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妹が招いたモノ 6

 

 浮上するように覚醒する意識。

 ゆっくりと目を開ければ一拍おいてピピピ、と電子音が。

 仮眠終了です。


 シャワーを浴びて、食事をとった後にログインしようと段取りを決めていると、先程とは違う電子音――電話の着信音が聴こえてきました。


 この音はバイト先からですか……。

 一瞬、無視しようかと思いましたが、出なければずっと鳴りっぱなし、下手すれば自宅まで押しかけてくるんじゃないかと思い、出る事にします。


 端末を操作し通信を繋ぎ、開口一番に言いたいセリフを言い放ちます。


「今日から数日は休むと言いませんでしたか?」

「――すまない。急な案件で適任者がいないんだ」

「その適任者を育てるのが貴方がたのお仕事なのでは?」

「……今日は一段と機嫌が悪い様だな」

「話を逸らさないでください。都合が悪くなるとそうするように、とでも言われてるんですか?」

「……」

「だんまりですか? はぁ……わかりました。現地集合ですか?」

「いや、こちらから迎えを出す」


「では、早めにお願いします」と言って通信を切ります。


 全く……今日はもうログインできそうもないですね。


 結局、急に入ったバイトの所為で私の予想通り、その日はログインできませんでした。





 明けて翌日、バイト先の方々に『今月はもうバイトしない』と告げ、それでも言ってくるようなら『バイトを辞める』と半ば脅す様な形で休日を申告しました。

 だいたい、バイトしなくても私は問題ないのです。

 それに契約ではこちらの都合を最優先するとなってるのにも関わらず、先日のように適任者がいないから頼む、と連絡してるんですから、すぐさま辞めると言わないだけありがたく思って貰いたいですね!


 そんな風に憤りを感じながらログインを済ませ、先日目にした風景が見えてきました。


 さて、今日の予定は、先ず先日の戦闘終了時に獲得した物と解放された機能の確認です。


 先ず、開放された機能は、『武装強化』

 これはそのままの意味ですね。

 今私が装備している武装を強化できるようになったという事でしょう。

 なにせ私はこの装備以外身に着ける事が出来ないですから。

 見た目を変える外観装備やアクセサリーなどは装備できるようです。


 次に十人(プレイヤー)倒した事で手に入った『ソウルアニマ』

 これが先程の強化に必要なアイテムですね。

 あと、ジョブ専用スキルどの強化にもこのアイテムを使うようです。


 テキストパネルに書かれた説明を読み終えた私は「なるほど」と零して今後の行動予定を立てていきます。


 優先目標としては『ソウルアニマ』の入手と『レベル上げ』です。

 レベル上げについては、向日葵ちゃんのしおりに書かれてましたので、それを参考にしましょう。


 確か『効率よく上げるのなら冒険者登録をしたほうがいいよ』と書かれていましたね。

 登録する事で『クエスト』を受ける事ができ、尚且つお金も稼げるとか。

 お金はどこにいても大事ですからね。

 レベル上げのついでに稼げるのなら冒険者登録は非常に有益です。


『ソウルアニマ』の入手についてですが、どうやらプレイヤーを倒す事で入手可能のようです。

 あとはMOBと呼ばれるモンスターから稀に入手できると説明には書いてありました。


 プレイヤーを倒す、これについては現状では問題が幾つかあります。

 一つは倒せば倒す程、敵が増える可能性。

 これはゲームですからプレイヤーを殺したところで死に戻るだけです。

 死んでないという事は、また私の敵になるかもしれないという事。

 簡単に言えば、お礼参りをされるという事ですね。

 これは増えれば増えるだけ、非常に面倒です。


 あと現状、私のレベルでは戦闘面でかなり不安要素が多いという事でしょうか。

 レベル差というのはそれなりに脅威だと先日の戦いで感じましたからね。

 私のレベルがそれなりに高くなるまでは、極力避ける方向で行動しましょう。


 ですのでしばらくは『クエストを受けながらMOBを倒してレベル上げる』主体として活動しましょう。

 これでしたら、この世界での私の性能チェックとかもできますから。


 よし! 予定が決まれば早速行動ですね!


 目的地は冒険者登録ができるギルド呼ばれる施設ですね。

 この施設内で登録とクエストの受注、それから依頼もできるとの事。


「流石、向日葵ちゃんですね。要点と初動について簡潔に纏めてくれてましたので。すんなりと覚える事が出来ました。合宿から帰ってきたらお礼を言わないとですね」


 ささ、向日葵ちゃんが返ってくるまで数日あります。頑張って追いつきましょう!



 大きな扉のない入り口をくぐると天井が高く広々とした空間が広がります。


 中央の通路が左と右を分ける線のように感じますね。

 左側が登録や受注をする為の受付があるようです。

 右側は……これは酒場でいいのでしょうか。

 丸テーブルや長方形のテーブルなどがあり、皆さんなにやら盛り上がってるようです。


「向日葵ちゃんが好きそうな雰囲気ですね」


 酒場が気になりますが、先に登録です。

 それにこのゲーム内のお金が心もとないですからね。

 あちら側には、いくつかクエストを受け、お金を得てからにしましょう。




 やや後ろ髪を引かれる思いで足早と左側の受付に向かい手早く登録を済ませます。


 登録自体はあっという間に終わりました。

 いくつか質問に答えると、認識票――タグと呼ばれる長い鎖のついた小さな金属板を頂きました。


「懐かしいですね」と首にぶら下げたタグを摘まんで眺めます。


 向日葵ちゃんと出会うかなり前までこれと似たモノ持ってましたからね。

 あの時は何も思いませんでしたが、こうやって改めて見るとなんだか不思議な気持ちになります。

 感傷に浸るはほどほどにして、早速クエストを受けましょう。



 今度はクエストが張り出されているという『掲示板』を目指します。





 受付からやや酒場よりに配置された大きな掲示板の前にやってきました。

 所狭しと貼られた依頼書。


「凄いですね」と零しながら手が届く距離まで近づくと、掲示板から幾つもパネルが浮かび上がります。


「これは……依頼書? ですかね」


 浮かび上がったパネルを適当に一枚選んで触れてみます。


「手が凝ってますね。掴むと内容がわかる仕組みですか。……見ただけですと何に依頼か、だけわかるだけなんですね」


 どうやら詳細は、そのパネルに触れるか掴むかしないと、わからないようです。


「適当に選んだのですが……ゴブリン退治ですか。えーっと数は三体。手ごろなんでしょうかね? 依頼者はギルド発行、となってますね」


 ここでも思い出すのが向日葵ちゃんのしおりですね。


『最初に戦うならやっぱりゴブリンは外せないよ! ゴブリン関係のクエストはいっぱいあるからおすすめだし。報酬もいいから! 冒険者になったら先ずゴブリン退治と薬草集め!』


 と書かれていましたね。


「ではとりあえずこれを受けてみますか。後は薬草集めは……これですかね。【回復薬の材料集め】内容は材料となる薬草を十束採取して納品、ですか。これにしましょうか」


 私はしおり通りにゴブリン退治と薬草集めを選び、受付に向かいました。

 そして受付を済ませ、依頼書に書かれていた場所を目指します。

 因みに受付方法は至って簡単です。手にしたパネルを持って受付に話しかければいいだけでした。


 さて、目標の出現場所と採取場所ははこの街の西側にある森のようです。

 それでしたらこの街の西門を抜けて出たほうが良さそうですね。


 受付も済ませ、早速クエスト開始です!






 ――ギルドから出て大通り抜ければすぐに西門が見えてきました。


 しかしながら、ぱっと見ではNPCとプレイヤーの違いがわかりませんね。

 服装で何とかわかる感じでしょうか。人の行き来も多くて慣れるまで時間がかかりそうです。

 私、人が多いのは苦手なんです。

 向日葵ちゃんが夏祭りとかイベント事が大好きですから、よく一緒に出かけはしますが……人の多さにうんざりする時があります。

 後は落ち着かない、ですかね。

 最初に比べれば幾分か慣れましたが、どうにも見知らぬ方が間合いに入ってくると身構えてしまうのです。これはもう職業病みたいなものですね。




「――お願いします!! どうか!」


 西門を目指し歩いていると、そんな女性の声が聴こえてきました。

 声のした方を見れば、女性が声を張り上げ彼女前を通る方にないか訴えかけていました。


「娘を助けてください! どうか! お願いします!!」


 必死な表情でそう半ば叫ぶように声を張り上げてます。

 ですが、誰も彼女に見向きもしません。

 まるで彼女が見えていないのではないか、と錯覚するほどに行き来する方々は見向きもしません。


 普段の私でしたら、先ず相手にしないのですが、ここはゲームの中。普段できないような事をしたりするのも醍醐味だ、と向日葵ちゃんのしおりに書いていましたね。

 であるならば……


「どうかされましたか? 私でよければお話を伺いますよ?」と私は彼女に声を掛けました。


「ああ! ありがとうございます。どうか、私の娘を助けてください! この街に来る途中にゴブリンの群れに攫われてしまって……」と最後は泣き崩れてしまう女性。


 すると目の前にパネルが浮かび上がります。


『救出クエスト【小鬼の群れから少女を救い出せ!】』


 どうやらこの方はNPCだったようですね。

 本当に見分けがつきませんね……よく出来てます。


「わかりました。引き受けましょう」

「――っ! ありがとうございます!! どうか娘を!」

「ええ。ではさっさく向かいますね」


 話を切り上げ、クエスト内容を確認しながら街の外へと向かいました。





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