妹が招いたモノ 5
次は槍を使ってみましょう。
私は武器を切り替え魔槍ナーガを手に持ち、バランスなどを確かめてみます。
ハルバードと呼ばれる形状で、バランス面で不安がありましたが流石ゲームですね。なんら問題ないようです。
それから曲芸師のように槍を放り上げ、手で受け止め旋回させ最後に石突きで地面を叩きました。
「うん! いい感じです。斧の刃が分厚いく大きいので扱い辛いかと思いましたが、槍としても問題なく使えますね。あとはこの鎌状の両刃が大きすぎると思いましたが……これも問題ないですね」
現実では不可能に近い動きでも簡単にできる。
こういったゲームが人気な理由がわかった気がします。
ですが、やはり現実的な体の動かし方を知らなければいけませんから、ある程度は練習が必要でしょうね。
どこにいても『努力に恨みなかりしか』と言ったところでしょうか。
手軽に手に入れた力程危ないモノはありません。
私は身体的な優位性があるでしょうが、そこに胡坐を掻けば即座にやられます。
このゲーム内では現実とは違って、ステータス値、スキル、アビリティ、魔法など様々な恩恵があるのですから、いくら現実で戦いなれてるとはいえ、油断はできませんね。
先程の魔銃にしろそうです。
あれだけの威力でしたら、鎧程度で防げるものではないです。
ですが、能力値、または装備の耐久値で後ろに飛ばされる程度でした。
この辺がレベル差といったものなんでしょうか?
それも含め、これから検証していく事にして今はクエストですね。
現在5人仕留めましたので、あと半分です。
倒した敵の死体が光となって消えるのを視界の隅に捉え、他にプレイヤーがいないか探します。
先程の戦闘で人だかり出来てますが、全部プレイヤーなんでしょうか?
ざっと見た感じ二、三十人はいるようですが……。
うーん……斬りこんで適当に五人やりましょうか?
など考えてると、その人だかりを割ってこちらに向かってくる人たち。
「派手にやってんな? エネミープレイヤーに憧れてんのか?」
と話しかけてくる鎧姿の男性。
「いえ? 特には」
「ま、なんでもいいや。エネミープレイヤーはわりといい稼ぎになるんだ」
「そうなんですか? エネミープレイヤーが何なのかわかりませんが、私と敵対するという事でよろしいですか?」
「あ? そ――」
男性が返答しながら少し剣を抜いたのを見て、私は即座に駆け出し、彼の顔を槍で貫きます。
そして抜くと同時に石突きで背後から襲い掛かってきた敵を突きます。
この方なかなかいい反応でした。
私が駆け出すと同時に背後に回ってきたのですから……手練れなのでしょうね。
「いい判断ですが、甘いですよ?」
「くっそ!」と悪態をつきながら飛びのき後退しようとしたところを狙って、私は一歩踏み出し体を大きく捻ってハルバードを振り抜きます。
結果は私の横なぎを籠手で受け止め弾き飛ばされただけ。
両断するつもりで振り抜いたのですが、やはり侮れませんね。
ですが、片腕は使えなくなったようです。
垂れ下がる腕を抑えながら、立ち上がろうとしてますが……その隙は致命的ですよ?
私は振り抜いた勢いを殺すことなく、再度体を捻ります。今度は飛び出しながら振り上げたハルバードを彼の頭部に叩きつけます。
叩き斬る。というよりは叩き潰した、といった方がわかりやすい結果に。
血飛沫を撒き散らしながら、縦に引き裂かれるように真っ二つになった男性。
凡そ私の予想通り結果になったのを確認できたので即座に後退。
後ろに飛びのき追撃に備えます。
槍もなかなかいい感じですね!
斧は重量があって打撃性に優れてます。
矛先も十分な切れ味。後は鎌の部分ですね。
槍捻って鎌を地面に向け、敵の動きを待ちます。
仲間と思しき刀を手にした男性。杖を持った男性。短剣を両手に一つずつ持った男性。
この三人が先程の方がのお仲間のようです。
前衛1、後衛1、短剣を持った方は……遊撃でしょうか?
そうアタリをつけ優先順位を振り分けます。
先ずは、杖ですかね。向日葵ちゃんのしおりでは、杖を装備した方は魔法職、魔導士と呼ばれるジョブに就いた方が殆ど、と書いてありましたし、それに私はどんな魔法があるのか、そして使えるのか、これらが不安要素として大きく、邪魔です。
都合のいい事に三人とも呆気に取られているようですし、その隙をついて、ここは攻勢に出て即座に処理しましょう。
そうと決まれば即実行。
狙いは杖を持った男性。
懸念としては両側にいる二人ですが、私の動きに反応出来てないようです。
易々と杖持ちに接近できた私は間髪入れずに彼の顔目掛けて突きを放ちます。
結果は避けられてしまいました。ですが問題ないです。鎌状の刃は両刃でやや長めですから。
私は避けられた事に驚きはしましたが、構わずそのまま槍を押し込み鎌の部分で首を切り裂きます。
破れたホースから水が勢いよく漏れるように、半分ほど斬られた首から血が噴き出します。
映画などでよく見る演出ですね。派手でなんだか気分が高揚してきます。
そして、槍を引く際に柄を彼の首に押し当て引き寄せながら、その場から離脱すれば完全に首を断ち切る事が出来ました。
鎌の部分の切れ味も申し分ないですね。
さて、残り二名となりましたが、おや? 一人姿が見えません。
刀を持った方しかいませんね。
「ったく! 三人瞬殺かよ!」と声を荒げながら、こちらに切っ先を向ける男性。
「油断しすぎですよ? 今から殺そうかという相手に余裕を持ち過ぎです。あと危機感無さ、でしょうか」
「ご高説どうも!」
「ふぅん、なるほど。でどうなさいますか? 引くと言うのでしたらここまでにしときますが?」
「……わかった。降参だ」と言って片手に刀を持ったまま両手を上げる彼を見て、私は槍から手を離します。
私の手から離れた槍が消えると彼はニヤリと笑い、
「油断しすぎだぜ? これはあんたのセリフだ」と勝ち誇ったような顔になります。
「油断なんてしてませんよ?」と返しながら横にずれると短剣を突きだす様に構える男性が私が先程まで立っていた場所に現れます。
そして、私の両手には魔銃ベヒーモスとフェンリル。
フェンリルを刀を持った男性に向け、ベヒーモスは私の真横に現れた男性の側頭部に向けます。
「いくら仮想体、アバターとは言え意思が宿っていれば自ずと、殺気や敵意と言ったモノが生じるんですよ? 後は視線は気を付けたほうがいいですね。よって奇襲をする際はそれらをもっと上手く隠す事をお勧めします」
と告げ引き金を引きます。
フェンリルで撃った方は口から上が派手に弾け、ベヒーモスで撃った方は上半身の半分が無くなり残りが地面を転がっていきます。
ふーっと息を吐き、ほかに敵対する人が居ないか周囲を見渡しますが……どうやら大丈夫そうですね。
人だかりが騒然としてますがこちらに近づく方はいないようです。
『おめでとうございます。ジョブクエスト『魔王継承』の達成しました』
不意にピクシーの声が聞こえてきました。
『魔王継承を達成した事により、魔王武装の強化が可能となりました。強化する際はソウルアニマを使用します。入手方法は以下の通りです』
ピクシーがそう言い終えるとテキストフレームが浮かび上がります。
「ピクシー。質問です。この説明文は後で見る事は出来ますか?」
『可能です。システムからログの確認が出来ます』
「ありがとうございます。質問は以上です」
さてこれは後でじっくりと読みましょう。
兎に角クエストも無事クリアでき、ジョブ【魔王ルシフェル・カタストロフィー】に就くことができましたので、今日はこれぐらいにしてログアウトしましょう。
少し仮眠したいです。
その後はレベル上げと、しおりに冒険者登録をした方が効率がいいと書いてありますのでこれらを目的としましょう。
こうして私のドキドキワクワク満載のゲーム初日は終了しました。
楽しいですね! ゲームって!