妹が招いたモノ 1
現在私は、VRMMORPG『different』というゲームの説明書読み終えたところです。
そして、その説明書はこう締めくくられていました。
【幻想的であり、現実的でもある。どちらを求めるか、はたまた、どちらも求めるか、これもまた参加者次第。なんにでもなれるし、なんでもできるユメセカイにようこそ】
これがこのゲームのテーマようですね――なんと、心躍る謳い文句なんでしょうか!
『お姉ちゃん! これ一緒にやろっ?』
と義理の妹にこのゲームを渡された時は、どうしようか悩みましたが……いいですね、ユメセカイ!
ここならば、向日葵ちゃんの理想のお姉さんになってあげられるかも。
――恥ずかしい話ですが、私はとても立派な姉とは言えません。
親のいない私を引き取ってくれた向日葵ちゃんのご両親にも迷惑をかけてばっかりです。
家事炊事はまるっきりダメですし……。
壊すのは得意なんですが……。
なんとか恩返しできないかと考え、アルバイトなどして自分の生活費ぐらいは、とご両親に渡そうとしましたが受け取ってもらえませんでした。
その時ご両親は「そのお金は将来の為に使いなさい」と論されてしましました。
向日葵ちゃんを含め私には過ぎた『家族』です。
「はぁ……親代わりだった皆さんは喜んで受け取っていたのですがね」
それに――将来の為と言われてもいまいちピンときません。
私はきっとこのまま『私』でしょうから。
馬鹿の一つ覚えのように一つの事しかできない私は……お父さんやお母さん、そして向日葵ちゃんの『家族』としての資格があるのでしょうか?
そこまで考えて、私はかぶりを振って気持ちを入れ替えます。
……いけませんね。こんな気持ちでは!
これでは折角、誘ってくれた向日葵ちゃんに怒られてしまいます。
ふーっと息を吐いて肺に溜まった濁った空気と一緒に気持ちも吐き出します。
それからゲームと一緒に、手渡された手書きであろうと思われる丸っこい文字で書かれたしおりを手にします。
とても可愛い字です。つい指でなぞってしまいます。
向日葵ちゃんは私と同い年なはずなんですが、見た目も性格もとても同い年には思えません。
私と違って、大変愛らしいのです。
たまに一緒に寝たりしますが、とても柔らかくてポカポカしていて……ああ、思い出したら向日葵ちゃんが恋しくなってしまいました。
ですが、今向日葵ちゃんは部活の合宿で家にはいません。……もどかしいですね。
いえ――これはきっと『寂しい』という気持ちなのでしょうね。
なんだか、そうだと気付くと嬉しくて小さく笑ってしまい――
「……どちらが姉かわかりませんね」
そう零した私は姉のような可愛い妹お手製のしおりに読み耽る事にしました。
◇
気が付けば朝です。
つい何度も読み返して、記載されていた情報サイトと照らし合わせながら熟読し、覚えました。
肩や首を解す様に動かせば、パキパキと気持ちのいい音が響きます。
向日葵ちゃんのしおりで凡そ、このゲームついて理解できました。
このまま少し仮眠しようかと思いましたが、止めておきましょう。
向日葵ちゃんが部活合宿で留守の今、先にゲームを始めている向日葵ちゃんとのゲーム進行差を埋めるのなら、この四日間は有意義に使わなくていけませんね。
ならば、チュートリアルと身体能力検査だけでも済ませる事にしましょう。仮眠はその後です。
◇◇
「しかしながら、ナノテクノロジーとVR技術に電脳技術ですか……お金かけてますね、このゲームは」
と出来上がったばかりのアバター――自分の姿を見下ろしながら異常がないかチェックします。
今のところ、目立った違和感はありませんね。
手を開いたり閉じたりと動かしてみますが、若干の違和感を少し感じる程度。
これは仕方ありませんね。自分の身体ではないのですから。ですが、五分も動かせば問題ないですね。
「すごい! 適合誤差五%以下だよ!」
そう、ナビゲーションAIに告げられたのですが……納得いきませんね。
「もう少し激しく動いても構いませんか?」
「大丈夫だよ!」
では、許可も頂いたので早速……。
助走をつけ、側転から後方転回を数回、繰り返し……ふむ、問題ないですね。
先程と同じように助走をつけ、今度は手を床に着けずに側転から後方転回をしてみる……これも問題なし。
ここまで動かせば、流石に先ほど感じた違和感も消えますね。
いい感じですっ!
「て、適合誤差なし……です」
AIからもお墨付きも頂けましたので次にいきましょう。
◇◇◇
それから、手早く残りの検査を済ませた私は、現在ゲームで使用できる代表的な武器を使い、用意された人型の的を破壊している最中です。
淡々と壊します。思いのほか的は脆いのですね。
「――本当にすごいね……君は」
渡された斧で、最後の的を粉砕してからそれをナビゲーションAIに返却します。
「ありがとうございます」
と言ってお辞儀をします。
AIとは言え、褒められるのは気持ちがいいものですね。
「どう? 気に入った武器はあったかい?」
「気に入った武器、ですか?」
武器に気に入るもなにも無いような気がしますが、人ではないとはいえ、会話ができ、尚且つ質問されたのですから、ここはきちんと答えないといけませんね。
「……そうですね。提供された武器は全て十全に使いこなす事が可能です。ですので、その質問の返答は――……全て気に入った、でしょうか」
「……アハハ。全て、ね。これは参ったね」
乾いた声で笑ってるようですが……随分と人間らしいAIですね。技術の凄さを感じます。
◇◇◇◇
そうこうしているうちに、チュートリアルも終わり、最後にゲーム内でのジョブと呼ばれるモノを選択するように言われました。
「RPGには欠かせないものだよ?」
確か、向日葵ちゃんのしおりにも初期のジョブ選びは重要だと書いてありましたね。
「君はこの物語でどんな役を……演じたいかな?」
と演技がかかった口調でそう告げられると同時に、目の前に青いパネルが表示されました。
今まで気にならなかったのですが、このナビゲーションAIの姿はピエロだったのですね。
そんな事よりも……これはどうやら、現段階で選択できるジョブのリストのようです。
剣士、戦士、拳闘士、弓術士に魔導士――――……沢山ありますね。迷ってしまいます。
書かれている字から察するにジョブとは戦闘を生業とする職のようですが。
そういえば、しおりにジョブは冒険を楽しむ為に重要だ、とも書かれていた事を思い出します。
そして、こうも書かれていましたね。
『MMOはみんなで協力する事がだいご味なんだよ!』と。
なるほど……これは確かに、ジョブ強いては自分の立ち位置、と考えるのならば需要ですね。
そして、このゲームは私にとってなんと都合のよいモノなのでしょうか!
こと『戦闘』にかかわる事であれば……! 尚の事これは、よく考えなければ!
と気合十分にリストとにらめっこです!
◇◇◇◇◇
「いやいや、この役を始めてそれなりに過ごしているけど、君程、熱心なプレイヤーは稀だね」
どのぐらい時間がたったのでしょうか? 数時間は経過してるはずですが……つい熱心に各ジョブについて聞きこんでしまいました。
熱心にもなります! ここで向日葵ちゃんのいいお姉さんになれるか、どうかが懸かっているのですからね!
そう思いながらリストの一番最後に書かれているジョブが目に留まります。
【魔王ルシフェル・カタストロフィー】
それを見た瞬間、私の心臓がドクンと大きく跳ね上がりました。
そして、ドッ、ドッ、と早くなる鼓動。初めての経験に驚きます。
これはどうした事なのでしょうか?
思い当たるモノとしては『胸が高まる』ですかね?
それと、『かっこいい』と感じます。
これは向日葵ちゃんのおススメ漫画やアニメを見て、多少なり感じたものですから理解できます。
では私は今『胸が高まり、カッコイイ』と感じているわけですね。
ですが……これは人名では? と首を傾げますが、胸の鼓動は早まる一方です。
そして、頭の中に浮かぶ強い思いを言葉にするのならば、
――すごく気に入った!