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邪神と侵略

 俺達はパピルスから、討伐した証としてその生肉を採取した。

 それをギルドに提出しに行く道中、街は騒然としていた。


「おいおい、聞いたか?あの話」

「ああ。いよいよこの国も、やばいかもしれないな」


 道行く人々は口々に、何事かを噂していた。

 その人々の往来をかき分けて、俺達はギルドへと到着した。


 ギルドのロビーは、騒然とする大通りと対照的に、やけに静かだった。

 いや、人はたくさんいるのだ。

 ギルドの受付に列を作る冒険者たち。

 何となく長椅子にたむろしているパーティの面々。


 だが、その誰もが口をつぐんでいた。


「やっと来たか。お前たちの帰りを待っていたよ」


 なぜならそこに、取り巻きをたくさん従えた国王がいたからだ。


「国王様!? いったいなぜ、国王様がこのような下賤な場所に…」

「これこれ、他人様の施設を卑下するでない」

「あ、それは、すみませんでした」


 アリシアは、受付嬢の方に身体を向けて頭を下げた。


「それで、国王様。一体どうされたのです?」

「うむ。今は国を揺るがしかねない、非常に危険な局面なのだ。一刻を争うから、私自らここに出向いたというわけだ」

「そんな…何があったというのですか?」


 国王はそこで、「ふう」と一呼吸置いた。


「単刀直入に言おう。共和国が、着々と魔王召喚の儀式に向けて動いているとの情報を、我が国の諜報機関が掴んだのだ」


「な…っ」

「なんだと…?」


 言葉を詰まらせるアリシアと、身を乗り出すゴレアス。

 いや確か、そもそも俺がこの世界に来た時点で、魔王の復活が近いというのは分かっていたことではなかったか。

 そんな俺の疑問に答えるように、国王は続けた。


「魔王を召還できるのは、魔王を冥府より蘇らせる力を持つ、"邪神"を崇拝(・・)する者のみ。

つまり、信仰心を持たぬ亜人のみで構成されている共和国は、協力してくれる人間と手を組む必要があるのだ」

「協力してくれる、人間…?この世界にも、差別に反対する人間がいるってのか?」

「残念ながら、それは違うのだ」


 国王は目を伏せた。


「邪神崇拝を進める暗黒司祭(テロリスト)の一派は、我が国の転覆を企てておる。

共和国は目的が一致する暗黒司祭どもと、手を結んだというわけだ」

「なぜ国家転覆なんか…」

「彼らはただ、支配からの脱却だけが望みの自由主義者(アナキスト)なのだ。

我らとは価値観を異にし、平和な世界を望まぬ輩が多少なりともおるというわけだ」


 果たしてそれだけが、国家転覆の動機になりうるのだろうか。

 この国は"帝国"と銘打たれているわけで、それは他国を侵略して植民地化していることを示している。

 武力によって解決された領土だって、あってもおかしくないだろう。

 国王はそれを俺に悟られぬよう、詭弁を語っているに違いない。


「共和国とてそのような、"悪の手先"と手を組むのは本望ではない筈だと、我々は踏んでいたのだが。

よほど我が国の姿勢が気に食わなかったらしい。こうなる前に、待遇の緩和を急ぐべきだった」


 ほんとに、全くその通りだ。

 そのせいでエルカも、長らくギルドでいじめられ続けていたのだから。


「さて、本題だが。お主らカートレット分隊には、魔王の召喚を未然に防いでほしい」

「未然に、ですか」

「左様だ」

「猶予はどのくらいあるんでしょうか?」

「正直なことを言うと、分からん。召喚されるのは、来年かもしれないし明日かもしれない。

何なら、今この瞬間に魔王が召喚されていてもおかしくない」


「だから、急ぐのだ。カートレット分隊よ。これはこの私、国王直々の勅命である。

この世界の危機を救えるのは、君たちしかいないのだ。期待しているぞ」




■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪




 俺達はギルドを出ると、足早に歩きながらこれからの事を話した。


「そうはいっても、どうすんだ?」

「分かりません。今はとにかく、共和国との国境近くの町へ転移するんです」

「それから、どうする?」

「…共和国を、侵略します」

「やっぱそうなるよな」


 侵略。

 そんな単語、フィクションの中でしか聞いたことがない。

 そうだ。俺はこれから、戦争をしに行くのだ。


 画面の中では散々やってきたことだが、いざ実際にやるとなると足がすくむ。


「恐らく、長旅になる事が予想されます。色々と買い物をして回りましょう」


 アリシアの提案で、俺達はこの先必要になりそうな、衣類や携帯食料などを買い漁った。

 野営するための簡素なテント、武器を研ぐ研ぎ石、大きめの水筒なんかを、購入していった。


 そして、薬草やポーション類を売っている店に立ち寄った時だった。


「そういえば。もし戦場でエルカちゃんとはぐれてしまっても、一人で気絶できるような薬草を買っといた方が良いんじゃないですか?」

「俺はエルカと絶対にはぐれたりしないさ。何があっても、俺がエルカを守るんだ」


 アリシアの提案に、俺は異を唱えた。

 アリシアは嫉妬の眼差しでエルカを見ていたが、当のエルカはどこ吹く風だ。


「いいや、あさると。戦場に絶対なんてないぞ。

さっきまで隣で冗談を交わしてたパーティメンバーが、次の瞬間にはただの肉塊に変わる。

残念だが、それが戦争なんだ。ギルドで受注するクエストとは、訳が違う」

「ちょっと、それは言い過ぎですよ」


 アリシアの制止を振り切り、ゴレアスは続けた。


「そもそもモンスターってのは、俺ら人間よりも生態系の下にいるもんだ。だから、ヘタさえ打たなければ死ぬこたぁない。

けどな、戦争で戦うのは亜人だ。生態系で言えば、俺ら人間と同じ位置にいるんだ。何なら一人一人のの能力で見れば、向こうの方が上なんだぞ。

敵地に赴く以上、この中の誰かが死ぬことだって、覚悟はしておいた方が良い。

それは俺かもしれないし、お前かもしれないんだ」


 ドスの利いた声だった。

 きっとゴレアスは、幾度となくそういった経験をしているのだろう。

 心の底から、俺を説得しようとしている思いが伝わった。


「そこまで言うなら。まあ、買っとくよ。一応」


 頭をかく俺を一瞥し、アリシアは年老いた店主に話しかけた。


「すみません、人間を気絶させる薬ってないですか?」

「ああ。睡眠薬なら、この小瓶だね」


 睡眠薬はいらない。ただ寝るだけでは、FPSスキルは発動しない。


「あの、欲しいのは眠る薬じゃなくて、あくまで気絶する薬なんですけど」


 俺がそういうと、店主は突然血相を変えた。


「うちはそんなモノ、取り扱っとらん!勘弁してくれ」


 ついさきほどまで温和だった、店主の態度の変わりように、俺は気圧されつつ質問した。


「…じゃあ、どこでなら手に入れられます?」

「そりゃ、この四人組じゃおっかなすぎて、まず手に入らんよ!

あんたみたいな、ひょろっとした男が一人で大通りを歩いてたら、向こうから話しかけてくるさ」


 店主は俺の方を指さした。




 店主に言われた通り、俺は大通りをうろうろと徘徊した。

 何を買うでもなく、往来の流れに身を任せて、ただ通りの端から端までを往復して歩いた。


 すると、だ。


「お兄さん、人生に疲れてない?

これ吸って、嫌なこと全部忘れちゃいなよ」


 果たして、違法薬物の売人はやはり声をかけてきた。


 正直俺は、こんなもの買いたくはない。

だからせめて、この男が売ろうとしているものが一体何であるかは知っておきたかった。


「それって、どんな薬なんだ?」

「こいつは一昔前、モンスター向けにとあるキノコをベースに調合された気絶薬なんだがな。

少量だけ鼻から吸引すると、これがまあすんごいの。ブッ飛びよ、ブッ飛び」


 なるほど。

 とあるキノコというのは、こちらの世界で言うところのマジックマッシュルームみたいなものだろうか。


「でも、今は規制されていると?」

「そうだよ、もったいない! この国を統治している奴らは、頭が悪いんだ! モンスターにも睡眠薬を使えと命令する始末さ! これから死ぬってんだから、モンスターも最後くらいブッ飛ばしてやってもいいのにな!」


 ブッ飛んでんのはお前の頭のねじだろ。

 そんな真っ当なツッコミを、俺はぐっと飲みこんだ。


「欲しい。いくらだ?」

「このパケ一つで2ゴルだ。いかがかな?」


 男は透明な袋に入った、漢方薬にも似た粉末を見せた。


 これは値切るタイミングなのだろうか。

 だが、俺には末端価格の相場が全然分からない。

 第一、俺達は帝国お抱え、さらに言えば国王から勅命を受けた分隊なので、金に糸目をつける必要などなかった。


「分かった。じゃあ今ある在庫、全部くれ」

「全部ですか!? お兄さん、太っ腹! 毎度あり!!」


 売人は瞳孔をガン開きながら喜んだ。

 明らかにこいつ自身も、ブリブリにキマっていた。


 俺はパケを20袋、40ゴルで購入した。

 取引が終了し、売人はホクホクとした表情で通りの向こうへと消えていった。


 取引の犯行現場から少し離れ、俺がふうと一息ついたのも束の間。


「こんばんは、憲兵です。ちょっとキミ、こっち来てくれる?」


 任意という名目で強制の事情聴取を受け、その後持ち物検査(もちけん)され、俺は敢え無くしょっ引かれた。




「キミ、困るねえ。これで、いくら稼いだの?」

「だから、俺は売人じゃなくて、勇者なんだって」

「えーっと、住所不定無職、自称勇者、と」


 俺を取り調べる憲兵は、口に出しながら帳簿に記帳していた。


「いや、住所不定無職はどっから出てきた?」

「だってキミ、家がないんでしょ?」


 それはその通りだが。


「仕事は一応、冒険者やってるんですけど?」

「おじさんには、そうは見えないけどね。それは、クスリやった時の妄想なんじゃない?」


 言いたい放題だが、ポケットから大量のクスリが出てきたという動かぬ証拠があるので、何も言い返せなかった。


「お父さんかお母さんは?」

「居ないよ」

「じゃあ、面会に来れそうな人は?」


 俺は少し迷って、一人名前を挙げた。


「帝国軍所属、アリシア・カートレット少佐かな」

「ははは、またまた。彼女有名人だからね、薬物で幻覚見えてたんだろうね」




■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪




「まことに、申し訳ありませんでした…!」


 その後、なんやかんやでアリシアが面会に来てくれた。

 憲兵は、地面に頭をこすりつけんばかりの勢いで謝罪していた。


「まさか、本物の勇者様だったとは……」


 だが、ぶっちゃけこの憲兵は悪くない。

 まさか勇者ともあろう人間が、大量の違法薬物を所持しているなんて、誰も思わないだろう。


「いや、いいんです。憲兵さんも、お仕事を全うされただけですから」

「ああ、お優しいのですね。勇者様は」


 憲兵は俺の足元に縋りついた。


 アリシアがその光景に、何やら終始ニヤニヤしていたが。

 もしかして腐女子なのだろうか?


「モブおじ×ショタ…いいわぁ……」


 ずっと何か、ぶつぶつ言っていた。




 その後、俺達は転移魔法陣へと向かった。

 いよいよ、国境沿いの町だ。

 ここから、俺達の領土侵犯が始まる。

これまでプロローグを除いて、タイトルには欠かさずFPS用語を入れてきましたが、今回から断念することにします。

戦闘するシーンがないまま話が終わってしまったので…

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