分隊と大隊
普通に一日空きました。
もう毎日投稿ダメかもです。
毎日コンスタントに書ける人はやっぱ、すごいなあ。
これからは、隔日を基本にやっていこうかと思います。
俺とアリシアは、病院を出ると早速、カートレット大隊で最も粒ぞろいとされる精鋭の分隊で集合した。
そのメンバーは。
「それでは、我がカートレット分隊の(イカれた)メンバーを発表します。ゴレアス!」
「はい!」
「あさると!」
「…おう」
「エルカ!」
「……」
「そして私、アリシア! 以上、この4名が今日から、カートレット分隊です!」
カートレットは、軍隊式で俺達の名前を読み上げた。
そもそも大隊と分隊とは、軍隊における部隊の単位だ。
まず、軍隊の最小単位が分隊だ。より小規模なものは班や組と呼ばれるが、俺達は戦闘能力に優れているので、人数が少なくても分隊という立ち位置だった。
そしてその分隊が寄り集まって、小隊。小隊が寄り集まって、中隊。中隊が寄り集まって、大隊を構成している。
「今日から皆は、苦楽を共にし、背中を預ける仲間です。
共に、助け合っていきましょう!」
先ほどまでのショタコンが嘘みたいに、アリシアは立派に軍人をしていた。
アリシアが持つ二つの顔は、まるで別人のようだった。
しかし、ゴレアスはすぐさま、俺達の様子のおかしさに気が付いた。
「あれ、お二人さん。なんだかツヤツヤしてるけど。ひょっとして昨日はお楽しみだったか?」
「な! まさか、勇者であるあさると君と、そんなわけ…!」
アリシアの返答はあまりにもしどろもどろで、図星であることが見え透いていた。
「別にいいんだけどよ。分隊行動に支障のない範囲内で、楽しんでくれよな」
俺とアリシアは、顔を真っ赤にしてうつむいた。
エルカはそんな俺達のやりとりに、全く興味なさそうな顔をしていた。
というより、何の話をしているのか、理解していないようだった。
ふわあと一つ、退屈そうに大きく欠伸していた。
「とりあえず今日は、親睦を深めるって点でも、連携をとるって面でも、
ひとまずはこの分隊でクエストを受けた方が良いな。…良いよな?」
猪突猛進、戦闘狂といった面持ちのゴレアスは、分隊のメンバーが発表されたそばから戦いたくてうずうずしていた。
俺達はゴレアスに急かされるように、この街のギルドへと向かった。
俺達がギルドに入るとすぐさま、ロビーにいた冒険者たちは俺達の方を向いた。
「うおお、あれが噂のカートレット分隊か」
「勇者が配属されているらしいが、あのもやしみたいなのがそうなのか?」
「まさか。あのがっちりしてるやつだろ」
「ばか。あれはゴレアス中尉だぞ」
「カートレット少佐は今日も奇麗だ」
冒険者たちは、口々に噂した。
もうすでに、俺達の話は回っているようだった。
それを無視して、俺達はずんずんと受付へ向かった。
「次の方、どうぞ」
俺達の番が来て、受付嬢さんに呼ばれた。
受付嬢さんはパーティメンバーを見回し、俺の存在に気が付くと、はっと顔を引き締めた。
「あさると様、ですね。あさると様はSSランク冒険者に昇格されました。おめでとうございます」
SSランク? そんな話、聞いていないが。
俺が首をかしげていると、アリシアが説明を挟んでくれた。
「私がギルドに手を回しておきました。あさると君の実力は、ステータスに現れないけれど、間違いなくSSランクに手が届くものです。私が保証します」
「おお、最高ランクじゃねーか。やったなあ、あさると」
ゴレアスがぽんと、俺の背中を叩いた。
「あさると様にはギルドより、様々な報酬をご用意させていただいております」
そう告げて、受付嬢さんは次から次へとアイテムを俺に渡した。
「まず、Eランク以上の方に贈呈する、鉱石採取用のピッケルです。
Fランクで主となっていた採取クエストに加え、Eランクでは採石クエストも受注できるようになります」
「次に、Dランク以上の方に贈呈する、ギルド特製インベントリポーチです。
採取・採石に加え、Dランクではモンスターからのドロップアイテムを収集するクエストも、受注できるようになります」
それは、エルカも腰に付けている、小さな見た目だが大容量の収納が可能な代物だった。
「続きまして、Cランク以上の方に贈呈する、ステータス・チェッカーです。
Cランクでは、より強い敵と戦うクエストが受注できるようになりますので、ご自身のレベルに合ったクエストを受注していただけるようにと、お配りしております」
それは手鏡の形をしており、上蓋にはギルドのエンブレムがあしらわれていた。
ステータスか。
俺はこれまで、様々な敵と戦って結構レベルも上がっているはずだ。
後で確認してみよう。
「それでは、A・B飛んでSランクの方への贈呈品です。こちら、Sランクバッジをお渡しいたします。
B以上のランクの方は、クエストの際こちらの着用を義務付けさせていただいております。
パーティ同士でレイドを組んでのクエスト中、他パーティの誰がどのランクか、瞬時に見分けがつかなければ危険ですから」
俺は早速それを、胸元に取り付けた。
Sランクバッジは、表にでかでかと飾ってあるギルドのエンブレムマークの形で、金色に輝いていた。恐らく、A・Bのバッジとは、色によって差異をつけているのだろう。
「そして、いよいよ最後。SSランクの方への贈呈品です。こちら、高級宿の泊まり放題券をお渡しいたします。
これ一枚で、各地の最高級の宿にパーティメンバー全員が泊まることができます」
思わず、俺とアリシアは顔を見合わせた。
高級宿? まじか。夢が広がるなあ。
「ううーん」という、ゴレアスの咳払いで俺達は視線を背けた。
「これで、当ギルドからの贈呈品は以上となります。
それでは、本日の御用件をお申し付けください」
「ああ、このパーティで、クエストを受注したい」
「かしこまりました。SSランクの方が一名、S2ランクの方が一名、S3ランクの方が一名、D1ランクの方が一名ですね」
その冒険者ランクの並びに、エルカはバツが悪そうに顔を背けた。
「それでは、受注可能なクエストの一覧を、お見せします」
「んー。Bランクだと手ごたえがなさすぎるし、最初からSランクも、ちと怖いかもな。最初はAランク辺りが妥当か。いいな、お前ら」
3人からの承諾を得て、ゴレアスは一つのクエストを受注した。
その時、エルカは申し訳なさそうに目を伏せていた。
エルカ抜きのメンツなら、本来Sランクを受けて然るべきパーティだ。ゴレアスが「ちと怖い」と感じたのは、明らかにエルカの存在に由来している。
「聞いてくれ、エルカ。エルカは俺の、トリガーだ。エルカが居なきゃ、俺の能力は発動しない。だから、このパーティにエルカは、必要なんだよ」
「そうですよ、エルカちゃん。それに私たちとレベル上げしたら、あっと言う間に冒険者ランクも上がっていきますよ」
「お嬢ちゃんはこないだだって、既にBランククエストを無事やり遂げたんだ。今回のクエストを完了すれば、すぐBランクには昇格できる」
「うん。わかった」
そう言いつつも、3人からフォローされて、エルカはなおさら劣等感が募るようだった。
冒険者ギルドを出た俺達は、ひとまず腹ごしらえすることにした。
「折角ですし、良いご飯だべませんか? 私が案内しますよ」
とアリシアが俺達を連れてきたのは、昨日「亜人お断り」と追い返された店だった。
俺とエルカは、ほかの店にしようと提案したが、アリシアはここがいいの一点張りだった。
「いらっしゃいませ…って、また君か。帰った帰った」
案の定、エルカの顔を見るなり、店主は煙たそうな顔をした。
「お待ちください。私は帝国軍所属の、アリシア・カートレット少佐です。このお店に訪れたのは、この私たっての希望なのですが、それでも私たちを追い返しますか?」
それとも、我々帝国軍と揉めごとしますか?
暗にそう言っているかのような物言いで、アリシアは店主へと詰め寄った。
怖い。なんて圧だ。これが、アリシアの軍人としての顔か。
ショタコンとしての顔は、あんななのに。
「い、いえ、滅相もございません! ささ、どうぞ。席へご案内します」
俺達は、四人掛けのテーブルに腰かけた。
「ありがとうな、アリシア。ほら、エルカも」
「…ありがと」
エルカは相変わらずぶっきらぼうだったが、それでも心から感謝しているようだった。
「良いんですよ。私も一帝国軍人ですから、協力してもらう以上あさると君の望みは叶えないと」
俺達は、大きなお皿を皆でつつくタイプのメニューしか頼まなかった。
でないと、エルカの皿だけ手を抜かれそうな気がしたからだ。
ひとくち口に運んで、アリシアがおすすめしたい理由も分かった。これは、美味い。
メニューのチョイスは全てアリシアに任せたが、どれも非の打ちようがないほどに美味かった。
肉の焼き加減と言い、調味料の配合と言い、麺の茹で加減と言い、何もかも完璧だ。
「それじゃあ、ぼちぼちあさると君のステータスチェックと洒落こもうぜ」
「よしきた」
ゴレアスに言われるまま、俺はポーチから手鏡を取り出した。
「さて。果たして何レベル上がってるんでしょうね」
「Cランクがうようよいる森でたくさん戦ったし、Bランクモンスターだって討伐したし、結構期待できると思うよ」
"LV 38
HP 42
MP 47
STR 18
VIT 20
DEX 34
AGI 102
INT 23
Skill:FPS
Skill:気絶耐性減少・特"
「ほう、なかなかいいんじゃねえの? とはいえ、レベルの割に数値が低いのは否めないけどよ」
それは元々引きこもっていて、運動という運動を全くしない生活を、長年にわたって送っていたことに由来しているのだろう。
「これなら、FPSスキルを発動していなくても、Cランク冒険者くらいにはなりますね」
「ああ。スキルが解けても、すぐさまピンチってことには、ならずに済みそうだ」
「あ、そうだ。あさると君とパーティを組んでいた、エルカちゃんも結構ステータス上がってるんじゃない?」
言われて、俺は手鏡をエルカに渡した。
「まあ、やっぱり。これだと、Bランク冒険者くらいですね」
やはり討伐数の差で、エルカは俺ほど経験値を稼げてはおらず26レベルだった。
しかし元々の数値が、俺よりも断然よかったことで、俺よりも優れたステータスになっていた。
「なーんだ。これなら、最初からSランク受けてても良かったかもな。さて、腹も膨れたし、クエストと洒落こもうか」
俺達は店を後にした。