妹が招いたモノ 2
――魔王ルシフェル・カタストロフィー。
この名前を見た瞬間――いいえ響きですね。
「魔王ルシフェル・カタストロフィー」
確認の為に声に出してみましたが、やはり響きです。
それが非常に『カッコイイ』と感じます。
いろいろと、どのジョブにするか考察していましたが……決めました。
「私は魔王ルシフェル・カタストロフィーに就かせていただきます」
向日葵ちゃんのしおりにこう書かれていました。
『もしジョブ選びに迷った時はね。難しいことは一旦置いておいて。自分がやってみたいとか、これなら楽しめそうって思うのを選べばいいんだよ!』
と。そして、こうも書かれていました。
『ゲームなんだから、楽しんでプレイできないと本末転倒だよ? だから私の事は気にしないで、お姉ちゃんのやってみたいジョブを選んでね』
まったく……向日葵ちゃんは全てお見通しだったのですね。
先程までの考察は如何に向日葵ちゃんの為になれるのか、が前提でした。
あの子は、こう私が考えて悩むことを想定していたのでしょう。
流石、私の――自慢の妹です。
私は自分の意志で何かを決める事が苦手です。
前はもっと酷く、命令が無ければ行動できませんでした。
今思うとそう認識できますが、当時はそんな考えすらなかったのです。
ですが、お父さんとお母さん教えてくれました。
意思を持つという事を。それが切っ掛けで向日葵ちゃんとも仲良くなれたのですから。
そして、向日葵ちゃんは私に――
「本当にそのジョブを選ぶのかい?」
思い耽っているとピエロ姿のナビゲーションAIにそう聞かれ、
「ええ。このジョブに就きたいと思います。……なにか不都合でも?」
と私は答えました。
不都合ならリストに表示されないでしょうが、と思いつつも一応確認してくる理由を聞きたいので、私はそのように答えました。
「いや。不都合なんてないよ。ただそのジョブは他のジョブと違って一度就いてしまうと変更が出来ないんだ。だから途中で合わないと思っても――」
「構いません」
AIの言葉を最後まで聞かずに私は、はっきりと意思表示します。
「私としては、一度始めた事は完遂させないと気が済まない性格……というよりそ本能に近いモノです。よって変更できない、というのは問題及び障害になり得ません」
「……どうやら、そういう冗談を言っているわけではないんだね?」
「私は冗談、というモノを生まれてこの方、言った記憶がありませんので。よって冗談ではなく、本気で言っています」
厳密に言えば、何をもってして冗談とすべきなのか、その線引きがわからないだけで、明確に今私は冗談を言った、という自覚がないのですが……これは言わなくてもいいですね。
「了解したよ。今この時より君は魔王ルシフェル・カタストロフィーだ。思う存分にこの夢の世界を楽しんでおくれ!」
と舞台俳優のように喋るAI。
とはいえ、いろいろと教えて頂いたのだから、礼は尽くすべきですね。
「ここまで、ありがとうございました。これから、存分に楽しませていただきます」
頭をさげ、そう告げると視界が白く染まってきます。
「ああ! 最後に! さっきも言ったけど、ほかのジョブとは違うからね! この後はより詳しい説明をしてくれる人の下に行く手はずだから!」
と慌てたように言うAIの言葉を最後に聞いて、私のチュートリアルは終了しました。
◇
白んだ視界が開けると石造りの空間に私は立っていました。ここはもうゲームの中、なのでしょうか。
風化し、元々は赤色だったと思える絨毯。
それを挟むように等間隔に奥へと並ぶ支柱には青い炎の松明掛けられています。
なんでしょうか……すごく素敵な空間です!
これに似たものを向日葵ちゃんが貸してくれた漫画に描いてありましたね!
――……見蕩れている場合ではなりませんね。
確か説明してくれる人がいると仰ってましたが……奥にいるのでしょうか?
「――なんだ? 来客か?」
と奥から聞こえてきました。
男性の声のようですね……低くて素敵な声です!
私は興奮冷めやらぬまま、声のした方へ進みます。
いいですね! と広がる空間を眺めていると、前に向日葵ちゃんが言っていた事を思い出します。
『お姉ちゃんって、意外とちゅうに病なとこあるよね! まぁ私もそうなんだけどね』
とはにかんで言っていましたね。しかし……『ちゅうに病』とはどんな病なのでしょうか?
これといって私も向日葵ちゃんも病気を患ってはいないのですが……帰ったら調べてみましょう。
と帰った後の予定を決めていると、背もたれの高い椅子に腰かけた鎧姿の男性がいました。
なんだか、向日葵ちゃんおススメアニメの一つで、私が一目で大好きになったアニメの登場人物を彷彿とさせる方ですね。
彼は頬杖をついた姿勢でしたが、私と目が合うとそれをやめてゆっくり足を組み替えます。
組んだ手を腹に添え、椅子にもたれ掛かった姿は凄く様になっています。
『絵になる』と言い直した方がいいでしょうか? そう思うぐらい似合っています!
「どんな勇者が来たかと思えば……意外や意外。愛らしいお嬢さんじゃないか。どうした? お嬢ちゃん。こんな場末に何の用だ?」
ああ……この方が大好きなアニメのあの方に見えてきました! 風貌は違いますが、声といい顔つきといい、纏う雰囲気といい! 若干に似ているのがいけないのです!
それにフロイラインなんて表現をされたら、もうそうにしか、見えないじゃないですか!?
心臓のドキドキが止まりませんよ!
それと反するようにキュンと締め付けられる感覚もします!
どんなに激しい運動してもこんなに早く鼓動が動くことなかった私は、初めての経験で頭がふらつきそうになりました。
これが向日葵ちゃんが言っていた『ときめき』というモノなのでしょうか?
あと『ときめき』は『恋』に落ちた証拠でもある、とも言っていましたね。
…………どうしましょう向日葵ちゃん。
お姉ちゃん――――ゲームのキャラクターに『ときめき』そして『恋』に落ちたようです!!