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アホの幼馴染みが悪役令嬢を自称してるんだが

作者: 大小判

最近、アイデアの溜め込み過ぎが原因で小説の執筆が上手く出来ていないのではないのかと、スランプ解消がてらに短編執筆をしています。

今回はドヤ顔ヒロインってウザ可愛いよなって気持ちが強くなってきて、勢いで執筆しました。

そんな過程で生まれた作品ですが、よろしければ評価やお気に入り登録してくれると幸いです。


三笠修介(みかさしゅうすけ)。高校2年生で、家族構成は父と母、独立した兄と姉の5人で、将来の夢は印税生活。

 プロフィールを書き綴っていけば、俺なんてどこにでも居そうな高校生なわけだが、そんな俺は最近ゲームやったりマンガ読んだりするよりも凝っている趣味がある。


 すなわち、幼馴染観察日記をつけることである。


 おっと、ストーカーとか言って通報するのは待ってくれよ? 別に盗撮とかストーキングとか犯罪まがいの事をしている訳じゃない。

 単に習慣として昔から日記を付けていたんだけど、ここ数年の幼馴染の様子が面白くて、それしか書くことが無くなっているからだ。

 

「今日も私は悪に染まっていくわ」

「へー。今日はどんな悪いことをするつもりなんだ?」

「ふふふ。一週間後、この河川敷で何が行われるか知っているかしら?」

「知らねぇよ」

「なら教えてあげる。今から一週間後、市が主導するボランティア活動の一環として、ポイ捨てされたゴミを片付ける地域の美化活動が行われるわ。大勢の人たちが街の美化を取り戻すために動くわけだけれど……その前に私が全てのゴミを片付けることで、大勢の人々に無駄に集まった事への徒労感を味わわせるという、かのエリザべ-ト・バートリも真っ青の悪事を働くのよ……!」

「すげぇや。それを知った時の連中はさぞビックリするだろうよ」



 お前の頭の残念っぷりに。



 俺の幼馴染、義原優希(よしわらゆうき)は今日も今日とてほんわかオーラを振りまき、小鳥に集られながらドヤ顔で頭のおかしいことを宣った。

 現実は時に小説よりも奇怪。俺と優希は10年来の付き合いとなるが、中学に進学した頃には、優希はラノベやギャルゲーのヒロインかっていうくらいに目立った美少女に成長を遂げていた。  

 容姿は愛嬌溢れる垂れ目が特徴な柔らな美貌で、性格の穏やかさが滲み出る顔立ちを更に増強させる、鳥がとまるくらいの明るい亜麻色の天然フワフワロングヘアー。長くて癖が強いのにボサボサって印象にならないのが凄いと思う。

 女子の中でも小柄な部類で、学校の女友達からは「ゆっきー」と親しまれ、スキンシップの名の下に頻繁に抱きかかえられている。

 

 性格は根っからの善人。近所や学校でも評判になるくらいで、周りからの評価は総じて「近所の優しいお姉ちゃん」とか、「5丁目のすごく良い子」とかである。

 しかも家は由緒正しい超金持ち。言ってしまえばお嬢様ってわけだ。割と頻繁に互いの家を行き来したりするんだけど、家政婦とか料理人とか庭師とか平然と雇うくらいの豪邸だし。これに加えて成績優秀ときたもんだ。

 昨今、好意の裏返しで素直になれなくて、外見だけは良くてモラハラ発言を連発する幼馴染みが増えていると聞いたことがあるが、優希は性格の優しさ、面倒見の良さ、溢れる女子力、抜群の容姿の四拍子を兼ね備えた、今となっては逆に珍しい、旧き良き王道の中の王道の幼馴染み。まさに天はコイツに二物も三物も与えてしまったというわけである。

 そんな彼女がどうしてこんな残念な事を言っているのか。

 

 …………原因は何を隠そう、俺である。


 悪気は一切なかった。ただ中学2年の時、ハマっていた漫画を優希に布教したって言うのが全ての始まりだった。

 漫画の内容は悪党の物語(ピカレスク)……所謂、主人公とヒロインが復讐の為に悪に染まるという内容のもので、優希はドハマりしたわけである。

 しかもただハマるだけって訳じゃなかった。何故か主人公とヒロインに憧れちゃった優希はこの漫画を切っ掛けにDQN系中二病患者(闇の炎が~とか言い出す奴じゃなく、反社会的行動がカッコいいとか思っちゃうタイプのこと)として覚醒。

 これまで厳しく教育されてきて、「良い子」であり続けた事への反動なのか、ものの見事に反抗期&DQN系中二病に突入。何かにつけては悪事を働こうとしている訳であるが、悪行のつもりが悪行になっていない。


「どうかしら? 凄惨極まる悪行に声も出ないでしょう? 恐ろしさの余りに戦慄してもいいのよ?」

「わー、こわーい」


 ドヤ顔のままチラチラとこちらの様子を窺う優希に適当な返事を返す。棒読みだったけど、当の本人は本気で俺が怖がっているとでも思っているのか、ドヤ顔のままご満悦だ。

 ちなみにだが、コイツは今絶賛反抗期の真っただ中な訳だが、親御さんに反抗期と認識されていない。何せこの女、つい昨日こんな事を宣っていたからだ。


『ふふふ、聞いて慄きなさい。今朝、トイレの後にトイレットペーパーを三角に折らずに出てきてやったわ。この神をも恐れぬ反逆に、父と母は恐れ戦くことでしょう……!』


 大抵の家庭では、トイレットペーパーを三角に折ったりしない。それをしなかっただけでとんでもないドヤ顔をしてきたわけだから、こいつの反抗期のレベルの低さが伺えるというもの。小父さんも小母さんもさぞ安心だろうよ。


「さぁ、作戦を開始するわ。今からこの街の人々に、私の恐ろしさを教えてあげる……!」


 そう言ってゴミ袋を持参した優希は1人、せっせと河川敷のゴミを回収していく。俺に手伝えなんて一言も言うことなく、さも当然のように1人でゴミを捨てていく。

 仕方ないと思った俺も河川敷に降りてゴミを回収していくと、優希は申し訳なさそうな顔で――――。


「大丈夫よ? 修介も疲れてるでしょうし……無理して手伝ってくれなくてもいいのよ?」

「お前はちょっとは悪ぶれよ」

 

 ちなみにこの後、俺と優希は市から感謝状を贈られることとなった。


   =====


「前回は何故か上手くいかなかったけれど、今回は違うわ。今日という今日は、私は悪に染まってみせる」

「何故かと言い切るとことか超やべーよ」


 今日も今日とて優希は小鳥に集られながら頭のおかしい事を宣っている。前回、周りから凄い感謝された理由がまるで分らないらしい。


「むむっ……そう言っていられるのも今の内よ? 今から私がこの街を恐怖と絶望で――――」

「あぁ!? レジ袋が!?」


 そんな時、道行く婆さんが手に持っていたレジ袋の底が破け、買ったばかりの食材やらなんやらがコンクリートの道に転がる。


「あらあら、大丈夫?」

「おやおや。ありがとねぇ、優希ちゃん」

「いいのよ、気にしないで?」


 優希はさも当然のように食材やらなんやらを拾い、そのまま婆さんの家まで同行。お礼の品を差し出されても丁重に断り、その場を後にした。


「というわけで、今からこの街を絶望と恐怖で染め上げるわ」

「お前よくそんなことが言えるな」


 昨日の今日でよくそんな大口が叩けるもんである。


「アレを見なさい、修介」


 そんな俺の心からのツッコミを無視して、優希は公園の方を指さす。そこには砂場で城を作ろうと躍起になっている子供たちが居た。


「手始めに今日はあの子供たちに絶望を与える。気落ちする子供たちの姿が頭に浮かぶわ」


 こいつまさか、砂の城が完成した直後に、砂の城を破壊するつもりか? 確かに悪事と言えば悪事だけど……ショボくね?

 でも俺は何も分かっていなかった。優希の思考回路は俺の想像の遥か斜め下をいっているということを。


「あの拙い砂の城の隣に、私がTwitterに載せられるレベルの精巧な砂の城を作る。子供たちは私との間にある技術力の差に絶望することでしょう……!」

「あ、そうっすか。頑張れ」


 そう言いながら不敵なドヤ顔を浮かべた優希は水が入ったバケツを持参して、子供たちの隣で砂の城を作り始める。

 俺も暇だったから手伝ったら、何か超精巧な姫路城が出来た。Twitterに載せたら凄い反響を呼んで、子供たちは「姉ちゃんスゲェー!!」と大喜びで興奮していた。


   =====


「どういうわけか昨日も上手くいかなかったけれど、今日の私は一味違うわ。人々は私の恐るべき悪行に夜も眠れなくなることでしょう……!」 

「そう言いながら落ちてる空き瓶拾ってゴミ箱に捨てに行くなよ」

「え……? でも、誰かが踏んで怪我したら大変じゃない?」


 今日も今日とて、優希は小鳥に集られながら頭のおかしいことを宣う。昨今の若者は道端のゴミなんて無いように振る舞うというのに、さも当然のように言ってのけるこの女のどこが悪なのか。


「で? 今日は何をする気だ? まーたゴミ拾いしたり子供と砂遊びする気か?」

「ふふふ……過去の失敗に囚われ続ける悪党は三流よ? 一流の悪党たる私は同じ轍は踏まない」


 ドヤ顔で言い切る優希。果たしてこいつは何時から一流の悪党とやらになったのだろうか? 一流の善人の間違いじゃないだろうか?


「今日はクラスの皆に勉強を教えてほしいと頼まれたから、今から図書室に行くのよ」

「何だ? とうとう悪党になり切るのは自分には向いてない気付いたか?」


 ちなみにこいつ、頭はアレのくせして学力の成績だけはすこぶる良いし、教えるのも超上手い。テスト前とかになると、何時も女友達に頼られて勉強を見ていたりする。


「そんな訳ないでしょう? これは親切を装った狡猾な罠……勉強を教えた対価として、悪徳商法もビックリの不当な請求をしてやるのよ……!」


 不当な要求……普通なら金銭が妥当なところだろうか? 1人頭1万円とか。

 そんな事を考えていると、優希はドヤ顔で自信満々に言ってのけた。


「彼女たちには支払ってもらうわ。私の時間と労力の対価として、心からの笑顔を見せるという……ね」

「お前何言ってんの?」


 そりゃあテストの不安が無くなれば学生は誰でも笑顔になるだろうよ。 それで悪徳商法ビックリの不当請求? こいつの倫理観は一体どうなっているんだ?


「ふっふっふっ……かの織田信長でもここまで容赦ない無茶振りは出来ないでしょう? タダで勉強を見てもらえると思ったのに、別に浮かべたくもない笑顔を浮かべなければならないという、予想もしなかった請求に震える彼女たちの姿が目に浮かぶわ……!」

「確かにその請求は予想もしないだろうけど」


 ドヤ顔で織田信長に張り合おうとする生粋のお人好しが目の前にいる。どうしてこいつはこうも自信満々でいられるんだろうか……空回りも良いところである。


「勿論、不満を言ってくるであろう彼女たちを黙らせる準備も万端……皆から苦手分野と得意分野を聞き、お勧めの解き方や憶え方、勉強方法を1人1冊ずつ学習ノートに纏めたわ」

「至れり尽くせりとはこのことか」


 カバンから十冊以上のノートを取り出し、ドヤ顔をする優希。


「しかもそれだけじゃないわ。私はこのノートを作成する時、とんでもない悪を為したのよ」


 何だろう? 職員室に忍び込んで作成中のテストでも見たのだろうか? 

 とんでもないというのは過剰表現だけど、確かに悪事っちゃ悪事だ。


「なんと私は、夜の11時まで夜更かしをしてしまったのよ! 早寝早起きを守らずに夜更かしをする私に、住み込み家政婦さんの吉江さんも私が寝坊をしてしまうのではないかと戦々恐々としたことでしょう」


 ドヤァァァァ……という音が聞こえた気がする。

 ちなみに優希の就寝時間は夜の10時、起床時間は朝の5時である。当然無遅刻無欠勤どころか、朝になると俺の家まで来て朝飯と弁当まで作ってくれるという、王道幼馴染ムーブをかましている。

 吉江さんに至っては、「お嬢様は女子高生なのに夜更かしとか全然しませんねぇ」と登校中に偶然会った時に言っていた。


「ふふふ……そろそろ図書室へ向かおうかしら。彼女たちを絶望の底へと叩き落すためにね……!」


 テスト前なので俺も付いて行って勉強しに行ったら、「お礼として心からの笑顔を見せてもらうわ。果たして貴女たちにこの絶望的な対価が支払えるかしら?」とかドヤ顔で抜かしていた優希だったが、女友達全員にケーキバイキングまで拉致られ、滅茶苦茶スイーツ奢られていた。


   =====


「今日は修介に絶望を与えるわ」

「突然何を言い出す」


 今日も今日とて頭の中身がパッションな優希は、学校の中庭で俺と昼めし食ってる最中、小鳥と野良猫に集られながらそんな事を言ってきた。

 すぐ近くに捕食対象がいるにも拘らず、猫たちは鳥に襲い掛かろうともしない。優希からは常に闘争本能を掻き消す特殊なマイナスイオンが放出されているという噂があるが、それはあながち間違いでもないということを幼馴染みとして保証したい。


「ふふふ……私が何の対価もなく毎日貴方にお弁当を作っていたと思っているの? だとしたら、それはとんでもない勘違いよ?」

「へぇ、違うの?」


 ちなみにお母んは毎朝優希を歓迎して、手間が省けるからと喜んで俺の分の弁当作ってもらってるし、何だったら自分と親父の分の朝飯も作ってもらってる。

 そんな優希を、お母んは息子の俺よりも可愛がっていて、「さっさとつき合っちゃいなさい」とか言ってくるが、実に余計な話世話だ。


「中学1年生の時からずっとお弁当を作り続けたのも、全ては今日この日の為」


 ちなみにもう1度言っておくけど、優希が中二病に目覚めて悪ぶり始めてたのは中学2年の時からである。


「今日のお弁当には、貴方を地獄の底へと叩き落すためのとっておきの細工をしてあるのよ……!」


 ドヤ顔でそんなことを宣い始める優希。はてさて、学校でも温かい食事をとか言って買ってきたランチジャーに詰められた弁当の、どこに細工が施されているというのか?

 オカズ類は問題無し、炒飯も問題無し、味噌汁にも特に変なところは無いし……ん? よく見たら味噌汁に緑色の何かが浮かんでいるような……?


「気が付いてしまったようね。そう……今日のお弁当には全て、修介が嫌いなピーマンが入れられているのよ……!」


 さも「自分、悪いことしました! どうですか!?」と言わんばかりのドヤ顔でチラチラ俺のことを見てくるけど、こんな味も分からなくなるくらい磨り潰して入れても嫌がらせにならないだろ。


「嫌いなものを知らず知らずに食べさせられていた絶望に声も出ないようね。年頃の男の子は野菜は食べず、お肉やお菓子ばかりを食べるもの。それはすなわち、ビタミンを摂取したくないという思春期特有の好き嫌いの証明! 貴方は為す術もなく、不足しがちなビタミンを摂取して健康になっちゃうのよ」

「確かに俺はピーマンは嫌いだけど、世の男が皆、そんな訳の分からん好き嫌いが存在すると思うな」


 どうしよう、未だ嘗て無い思いやり溢れる嫌がらせに声も出ない。

 相手の望まないビタミンを摂取させて健康にすること……果たしてこれが悪事になるというのなら、誰か教えてくれ。


   =====


 毎日生き生きと、妙に楽しそうに悪さ(笑)をする優希。そんな幼馴染を近くで見るのが楽しくて、ついには日記が優希のことで埋め尽くされたある日。


「……ふぅ……」


 今日は珍しく小洒落た喫茶店の屋外テラスでアンニュイな様子の優希。当の本人は普段は飲まないブラックコーヒーなんか頼んで、憂鬱な雰囲気で大人の女オーラを出したそうにしているのは分るが、延々と集り続ける小鳥と猫のせいで雰囲気は猫喫茶だ。犬猫はともかく、鳥類って人に慣れにくくて警戒心が強いって聞いたけど、優希に限って言えばその常識は通用しないらしい。

 しまいには周りの客も集まってくる猫や、逃げようともしない小鳥を可愛がりはじめ、シリアスな雰囲気も完全にぶち壊し状態の優希はブラックコーヒーを一口飲む。


「……苦っ!? あぅぅ……お砂糖お砂糖」

「ミルクパウダーならこれだぞ」


 普段はココア派のアンニュイ優希、ブラックの苦さの前に撃沈して砂糖に頼ろうとしてやがる。慣れないブラックなんて飲むからこんな目に遭うんだ。


「ねぇ、修介」

「どうした?」

「最近少し悩んでいるのだけれど……私ってクールな悪役令嬢じゃない?」


 何言ってるんだろう、コイツは?

 クール? 悪役令嬢? 合っているところなんて令嬢の部分だけだろ。


「私ってクールな悪役令嬢じゃない?」


 こいつ、2度聞いてきやがった。無言でやり過ごそうと思っていたのに。


「いい加減に答えてちょうだい」

「……くーるな悪役令嬢(笑)というのなら、差支えは無いと思う」

「どうしてクールを平仮名にして、最後に(笑)をつけるのかしら?」

  

 だって頭の中身はパッションだし。学力優秀と馬鹿は両立できるって本当なんだな。


「でもおかしいと思わない? 私は人々に絶望と恐怖を撒き散らすために、これまで様々な悪事に手を染めてきたわ。だというのに周りから送られるのは感謝や称賛ばかり……一体どういうことなの? もしや、この街の人々は洗脳か何かで頭がおかしくなっちゃっているのかしら?」

「洗脳なんかされなくても頭のおかしい女に言われたらお終いだな」


 そもそもなんだが、俺は少し気になっていたことがある。


「ていうかお前、本当に自分が悪さをしているっていう自覚はあるのか?」

「失礼ね。当然思っているに決まっているじゃない」


 真顔で言い切りやがった。


「性格は顔に出るというわ……刮目しなさい、真の悪女でなければこんな悪そうな不敵の笑みを浮かべられないでしょう?」


 そう言って足を組み、浮かべるのはドヤ顔。不敵さどころかアホっぽさ全開のドヤ顔である。


「それならせめてさぁ……ゴミのポイ捨てくらいの悪さしてみろよ」

「っ!?」


 優希は心底驚いたようにたじろぐ。え? 俺、何か凄いことでも言った? 


「そ、そんな悪いこと……思いつきもしなかったわ……!」

「悪戯の発想が幼稚園児以下!!」


 普段は全力で迂回しながら逆走しているような発想はするのに、どうしてストレートな悪さは思い浮かばないのかが心底不思議である。


「もうこの際だからハッキリ言うけど、お前のやってることは悪事どころか善行だからな?」

「っっ!?!?」


 まるで雷にでも打たれたようにショックを受ける優希。この様子だと、本当に自分のやっていることが悪事だと思っていたらしい。


「何ということ……私のしていることが全て善行だったなんて……!」 

「そんなショックを受けることないだろ。皆から褒め称えられる……良い事じゃないか」

「こ、この間だって業者が来る前にこの街の全ての自販機横のゴミ箱の中身を分別し、業者の仕事を奪うという悪事を為したのよ!? どう!? 恐ろしいでしょう!?」

「単なるボランティアじゃねーか」

「そ、そんな……!」


 何やら納得できない様子の優希に、俺は更に問いかける。


「ていうかさぁ、お前って何年悪事(笑)続けんの? 幾らマンガのキャラに憧れてるからって」

「ど、どうしてその事を!?」

「分からいでか」


 何年一緒に居ると思ってやがる。そもそもの原因は俺だしな。だからこそ俺も心配して見守っていたわけで……まぁ、無駄な心配だったけども。


「幾ら反抗期と中二病が併発してるからって、何時までも悪事……にはなっていないけど、それを続けるタマじゃないだろ? 一体どうした?」

「だ、だって……」


 何やら両方の人差し指でツンツンしながら、顔を真っ赤にしてゴニョゴニョ言っている優希だったが、やがて意を決したように消え入るような声で呟く。


「だって修二が……」


 え? 俺?


「修二がその……あのマンガのヒロインみたいな女の人がカッコいいって言うから、その……ちょっと無理をして悪さを……」

「……え?」

「え?」


 言った。確かに昔、漫画のヒロインを優希の前で褒めちぎったさ。

 だが…………これは俺の思い違いか何かだろうか。優希の言葉を真に受けるのであれば、優希は俺の気を引くためにわざと……。


「「……えぇ?」」







 後日、俺たちは何か付き合うことになった。



・三笠修介

主人公。妙に毒のあるツッコミが特徴的な、上の中くらいの割りのイケメンの男子。活き活きと全力で空回る幼馴染みが内心では可愛くて仕方がない。

属性的にはラノベの主人公気質で割とモテる部類だが、幼馴染を除けば特に女子との交流関係がない(というか、周りは幼馴染と付き合っていると思っている)。

割とモテると聞いて焦った幼馴染が、アプローチの為に悪女に目覚めた。


・義原優希

ヒロイン。根っからの善人で、悪行を為そうとすると全力で空回るという不思議な特技の持ち主。

不敵な笑みやあくどい笑みを浮かべようとすると、なぜか全てドヤ顔になってしまうという変わった表情筋をしていて、反抗期のくせして制服を着崩すことすらしない。ちなみに私服は全て清楚系。

ド天然のタグを裏切らず、天然過ぎて本気で修介の好みのタイプが悪女と長年勘違いし続けた。


・鳥

優希の癒しオーラに集ってくる鳥たち。スズメなどの小鳥が7割、鳩くらいの大きさの鳥が2割、トンビや鷹といった大型猛禽類が1割。何かにつけては優希にミミズやらネズミやらを献上してくる。


・猫

優希の癒しオーラに集ってくる猫たち。野良猫飼い猫問わずについてきて、移動型猫カフェ状態に。

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― 新着の感想 ―
[一言] そういえば昔のネットのネタで、テレビの清掃ボランティア企画に先んじて現場を清掃活動しておき当日をキレイな状態で迎えさせるって話を思いだしました。
2020/11/18 21:12 通りすがり
[一言] 悪行を目指してこれなら善行を目指したらどうなってしまうのか
[良い点] >・猫  優希の癒しオーラに集ってくる猫たち。  野良猫飼い猫問わずについてきて、移動型猫カフェ状態に。 なんと! 本文の合間合間に「ニャー」と啼き声を混ぜないと!
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