんできました。

「なぜ、お前たちがやった?」

「師匠、お嬢様はまだ遊びたい年頃です。お掃除などは手前どもが引き受けますので。」

「一緒に稽古をしている以上、やって当たり前だ。お前たちがそろって娘を甘やかしているからダメ人間になるんだ!この子が大きくなった時に何もできなかったらどうする?」

「その時は自分たちが世話をします。」

「なら、死ぬまでこのバカ娘を甘やかしていろ!私はしらん。」

 父さんはこれ以上何も言わず、部屋に戻りました。

「お嬢様、お友達のところへお出かけされても大丈夫ですよ。」

「やはり皆さんにご迷惑をおかけするわけにには行きませんので、掃除は私が引き受けます。」

「掃除はすべて自分たちが済ませましたので、大丈夫です。」

「なら、お食事の買い物を・・・・。」

「こちらは奥様が済ませますので、お嬢様は安心してお友達のところへお出かけになってください。お帰りは(とり)の刻(夕方6時)までにはお戻りに頂ければ大丈夫です。」

「皆さん、ありがとうございます。」

 私は門下生の言葉に甘えて、つばきのところへ向かいました。

「ごめんくださーい!」

「はーい。あら、かえでちゃんじゃないの。こんにちは。」

「おばさん、こんにちは。つばきちゃんは?」

「つばきなら道場で稽古しているわよ。よかったら見る?」

「はい、是非。」

 私はおばさんと一緒に道場へ向かいました。中へ入ってみると門下生に混ざって、つばきが稽古をしていました。

「ごめんくさい。」

「奥様、どうされましたか?」

「かえでちゃんを連れてきたので・・・。」

「わかりました。」

 私は門下生に連れられて道場の隅っこの部分で見学していました。

「次の相手は誰だ!」

 おじさんが、門下生と一対一で稽古をやっていました。

「私がやります。」

「ほう、誰が出てくるかと思えばバカ娘ではないか。手加減はしないぞ!」

 つばきは木刀を左下から右上に斜めに振り上げた瞬間、返り討ちにされました。

「まだ、得物を持つ手が震えてる。実戦でそれをやったら、間違いなく切られるぞ!」

 つばきは悔しそうな顔をしてその場で立ち尽くしていました。

「おい、つばき。ここに立っているとじゃまだ!」

 師匠であるお父さんに言われ、泣きながらもとに戻りました。

「お嬢様、元気を出してください。」

「そうですよ。お友達も見えていますので、この辺で泣き止んでいただきたいのです。」

 門下生に言われるまま、ずっと泣いていました。

 私は持っていた手拭(てぬぐ)いでつばきの涙を拭こうとしたら、「かえでちゃん、すまないが余計な気遣いはやめてもらいたい。かえってみじめな思いをさせるだけだ。」とおじさんに言われてしまいました。

「おい、つばき。今日はかえでちゃんが来ている。稽古を切り上げていいから、着替えて外で遊んで来い。」

「わかりました。」

「かえでちゃん、つばきのことを頼んだよ。」

 つばきは部屋で着替えを済ませて、物干し竿の刀を持って私のところへやってきました。

「お待たせ、いこ。」

「うん。」

 街の中を歩いていたら、とても賑やかで一日いても飽きませんでした。

「かえで、どこか立ち寄りたい場所ある?」

「行きたいけど今月お小遣いピンチだから・・・。」

「じゃあ、今日だけ私が何かおごるよ。」

「本当にいいの?」

「うん。私誰かさんと違って無駄遣いしないから。」

「いいわよ、どうせ私はお金に計画性がないもん。」

「わかったから、何がいい?お団子も、あんみつも、なんでもおごるから。」

「本当に!?やったー!」

「あんたって、本当に遠慮知らずよね。」

「じゃあ、あんみつで。」

「わかりました。じゃあ、行きましょ。」

 向かったのは、街の中心にある甘味処で、庶民の(いこ)いの場として親しまれている場所です。

 今日もいろんな人がお茶を飲みながら、くつろいでいます。

 私たちは店の人に案内されて奥のテーブルに座りました。

「すみません、あんみつを二つください。」

「かしこまりました。」

「ごちそうさまです。」

「その代わり、来月はかえでのおごりだからね。」

「はーい。」

 つばきは私のマイペースな返事に少し呆れかえっていました。

 しばらくしてから、2人分のあんみつが運ばれてきて、小さい子供のように幸せそうに食べていた私を見ていたつばきは、憎めなくなりました。

「つばき、今日は本当にごちそうさまでした。とても美味しかったです。」

「いいえ、どういたしまして。」

 そのあとも2人で江戸の街を散歩したり、書物屋で立ち読みをしたりなど時間を過ごしていきました。

「つばき、私今日門下生から(とり)の刻(夕方6時)までに戻るように言われたからそろそろ帰るね。」

「わかった、また明日ね。」

「うん。」

 家に戻り、私は食事と入浴を済ませました。しかし、その時は外国人による大きな事件に巻き込まれるとは思ってもいませんでした。

 私が布団にもぐり、眠りに就こうとした瞬間、自宅から数百メートル離れた大杉神社で数人の外国人が集まって何か話し合いをしていました。

 それがのちに私たちを巻き込む結果になるとは、その時は思ってもいませんでした。


2、 外国人と不思議な生き物


 翌朝、私は門下生と一緒に朝の稽古を終えました。道場と家の掃除を済ませたあとは朝食を食べて、2階の部屋で勉強をしていました。

 お昼過ぎになって、玄関でつばきの声が聞こえてきました。

「つばきちゃん、いらっしゃい。かえでなら2階にいるから案内するね。」

 母さんはつばきを私の部屋まで連れてきました。

「かえで、つばきちゃんを連れてきたよ。」

「あ、つばき、いらっしゃい。」

「あとでお茶を用意するね。」

 母さんはそう言い残していなくなりました。

「今日来る途中、近くの人から聞いたんだけど、五ツ半(夜9時)ごろ夜回りしていた人が大杉神社の近くを歩いていたら、数人の外国人が集まっていたのを見たらしいのよ。」

「それ本当なの?」

「わからないけど、見た人が言うには何か集会みたいなのをしてたと言うのよ。」

「五ツ半に神社で集会って気になるよね。今夜こっそり抜けてみる?」

「私、パスする。両親がうるさいから。」

「そうよね。それに私も門限が(とり)の刻(夕方6時)までで、それ以降の外出はできないから。」

「私も。」

 私はため息をついて少し考えました。

「そういえば今夜の夜回りって誰だっけ?」

「駿河屋の小吉(しょうきち)さんだったはず。」

「お茶屋さんの?」

「うん。」

「じゃあ、これから駿河屋さんに行って、お願いしてこようか。」

「あ、そうだね。」

「自分で見に行くのがダメだったら、誰かに頼めばいいんだよ。」

 その時、部屋のふすまが開いて母さんがお茶とお団子を持ってきました。

「昨日のお団子が余っていたから、良かったら食べてくれる?」

「それでは遠慮なしに頂きます。」

「おばさん、お気を使わなくても結構ですので。」

「子供が遠慮したら、おかしいでしょ?さ、食べて食べて。」

 私は出された団子を口いっぱいに広げて食べました。

「それにしても、かえではいつも美味しそうな顔して甘いものを食べるよね。」

「うん!私、甘いものが大好きだから。」

「ほら、口の周りにあんこが付いているわよ。」

「あ、いけない。ちょっと井戸で洗ってくるね。」

「ちょっと待って。和紙があるから、これで口を拭いて。」

「でも、これって刀を拭く時のだから・・・・。」

「いいの。家に帰ればたくさんあるし。」

「ありがとう。」

 私はつばきから、和紙を一枚もらって口を拭きました。

 そのあと、湯飲み茶碗と団子の(くし)を台所に下げて、母さんに今日お茶の葉を買いに行く予定があるかどうかを聞きました。

「お茶の葉ねえ・・・、どうして?」

「たまには私が買いに行こうかと思って・・・。」

「ははあん、さてはお小遣いの前借でもしたいのかな?」

「違うって。」

「じゃあ、どんな理由なのか言いなさい。あんたが自分から買に行こうなんて不自然だから。」

「ひどいよ。人が親切にお手伝いをしようと思っているのに。」

「わかった。じゃあ、他に何かお願いをしようかな。」

 母さんは私に余分なお金とかごを渡して買い物に行かせました。

街で野菜と魚を買い終えたあと、2人で駿河屋の小吉(しょうきち)さんのところへ行きました。

「こんにちは。」

「いらっしゃい。って誰かと思えば宮本道場のかえでちゃんと、佐々木道場のつばきちゃんじゃないの。2人して珍しいね。」

「今日は母に代わって私がお茶を買いに来ました。実は折入ってご相談があります。」

「なんだ、値下げ交渉か?」

「違います。今夜見回りをされるかと思いますが、最近大杉神社で外国人と思われる人が集まっているそうなんです。できたらでいいのですが、どんな人か調べてもらえますか?」

「そりゃあ、構わないけど、何でなんだ?」

「もしかしたら、何かたくらんでいるかもしれないのです。」

「言っておくが、今の日本は治外法権がないから、奉行所の人間が動けないのは分かっているよな?」

「はい。」

「それを承知のうえなら、調べてやるよ。」

「本当ですか!?よろしくお願いします。」

「じゃあ、明日(うま)の刻(正午)に来てくれないか?ちゃんと話してやるよ。」

「ありがとうございます。」

「君の母さんがいつもお茶を買ってくれているから、そのお礼だ。」

 私とつばきは一度別れて家に戻ることにしました。


  その夜、私は布団を敷いて寝ようとした瞬間、雨戸を強くたたく音が聞こえてきたので、そっと開けてみました。

 すると、目の前にいたのは宙に浮いた不思議な生き物でした。

 見た目は猫とそれほど変わりはありませんでしたが、何が違うのかと言いますと普通の猫と違い、背中に翼があることでした。

 私がしばらく眺めていたら、突如(とつじょ)この不思議な生き物がしゃべりだしました。

「こんにちは、私はケットシー。あなたたちが言うところの猫って言うところかな。突然、びっくりさせてごめんなさい。」

「猫が空を飛んでやってきた時点で充分にびっくりしたわよ!」

「実は私たちのご主人様からの伝言で、あなたともう一人のお連れの方を神社まで連れてくるように言われたのです。」

「この時間に?」

「いえ、明日の朝なんだけど、お時間とれますか?」

「午後なら時間が取れるけど・・・・。」

「では明日の午後、神社までお待ちしております。」

 ケットシーはそう言い残していなくなってしまいました。

 今の生き物はいったい何だったのか、猫のような体で鳥のように空を飛んで、人間のように言葉をしゃべってきたことに強く疑問を持ち始めていました。


 翌日、朝の稽古と掃除と食事を済ませて、つばきと一緒に小吉(しょうきち)さんのところへ向かいました。

「おはようございます。」

「おはよう。2人がここへやってきたということは昨夜の件だよね。」

「はい、そうなんです。」

 小吉(しょうきち)さんは昨夜の見回りで行った大杉神社の出来事について話してくれました。

 話によると西洋の甲冑(かっちゅう)姿でマントを身に着けた数人の外国人が集まって話し合いをしていたことでした。詳しい内容は聞き取れなかったのですが、「侍姿の女の子を連れてくるように」ということでした。

 他にも神社の近くで空飛ぶ猫を見かけたと話していましたので、間違いなくケットシーのことだと私は思いました。

「そのあと、神社にいた外国人に目をつけられたってことはありませんでしたか?」

「それはない。なぜなら、仮に目をつけられたら間違いなく殺されていたはず。彼らは長い刀を持ち歩いていたから。」

「長い刀ってこれくらいですか?」

 つばきは背中の物干し竿の刀を見せました。

「よく分からないがそれくらいあったはず。結構長い刀で、それを背中につけていたよ。」

「そうなんですね。」

「彼らとやりあったら間違いなく殺されるから、もし相手が刀を抜いてきても相手にしないほうがいい。おまけに彼らは大男と同じだ。」

「わかりました。ありがとうございます。」

 そのあと私とつばきはケットシーのいる大杉神社に向かいました。

 境内に向かうと小吉(しょうきち)さんの言っていた甲冑(かっちゅう)姿の外国人がいました。一人は男性、もう一人は女性でした。私とつばきは少し緊張した表情で彼らを見つめていました。

 私は思い切って、彼らに声をかけてみました。

「あの、2人は日本語話せますか?」

「ええ、話せますわよ。実は私たちの国では日本語が公用語となっていますので。昔、一人の日本人が日本語を教えにやってきたの。」

「その日本人はどうされていますか?」

「去年病気で亡くなりました。」

「そうなんですね。実は今日私たちが来たのは一つ確かめたいことがあるのです。昨夜私の家にケットシーと呼ばれる生き物を来させたのはあなたたちですか?」

「はい、そうです。」

「もう一つお伺いしたいのは、ケットシーが私たちの家をどのように知ったのですか?」

「うまくばれないように尾行して家を調べていたのです。」

「そうなんですね。そこまでして私たちを呼び出した理由とは何ですか?」

 今まで黙っていた男性が私たちの前に出てきて理由を話しました。

「実はバクテリア帝国が次々と巨大な生物兵器を開発して我々の国を支配しようとしているのです。人々は次々と魔物に食べられ、残された人々は家に身を隠している状態なのです。ぶしつけなのは充分承知しています。どうか力を貸してください。我々だけではどうすることもできないのです。今もこうして我々の同志が戦っているのです。お願いします!」

「私からもお願いします。こんなことを頼めた義理でないことは分かっています。どうしてもあなたたちの力が必用なのです。」

 甲冑(かっちゅう)姿の2人は私たちの前に頭を下げて頼み込みました。

 私たちはこの光景を見てただ黙って見つめていました。

 しばらく考えて私とつばきは結論を出しました。

「わかりました。私たちでよかったら力になります。」

「本当ですか!?」

「あなたたちが住んでいる国は遠いのですか?それとお互い自己紹介がまだですよね?私は佐々木つばき、家が燕返しの道場をやっています。」

「私は宮本かえで、家が二刀流の道場です。」

「それではお2人の自己紹介をお願いいたします。」

「私はスジャコフ王国、第一魔導騎士団長、カトリーヌ・クレマン。得意魔法は回復です。」

「同じくスジャコフ王国、第二魔導騎士団長、ジャン・ピエール。得意魔法は時間と空間移動です。2人には早速我が国で滞在してもらいたい。そしてわが同志に会ってほしいのです。」

「ちょっと待って。会うのは構いませんが、あなたたちの国へ行くってことはしばらく家を空けるってことですよね?両親から外泊の許可が下りないと無理です。」

 私の頭の中に不安が(よぎ)りました。

「その心配でしたら大丈夫です。お帰りの時には私たちと会う前の時間に戻しておきますので。それでしたら、あなたたちのご両親に心配をおかけすることはないですよね?」

「はい。」

「お着替えも私の方でご用意させていただきます。」

「それでは早速参りましょう。」

 ジャン・ピエールは両手を広げて、大きな光を出しました。

「さ、この光の中にお入りください。」

 私とつばきは言われるままに光の中へと入っていきました。



3、 不思議な力を持ったマント


 光の出口はだだっ広い草原に出て、私たちはそのまま強く腰を打ちました。

「いててて。」

「かえで、大丈夫?」

「まあ、何とか。」

「申し訳ありません、お怪我はありませんでしたか?」

 ジャン・ピエールは申し訳なさそうな顔で近寄ってきました。

「私なら大丈夫です。」

「やっほー!2人ともスジャコフ王国へようこそ!」

「ケットシー!今までどこにいたの?」

 その時ケットシーが人間の姿になり、よく見ると、その姿はカトリーヌでした。

「カトリーヌさん!?」

 私は思わず目が点になってしまいました。

「なぜですか?」

「ごめんなさい、だますつもりはなかったの。」

「でも、なんで神社で打ち明けなかったのですか?」

「なるべくなら、他の人に見られたくなかったので。」

「そうだったのですね。」

「立ち話もアレですから、早速城へ行ってわれらの国王にお会いしていただきましょう。」

 私たちはお城へ向かいました。その形は私たちが住んでいるお城とは全く違っていたので、思わず口を開けて見とれてしまいました。

「2人とも、中へお入りください。」

「あの、履物を脱ぐ場所はないのですか?」

「そのままお入りください。」

 私たちはピエールに言われるまま、中へ進んでいきました。足元には真っ赤な絨毯(じゅうたん)が敷かれていて、なんだか落ち着かない感じがしました。

 そのまま階段で3階まで進んで、出口を右に曲がり、まっすぐ進んだところに大きな槍を持った見張りが2人いました。

「ピエール殿とカトリーヌ殿、お疲れ様です。後ろにいる2人は?」

 見張りの人間たちは少し警戒した様子で私たちを見ていました。

「この2人は遠く日本からやって()られた救世主の方です。」

「では、我々と一緒に戦っていただける方なんですね。」

「ただ見てのとおり、まだ子供だ。あまり無理だけはさせないように。」

「承知しました。それでは中へお入りください。」

 私は扉を開けて中へ入りました。

「国王様、失礼します。第一魔導騎士団長カトリーヌ・クレマン、第二魔導騎士団長ジャン・ピエール、ただいま戻りました。」

「うむ、ご苦労であった。で、後ろにいる2人は?」

「日本から来られた者でございます。」

 私たちがぼーっとしてつっ立っていたら、ピエールが小さい声で「2人とも頭を下げて」と言ってきましたので、両手を床について頭を下げました。

「2人は日本から来られたと言ったな。」

「はい。先ほどはご無礼な態度をとってしまってすみませんでした。」

「どうかご勘弁を。」

「まあよい、気にするな。それより2人のお名前を聞かせてくれぬか?」

「私は宮本かえで、家が二刀流の道場です。」

「私は佐々木つばき、家が燕返しの道場です。」

「二刀流?燕返し?どちらも聞いたことのない名前だね。どれ、そこの2人にその技を見せてもらえぬか?おい、そこの者参れ。」

 国王様は自分の横にいる甲冑(かっちゅう)姿の大男を連れてきました。

「この者と実戦してみてくれぬか?言っておくが、今までこの者に勝った人間は誰一人いないと言われている。どっちから行く?それとも2人がかりでも構わんぞ。」

「お言葉をお返しするようですが、私どもに木刀を貸していただきたいのですが・・・。」

「おぬしたちが身に着けている剣は飾りか?」

「それでは、お互い相手を殺してしまうかもしれません。」

「安心しろ。急所を外すように言ってあるから。それにけがをしたらカトリーヌが治療するから大丈夫。まずはどっちから行く?」

「私から行きます。」

 まずは私からでした。私は二本の刀を抜いて構えましたが、正直太刀打ちが出来そうではありませんでした。しかし、大男も私が二本の刀で構えたのを見て少しひるみましたが、その直後刀を抜いて私に突進してきました。

 私は反射的に大刀(だいとう)で大男の刀を抑え、小刀(しょうとう)で胴を切りつけました。

 そのとたん、大男は床に倒れてしまいました。

「見事であった。」

「ありがとうございます。」

「あちらの方は?」

「大丈夫だ。今カトリーヌが魔法で治療している。じきに回復するから待つがいい。」

 待つこと数分、大男の傷が回復して立ち上がりました。

「次私です。よろしくお願いします。」

 次に構えたのはつばきでした。背中から物干し竿の刀を抜き取って構え始めました。

「お前は先ほどのお嬢さんのように二本の剣ではないんだな。」

「私はこの物干し竿の刀一本で勝負します。」

「なら、かかれ!」

 つばきは刀を左下から右上に切り上げ、その瞬間大男の体を斜めに切りつけました。

 またしても大男は床に倒れこみ、カトリーヌに治療されました。

「2人ともお見事だ。我が隊員に入れよう。おい、この2人にあれを差し出せ。」

 部屋の奥から使用人と思われる人が大きな布を二枚持ってきました。

 広げてみると布全体に竜と剣の紋章が描かれていて、上の角にはやはり竜の紋章のついたボタンが付いていました。

「国王様、これはいったい何ですか?」

「魔導騎士団のマントだよ。戦闘時にはこれを着て戦っていただきたい。」

「よかったら、試着してもよろしいですか?」

 私とつばきは渡されたマントを羽織ってみましたが、ボタンの留め方が分からなかったので、カトリーヌに教わってつけてみました。

 すると、マントから強い光が私たちを包み込むかのように出てきて、私たちの服装がピエールやカトリーヌのように西洋の甲冑(かっちゅう)姿になりましたが、身に着けている刀はそのままになっていたので、少々違和感がありました。

「2人とも、済まぬがまた剣を抜いてくれぬか?」

 国王様は私とつばきに刀を抜くように言いました。

 抜いてみると刀が光っていました。

「国王様、私たちの刀が光っているのですが・・・・。」

「今、2人が身に着けているマントの力のおかげだよ。剣の威力も変身前の20倍はあるはずだから、戦闘の時に是非試してもらいたい。それと元の姿になるにはマントを外せば戻るし、小さく折りたためば豆粒のように小さくなるから、持ち運びも便利だ。」

「ご親切にありがとうございます。」

「そういえば、いくつかお伺いしたいのですが、先ほどの大男のお名前を聞いていなかったのですが・・・。」

「彼はルーカス、第一魔導騎士団の副団長だ。」

「どちらにいらっしゃるか、ごぞんじですか?」

「医務室だ。カトリーヌ、ピエール、2人を案内しろ。それと、もうマントを外しても構わんぞ。」

「せっかくですので、ルーカスさんに見せたいのです。」

「それも構わんか。それと2人にあれを渡せ。」

 国王様は大臣に何かを用意させました。出てきたのは、小さな黒いきんちゃく袋です。

「国王様、中身は?」

「見てみろ。」

 袋の中身は金色に光った硬貨が入っていました。

「この金色の物は?」

「お金だ。ここでの滞在費となる。お前たちがここにいる間はこのお金を使ってもらいたい。」

「あの、お金でしたら用意してあります。」

 つばきは懐から財布を取り出し、国王様に見せました。

「お前たちの国で使っているお金か?」

「はい、そうです。」

「残念だが、ここではただの石ころと同じになる。先ほど渡したお金を使っておくれ。もし足りなくなったら、カトリーヌかピエールを通して言ってほしい。」

「承知しました。こちらのお金はありがたくちょうだいします。国王様、それでは失礼します。」

 私とつばきはピエールとカトリーヌに連れられて、医務室へ向かいました。

 中へ入ってみると、白衣を着た女性が私たちの前に現れました。

「カトリーヌ第一団長、こちらの2人は見かけない顔ですが・・・。」

「バクテリア帝国の一味を倒してくれる救世主だ。今日から短期間、ここで滞在することになった。君たち、この人に自己紹介してくれぬか?」

「私は宮本かえでと申します。」

「私は佐々木つばきです。よろしくお願いします。」

「お名前からして、2人は日本の方ですか?」

「うん、そうなんだよ。家が両方とも剣術の道場をしているのか、かなりの凄腕だ。ルーカスを倒したのも彼女たちなんだよ。」

「それで、ここに運ばれてきたのですね。どんな技を使われたのですか?」

「かえで殿が確か二刀流と言って二本の剣で倒し、つばき殿は燕返しと言って一本の長い剣を二回振って倒したのだ。」

「すごいですね。私も見てみたかったです。」

「それで、今日国王様からマントを渡されて、ひどく気に入っているみたいで、国王様に『外してもいい』と言われても未だに着ているのだ。」

「相当お気に召したのですね。」

「それで、この姿をルーカスに見せたいと聞かなくて・・・。」

「そうだったのですね。それでは案内しますね。」

 私たちは白衣を着た女性にルーカスが横になっている病床(びょうしょう)まで案内されました。

「カトリーヌさん、ここでは高い場所で眠るのですか?」

 私は台の上で眠っていることに珍しくなって、質問をしてしまいました。

「あれはベッドというものなんだよ。あなたたちの国ではどうやって寝ているんだ?」

「床に布団を敷いて眠っています。」

「床に直接寝て腰や背中が痛くならないか?」

「そのための布団ですので。」

「そうなのか。」

 ベッドではルーカスは気持ちよさそうに眠っていました。

「それでは一度失礼します。何かありましたら看護師控室(かんごしひかえしつ)にいますので、一言声をかけてください。」

「ありがとうございます。」

 数分が経ち、ルーカスは目を覚ましました。

「目が覚めたか。」

「カトリーヌ団長、なぜここに?」

「2人のお嬢様が、どうしても見せたいものがあると聞かなくて・・・。」

 私とつばきはマントに甲冑(かっちゅう)をまとった姿をルーカスに見せました。

「ルーカスさん、お体は大丈夫ですか?」

「先ほどは大変失礼しました。」

「気にするな。こんなのかすり傷と一緒だ。じきに回復する。それよりお前たちのこの姿、とても似合っているぞ。」

「本当ですか?ありがとうございます!」

「若干一名、何とかに衣装って言う人もいるけどね。」

「ひっどーい!」

「お、今度は顔がゆでタコになった。」

 つばきはいじわるそうに、毒舌(どくぜつ)を巻いていきました。

「いいもん、あとでおじさんに言いつけるから。」

「先日のあんみつの件、覚えているからね。お礼はそうだね、みたらし団子で。」

「来月お小遣いが入ったらね。」

「よっろしく!」

 横で見ていたカトリーヌとピエール、ルーカスは笑っていました。

「そういえば、これから2人にはいくつか案内があるから、私についてきてほしい。」

 私とつばきは一度ピエールとルーカスと別れて、カトリーヌについていきました。

 カトリーヌはお城から一度外に出て、少し離れた場所にある大きな建物にたどり着きました。

「ここがあなたたちが生活する宿舎だ。1階と2階が第一魔導騎士団、3階と4階が第二魔導騎士団の部屋になる。かえで殿とつばき殿は私と同じ第一魔導騎士団の所属となる。これから2人の部屋を案内する。」

 カトリーヌは宿舎の2階のすみの部屋に連れて行きました。ドアには210と書かれていましたので、この部屋の番号を指しているのだと私は思いました。

「ここがあなたたちの部屋だ。」

 部屋の中を見てみると、大き目なベッドが二つと、クローゼットと呼ばれる衣類などを収納するスペースなどがあり、広々した空間でした。

「広いお部屋ですね。」

「他にも案内したい場所があるから来てほしい。」

 私とつばきはカトリーヌに案内されるまま、食堂や売店、大浴場などの場所を案内されました。

 食堂は六ツ半(朝7時)から(いぬ)の刻(夜8時)までとなっているので、それを過ぎた場合は自分で食事を用意しなければなりません。

 売店は五ツ半(朝9時)から(いぬ)の刻(夜8時)となっていて、生活に必要なものはほとんど買いそろえられるようになっています。売店で扱っていないものは城下町で買えられるようになっているので、生活には不自由がありませんでした。

 大浴場は24時間開放されているので、好きな時間帯に入れるようになっています。

 カトリーヌから一通り案内されて、私とつばきはマントを外して元の姿になりました。


 私とつばきは食堂へ向かい、トレーと呼ばれるお盆の上に箸を乗せて受け取り口で、ご飯とみそ汁を受け取り、そのあと受け取ったおかずを見て驚きました。私は思わずかっぽう着姿の女性の方になんていう食べ物かと聞いてしまいました。

「すみません、この食べ物は何ですか?」

「豚肉を使ったハンバーグだよ。日本のお侍さんはこれを見たのは初めてかい?」

「はい。」

「柔らかくて、横に置いてある大根おろしと一緒に食べると美味しいよ。」

「そうなんですね。ありがとうございます。」

 私は早速テーブルに置いて食べてみました。

「ねえ、つばき本当に美味しいよ。」

「うん。」

「家の食事より美味しい。」

「あんた、それを言ったらばちが当たるわよ。っていうか、おばさんがそれを聞いたら、かなりへこむから。」

「確かに、そうだよね・・・。」

「それにしても、このハンバーグっていう食べ物初めてだけど、本当に美味しいよね。」

「うん。」

 私とつばきがハンバーグに舌鼓(したづつみ)を打っていた時に後ろから女性の声が聞こえてきました。

「ねえ、あなたたちって、日本のお侍さん?」

「そうですけど・・・・。」

「今日国王様の部屋で巨体のルーカスを倒したって本当なの?」

「はい。」

「すごいね。カトリーヌさんから聞いたけど、確か二刀流とか燕返しとかで倒したんですよね。」

 彼女は根掘り葉掘りといろいろ質問してきたので、私とつばきは驚いてしまいました。

「そういえばお互い自己紹介がまだだったよね。私は第一魔導騎士団の宮本かえで、特技は二刀流です。」

「同じく私は、第一魔導騎士団の佐々木つばき、特技は燕返しです。」

「2人とも第一魔導騎士団なんだね。私はレイナ、第一魔導騎士団で槍使いなの。よかったらあとで私の部屋に来ない?おいしいお菓子があるから。」

「お菓子!?ぜひ行きます!」

「かえで、少しは遠慮しなさいよ。誘ってくれるのはありがたいけど、私たちこれからお風呂に入ろうかと思っているの。」

「なら、一緒にいこ。私もお風呂これからなんだし。」

 私とつばきはレイナと一緒に大浴場へ行きました。

「気持ちいいですね。」

「うん、宿舎自慢の大浴場だから。」

「つばき、近所の公衆浴場より大きいよ。しかも誰もいないから貸し切り状態。」

 私が泳ぎながら言っていたら、つばきはあきれ顔で私に注意してきました。

「かえで、お風呂で泳ぐなんてはしたないよ。」

「誰もいないんだから、いいじゃん。」

「そういう問題じゃないって。少しはマナーを守りなさいって。」

 横で見ていたレイナがクスクスと笑っていました。

「2人は仲がいいのですね。」

「私たち幼馴染なんです。かえでって昔から人に迷惑をかけていたから、おじさんとおばさんによく叱られていたのですよ。」

「そうだったのですね。」

 

 風呂から上がり、私とかえではレイナの部屋に行きました。

「お邪魔します。」

「あ、2人ともいらっしゃい。」

 部屋の奥へ進むと白い小さなテーブルに見たことのない器が出てきたので、私が珍しがって見ていたら、「この器気になる?」とレイナが言ってきました。

「見たことのない器ですが、何ていうのですか?」

「これ、ティーカップだよ。これで紅茶を飲むんだよ。」

「取っ手のついた湯飲みのようなものなんですね。」

「その横にある縦長の急須(きゅうす)で紅茶をいれるのですね。」

「これはティーポットって言うんだよ。」

「そうなんですね。」

 私とつばきは物珍しそうに紅茶が出てくるのを眺めていました。

「この国ではお茶の色は赤なんですね。」

「2人はお砂糖を入れますか?」

「お茶の中にお砂糖を入れるのですか?」

「その方がおいしくなるわよ。」

 レイナは私とつばきの紅茶の中に砂糖を2杯入れました。

「甘くておいしいです。」

「お砂糖が紅茶に合うなんて、驚きました。」

 さらにレイナは箱からドライフルーツの入ったパウンドケーキを差し出しました。

「よかったら、食べてみて。」

「こちらでは金属の(くし)を使われるのですね。」

「これはフォークと言う道具なんですよ。」

 私はフォークという道具でパウンドケーキを刺して一口食べてみました。

「すごくおいしいです。」

「私も初めて食べましたけど、口の中に果物(くだもの)の香りが広がって、美味しいです。」

「お代わりもあるから、遠慮なしに食べてね。」

「それでは、遠慮なしに頂きます。」

「こら、かえで。少しは遠慮しなさい!レイナの食べる分がなくなるでしょ!」

「いいの。私は少ししか食べないから。」

「レイナ、こういう時はきちんと言った方がいいですよ。黙っていたら、全部食べちゃいますから。」

「本当にいいのです。実はもうひと箱あって、一人では食べきれなかったのです。」

「そういうことなら、遠慮なしに。」

「かえで、これで終わりにしなさい!」

 つばきは母さんのように厳しく言ってきました。

 さらにつばきは私の(はかま)を見るなり、ケーキの食べかすが散らかっていることに驚いて部屋から短めのほうきとちり取りを持ってきて、きれいにはきました。

「ちゃんとお皿の上で食べないからこぼすんだよ。」

「ごめんなさい。」

「小さい子供じゃないんだから、もう少しきれいに食べなさいよね。」

 私とつばきの会話のやり取りを見てレイナは、「ぷっ」と吹き出していました。

「2人の会話を見てると、親子みたい。」

「なんだか、恥ずかしいところを見せちゃったね。」

 つばきは顔を赤くして下を向いてしまいました。

 そのあと、みんなで使った食器の片づけをして部屋に戻りました。

 しかし、クローゼットの中を見るり、寝巻がないことに気が付きましたので、私とつばきはレイナの部屋に行って寝巻がないことを言いました。レイナは私とつばきの部屋に行って、クローゼットの中を調べました。

 そして中から上下に分かれた見慣れない服を取り出して私とつばきに差し出しました。

「レイナ、この服は?」

「これ?パジャマって言うんだよ。」

「パジャマ?」

「うん、ここではこれを着て寝るんだよ。」

「あの、私たち初めて見るものなので、良かったら着替えを手伝ってもらえませんか?」

「うん、いいよ。」

 私とつばきは着替えを手伝ってもらうついでにレイナからボタンの着け外しの方法を教わりました。

「このボタンって言うのは初めてですが、結構しっかりしていますね。」

「そうでしょ?これだと眠っている時も外れないし、寝冷えもしないから。」

「便利ですね。」

「うん。じゃあ、私部屋に戻って寝るから。」

「ありがとう、お休み。」

 私はろうそくの明かりを消して眠りました。

「ちょっとかわや(トイレ)へ行ってくる。」

「私先に寝るね。」

「うん。」

 かわや(トイレ)から戻ると、すでにつばきが寝息を立てて眠っていました。

 ベッドに入ってしばらくは寝息が気になって眠れませんでしたが、目をつむっていたら、いつの間にか眠ってしまいました。



4、 城下町の散歩と初の戦闘


 翌朝、着替えを済ませて私とつばきとレイナは食堂に向かい、朝食をとることにしました。

朝食にはまたしても見たことのない食べ物が出てきました。

 お皿には小麦粉でできた四角くて柔らかいものが乗っており、さらに別のお皿には焼いた卵に薄いお肉がありました。そして小鉢(こばち)には白くドロドロしたものがありました。

「レイナ、今日の朝ご飯、変わったものだね。」

 私は思わず口に出してしまいました。

「今日の朝ご飯はパンにベーコンエッグ、りんごのジャムだよ。食べ方としてはこのパンの上にりんごのジャムを乗せて、この銀のへらで塗って食べるの。結構おいしいよ。」

 私はパンに塗る前にりんごのジャムを一口なめてみました。

「つばき、りんごのジャムって言うの、甘くておいしいよ。」

「どれどれ、あ、本当だ。おいしい!」

「あ、いい忘れたけど、このりんごジャム塗りすぎると、あとで(のど)(かわ)くから気を付けたほうがいいよ。」

 私とつばきはレイナの言葉を無視して多めに塗ってしまいました。

 一口かじった時の甘さに感動してしまい、夢中になって食べてしまいました。

 さらに小鉢(こばち)に余ったジャムもパンに塗るへらで全部食べてしまったので、レイナは呆れた顔で見てしまいました。

 最後にベーコンエッグを食べて、牛乳を飲んでしめようとしたら、私とつばきは牛乳のお代わりが出来ないかレイナに聞いてみました。

「やっぱりこうなったか。一応井戸水もあるから、そっち飲んだ方がいいよ。」

 私とつばきは牛乳の横にある水の入ったポットをコップに注いで3杯ほど飲み干しました。

 レイナの言葉を聞いておけばよかったと私とつばきは後悔していました。

 しかし、昨日の晩御飯と言い、今朝の朝食といい、ここの食堂のご飯は最高でした。

 食堂を出て、私とつばきが部屋へ戻ろうとした瞬間、レイナが声をかけてきました。

「2人ともちょっと待って。今日ってこのあとどうする?」

「私とつばきはこのあと、城下町へ行ってみよう思っているの。」

「よかったら、私もついて行っていい?」

「いいよ。」

「じゃあ、宿舎の入口で待ち合わせね。」

 

 一度部屋に戻り、軽い身支度を済ませたあと、宿舎の玄関に向かいましたが、レイナがまだ来ていなかったので、少し待っていました。

「お待たせ!」

 レイナは少し経ってから私たちの前にやってきました。

「お、これが噂の日本刀だね。よかったら見せてくれる?」

「いいよ。」

 レイナは私とつばきの刀をそれぞれ見て珍しがっていました。

「かえでちゃんはこれで二刀流で、つばきちゃんはこの長いので燕返しなんだね。」

「レイナの背中にあるのは何ですか?」

 私とつばきはレイナの背中にある長い棒状のようなものに目を向けました。

「あ、これ?伸縮自在の槍だよ。伸ばすと結構長くなるよ。見てみる?」

 レイナは背中の槍を私たちの前で見せました。

 槍は結構長く伸びて、それをレイナは軽々と操っていました。

「どう?」

「すごい!」

 私は驚いて何も言えませんでした。

「戦闘になったら、これでほとんどやっつけることが出来ちゃうんだよ。」

「そうなんですね。」

「立ち話していると、遅くなるから行きましょ。」

 私たちは城下町へ向かいました。そこはいろんな店が並んでいて1日いても飽きませんでした。

「どこか行きたい場所ある?」

「どこに何があるのか分からないから、レイナに任せるよ。」

「私も。」

「そうねぇ、じゃあ最初はアクセサリーの店にいこ。」

 店の中へ入ってみたら、多種多様の飾りがたくさん置いてあり、どれもみんな可愛いものばかりでした。

「そういえばあなたたちって、後ろの髪を縛っているよね?せっかくだからリボンつけてみようか。」

「リボン?」

「うん。」

 レイナは商品棚にあるリボンを見て、ピンクと水色のリボンを持ってきました。

「つばきちゃんはピンクで、かえでちゃんは水色かな。今、つけてあげるから動かないでね。」

 レイナは私とつばきの後ろ髪にリボンを付けました。

「これが私?」

「そうよ。可愛いでしょ?」

「うん。」

「かえで、次私に鏡を見せて。」

 つばきは鏡で自分の姿を見ました。

「うそ!?これが私?」

「つばきちゃんも超可愛いよ。」

 つばきはしばらく鏡で自分の顔を見ていました。

「ねえ、どうせなら3人でお揃いにしない?」

 私は奥から黒いリボンを持ってきました。

「レイナ、髪の毛が金色だから黒いのが似合うと思うよ。」

「本当に?」

 私はレイナの髪型をポニーテールにして黒いリボンを着けました。

「見て、すごく可愛いでしょ?」

「本当だ、可愛い!」

 つばきも横から鏡を見て言ってきました。

 そのあと3人で買って同じ髪型にしてリボンを着けました。

 しばらく街を散策して洋服を見たり甘いものを食べたりと時間を過ごしていたら、ケットシー姿のカトリーヌがやってきました。

「やあ、3人そろってお買い物?」

「はい、そうなんです。」

「ここの城下町、初めてなのでいろいろ見て回っていました。」

「何か目当てのものは見つかったの?」

「3人でお揃いのリボンにしました。」

「3人ともとても似合っているよ。」

「ありがとうございます。」

「カトリーヌさんがこの姿をされているってことは、何か調べものですか?」

 レイナが鋭いところに目を向けました。

「うん、実はこの城下町にバクテリア帝国の一味が(ひそ)んでいるの。」

「本当ですか?」

「でも、ここでは戦えません。」

「そうよね。あの先に大きな森があるの。そこに引き付けて戦ってほしいの。今は普通の人間でいるけど、もし本性を現したら、森まで誘導して。」

「わかりました。」

「私はすぐに隊員を集めてくるから。」

「お願いいたします。」

 

 ケットシーと別れたあと、私たちはバクテリア帝国の一味がいると聞いて、遊び気分ではいられなくなりましたので、街の中を見回ることにしましたが、相手をどう見破ればいいのか分かりませんでした。

 しばらく歩いていたら、居酒屋から女性の悲鳴が聞こえてきました。

「どうされましたか?」

「お客さんが急に暴れだしたのです。」

「おかみさんは店の奥に隠れてください。この客の相手は私どもが引き受けます。」

「あなた方は?」

「私たちはスジャコフ王国、第一魔導騎士団の者です。」

「さ、ここは危険ですので、奥で隠れていてください。」

「わかりました。」

 店のおかみさんは奥へと隠れてしまいました。

 客は一人で、ひどく酔って暴れていて、店の中をめちゃくちゃにしていきました。

「あなたの相手は私たちよ。」

 そのとたん、客は目を真っ赤に光らせて私たちに向けました。

「俺様の相手がこんな小娘たちとは、ひどくなめられたものだ。ならたっぷりと可愛がってやらないとな。」

「こっちへいらっしゃい。」

 私たちはケットシーに言われたように城下町の外れにある森へと向かいました。

「お前たち、どこへ行く?」

 森の中心部へ着き、私たちはマントを羽織り、甲冑(かっちゅう)姿になりました。

「この姿は魔導騎士団か。少々面倒になってきたな。」

 敵はいつの間にか5体になり、しかも体は一回り大きくなっていました。

「私とつばきで2体ずつやっつけるから、レイナは1体お願い。」

 大男は大きな刀を抜いて、私に切りつけようとしました。

 私は二本の刀を抜いて、大男の刀を抑えた後、同時に二本の刀で切りつけました。

 もう1体も同じように切りつけましたが、簡単にはいきませんでした。

「同じ手は2度も通じないんだよ。」

 その時、私の刀が光だし、それと同時に軽くなり、敵にとどめを刺しました。

 一方、つばきの方も1体は倒せて、2体目で少し苦戦していました。

「おい、もう息切れか?さっきの威勢はどうした?」

「なら、私が相手するよ。」

「かえでは手を出さないで。」

「そうだ!部外者はここで見ていろ。お前の仲間が無様に殺されていく瞬間を見せてやるよ。」

 つばきの顔が一瞬ニヤッとしました。

 その瞬間、物干し竿の刀が私の時と同じように光だし、軽くなりました。

「燕返しは一の剣はかわせても、二の剣はかわせないんだよ!」

 つばきはそう言って、大男を切りつけました。

 レイナの方も終わっていて、私たちは疲れ切った顔で木陰で休んでいました。

「おい、敵はどこだ?」

 遠くからカトリーヌとルーカスの声が聞こえてきました。

「お前たち、敵はどうした?」

「私たちでやっつけました。」

「遅くなってすまなかった。けがはなかったか?」

「まったく無茶をして。でも無事で何よりだよ。」

「おい、お前たち、まだ敵の一味が(ひそ)んでいるかもしれないから、調べておけ。」

 ルーカスは隊員に指示を出しました。

「ルーカス副隊長、この5体の死体はどうされますか?」

「肉体が残っているってことは、やがては再生する可能性が高い。お前たちでとどめを刺しておけ。」

「了解しました。」

「ルーカスさん、この5体は私たちが始末したのでは・・・・。」

「確かにそうだ。しかし、我々のような体と違ってバクテリア帝国の魔物たちは心臓刺しても肉体が消えないと再生してしまうのだよ。」

「肉体が消えて、初めてとどめを刺したということなんですね。」

「そういうことだ。」

「この化け物ってあと何体倒せばいいのですか?」

「正直分からない。バクテリア帝国の帝王、キングバクテリアンを倒さないことには・・・・。」

「そうなんですね。」

 その時、隊員から魔物の気配がなかったという報告が入ってきたので、そのまま引き上げることにしました。

「今日はすまない。せっかく城下町の散歩がダメになってしまって・・・・。」

「いえ、大丈夫です。」

「またゆっくり楽しんでくれよ。」

「お前たち3人におすすめの店を紹介してやるよ。」

「どこですか?」

「裏通りの奥へ進んだところに、『隠れ家』と呼ばれている喫茶店があるんだけど、そこのケーキ最高に美味しいから、今度行ってみなよ。」

「本当ですか!?是非行ってみたいです。」

「私もです。」

「今日は部屋でゆっくり休んでおくれ。ただし、夜更かしはダメだからな。」

「わかりました。」

 宿舎につくなり、私たちは夕食と入浴を済ませて、部屋でくつろいでいました。

「かえで、このパジャマっていう寝巻になれた?」

「ううん、私はまだ慣れていない。なんて言うか上下別れていることに何だか落ち着かなくて・・・・。」

「私も。あとでカトリーヌさんに言って日本の寝巻を用意してもらおうか。」

「うん。」

 その時、ドアをノックする音が聞こえてきましたので、ドアをそっと開けてみました。

「ヤッホー!迎えに来たよ。」

 レイナが元気よく部屋に入ってきました。

「パウンドケーキと紅茶で女子会やらなない?」

「まだ果物(くだもの)の入ったお菓子残っているの?」

「たくさんあるよ。」

「行く!今すぐ行く!」

「行ってもいいけど、かえではお菓子2個まで。」

「ええ!」

「『ええ!』じゃない!あんた放っておいたら、全部食べそうだから。あと万が一食べかすを床にこぼした時には、ほうきとちり取りできれいにしてもらうかね!」

「ぷっ、やっぱ、つばきちゃんって言い方がお母さんみたい。」

「だって、この子ったら完全に小さい子供と一緒なんだもん。」

「そうなんだね。」

「じゃあ、行きましょうか。」

 私はほうきとちり取りを持って、つばきと一緒にレイナの部屋に行きました。

 部屋に入るとすでに紅茶とケーキがおいてありました。

 レイナはティーカップに紅茶と砂糖と牛乳を入れて、少し冷ましておきました。

「じゃあ、今からお茶会をしましょうか。」

 私は出されたミルクティを一口飲みました。

「あまーい!」

「本当だ、牛乳とお茶が合うなんて驚きました。」

 そのあと、ドライフルーツの入ったパウンドケーキを食べて一休みをしていました。

 つばきは私の下半身を見るなり、お菓子の食べかすがないかを確かめていました。

「うん、今日はこぼさないでちゃんと食べたよね。」

「失礼ね、私だってちゃんと食べられるわよ。」

「誰かさんは前回(はかま)や床に食べかすをたくさんこぼしていたわよね。」

「だから今日はちゃんとお皿を近づけ食べたんでしょ。」

「えらい、えらい。」

 つばきはそう言って私の頭を()でていました。

「もう子ども扱いしないでよ!」

「かえでは充分、お子様よ。」

 またしてもレイナは私たちのやりとりを見て「ぷっ」と吹き出していました。

「レイナ、そんなにおかしい?」

「だって、完全に親子の会話だもん。」

「さっきも言っていたけど、私たちってそんな風に見えるの?」

「そうとしか見えないもん。」

 レイナは完全に笑い上戸になっていました。

 

 残った紅茶を飲み干して、食器を片付け終えたあと、私たちはしばらくお話をしていました。

「ねえ、2人は好きな人っているの?」

 レイナは興味を示したように質問をしてきました。

「私はいない。」

「うん、私も。」

「えー!誰かいるでしょ?例えば気になっている人とか。」

「そうは言ってもこの世界に来て日が浅いし・・・。」

「うん。」

「でも、日本にいたころは誰かいたでしょ?例えばかっこいいお侍さんとか。」

「うちに門下生が3人いるけど、どれもぱっとしないし・・・。」

「私も。」

「そうなんだ。」

「そういうレイナは誰かいるんでしょ?」

「実は・・・。」

「実は?」

「実は私もいないんだよ。」

「じゃあ、何でこういう質問するの?」

「もしかしたら、2人はもう付き合って人がいるかなって思ったから・・・。」

 レイナは少し笑いながら返事をしていました。

「あ、いけない!」

 私は何かを思い出したかのように急に大声を出してしまいました。

「どうしたの、かえで。急に大きな声をだして。」

「このあと私たちが夜更かししていないか、カトリーヌさんが抜き打ちで見回りをするって言っていた。」

「そういうのはもう少し早く思い出してよ。」

「レイナ、私たち部屋に戻るね。」

「2人とも急いで。」

 私とつばきは急いで部屋に戻ってベッドに入りました。

 その直後、静かに足音が聞こえてきました。足音はだんだん近づいてきて、レイナの部屋、そしてその隣の男性騎士の部屋まで来ました。

 布団に入っているにも関わらず、私の心臓の鼓動は高まっていきました。

 私たちの部屋に入ってきて、静かにランプを照らして部屋の中を確かめていました。そのあと何も言わず部屋を出ていきました。

 カトリーヌが部屋を出て数分後、私はベッドから起き上がって窓の星空を眺めていました。

「どうしたの?」

 横からつばきが声をかけてきました。

「うん、ちょっと。緊張が納まらなくて・・・・。」

「私も。」

「この世界の星空ってきれいだよね。」

「うん。」

「江戸の町から見た星空も綺麗だけど、こっちの方がもっときれい。」

「私たち、やがてはこの世界とお別れをして、もとの生活に戻るんだよね。」

「うん。」

「そうなると、せっかく仲良くなれたレイナとお別れになるんだよ。」

「そんなの嫌だ。ずっと一緒にいたい!」

「それは私も同じだよ。」

「今、それを考えても仕方ないよ。それより早く寝よ。」

 再びベッドに戻って寝ることにしました。



5、 新しい武器とキングバクテリアンの戦い


 翌朝、食堂で食事を済ませていたら、カトリーヌが私たちのところへやってきました。

「くつろいでいるところ申し訳ない。ちょっと私の部屋に来てくれないか?」

 私たちは言われるままにカトリーヌの部屋に入りました。

 部屋の中は大きくて低めの椅子が手前にあり、奥へ進むと大きな机がありました。

 私たちは手前にある大きなふかふかの椅子に座りました。

「初めて座る椅子ですが、随分と柔らかいですね。」

「かえではソファを知らないのか?」

「私もです。」

「なんだ、つばきもか。」

「私たちの住んでいる国ではこのような柔らかい椅子はありません。」

「では、客人を呼んだ時にはどこに案内するんだ?」

「私の家では座布団を用意します。」

「座布団とは?」

「ここの国では座布団が使われないのですか?」

「聞いたことがない。」

「四角い布の中に、綿が入っている敷物なんです。」

「そうなのか。それより、お前たちの武器を見せてくれぬか?」

 カトリーヌは私たちの刀や槍を見るなり、険しい表情で見ていました。

「やっぱり。」

「どうされましたか?」

「ちょっと見てみろ。」

 カトリーヌは私やつばきの刀の刃先やレイナの槍に指をさして、欠けていると指摘しました。

「お前たち、これで敵陣に乗り込むつもりだたのか?」

「いえ・・・。」

 私は()の鳴くような小さい声で返事をしました。

「これは一度鍛冶屋に持っていく必要がある。お前たち、これから鍛冶屋へ行くからついてこい。」

 私たちはカトリーヌに言われるままに鍛冶屋へ向かいました。

 鍛冶屋は城下町の外れにはる、少し大き目の建物が目印でした。

「ごめんくださーい!、第一魔導騎士団の者です。」

「いらっしゃい。って、誰かと思ったらカトリーヌさんではないか。」

「今日はこの子たちの武器を直してもらいたいのです。」

 私たちは鍛冶屋さんに武器を預けました。

「どれどれ・・・。」

 鍛冶屋さんは鋭い目つきで私たちの武器を隅々まで見ていきました。

「お嬢さんたち、武器の手入れをしているか?」

「いえ・・・。」

「かわいそうに、せっかくの剣や槍が泣いている。急いで修理にかかるが、できたら明日まで待ってもらいたい。」

「わかりました。」

「それまで、きちんと直しておくよ。」

「よろしくお願いします。」

 私たちは鍛冶屋を出て再び宿舎に戻り、カトリーヌは私たちを武器庫へ案内しました。

「君たちに申し訳ないが、修理中は代わりの武器を使ってもらう。好きなのを選んでおくれ。」

「私、この刀にする!物干し竿に近いから。」

 つばきは長めの刀を選びました。

「あの、刀はもうないのですか?」

「ごめん、つばきので最後だったのだよ。かえでにはこの鎖鎌(くさりがま)をお勧めするよ。」

「これ、どうやって使うのですか?」

「あとでルーカスに聞いてほしい。」

 カトリーヌは少し無責任な感じで返事をしました。

「わかりました。」

「レイナは何にした?」

「私はこれにする。」

 レイナが選んだのは鉄の(おの)でした。

「うわっ、これを食らったら間違いなくお陀仏(だぶつ)だよ。」

「レイナ、間違っても私たちに向けないでね。」

「大丈夫だよ。」

 レイナの手元はぎこちない感じで少し不安でした。

「レイナ、本当に気を付けてね。」

「おーい、鍵を閉めるから遊んでないで早く出てくれー。」

 私たちはカトリーヌに言われて、武器庫から出ました。

「カトリーヌさん、この鎖鎌(くさりがま)なんですけど・・・。」

「どうした?何か問題でもあるのか?」

「実は刃をむき出しにして歩くのは正直怖いんですけど・・・。」

「確かにそうだよな。ちょっと待ってくれ。」

 カトリーヌは私の鎖鎌(くさりがま)を見るなり、刃の部分を少しいじっていましたら、内側に動きました。

 そして再び刃を出すときには柄の先端部分に丸いボタンを押せば刃が出てくる仕組みになっていました。

「一応、この武器は安全装置というものがあるから、使うときにはこのボタンを押して刃を外側に出して使っておくれ。」

「ありがとうございます。」

 私は(くさり)を柄に巻き付けて腰に身に着けましたが、多少の違和感が残っていました。

「私、これからルーカスさんのところへ行って鎖鎌(くさりがま)の使い方を教わって来るよ。」

「私も一緒に行くよ。」

「私も。」

 つばきとレイナは私に付き合って、一緒についてきてくれました。探し回って歩いていたら、ルーカスは稽古場にいました。

「こんにちは。」

「よ、お前たちそろって何の用だ?」

「実はルーカスさんに折入ってご相談があるのです。」

「どうした、改まって。さてはお金の相談か?勘弁してくれ、俺も今月はピンチなんだよ。」

「違います。実は鎖鎌(くさりがま)の使い方を教えて頂こうと思ってきました。」

「お前たち、いつもの武器はどうした?」

「実は鍛冶屋さんに修理に出して、代わりの武器を使うことになったのです。」

「なるほどな、そういうことだったんね。」

「それで、カトリーヌさんがルーカスさんに聞けば教えてくれると言っていました。」

「あいつは面倒なことはみんな俺に押し付けるんだよ。よし、早速稽古に入ろう。」

 ルーカスは稽古場の奥から巻き(わら)を用意して、私から鎖鎌(くさりがま)を取り上げ、手本を見せました。

 扱い方としては最初に小さな鉄球のついた方の(くさり)を巻き付けて、(かま)で切り付けるか、あるいは(くさり)を長めに持って遠心力で切り付ける方法がありました。

 どちらも威力はありますが、それはその時の状況によって使い分けなければなりません。

 私はルーカスさんのもとで鎖鎌(くさりがま)の練習をして、完全に使いこなせるようになってきました。

「戦闘の時にはそれに魔力が加わるから、威力はそれ以上になる。その時に勢いが余って、周囲の人間を切りつける危険性がある。それだけは充分に気を付けてくれ。」

「わかりました。」

「今日の練習はここまでにしてくれないか?実はこのあと、用事を思い出したから。」

「わかりました。」

 私はルーカスさんと別れて部屋に戻ろうとした時、廊下でカトリーヌさんに会いました。

「ルーカスでの鎖鎌(くさりがま)の練習はどうだった?」

「正直難しかったです。」

「少しは使いこなせるようになったのか?」

「ルーカスさん、教え方が上手だったので、すぐに覚えられました。」

「それは良かった。実は大変申し上げにくいんだが・・・。」

「どうされたのです?」

「実はさっき、鍛冶屋がやってきて預けた武器を届けてくれたんだよ。」

「早いのですね。」

「なんていうか、その・・・、あそこの鍛冶屋、すごく優秀だから・・・・。あとで私の部屋に引き取りに来てくれないか?」

「わかりました。ありがとうございます。」

 私はカトリーヌさんの部屋に行って、みんなの武器を預かって自分の部屋に戻りました。

「あれ、戻ってきたの早くない?」

「うん、優秀な鍛冶屋さんだったから。」

 つばきとレイナは自分の武器が戻ってきたことに感動していました。

「しかし、残念だな。かえでの鎖鎌(くさりがま)さばき見たかったよ。ま、いつもの二刀流も悪くないけどね。」

 つばきはイヤミたらしく私に言ってきました。

「ううん、私鎖鎌(くさりがま)使う。」

「え?だって自分の刀があるのに、なんで鎖鎌(くさりがま)を使うの?」

「せっかくルーカスさんが教えてくれたのを無駄にしたくないから。」

「じゃあ、刀は置いていくの?」

「ううん、二刀流は父さんからで、鎖鎌(くさりがま)はルーカスさんから教わったので、戦闘の時には両方使おうと思っているの。」

「そっか。刀を置いて鎖鎌(くさりがま)にしたら間違いなくおじさん、キレるよね。」

 私は苦笑いをしながら聞いていました。

 

 しばらくすると、廊下を走ってくる足音が聞こえてきました。

 そのあと勢いよくドアをバンっと開いてルーカスが入ってきました。

「ルーカスさん、いきなり入ってこないでください!」

「あ、すまない。それよりカトリーヌ隊長から緊急の招集がかかっている。全員作戦室へ来るようにと言われてきた。」

「本当ですか!?」

「ああ。それよりいつも一緒にいるレイナはどうした?」

「先ほど自分の部屋に戻りました。」

「わかった。レイナには君たちから伝えてくれ。」

 ルーカスはそう言い残して、部屋からいなくなった直後、私とつばきはレイナの部屋に行ってルーカスの言葉をそのまま伝えました。

 レイナはそのまま私たちと一緒に作戦室へ向かいました。

 中に入ってみるとすでに何人かの人が集まって、カトリーヌが来るのを待っていました。

「どこでもいいから、空いている椅子に座ってくれ」とルーカスに言われ、3人バラバラになったが、椅子になんとか座れました。

「全員起立!」

 ルーカスの号令により全員立ち上がり、カトリーヌが壇上(だんじょう)に上がってきました。

「全員、そろったようだな。急に招集をかけて申し訳ない。実は近日バクテリア帝国のアジトへ乗り込むことにした。敵は何体いるか分からない。しかし、アジトにいる敵を全て残らず撃退し、最後のボスであるキングバクテリアンの首をしとめようと思っている。敵もそれなりに強い。決して油断だけはしないように。キングバクテリアンとの戦いは私とルーカス、かえで、つばき、レイナ、第二部隊のピエールの6人で立ち向かう。かえでは雑魚戦の時には得意の二刀流で、ボスの時には鎖鎌で戦ってくれないか?」

「了解しました。」

「あの、質問があります。」

「なんだ、言ってみろ。」

 一人の男性騎士が手を挙げて質問しました。

「先ほど近日とおっしゃっていましたが、具体的にいつごろ敵陣に乗り込むのですか?」

「すまない。明後日にする。」

「ずいぶんと急ですね。」

「本当のことを言うと、先日の城下町での一件で住民たちを不安にさせてしまった。今すぐと言いたいのだが、お前たちにも準備があるだろう。だから明後日にした。他に質問はないか?なければ解散だ。」

 そう言い残して部屋をあとにしました。

 いくらなんでも、明後日は早すぎる。しかし、城下町の人を襲った以上は駆除しなければならないと私は思いました。

 つばきとレイナが部屋でくつろいでいる時、短い時間を利用してルーカスに頼んで鎖鎌(くさりがま)を使った稽古を受けました。

 しかし、たったの2日でしたので、ルーカスからは必要最低限だけにとどめておきました。

 それでもルーカスが言うには使い方次第では剣よりも威力があると言っていましたので、その言葉を信じて、敵への戦いに挑むことにしました。


 そして迎えた決戦当日です。

 朝もやのかかった宿舎の外で私たちはカトリーヌとルーカスが来るのを待っていました。

 早朝ということもあるのか、少し冷えていたので両手をさすっていました。

 マントと甲冑(かっちゅう)姿で多少の寒さをしのぐことはできていますが、それでも耐え難い寒さであることには変わりはありませんでした。

 さらに周りを見ていると、鼻と口の部分に何かを覆っていました。

 後ろからレイナが私とつばきの背中をつつきました。

「ねえ、2人ともこれ持ってる?」

「口と鼻を覆っているものって何?」

「これはマスクと言って、外からの細菌の侵入を防いだり、寒さをしのぐ時に使うんだよ。2人とも持っていないの?」

「うん。」

「そう言うと思って、2人分を用意しておいたよ。」

 レイナは私とつばきにマスクというものを手渡しました。

「これってどうやって使うの?」

「使ったことがない?」

 私はとつばきは無言で首を縦に振りました。

「じゃあ、私がつけてあげる。」

 レイナは私とつばきの顔にマスクを付けました。

「おわったよ。」

「ありがとう。」

 マスクは茶色で鼻の部分がとがっていて、口の部分がへこんでいたので、まるで天狗になったような気分でした。

 しばらくすると、ルーカスとカトリーヌがやってきてみんなの前に立ちました。

「待たせたな。これから敵陣へ向かう。全員無事で戻れることを祈ろう。」

 その直後全員の声が広がりました。

 私たちが出発した直後、第二部隊も後に続くようについてきました。

 城下町では私たちを見るなり、声援を送ってくれました。

 やがて青々と広がる草原に出て、そこから西の方角へと歩き出しました。

 時折吹いてくる風が顔に突き当たって、寒さを増してきましたが、マスクのおかげで多少の寒さにも耐えられました。

 どこまでも続く草原を歩いていたら、足元がとられそうな砂利の上り坂に差し掛かりました。

「お前たち、足元に気を付けろ!」

 カトリーヌの大きな声が私たちの耳に聞こえてきました。

 ゆっくり少しずつ進んでいき、その終点にはお化け屋敷と思わせるような城が建っていました。

 この中に入るには多少のためらいというのがありました。

「お前たち、ここがバクテリア帝国の城だ。勇気のある人間だけ私に続いて入れ!臆病(おくびょう)な人間はマントを脱いで家に帰れ!そして、そのまま除隊にする!我が騎士団には臆病(おくびょう)はいらない!」

 私たちはカトリーヌに言われるまま、全員城の中へと入っていきました。


 お城の中は薄暗く、中央で左右に分かれる階段があり、左側が私たち第一魔導騎士団、右側が第二魔導騎士団が向かいました。

 階段を上がって2階の通路を歩いていたら、白いもやが私たちの視界を(さえぎ)るかのように漂ってきたので、おそらく細菌の(かたまり)だろう私は思いました。

 立ち止まっていても仕方がなかったので、そのまま先へ進んで行ったら、誰かの足音がコツコツと聞こえてきました。

 しばらくじっとして来るのを待っていましたら、第二騎士団のメンバーの一人がやってきました。

「どうした?」

「自分、3階の通路を歩いていたら落とし穴にはまって、ここに来てしまったのです。ピエール隊長と合流するまで、一緒にいてもよろしいですか?」

「それは構わないが、ピエール隊長がどこにいるのか、知らないのか?」

「はい・・・。」

「なら仕方ない、見つかるまで一緒にいろ。」

「ありがとうございます。」

 私たちは3階につながる階段を探していたら、階段の入口で数人の敵に遭遇しました。

 敵は口から猛毒の霧を吐きながら、剣を構えて私たちに攻撃してきました。

「ここは自分たちがしとめるので、カトリーヌさんたちは上に行ってください。」

「すまない、そうさせてもらう。」

 私とつばき、レイナ、カトリーヌ、ルーカス、残り数人の隊員たちは3階へ向かいました。

 通路を歩いていたら、さっきと似たような敵が出てきて私たちに襲い掛かりました。それも前後からです。

 明からに逃げられないと判断して私とつばき、レイナ、ルーカスで手を組み、カトリーヌは残りの隊員と一緒に戦いました。

 私は二本の刀、つばきは物干し竿の刀、レイナは槍を構えて、敵に襲い掛かりました。

 しかし、敵も簡単には倒れません。

 魔法の力で何とか持ちこたえていますが、通常でしたら間違いなく良くて大けが、悪くて死んでもおかしくない状態でした。

「これ以上戦っていてもキリがない。とりあえず引こう。」

 ルーカスは皆にそう言いました。

 私たちはなんとか逃げ切ることに成功しました。

 さらに階段で4階へ進むと、赤い絨毯(じゅうたん)の敷かれた静かな廊下に差し掛かりました。

 敵の来る気配もなかったので、反対に不気味に思えてきました。

 さらに壁に飾ってある絵を見たら怖さが余計に増してきました。

「敵が襲ってこないって、なんだか変だと思わないか?」

「確かに。」

 隊員たちの会話が後ろから聞こえてきました。

 絨毯(じゅうたん)の廊下はずっと長く続いていて、その先には大きな扉が見えてきました。

 言うまでもなくキングバクテリアンの部屋の入口でした。

「お前たちに再度告げる。この先はキングバクテリアンの部屋だ。私と一緒に戦う人間だけついてこい!逃げたいならそれでも構わない。その時はマントを脱いで敵におびえながら走り去れ!」

 カトリーヌの言葉を聞いて、誰一人逃げ去る人間はいませんでした。

「よし、ここにいる人間は全員戦う意思があると見た。私に続け!」

 カトリーヌは大きな扉を開けました。

 中はだだっ広く部屋中には細菌の(かたまり)が白いもやのように(ただよ)っていました。

 部屋の奥へ進むと、全体が緑色に染まったキングバクテリアンが座っていました。

 見た目は人間ですが、その大きさは私たちの2倍くらいありました。

 さらに鬼のように頭につのが生えていて、手には大きな槍を持っていました。

「お前たちは魔導騎士団か?」

「いかにも。我々のほしいものは一つ。お前の首だ。」

「笑えない冗談だ。」

「冗談などではない!」

 キングバクテリアンは私とつばきの方に目を向けてきました。

「お前たちは何者だ?」

「私は日本からやってきた宮本かえで。」

「同じく日本からやってきた佐々木つばき。」

「ほう、ならお前たち2人に面白いものを見せてやろう。」

 キングバクテリアンは大きな水晶を取り出し、私たちに見せました。

「ここがどこだから分かるか?」

 水晶に映し出されたのは紛れもなく私たちの住んでいる町で、よく見ると紫色のもやがかかっていました。

「この紫は?」

「すぐにわかるよ。」

 しばらく水晶を見ていたら、私たちの家が見えてきました。

 その周りには人々が次々に倒れていき、その中に私たちの両親や門下生の姿が見えてきました。

「お父さん!お母さん!」

 私は思わず大声を上げてしまいました。

「私たちの町に何をやったの!?」

「なーに、ちょっとした実験だよ。この紫のもやは強烈な病原菌だよ。どれくらいの速さで死んでいくか実験しただけだ。苦しむのは少しだけ。あとは死ぬんだから、問題ないだろ?」

 私の怒りは頂点に達しました。

 刀を(さや)に戻し、腰から鎖鎌(くさりがま)を取り出して勢いよく回転を付けて、かまいたちのように切り付けていきました。

「みんな、このキモイ化け物の始末は私がやる!」

「面白い。小娘一人でこの俺を倒せるとでも思ったの・・・・。」

 最後まで言い終わらないうちに私は刃を回転させて切り付けていきました。

「何をしやがる?」

 キングバクテリアンの顔からはすでに余裕がなくなっていました。

 それよりも私はすでに怒りで我を忘れて暴走していました。

「何って、決まっているじゃない。あなたを簡単に殺したらつまらないでしょ?」

 今度は(かま)の柄を持って、胴を切りつけました。

「今の一撃はお母さんの分。」

 さらに左腕を切りつけました。

「これは父さんと門下生たちの分よ!」

「これで、終わりか?なら、今度は俺様の攻撃だ、覚悟しろ!」

 私がさらに攻撃しようとしたら、つばきとレイナ、カトリーヌ、ルーカスに止められました。

「気持ちは分かる、ここで暴走したら間違いなく相手の思うつぼだよ。」

「私も今かえでと同じ気持ちだから分かるよ。でも、暴走したら意味がないよ。」

「とにかくここで休んでろ!」

 私は部屋の隅に行って、壁にもたれて少し休んでいました。

 しかし仲間が戦っている時に自分だけ休んでいるわけにはいかないと思っていました。

 キングバクテリアンは槍を大きく振り上げて攻撃してきました。

 4人はよけるのが精いっぱいでしたので、攻撃が出来ない状態でした。

 私は最後の力を振り絞って、鎖鎌(くさりがま)でキングバクテリアンを切りつけましたが、まったく歯が立ちませんでした。

 ダメでもともとだと思っていたので、今度は二本の刀を抜き取って切り付けようとしたのですが、返り討ちにされました。

 もうだめと思って諦めた瞬間、残った隊員たちが束になって襲い掛かろうとしました。

「待て、お前たち!」

 カトリーヌが隊員たちを呼び止めました。

 しかし、それを無視して攻撃をしようとしました。

「お前たちが束になっても勝てる相手ではない!」

 ルーカスが力のある限り大声で止めようとしました。

「カトリーヌ隊長、ルーカス副隊長、勝手をお許しください。自分たち、今日まで一緒に戦えて本当に幸せでした。自分たちのこの命、カトリーヌ隊長とルーカス副隊長のために使わせていただきます。残った皆さんは間違っても自分たちの後を付いてくることのないようにしてください。」

 残りの隊員たちは武器を構えて、キングバクテリアンに襲いかかりましたが、簡単に弾き飛ばされ、死んでいきました。

 私たちは何もできないまま、この光景を見ていました。

 怒り、憎しみ、悔しさが一気に込み上がっていき、再び立ち上がろうとした瞬間、私たちが着ているマントに描かれている竜の紋章が光りだし、剣を持った竜の姿となり、そのままキングバクテリアンにめがけていきました。

 キングバクテリアンは竜の攻撃を次々と受けていき、そのまま死んでしまい、最後は跡形もなく消えていきました。

 竜は光となり、再びマントに戻りました。

 戦いが終わり、私たちは殺された隊員たちの慰霊碑をバクテリア帝国の城の前に立てました。

 カトリーヌが引き上げの合図をした瞬間、私はあることに気が付きました。

「カトリーヌさん、気になったことがあります。」

「どうした?」

「実はキングバクテリアンに侵された人たちはどうなりましたか?」

「ああ、それなら心配に及ばない。みんな元に戻っているはずだ。君たちの家族も無事だから心配するな。」

「ありがとうございます。」

 私たちは残った隊員たちと一緒に引き上げることにしました。



6、その後の生活


 キングバクテリアンの戦いから1週間が経って、街も人々も何の変りもなく平和に暮らしていました。

 私とつばき、レイナは3人で城下町を散策をしていましたら、ケットシーの姿になったカトリーヌがやってきました。

「楽しんでいるところ、申し訳ない。これから国王様のところへ来てもらいたい。」

 私たちは言われるまま城へ戻り、国王様のところへ向かいました。

「失礼します。国王様、3人をお連れしました。」

 私たちは膝まづいて頭を下げました。

「お前たち、顔を上げてよいぞ。」

 国王様に言われるままゆっくり顔を上げました。

「おぬしたちの活躍には充分感謝している。そのおかげで街も人々も活気にあふれている。」

「もったいないお言葉でございます。」

「お礼を言われるようなことはしておりません。」

「私たちは当然のことをしたまでなのです。」

「おぬしたち、そう謙虚(けんきょ)になるな。実はわしからおぬしたちへ褒美(ほうび)を与えたいから、何なりと申してみよ。」

「そんな、褒美(ほうび)なんて・・・。」

「いらぬと言うのか?」

「なら、一つだけ申し上げてもよろしいですか?」

「申せ。」

「私たちの滞在期間を延ばしてほしいのです。実のところレイナとはもう少しだけ一緒にいたいと思っているのです。」

「おぬしたちの言葉を言い換えれば、レイナと一緒ならここでなくても、他でも構わんと言うことだな。」

「と、おっしゃいますと?」

「おぬしたちの滞在期間はもうじき終わる、だがレイナとのお別れはしたくはない。答えは一つだ。レイナを2人の国に行かせることにしよう。」

「国王様、本当に感謝しています。」

 私たちの表情は急に明るくなり、その場で立ち上がり、3人で抱き合ってはしゃぎました。

「お前たち、国王様の御前(ごぜん)だ。言葉や態度を(つつし)め!」

「カトリーヌ、そうかたいことを言うな。」

「しかし、国王様・・・。わかりました。」

「さて、おぬしたちに渡した金貨だが、そのまま持ち帰っても使えない。おぬしたちの住んでいる国の通貨にするから、出しておくれ。」

 私たちは持っている金貨を国王様に一度預けました。

 しばらくすると家来たちが私たちの前に布で包んだお金を持ってきました。

 私はそうっと布を広げてみましたら、小判が30枚もありました。

「こんなにたくさん!?」

「国王様、感謝しています。」

 私たちは再び膝まづきました。

「3人とも下がってよい。それとカトリーヌ、すまないがもう少しだけ付き合ってくれぬか。」

「は、承知しました。」

 私たちは国王様の部屋をあとにして、宿舎に戻りました。

 

 部屋に戻って、私とつばきはベッドの上に置いてある取っ手のついた大きな箱に目を向けました。

 この箱に私とつばきは不思議そうに眺めていました。

「ねえ、つばき、この箱ってなんだかわかる?」

「さあ?さっきから開けようとしているんだけど開かないのよ。」

「レイナに聞いてみようか。」

「うん。」

 私とつばきはこの不思議な箱を持ってレイナの部屋に向かいました。

「レイナ、この不思議な箱ってなんだかわかる?」

「ああ、これ?トランクと言って、中に着替えを入れる箱なんだよ。」

「でも、さっきから開かないよ。」

「これ、ここに金具があるでしょ?これを上に持ち上げて、開くようになっているの。」

 試しに金具を持ち上げてふたを開けてみたら、中は広々としていました。

「中って、結構広いんだね。これだけ広かったら着替えの他にお土産も入りそう。」

「待って、お金ってさっき国王様に日本のお金に変えられたから、買い物は無理よ。」

「そんなぁ~。」

「諦めな。」

「うん。」

「じゃあ、私たち部屋で荷物の整理をしてくるね。」

 私とつばきはレイナと一度別れてトランクに着替えや、お土産になりそうなものを詰めていきましたが、あることに気が付きました。

「ねえ、つばき、国王様から預かったマントってどうする?やっぱ返す?」

「うーん、私も分からないな。カトリーヌさんに聞いてみる?」

「その方がいいんじゃない?私たちもう魔導騎士団じゃないから。」

「そうだよね。」

 その日の夕方、私は夕食を食べる前にカトリーヌの部屋に向かいました。

「失礼します、つばきとかえでです。」

「入っていいぞ。」

「カトリーヌさん、こちらのマントですが、預かったものなので返した方がいいかと思って、用意したのですが・・・。」

「ああ、これ。君たちにあげるよ。」

「よろしいのですか?」

「本当のことを言うと、大きな戦いも終わったことだし、魔導騎士団を一度解散しようか迷っていたところなんだよ。」

「そうなんですか?」

「でもまあ、今すぐってわけじゃないし、解散の件は保留にするよ。ところでマントはもしいらなかったら、私が預かるけど、どうする?」

「私はここでの思い出として残したいので・・・。」

「じゃあ、お前たちに譲るよ。大事にとっておけよ。このことはレイナにも言っておけ。」

「ありがとうございます。それでは失礼します。」

 そのあと私たちは食事と入浴を済ませて部屋でくつろいでいましたら、ドアをノックする音が聞こえてきました。

「誰?」

「私、レイナよ。これから私の部屋でお茶会しない?」

「行く!」

 私が行こうとした瞬間、つばきは私にほうきとちり取りを渡しました。

「もう大丈夫よ。」

「やっぱ心配だから、持っていきなさい。」

「はーい。」

 私はしぶしぶと返事をしながらほうきとちり取りを持ってレイナの部屋に向かいました。

「ここでのお茶会も今日で最後だよね。」

「うん。」

「このお菓子もこれで最後だから。」

 レイナは箱に入っているドライフルーツのパウンドケーキを全部取り出して、私たちに分けました。

「6個残っていたから、3人で2個ずつにすればちょうどいいよね。」

「うん。」

「この紅茶も飲めなくなるんだよね。」

「仕方ないよ。」

 今夜だけはゆっくり味わいながら食べていきました。

「ここでの生活どうだった?」

「最初は知らないことだらけだったけど、慣れていくうちにそれが当たり前になってきたって感じかな。」

「私も。食べ物も初めてのものばかりで、とても美味しかったよ。」

「うん。」

「レイナも明日から日本での暮らしになるんだよね。」

「うん。」

「今の気持ちはどう?」

「少しだけ緊張している。」

「例えば?」

「そうだね、うまくやってけるかどうかってところかな。」

「大丈夫だよ。私とかえでで何とかするから。住む場所が決まるまでは私かかえでの家でゆっくりしてよ。」

「ありがとう。」

「じゃあ、今夜は遅いし、寝ようか。」

「うん、お休み。」

 

 翌朝、いよいよ出発の時間がやってきました。

 朝食と身支度を済ませ、宿舎の入口でカトリーヌとルーカスにお別れの挨拶をしました。

「カトリーヌさん、ルーカスさん、本当にお世話になりました。」

「部屋はそのままにしておくから、いつでも遊びに来いよ。」

「どうやってですか?」

「あ、ごめん。忘れるところだった。このペンダントを3人に渡すように国王様から言われていたんだった。」

「このペンダントは?」

「この世界とあなたたちの住んでいる世界を自由に行き来出るものなの。ここに戻りたいという強い思いがあれば、また戻れるから。」

「ありがとうございます。」

「では参ろうか。」

 私たちはピエールと一緒に初日に到着した緑の草原まで向かいました。

「では扉を用意します。」

 ピエールさんは両手いっぱいに大きな光を出しました。

「ピエールさん、どうもありがとうございました。」

「いいえ、こちらこそ。この光の向こうは私たちと会う前の日本です。」

「ちょっと待ってください。そうなると、またキングバクテリアンとの戦いがありますよね?」

「それには心配及びません。こちらの時間が戻ることがありませんので。」

「ありがとうございます。それでは、失礼します。」

 私たちは大きな光に入っていきました。その出口は夕方の神社でした。

「いてて・・・。」

「つばき大丈夫?」

「うん、かえでは?」

「私は平気よ。」

「私たち戻れたんだね。」

「うん。」

「レイナ、私たちがいなくなって寂しがらないかな?」

「そうよね。私も心配になってきた。」

「もしもし、勝手に私の存在無視しないでくれる?私ならここにいますので。」

「あ、ごめん。」

「『あ、ごめん。』じゃないわよ!」

「だから謝っているじゃない。ハハハ。」

「それで、レイナの住む場所なんだけど、どうする?」

「よかったら、私の家に来て。」

「じゃあ、そうさせてもらうね。」

「かえで、レイナまた明日ね。」

「うん。」

 私とレイナはそのままに家に帰りました。

「ただいまー!」

「お帰り。かえで、この子は?」

「レイナちゃん。乗っていた船が沈没(ちんぼつ)して漂流(ひょうりゅう)されてきたの。だけど、両親が亡くなって帰る家が無くなったから、落ち着くまでここで預かりたいの。」

「レイナちゃんと言ったわよね。あなた日本語分かる?」

「日本語なら問題なく話せます。」

「ずいぶんときれいな日本語だね。」

「彼女、自分の国で日本語をたくさん練習してきたから。それに日本の文化も勉強してきたんだって。」

「そうなの。狭くて汚いところだけど、ゆっくり休んでちょうだいね。」

「ありがとうございます。」

 レイナは靴を脱いで私の部屋に向かいました。

「かえで、何であんな嘘をついたの?」

「本当のことを話すと、面倒になるから。」

「そうなんだ。」

「それにしても、きれいで落ち着いているよね。」

「そう?」

「うん、私こういう家に住んでみたかったの。」

 レイナは新鮮そうな顔をして、私の部屋を眺めていました。

「落ち着くまでここを自分の家だと思ってくつろいでいいからね。」

「ありがとう。」

「私、お茶とお菓子用意してくるね。」

 一階の台所に行ったら、母さんがすでに夕食の準備をしていました。

「かえで、もうじき夕食なんだけど、レイナちゃん、日本の食事って大丈夫?それとお箸は使えるの?」

「お箸は大丈夫だと思うけど、おかずは何を作ったの?」

「普通にごはんと味噌汁、漬物、焼き魚なんだけど・・・」

「ちょっと待ってね。レイナに聞いてくるから。」

 私は食べられない物がないかどうかを、レイナに聞いてきましたが、特に問題なさそうでしたので、一緒にとることにしました。

 そのあと、2人でお風呂に入って寝ることにしました。

「日本はベッドじゃなくて、床で寝るの?」

「床の上に布団を敷くって感じかな。なれると、そっちの方がよくなるよ。」

「そうなの?」

「ベッドは用意できないけど、箱を用意してその上に布団を敷くのはどう?」

「ううん、そこまで気を遣わく手も大丈夫だよ。」

「そう?」

「うん。」

「じゃあ、お休み。」

 私とレイナはそのまま眠りました。


 翌朝、レイナは私の稽古を見学しました。

「レイナちゃん、二刀流って初めて?」

「はい。」

「二本の刀を使って相手に攻撃するんだけど、その分技術も要求されるから、難しいんだよ。」

「そうなんですね。」

「よかったら、体験してみない?」

「いいのですか?」

 父さんはレイナに二本の木刀を渡して、手取り足取り教えていきました。

「父さん、私が教える!」

「いいから、お前は向こうで練習していろ!このバカ娘が!だいたいお前は人に教えるくらいの実力を身に着けたのか?」

 私は父さんに怒鳴られて、そのまま道場の隅で練習していました。

「お嬢様、もしかして師匠にお友達をとられてすねているのですか?」

「そんなことありません。」

「そういうふうにおっしゃっていますが、顔は正直だからすぐに分かりますよ。自分でよかったら稽古の相手になりますので。」

 私は門下生と一緒に稽古をしていました。

 稽古を終えて、掃除と片付けを済ませ、食事をした後、私はレイナを連れてつばきのところへ向かいました。

「おはよう、つばき。」

「おはよう、かえで、レイナ。そういえばレイナ、かえでの家どうだった?」

「とても居心地がよかった。」

「そうか。今度うちにも遊びにおいでよ。」

「うん、そうするね。」

「それよりレイナの服装なんだけど、これだと目立つから私らと同じ格好にしない?」

「そうだね。」

「かえで、(はかま)とか余ってる?」

(はかま)はなんとか用意できそうだけど、上が・・・」

「あ、そうだ。国王様からもらったお金があるから、それで買ってあげようか。」

「それ、いいね。」

 私とつばきはレイナを連れて古着屋に向かいました。

「こんにちは。」

「あら、かえでちゃんとつばきちゃんじゃない。」

「実はこの子に私たちと同じ格好させたいのですが・・・。」

「ちょっと待ってね。」

 古着屋さんは店の奥から灰色の(はかま)と黄色の上着を用意してきましたので、一度レイナに試着させました。

 サイズがちょうどよかったので、草履(ぞうり)足袋(たび)も一緒に買いました。着てきた服はお店で用意してもらった風呂敷(ふろしき)に包んでもらい、帰ることにしました。

「レイナ、とても似合っているよ。」

「ありがとう、お金は?」

「いいの、私たちのおごりだから。」

「それじゃ、悪いよ。」

「気にしないで。」

「ありがとう。」

 そのまま近くの小川で一休みをしていたら、後ろから足音が聞こえてきました。

 後ろを振り向いたら、カトリーヌとピエールがいました。

「久しぶりだな。」

「カトリーヌさん、どうしてここに?」

「実はまたしても、キングバクテリアンが復活した。そこで君たちの力を借りたい。」

「でも、マントが・・・。」

「マントなら、こっちで用意するから来てくれ。」

 私たちはカトリーヌたちに(なか)ば強制的にスジャコフ王国連れていかれ、そして新たな戦いが始まろうとしました。



おわり

皆さん、今回も最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。

今回初めて異世界の物語を書かせていただきました。

主人公の宮本かえで、佐々木つばきが異世界に行き、魔導騎士団になり、槍使いのレイナと仲良くなっていきました。

バクテリア帝国のボスであるキングバクテリアンを倒したあと、かえでとつばきは日本に戻るわけですが、レイナと別れたくないという理由で滞在期間を延ばしてほしいと国王様にお願いをします。

ところが国王様から出た返事はレイナを日本で滞在することを許可しました。

実は当初、レイナと主人公2人を最終回でお別れにしようかと思っていましたが、最後は笑って終わらせたかったので、3人一緒にさせました。

さて、そろそろお別れが迫ってきました。このお話を読んでくださった皆さん、春は出会いと別れの季節と言います。

学生時代、お世話になった先生、中のよかったお友達とお別れをするとき、どんな気持ちを抱いたでしょうか。

それでは、次の作品でまたお会いしましょう。

その日まで私も一生懸命がんばります。


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