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豆腐屋さんの社畜日記 ~愉快なブラック企業と労働基準監督署~  作者: 西織


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【〝頑張れば頑張った分稼げる〟は大抵ウソ】3


 話を少し前に戻す。



 1月5日に会議を終え、わたしたちは6日から通常通りに仕事を始めた。


 仕事始めだから……、かどうかはわからないが、やけにみんな帰るのが早かったように思う。わたしと所長以外はみんなさっさと帰っていった。わたしはまだ仕事に完全に慣れたわけではないので、もたもたと片付けやら売上集計をしていた。所長は所長の仕事がある。ふたりで事務所で仕事をしていたときだった。


 所長がパソコンを眺めながら、こう言ったのだ。


「お前、すごいな。今日の売上、お前がトップやぞ。ぶっちぎりや」


「は?」


 そんなわけないだろ。何言ってんだこの人。


 わたしもパソコン画面を見せてもらった。そこには全員の売上が表示されている。


「……僕が一番ですね」


「な」


 本当にわたしが売上トップだった。その売上金額、ほかとは大差をつけて、なんと4万超えである。


 4万。


 4万だ。


 売上よんまんえん。



 散々売上の話をしたからわかってもらえると思うが、4万円なんてクソザコの数字である。給料が上がるのが平均7万5000円から。最低売上目標が6万5000円。


 普段のコースで4万なんて売上を上げようもんなら、先輩に「うっわ、冷え冷えやな。どうしたん? お客さん全員外出しとった? それともお前ずっと昼寝しとったんか」と煽られまくるひどい数字である。うわー、って言われる。うわーって。



 しかし、周りの人の売上を見ると、なるほど確かに4万が最高額だった。というか、4万台がわたししかいない。あとは多くて3万で、1万2万の売上の人たちもザラだ。これでは最高売上額7万円の豆腐料理店を笑えない。



 なぜここまで軒並み売上が落ちたのか。


 答えは簡単だ。年末に売りすぎたのだ。『お祭り』の後遺症である。



 28日~30日で5日分のコースを回す変態編成もさることながら、予約制にしてあるのが大きい。お客さんに予約用紙を渡して、どれだけ必要か書いてもらうわけだが、ここで散々煽るのだ。豆腐商品を大量に買ってもらう。



 2週間もしないうちにまたやってくるのだから、そんなに買う必要はないように思う。しかし、「年末年始はあげとか使うでしょ?」やら「次来るの、結構あとなんでまとめ買いしておいた方が……」とお客さんにめちゃくちゃ言う。


 11月に予約用紙を配り、12月に回収するので、2ヶ月間延々と年末がどうのこうのと煽るわけだ。(言ってる本人は何で年末に豆腐を使うかわかっていないのに)


 結果的に大量の豆腐商品をお客さんに配りまくる。荒稼ぎする。



 しかし、それらを一週間やそこらで消費できるわけがない。



 仕事始めにお客さんの元へ行くと、「あぁ前買ったやつまだ残ってるから」「前たくさん買ったから、今日はええわー」なんて言われ、断られたり、買う商品がぐっと減ったりする。結果、売上、客数ともに冷え込むのだ。



 わたしに4万円の売上があった理由は、年末にあまり売らなかったからだ。セールストークができなかったから。11月は先輩たちが用紙を配ってくれて、12月に独り立ちしたわたしが回収する。普通は12月にネチネチ言うのだ。


 用紙を出さないお客さんに、「年末はね、予約したお客さん優先になっちゃうんで、買えないかもしれないんですよ~。だから予約してもらった方が確実なんです。たくさん使うなら、絶対予約しておいた方がいいですよ!」と煽る。これ毎週言う。


 それと、用紙を回収したときに+αで商品追加を狙う。



「この季節限定商品、お母さんの好きなやつですよ! おいしい言うてくれたやつ! 特別に年末にだけあるんですけど、いりません? あれやったら僕追加で書いときますけど」


「あれ? お母さん、油揚げこれだけで大丈夫ですか? 年末、結構使うんちゃいます? これで足ります? 多めに買っておいた方がよくないですか。ほら、油揚げなら余っても冷凍できるから困りませんし」



 こんな感じ。季節限定商品はともかく、油揚げに関しては「年末年始ってあげ使うんか……?」と思ってるくせにめちゃくちゃ言ってる。


 しかし、当時はド新人もド新人だ。そんな余裕なんてない。予約用紙の回収率だって悪かった。とにもかくにも、無事に行商を終えることだけを目指していた時期である。



 なので、わたしは周りの人ほどバカ売りしてなかったのだ。だから、売上が極端に落ちなかった。


 この売上が低下している状態は、正月空気が抜けるまでしばらく続く。



 ……こういう結果が出ると、甚だ疑問に思ってしまうのだが。


 年末の『お祭り』で8連勤、朝5時出社を行い、売上を荒稼ぎするのが毎年の恒例である。そして、1月に年末の反動で売上ががくんと落ちるのも恒例である。



 ……これ、1月の売上を12月に前借りしているだけでは?


 『お祭り』を行った12月と1月の合計売上、


 『お祭り』を行わない12月と1月の合計売上、これイコールになるのでは……? わたしたちの8連勤は無意味なのでは……?


 そんなふうに考えてしまう。ほんと、一度検証してほしいくらいだ。



 しかしまぁ、実際に検証結果が出たとしても、この会社が『お祭り』をやめるとは思わないのだが。


 年末に荒稼ぎするのは恒例行事。1月に売上ががくっと減るのも恒例行事。「お客さんが待ってるから(根拠なし)」で強行するに決まっている。



 わたしが4万円で売上トップになったのも、いわば予定調和だ。全体の売上が低いのだから。そうなるのがわかっていたのだから。


 売上が下がるのは全員がわかっていたことなのだが――、ここでひとつ大きな問題が起きる。

 


 わかっているからといって、対策できるとは限らない。



 お金が、足りなくなったのだ。


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