どうする⁉ 二匹の天然ウナギ
ある日、好物の『天然ウナギ』が食べたくなったジョージ。
(でも最近は不漁だし、天然は滅多に出ないからなあ。まあ、ちょっと探してみるか……どっちにしろ、他の魚も少し買いたいし)
ジョージは早速、穴場の鮮魚センターへと出向くが――。
(う~ん、やっぱり天然はないか。今日は、他の魚だけ買って帰るかな……)
だが、売り場の隅の方まで来ると――珍しく天然ウナギが販売されているではないか!
(おっ、やった! 売ってたぞ! しかも割と安いし、まだ二匹も残ってるじゃないか! 二匹とも買っちゃおうかな?)
パックされた天然ウナギを一つ手に取り、即座にカゴの中へ入れるジョージ。
そして『二つ目も買っちゃおうかな~』と、手を伸ばしかけた時――後ろの方から、売り場に入ってくる親子の声が耳に入った。
「もし天然ウナギがあったら、奮発して買ってやるぞ~」
「本当⁉ お父さん!」
「お前は、天然ウナギ大好きだからなあ」
「私、嬉しくて涙出そう~。もしなかったらなかったで、それでも泣いちゃいそうだけどね。アハハ……」
「今日、天然が出てるといいけどね」
だんだんとジョージのいる場所へと近づいてくる、父と娘の話し声――。
(そ、そうだ。これはなかなか手に入らないんだから、欲しい人が大勢いて当然だ。自分がこの二匹とも買ってしまえば、あの親子は食べられなくなる。まあ店としては『お一人様一匹』とも書いてないし、基本は早いもん勝ちだが。俺が二匹買う権利がないわけではない……)
その後――。
そこに出されていた二匹の天然ウナギの姿はなく、売り場は空っぽになっていた。そして大きな袋をたずさえ、無表情のまま鮮魚センターを後にするジョージの姿があった。
その後まもなく、あの親子も小さな袋を持って鮮魚センターを出てゆく――。
その時、親子は周囲の人々に思わず注目されてしまっていた。
なぜなら、遠目で見ても娘の目には涙が光っていたからである。
ジョージは後ろを振り返り、一瞬その光景を見ると――なんとも言えない表情で再び前を向き、帰宅の途に就くのであった。