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リロードとインスタスワップ

 採取クエストを終え、俺はゲームを終了して意識を肉体に戻した。

 すると、先程ハンマーでぶたれた頬が、まだ少しだけヒリヒリとしていた。

 どうやら気絶前に受けた痛みは、気絶後にも後を引くらしい。


 その後、ギルドに採取物を提出し、報酬を受け取った俺たちは、そそくさとギルドを後にした。

 またあのごろつきどもと会ったら、面倒だったからだ。


 空は少し赤みがかってきており、そろそろ今晩の宿を考えなければならない時間帯であることを示していた。


「なあエルカ。そろそろ俺は宿を探さなきゃならないんだが、良いとこ知ってるか?」


「…こっち」


 エルカはそう言って、俺の手を引いた。




 辿り着いたのは、田舎町の中でも一際ぼろぼろな木造一軒家だった。

 どう見ても、これが宿泊施設には見えない。


「もしかしてここ、エルカの家か?」


 こくっと、エルカは頷き、懐から取り出した鍵で施錠を解いた。


「お邪魔しまーす」

「あら、おかえり…って、人間?」


 エルカの帰宅に気が付いて、一人の女性が玄関前まで迎えに来てくれた。

 10代後半くらいの見た目だが、身長が異様に低いのでドワーフだろう。

 俺が人間であることを認めると、その女性は一瞬身じろぎした。


「お母さん、紹介するね。こちら、あさると」


 俺の方を手で示して、エルカが紹介してくれた。

 "お母さん"と呼んでいるが、どう見ても10代後半くらいだ。

 ドワーフはやはり、実年齢より大分と若く見える種族なのだろう。


「ご紹介にあずかりました、あさるとです。すみません、今晩ここで泊まらせていただけませんか?」


 そんな不躾なお願いにも関わらず、エルカの母は俺をすんなり家の中に通してくれた。




 夕飯時。

 エルカは、普段見せない饒舌さで、母親に今日起こった出来事を語った。


「・・・でね、その時あさるとが助けに来てくれたの。正直、私Dランク冒険者だから、ケイブオーク・ウォリアーと一人で戦うのは不安だったんだけどね・・・」


 エルカの母はうんうんと、楽しそうにエルカの話に耳を傾けていた。


 エルカの母が作るご飯はどれも、決して高級な味はしなかったが、手間暇かけて丁寧に作られたおふくろの味といった感じだった。


「まあ。ドワーフに優しくしてくれる人間なんて、珍しいわね」

「いえいえ。困ったときは、お互い様です。こうして今日、俺もここに泊めていただくことになったので」


 エルカの母は終始、俺の行動に驚いていた。


 ギルドでも目の当たりにしたが、この世界ではどうやら、ドワーフは差別される対象らしい。


 俺もFPSで海外のプレイヤーと交流する機会が結構あったのだが、俺達日本人が感じている以上に、差別意識というのは根深く残っているらしかった。

 そのため、差別らしい差別を受けたことも1回や2回どころではなかった。


 少しでもミスする度、「これだからアジア人は」と言われたことがあった。

 最近だとわざわざアジアのサーバーに来てまで、「コロナ人は全員〇ね」とチャットして、不正(チート)ツールを使って大量キルしてくる人もいた。

 味方をサポートしようと口を開くと、「中国人は黙れ」と言われ、「俺は日本人だ」と告げると、「中国人の方がマシだ」と言われたこともあった。(全て作者体験談)


 まだ彼らとの接触はオンラインだったからよかったものの、面と向かってこんなことをされ続ける日々は想像するだけで辛い。


 もちろん、大半のプレイヤーはこちらが日本人だと分かると、「OH,JAPANESE!? YOU ARE SAMURAI! NINJA!!」とか、「I LOVE OTAKU CULTURE!!」とか、「HENTAI BANZAI!!」とか言ってくる。

 その度に、日本人でよかったと思えた。…いや、最後のはちょっと違うか。


 だが、ドワーフに手を差し伸べる人間は恐らく居なかったのだろう。

 エルカの母は俺に対して、まるで神のごとく平伏していた。


「いやいやいや、面を上げてください! ちょっと、エルカからもなんか言ってくれよ!」


 エルカの母に合わせ、俺も姿勢を低くしていく姿を見て、エルカはふふっとこぼれるように小さく笑った。

 エルカがこんなに破顔しているのを見るのは、初めてだった。




 夜も更けてきたので、俺達は談義を切り上げてそろそろ寝ることにした。


 俺はどこで寝ればいいかと尋ねると、エルカの母親は「ふふふ、そんなの決まってるじゃない」と意味ありげに、エルカに目配せした。

 だが、当のエルカはなんのこっちゃ分からんという顔をしていたので、母親が強引に俺達をエルカの部屋に押し込むのだった。


 いやいや、困る困る困る。それは困る。

 確かに実年齢は16歳かもしれないが、どう見ても6歳の女の子に手を上げることはちょっと俺には厳しい。


 そんな俺の心の声は、「じゃ、お二人さん。あとは楽しんで!」という明るい声に押し潰された。




 エルカのベッドはドワーフ用の、小さな代物だった。

 俺は18歳にしては身長が低い方だったが、それでもエルカのベッドに寝転んだら足が少しはみ出るくらいだった。


 俺は相手が幼い見た目ということは百も承知で、内心ドキドキだった。

 というのも、ゲームに勤しむ毎日で、女の子の隣で寝るなんて機会が無かったからだ。


 しかしエルカはそんな俺の気を知ってか知らずか、後ろ向きの俺に抱きついた。

 すると安心したのか、しばらくすると背後で寝息の立つ音が聞こえてきた。


 エルカはどうやら、そんな気は毛頭無かったらしい。

 というか、そんな発想が元々ない子のようだ。


 俺はエルカを見習い、変に気張ってた緊張から解放されて、そのまま眠りの世界へと誘われた。




■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪




 ちゅんちゅん、と小鳥のさえずりで、俺は目覚めたかった。


「げほっげほっ」


 しかし実際には、断続的に聞こえる咳の音で目覚めることになってしまった。


 俺はエルカの腕を払い除け、音の発生源、エルカの母の部屋へ急いだ。


「大丈夫ですか?」


 母はベッドから必死に、戸棚へと手を伸ばしていた。

 その先には、薬と思しき粉末が用意されていた。


 俺は素早くそれをエルカの母に渡した。

 それを飲むと少し落ち着いて、でも息は切らしながら

「ありがとう。2人の空間を、邪魔しちゃって悪かったねえ」

 とエルカの母は謝った。


「最近は発作も少なかったから、大丈夫かと思ってたけど。お客様の前で、お恥ずかしいわ」


「お母さん!」


 扉をバタンと勢いよく開けて、エルカが部屋に飛び込んできた。


「ありがとうエルカ。あさるとさんが薬を飲ませてくれたから、もう大丈夫よ」


 それを聞くとエルカは、「ありがと」と小さく呟いた。




 それから俺は、寝ようにも寝れなかった。

 それはエルカも同じだったらしく、お互いにベッドの上でもぞもぞとしながら朝を迎えた。


 朝食の席で、エルカの母は事情を説明してくれた。


「元々私達は、人里離れたドワーフの洞窟に住んでいたの。でも、私が病気にかかっちゃって。ドワーフは人間ほど、治癒魔法や薬学に長けた種族ではなかったから、こうして人里に来る必要があったの」


「…」


「でも都心部だと、本当にドワーフを初めとする亜人族に対して差別が激しくて、こうして田舎町に来ているの。エルカは私の治療費を稼ぐために、冒険者をやってくれてね。というのも、ドワーフはギルド以外だと雇ってもらえないから」


 俺はエルカの母の説明を、途中途中で頷きながら黙って聞いていた。

 母の口から語られたのは、相槌を打つことも躊躇われるような重たい内容だった。


「でも、ドワーフの治療費は割高に設定されていて、エルカの今の稼ぎだと全然足りなくて。咳止めの薬草だけは調達できているけど、お医者さんに診てもらうにはまだまだなの」


「ごめんね、お母さん」


「エルカは全然悪くないのよ。ごめんね、いつも迷惑ばかりかけて」


 エルカが悪くないのは確かだが、エルカの母が悪くないというのも然りだ。

 謝る必要なんて全くないのに。

 同じことを感じているのか、エルカは悲しい顔をしていた。


「…それで、治療を受けるために、あとどれくらいお金が必要ですか」


「そうね。一度見積った事があるんだけど、せめて100ゴル位はないと…」


 それがどのくらいの価値かは分からないが、エルカの母の暗い顔を見るに、どうやらかなり高いらしい。


「分かりました」


「ちょっと待って。まさか、稼いでくるなんて、言わないでよね?そこまでご迷惑、かけられないわ」


「いや、いいんです。宿泊代と思って、受け取っていただければ」


「そんな、こんな狭くて汚い家に泊まっただけでそんな大金いただけません!」


「勘違いしないでください。俺はただ、エルカの笑顔が見たいだけです」


「…!」


 そういうと、エルカの母ははっとしたように押し黙った。


「エルカ、今日もギルドに行くぞ」


 エルカはこくっと頷いて、歩き出した俺のあとをついてきた。




■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪




「お。新人のあさると君に、ドワーフのエルカちゃんじゃないか」


 ギルドに入るなり、ロビーでたむろしていたごろつき共が一斉にこちらを向いた。


「今日もまた、Fランクの採取クエストかい?精が出るねえ!」

「ここはガキの来るところじゃねえぜ、エルカちゃんよお」


 俺達はそれらのヤジを一切無視して、受け付けに向かってずんずん向かった。

 そして受付嬢さんに尋ねた。


「今すぐ100ゴル欲しい。どのクエストを受注すればいい?」


 しかし受付嬢さんは困った顔で、


「その様なクエストは、もう少し冒険者ランクを上げて頂かないと…」


「いいんだ。この際俺の冒険者ランクなんて、度外視してくれ。その上で、100ゴル儲かるクエストを紹介してくれ」


 後ろでは、ごろつき共が大盛り上がりだった。


「おいおい聞いたか?あいつ、死ぬつもりらしいぜ」

「100ゴルってエルカんとこの母親の治療費だろ?ドワーフを手助けするなんて、頭おかしいんじゃねーの」

「もしかしてこいつ、そういう趣味?」


 ロリコンちゃうわ!と心の中で一喝し、後ろで聞こえる雑音はこれ以上気にしない事にした。


「えっと。討伐クエストで幾つか100ゴルを超えるものはありますが、全てBランク以上でして…」


「ああ、それでいい。その中で、1番簡単なのを選んでくれ」


「分かりました…。それでは、こちらの討伐クエストですね」


 受付嬢さんは俺に、クエストの内容が詳細に書かれた指示書を渡した。


「最後に、こちらの契約書にサインをお願いします」


 見ると、“貴殿が当該クエストを受注するにあたり、当ギルドは一切責任を負いません”と書かれていた。

 どうやら、あまりに推奨ランクから掛け離れたクエストを受注するには、必要なものらしかった。




■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪




 そのBランククエストの舞台は、この村から少し離れた所だ。

 俺達は村の中央にある、転移魔法陣で移動することになった。


 転移魔法陣はこの世に4人しかいない、宮廷魔道士しか描くことが出来ないらしい。

 しかし、一度起動してしまえばあとは魔力さえ流せば自由に使えるので、公共交通機関としての役割を果たしていた。


 しかしこの田舎村では、魔法陣が使用される機会など滅多にないので、多くの人々が俺たちを見に詰めかけた。


 その中にはやっぱりあのごろつき共もいて、


「あいつらの最後を拝みに行こうぜ」

「ここでお別れかー、いい奴らだったなー(棒)」

「面白いおもちゃだったのに。無くなっちゃうとは残念だ」


と息巻いていた。あいつらは最早、俺たちのファンなんじゃないかと思えるくらいに、言葉を尽くして俺たちに様々な罵声を浴びせた。


 俺達は転移魔法陣の上に、手を繋いで立った。

 村1番の魔法使いというお婆さんが、転移魔法陣を起動してくれるらしいが。


「んー、転移魔法陣なんざ、ひっさしぶりに使うんだども、上手いこと動くかね…」


 と不安になるようなことを言ってきた。


「だ、大丈夫ですよ。村1番の魔法使いなんでしょ?お婆ちゃん」


 俺はひきつった笑みで答えた。


「ははは、冗談だよ。魔力さえ流し込めば、後は魔法陣が勝手に動いてくれるのさ」


 全然笑えないよ、そのジョークは。普通に怖いよ。


「それじゃ、冒険者さん。頑張ってくるんだよ」


 お婆さんは魔法陣に手をつき、魔力を流し込んだ。

 すると、魔法陣を構成する線の一本一本に光が宿り、やがてその光が拡散して、まばゆく俺たちを包み込んだ。




■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪




 光が弱まってきて、ようやく周囲を見渡せるようになると、もう俺達は先ほどまでいた村の中ではなかった。


「お、誰か来た」


 明らかに暇そうにしていた男が、転移してきた俺たちに気づいて話しかけてきた。


「冒険者殿、ここは"大禍時(おおまがどき)の森"です。鬱蒼と茂る木々によって昼間も薄暗い、腐敗した森です。常に死臭が立ち込め、一度足を踏み入れると戻ることは困難な恐ろしい森です。どうか、覚悟をもって挑んでください」


 恐らく、ここに来る冒険者たち全員に贈られるであろう言葉を、男は形式的に伝えた。

 ここで低ランクの冒険者は、進むか踏みとどまるかの最後の選択をするのだろうが、俺達はもう進むことを決めている。


「ご忠告どうも。俺達は進みます」

「…」


 俺は進みだした。しかし、すぐにエルカが俺の袖を無言で引っ張った。


「怖いのか?」


 エルカはコクコクと大きく頷いた。


 確かに、魔法陣から少し進んだところに見える、奇形の木が鬱蒼と茂る禍々しい森からは、来るものを拒む恐ろしさが感じられたが、それでも俺達は行かなければならない。


「いくぞ、エルカ」


 俺は引っ張られる袖を引きずるように、前に進んだ。


「ちょっと待て」


 守衛の男が俺達のなりを見て、呼び止めた。


「お前たち、そんな装備で大丈夫か?」


 確かに、言われてみればエルカは黒のワンピースだし、俺も転生(リスポーン)前に着ていた部屋着が着の身着のままだった。

 これでは、見るからにF欄冒険者といった出で立ちだ。呼び止めたくなるのも至極真っ当だった。


 だが、俺はFPSスキルを発動すると戦場の兵士が身に付けるボディアーマーを装備するし、エルカも軽い装備の方が、その小さな体躯で機動力を生かすことができるはずだ。


「大丈夫だ、問題ない」


 俺は、某ネットミームと化した神話系アクションゲームの一節から、引用して答えた。


 先ほどごろつきどもは、どうやら俺達は死ぬと考えていたようだが、ここにきて"まだ死ぬ運命(さだめ)ではない"と神が言っているようなので、俺達は生き延びられるはずだ。知らんけど。




 森の手前まで来ると、俺はエルカに再びあのお願いをした。


「エルカ、俺を殴ってくれ」


 別にそんなことしなくていい気もしたが、何となくJAPANESE DOGEZAスタイルがしっくり来てしまうので、俺は三つ指をついてお願いした。


「はあ…」


 とエルカは深くため息をつき、気だるげな動作で「んーよいしょ」と俺を殴った。




■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪




 落ちていく。

 ずっと落ちていく。


 どこまでも落ちていくような感覚にとらわれた。

 際限のない、ゆるやかな下降。




『はっ』


 意識を取り戻すと、すぐさま俺は装備構成(ロードアウト)選択画面とにらめっこした。


 これまでは、近距離での戦闘に強いSMG(サブマシンガン)の構成を使ってきたが、ここではより強力な敵と遭遇することになるだろう。

 そうなった時、果たして近距離で戦うことが最適解かと問われると、否と思えた。

 そもそもこちらが銃を持っている時点で、俺達は遠距離での戦いが有利なはずだ。ならばその優位性をより発揮できる装備を選んだほうが良いのでは、と思えた。


 しかし、強敵であればあるほどに、隠密(ハイド)や機動力に長けていることは想像に難くない。

 であれば、不本意な近距離の撃ち合いも想定した方が良いだろう。


 俺は近距離から中距離にかけて、バランス良く火力を出せるAR(アサルトライフル)の構成を選択した。

 この構成では、SMGに比べ引き気味に立ち回ることで、必然的にデスが少なくなる。

 なので、長く戦うために予備弾薬を多めに用意してあった。


『よし、行こうか』


 森の中で保護色となるように、俺はダークウッド迷彩がプリントされた装備に身を包んだ。

 俺の服装が突然変わったのを見て、エルカはまた無言でたじろいていた。

 ゲームだと着替えというプロセスを素通りして、突然コスチュームを変えることができるが、現実を超越したその機能は少々不気味に映ったかもしれない。


 先ほどまで俺の袖をつかんでいたエルカは、俺から少し離れて歩いた。




 森に足を踏み入れる。

 転移魔法陣から続いていた石畳がそこで途絶え、じゅくじゅくと湿った腐葉土に足が少し沈み込んだ。

 ゲーム内でも、足元の材質によって足音が変化する仕様なので、実際に踏みしめていない腐葉土の気色悪い感触が、耳を通して伝わった。

 足元を見ると、一歩踏みしめる度、じゅるじゅると茶色い液が土から染み出していた。


 俺は警戒を怠らなかった。

 一直線の洞窟とは違い、森は平面に広がる。さらに木々が視界を遮り、死角も多い。

 そのため俺は、ADSせず腰だめに銃を構えて、より広い視野で索敵した。


 急がず、ゆっくりと着実な歩みで進んでいた。すると早速だ。


きしゃああああああああ


 と、俺達が通るタイミングを見計らったかのように、一本の木が奇声を上げて飛び掛かって来た。

 頭上には、グレート・トレントの文字。


 見れば、グレート・トレントは既にその枝を振りかぶり、攻撃態勢を整えていた。


『エルカ、伏せろ!』


 俺はすぐさま、HK416(アサルトライフル)をADSして射撃した。


 ばばばばばばばばばばばばばば


 と14発撃ち込んで、やっとトレントのHPゲージを削り切った。

 俺は次の戦いに備えて、すぐさま再装填(リロード)の動作に入る。

 しかし、その途中で


きしゃああああああああああ


 と、もうひと声聞こえた。このままリロードしていては、エルカを危険にさらすことになるだろう。


 ここでとれる手段は二つ。


 一つは、サブウェポン(サイドアーム)のピストルに切り替えること。

 しかし、この敵(グレートトレント)はアサルトライフルでも、全弾命中で14発かかる。

 つまりピストルに切り替えたとて、1マガジンで倒し切れるとは限らない。


 そこで二つ目の選択肢だ。




 高速切り替え(インスタスワップ)


 ダブルタップとも称されるこのテクニックは、メインウェポンとサイドアームを素早く切り替えることで、様々なモーションをキャンセルするものだ。

 主に利用されるのはリロードのキャンセルだが、他にも壁のよじ登りや近接攻撃、銃の覗き込み、設置型武器の設置など、多岐に渡る用途がある。

 誤って入力したり、思いがけず敵と遭遇してしまった時に、今行っている動作を手早くキャンセルすることができるので、覚えておいて損はない。


 ただ、リロードをキャンセルするときに注意しておかなければならないのが、リロード前のマガジンの残弾だ。

 もし1発も残っていなかったり、残っていたとしても敵を倒すのに足りない弾数しかないのであれば、サイドアームに切り替える方が賢明だろう。




 俺はマウスホイールを一つ下に下げサイドアームを選択した瞬間、今度はもう一度一つ上に戻してメインウェポンを再選択した。これでインスタスワップ完了だ。


 ばばばばばばばばばばばばばばばばば


 銃声が響き、マガジンの残りと薬室(チャンバー)に装填されていた1発、合わせて17発を全て撃ち切った。すると、もう一体のグレート・トレントも倒れた。

 今回はトレントが攻撃態勢を取っておらず、射撃を開始してからすぐに回避行動をとったので、3発分外してしまった。だが、何とか1マガジンで倒し切れたので助かった。


 "グレート"と名前についているからには、一撃一撃がかなり重いことが予想される。

 相手の攻撃は、なるべく封じておきたいところだった。

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