妹が招いたモノ 4
VRMMORPG『Ðifferent』
最新の技術を駆使して作り上げられたこのゲームは、ゲーム内――仮想空間内で用意された体、アバターと呼ばれる仮想体に意識を移し、思いのまま行動できる。
ゲーム内でアバターの体感設定を調節することで、五感全て感じる事も可能だ。
痛みに関しては基本感じる事はないが、自己責任で設定することができる。
使用するアバターの容姿も勿論、変更できる。
声、性別、姿に関しても思いのままに変更できるが、ゲーム内であらかじめ用意されている、または自信の姿をトレースしたアバター以外を使用する際は、予め審査を受けなければならない。
他にも様々な要素があるが、このゲーム『different』が参加者に与えた自由度はかなり高い。
しかし、ゲームである以上、決められたレール、物語も存在する。
勿論、ルールだってある。
だが、レールに乗るか、乗らないかは参加者次第。
世界である以上、秩序も存在する。
守るか壊すかも参加者次第。
ただ、破るも壊すもそれ相応の覚悟が必要になる。
幻想的であり、現実的でもある。
どちらを求めるか、はたまた、どちらも求めるか、これもまた参加者次第。
なんにでもなれるし、なんでもできるユメセカイ。
と言った感じの謳い文句で正式稼働前から多くのゲームファンから注目されていた。
そして、このゲームの世界に今一人の女性が降り立った。
◇
「さて、と。ここが開始地点の街ですか……綺麗な街並みですね」
私は視界に映った景色を見てそう零します。
チュートリアルも終わらせ、装備も貰い、やっとゲーム開始です。
当初の予定ではここまでプレイして一旦終了しようかと考えていたんですが、ジョブクエストというモノをクリアしなければならなくなり、ここで止めるか、それともクリアしてから止めるかで迷っています。
「うーん。確かクリア条件は『十人倒せ』でしたね。……パッと見た感じではプレイヤーとNPCの区別がつきませんね。どうしましょうか」
無差別に殺して回っても効率が悪いですし、直接聞いた方が早いかもしれませんね。
周囲を見渡し、それらしき人がいないか探してみます。
露天がいくつかありますね。あれは確か、露天はNPCが主に開いていると書いてありましたね。
では露天は除外して……。
鎧を着こんだ人たち、それと普通の服を着た人たち。普通と言っても現実世界では見慣れない服装ですが。
ここで思い出すのが向日葵ちゃんのしおりです。
プレイヤーとNPCの見分け方。
『プレイヤーとNPCは表示されてるネームの色で見分けができるよ! 緑だったらNPC。白だったらプレイヤー。それと赤は敵対してるって事だから見かけたら問答無用にやっちゃう事!』
「でしたか。なら白で表示されてる方々をやればいいですね」
改めて周囲を見渡し該当する人物を探します。
「おや? 意外と多いですね白い名前の方々って。あれが全部プレイヤーですか」
それなりにいる白い表示の方々。
どれにしようかと、悩んでいるとふと目が合います。
そして、五人ほど連れ立ってこちらに近づいてくれます。
これは――手間が省けていいですね。
「やぁ。凄い格好だね? もしかしてシーカー? そうじゃなくてもレベル高そうだね」
と笑顔を浮かべて私に話しかけてきました。
「いえ? しーかー、ではないですよ。あとレベルも高くないです」
「うっそだぁー。なんか見た目からして強そうなんだけど!」
今度は違う男性からも声をかけられます。
この五人はどうやら顔見知り、あるいは仲間なんでしょうね。
和気あいあいと話して、仲が良さそうですから。
で、構成は、剣を持った方が三人。内一人が盾を持ってます。
そして残りの二人は三人と比べるとやや軽装っと言った感じの鎧姿で、それぞれ弓と短剣を腰に下げてます。
見た感じですが、前衛三、後衛二。
なるほど。
これなら……簡単そうですね。
「お? 笑顔がめっちゃ可愛いやん! よかっ――」
先程とは違う盾を持った男性が話しかけてきましたが最後まで聞かずに『ベヒーモス』の銃口を顔に向け、引き金を引きます。
大口径特有の重く激しい銃声が響きます。
こうお腹にズシっと響くいい音ですね。
一方、顔を撃たれた男性の頭部は完全に粉砕され、赤い飛沫となって周囲に飛び散ります。
炸裂式でしたか。その所為なのか、頭部だけではなく上半身、胸から上までも吹き飛んでるようです。
「――っ! おま」
そんな感想と様を、抱き、見ながらながら、なにか言いかけた大剣を背負った男性に銃口を先ほど同じように顔に向け、引き金を引きます。
結果は先ほどの男性と同じです。
まさにズドンっと表現するに相応しい重低音。そしてやや痺れを感じるほどに重い反動。
大口径の醍醐味と言える体感です。
飛び散る飛沫は赤い花びらが散ってるようで綺麗です。ゲームなのでこういった演出なんでしょうかね。
ややリアルですが、現実ではこうも綺麗に飛び散ったりしませんからね。
しかしながら、リアルに再現されてますね。
ですが女性では片手で打つには大口径の銃は些か、扱いづらいモノですが……やはりゲームと言ったところですかね。非常に便利です。
こうも簡単にこれだけの威力の銃を撃てるんですから、素晴らしいですね。
さて、次は剣を今まさに抜こうとしてる男性ですかね。
これもやる事は変わりません。銃口を顔に向け引き金を引く。ただこれだけ。
が、この男性は先ほどとは勝手が違うようです。
なんと弾丸を躱して見せました。これには驚きですね。
「てっめえ! 調子に乗るなよ!」と声を荒げ剣を振り上げます。
なるほどこれがレベルによる恩恵でしょうか? 通常でしたらこのように避けるのはほぼ不可能ですからね。
「さすがゲームですね。ですが……足元がお留守ですよ? これはとても有名なセリフです。そして真理ですよね?」と言った後に、彼の左膝を撃ち抜き粉砕します。
予想通り膝から下がなくなり体勢を崩す男性。前のめりに倒れます。
私に差し出す様に晒された後頭部目掛け引き金を引いて、三人目の処理が終了します。
この間、そう長い時間はかかってないでしょう。せいぜい一分ほどでしょうか?
その間に残り二人からの妨害を気にしていたのですが、その必要はなかったかな、と彼らの表情を見て思いました。
呆気にとられた顔。なんとも気の抜けた方々ですね。すでに三人仲間がやられているというのに。
私に話しかけてきた時点で『ぬるいな』と思っていましたが……ここまでひどいとは。
しかし、ゲームだと気兼ねなく殺せるのでいいですね。
まぁリスポーンでしたか? 死に戻りして再スタートできるので、殺すとは言えませんか。
さて、ベヒーモスは残り四発。
で、敵は茫然として未だ臨戦態勢すらならない。
「お粗末です」
残り二人の処理に取り掛かります。
先程頭を狙ってよけられたので、今度は胸を狙ってみますが、これも予想外の結果に。
胸に銃弾を受けた男性は派手に後ろに吹き飛ばされただけで、先程の様に粉砕されませんでした。
「これは……」
どうやら防具に阻まれたようですね。
なるほど、この辺りもゲームと言ったところですか。
狙いをその隣で吹き飛んだ男性を目で追っている彼にしましょう。
次は胸でも頭でも足でもなく、鎧のつなぎ目、丁度右肩、脇の少し上に狙って撃ちます。
銃声の後に響く破裂音と絶叫。
「あ、ああああ、あああ!!」
と右肩から無くなった先を見つつ狼狽える男性。
これは――たぶんですが。装甲の薄いあるいはない場所だと威力が阻まれることなくダメージを負わせるのでしょうか?
「ふむ。なるほど。ご協力感謝します」と告げて右腕を失った彼の頭を吹き飛ばします。
「お待たせしました。ですが……最後になってしまいましたね?」
「お、おおまえ! なんなんだよ! いきなり! 狂ってんのか!?」
「ん? 私は至って正常ですが? このゲームは相手を殺して経験値を得て、強くなり仲間と冒険するのが目的なんでしょ?」
「おま! なにわ――」
「――もういいです」と言った後に彼の頭も吹き飛ばします。
パニック状態でしたのでまともに会話は無理でしょう。
「丁度弾切れですか。いい感じです」
とベヒーモスの弾倉を横に出し銃口を上に向けて空になった薬莢捨てます。
そのまま、銃口を下に向ければ弾倉に新しい弾が現れ装てんされます。
本当にゲームって便利ですね!