妹が招いたモノ 7
西門出て、一時間ほど歩いて目的地のある森へとたどり着きました。
今回受けたクエストは、ゴブリン三体の討伐に薬草十束採取。
それに付け加え、少女救出。この三つ。
討伐は救出と並行して行う事が出来ますね。
向かってる途中で三体ぐらいは遭遇するのではないかと思いますし。
薬草に関しても、採取場所が救出クエストの目的地に隣接していますので、救出完了後に採取すればいいですし……予定としてはざっとこんなかんじでしょうか。
そんな風に、行動予定を決めつつ森に入りました。
密林と言う程ではなく、木々の間が広くやや開けている森を歩く事数分。
周囲に茂みが多くなってきたところで記載されている目的地周辺に到着しました。
その茂みの先から何か聞こえてくるので気配を殺して覗いて見ると、緑色をした肌の小柄な人型の何かが沢山いました。
「さて……これらがゴブリンですかね」と零しながら武器を手にします。
選んだ武器は魔銃。
長剣か槍にしようかと思いましたが、周囲の木が少々邪魔でしたので。
銃でしたら間合いを気にすることなく対処可能です。接近された際は……殴ってみますか。
茂みをかき分け、ゴブリンの集団に接近します。
近くにいた一匹が私に気付くと「ギーギー」と喚き始めるとほかのゴブリンたちも私の存在に気付き始めます。
「ゲーム内の作られた存在なのに、殺気と敵意を感じると言うのも不思議なモノですね。それだけ作りこんでる、という事ですかね」
近くにいた一匹に魔銃ベヒーモスで顔に狙いをつけ撃ち抜きます。
轟音ともに弾ける頭部。流石の威力です。
ログインできない代わりにいろいろとこのゲームについて調べたのですが、どうやら即死判定の時は派手な演出がされるそうです。
「映画のようで、撃ってるこちらはいい気分ですね」
そう零しながら、手近なゴブリンを撃って粉砕していきます。
こちらに向かってくるゴブリンにはフェンリルで対応。
私はその場から動くことなく粛々と処理していきます。
それから半分ほど処理し終えると、勢いよく私に向かってきていたゴブリンたちが遠巻きに見る様になり、無鉄砲に向かってこなくなりました。
「ふむ。そういった知恵はあるんですね。それか学習機能でもあるんでしょうか?」
そんな考えを巡らせていると、ゴブリンたちをかき分けるように彼らとは少し毛色の違う個体が姿を現しました。
他とは明らかに大きさの違うゴブリン。
手に武骨で大きな剣を持っています。
首にかけられた何かの頭蓋骨。ハンティングトロフィーなのでしょうか。
「なるほど。あなたがこの群れのボス、ですか?」と聞いてみるが返ってくる言葉は聞くに堪えない雄叫びでした。
さて、どうしましょうか。銃で対応してもいいのですが……退屈ですね。
それに、と周囲を見渡し、
「障害物もそう多くはないですから、ここはあなたに合わせて剣でお相手致しましょう」
魔銃を手放し剣を呼び出します。
それを手に取り、数回振ってみます。
これもバランスがよく、非常に手になじみます。
「持ち手の柄もしっかりしてます。あと刀身が幅広い割にはそう重くもないですし、いいですね」
律儀にこちらの準備が整うまで動かなかった大きなゴブリンを横目で見つつ、どう切り込むか考えます。
周囲のゴブリンが囲ってるだけで手を出す素振りはありませんし、出たとこ勝負でいいですね。
考えが纏まったので相手の距離を一気に詰めます。
反応できるのであれば、横なぎか振り下ろしで対処してくるのでは、と思っていたのですがすんなりと相手の懐に入る事が出来ました。
ならば、勢いよく剣を斜め上へと振り抜き、胴体を斬ってみます。
緑の肌に赤い線が斜めに入りそこから血が噴き出します。
想定してたより、傷が浅いようです。
気持ち的には両断するぐらいの力を込めたのですが……。
でしたら、次です。
私は振り抜いた剣を戻す様に振り下ろしながら右太ももを切り裂きながら駆け抜けます。
これも斬り飛ばすだけの力を込めたつもりでしたが結果は切り裂いただけ。
予定ではここで相手の行動力を奪うつもりだったんですが、できませんでしたね。
ここで相手のゴブリンが私を払いのけるように振り向きざまに横なぎを放ってきました。
苦もなくそれを後ろに飛び去る事で躱す。
そして、相手は追撃に声を上げながら振り下ろしてきます。
先程の横なぎといい、なんとも遅い。
私は体を捻ってその追撃を躱します。
私の目の前を過ぎていく剣を見つつ、その場で回り勢い付け相手の肘目掛け剣を振り上げる。
刃が肘の下からめり込み、そして止まることなく相手の腕を斬り飛ばす事が出来ました。
そして、すぐさま距離を開け、間合いを取ります。
斬られた腕を抑えながら喚く大型ゴブリン。
私から完全に気を逸らしてますね。でしたら……。
私は隙だらけの敵の首目掛け突きを放ちます。
斬ろうとも思いましたが、首筋が太そうなので突くことにしました。
それから、喉に向かって斬り裂くと音を立てて血が噴き出します。
「これは……。即死判定を狙ったのですがHPバー、でしたか? これが大幅に減少しただけ……」
緑から黄色変わったケージを見つつ、即死判定にならなかった理由を探します。
ここで思い出すのが、やはり向日葵ちゃんのしおりですね。
『特殊なMOBは即死判定にならないから気を付けてね! でも大ダメージを与える事が出来るから狙える時は狙うのが吉だよ!』
「でしたか。ではこの敵は特殊部類に入るんでしょうかね。で、あるならば……死ぬまで斬るだけですね」
理由も大方わかり、最終的な行動が決まりました。
それから私は、ゴブリンの頭部、首筋を重点的に攻撃。隙が出来たら四肢を斬り飛ばして行動不能にした後、HPバー無くなるまでダルマとなったゴブリンに剣を突き立て続けました。
凡そ四、五分間、それを続けるとゴブリンのHPバーが灰色になりました。
「ふぅ……これで殺したことになるんですね。 疲れはしませんが不思議な感覚ですね。本来ならすでに致死量のダメージを与えてるはずのですが……。殺すまでこんなに時間がかかるとは。なかなか得難い体験ができましたよ」
そんな風に一息つくと周囲にいたゴブリンたちは一斉に逃げ出し、私の目の前にクエストクリアと書かれたパネルが浮かび上がります。
そして、その文字が消えると次のクエストが開始されました。
『救出した少女を無事母親の所まで送り届けろ』
護衛任務と思えばいいのでしょうか? それとも護送?
「で、その保護対象は……」と周囲見渡し探すと、すんなりと見つける事が出来ました。
木で組まれた粗末な檻の中で震える少女。
きっと彼女が保護対象ですね。
私は足早にその檻に向かう事にしました。