007 初めての武器屋
マジック袋が手に入ったので、今まで、購入した、服やアンダーウェアをマジック袋に詰め込む。
服やアンダーウェアはジローが持っていた大きめの結束バンドで縛っただけの状態だったため、地味に持ち歩くのに不便だったのだ。
街中を見回すと、買い物カゴを持った人や、背負子、リュックサック?、などを持った人は見かけるが、リュージ達の様に結束バンドでくくったものを持ち歩くものはいなかった。
マジック袋も見た目は丈夫そうな布袋だった為、普通の袋と見分けがつかない。
ジローは普段から持ち歩いていた、ナイロン製の別の結束バンドで入り口を閉じて、新しく買った上着の内ポケットに入れる。
「リュージさん、このマジック袋、ほとんど重さ感じません。容量が少ないとは言っていましたが、これだけのものを重さ感じず、このサイズで運べるなら、元の世界で大儲けできますね。」
「だな。中身はちゃんと取り出せるのか?」
「入り口から手を入れて、中身を除き込んだら、ズームアップされる感覚で、中に入れたものの近くに寄っていく様です。手に触れば持ち上げたら入り口から出せます。大きいものでも入り口が入れたものの大きさに合わせて少し大きくなる様です。でも、少しなので、あまり、大きなものは入れられないと思います。」
「リュージさん、今、自分マジ感動っす。感動の雨あられです。異世界1感動です。」
リュージが怪訝そうにジローをみる。
何故?と言う顔付きをしてみる。
「だって、今まで想像でしかなかった謎のアイテム袋の構造や性能が、今、わかったんです。実体験です。買えて良かったです。」
リュージにはよく分からなかったが、ジローが、感動しているので、良かったと思った。
二人はダンジョンの散策の目処がたったので、少し安心した。
ただ、ダンジョンの情報が少ない。
どこにあるのかもわからない。
モンスターは?
罠は?
武器、防具は?
先ほどの雑貨屋では、護衛がどうこうと言っていたので、モンスターは出るのだろう。
「ジロー、武器を手に入れよう。ステゴロでもある程度、いける気がするが、スライムとか出てきたら、手が溶けるとか、ありそうだ。」
「ヘイ。わかりやした。」
武器屋はすぐに見つかった。
店先に甲冑や2メートル以上あるのではないかと思う大剣が飾ってあったからだ。
「見るからに武器屋だな。入るぞ。」
「ヘイ。いつでもいけます。」
中に入ると、リュージと同じくらいの背格好、ただし横も大きい男がいた。
「いらっしゃい。武器かぃ?防具かぃ?」
「ほぉー、おめえはなかなか、いい体格しているなぁ。冒険者か?」
「です。適当な武器を探しています。」
リュージは体格を褒められたが、よく言われることなので、そこには触れずに、冒険者であることだけ伝える。
「うむ。そうだろうそうだろう。武器がないと言うのなら、なりたてか? それとも他の装備はマジック袋とかにしまっているのか?」
「これ、マジック袋ね。」
と、ジローはさっき買いたてホヤホヤのマジック袋を自慢げに見せる。
新人かどうか? を答えないための、返答として見せたのだろうが、そんなに嬉しそうに見せたら普通に、新人とわかってしまう。
リュージはジローに目で俺が答えると合図した。
「ダンジョンは新人だな。東の遠い国から来た。商隊や旅団と共に旅をしてきたので、武器らしい武器は今まで必要なかった。この、エロイムでしばらくは過ごそうと思ったから、ダンジョンにも、潜ってみようと思っている。」
リュージは言えないことは適度に誤魔化しそれ以外は、正直に答えた。
感覚で、この男には正直に答えた方がいいと本能が感じたからだ。
「ふむ。ダンジョン初心者か。見たところ、体格、筋肉のつき方、動き、気質は悪くない。武器は今まで何か使ったことはあるのか?」
「刃物はあまり好きじゃないので、もっぱらステゴロか、短い鉄棒を使っていたな。」
これも本当である。
リュージは基本的には体格がいいので、刃物を持つとより目立つ。
何より、体力もあったので、刃物を振り回すと、戦った相手が普通じゃ済まないからだ。
普通に蹴ったローキック1発で、再起不能なんてことは、日常だった。
相手が刃物や飛び道具を持つときは、自分の方も傷つくこともあるので、自衛用に3段式の警棒やビー玉を持っていた。
リュージの力でビー玉を投げたり弾いただけでも相手の急所に当たると、無力化することができた。
ただ、警棒はリュージの後輩であるダイゴがどうしても欲しいと言ってせがまれたので、なんかの折にやったので、今は持ってない。
ダイゴは元気にしているだろうか?
風の様に素早い奴だったな。
ビー玉は6個だけ、習慣で上着に入っている。
これも後輩のミカが、
「どうせなら、綺麗なビー玉の方がいいよ。リュージさん、これあげるね。」
と言ってミカに無理やり押し付けられたものだ。
「武器は、新しく使いこなそうと思ったら、ある程度は訓練が必要だ。特に剣や弓なんかは強力だが、修練に終わりはないと言われている。1番人気だがな。何か使った経験があるなら、同系統の武器を使うのがいい。使い慣れたものが1番だ。」
「刃がなく、そこそこ使えて、俺が使いこなせそうなものはないか?」
「うーん、そうだな。盾は持つ気あるか?」
「持ったことないな。できれば、持ちたくないな。」
「うーむ。なら、あれなんかどうかな。少し待て。」
店主は店の奥の方から、鉄の棒の様な武器を持ってくる。
「これはトンファーといって、それこそ、東の方の国の武器だ。中古だが、まだ新しい。魔鉄を使って焼入れがしてあるから、相当硬い。この辺の技術はわからない。これなら、攻撃、防御両方いけるから、少なくもダンジョン低層までなら、充分行けると思うぞ。」
「ほぉー、ここから1番近いダンジョンはどこだ?そこは行けるか?」
「ここから、1番近いのはサイムのダンジョンだ。徒歩でも1時間かからないだろう。初級ダンジョンだから、最下層は30階層。15階層のワーウルフまでなら、何とかなるだろうな。」
「もちろん、ある程度のレベルとスキルが必要だがな。」
「ほぉ、なるほど。気に入った。ではそのオススメのトンファー貰おう。幾らだ?」
「金貨3枚、と言いたいところだが、不人気で売れてなかったから、1枚でいいよ。ものはいいから、安心してくれ。」
リュージは金貨1枚を払った。
一方、ジローは武器屋の店主とのやり取りで、恥ずかしくなったのか
「しばらく店の中を見てきます。」
と言って店の中を物色していた。
そして、あるものを見つけた。
これなら、武器としても使えて他にも使えて、今の自分にとっても充分使いこなすことができると確信した。
「店主、この武器を貰おう」
そう言って、ジローが持ってきたのは、土木作業員が必ず持っているとされる、スチール製の[スコップ]だった。
「あー、それは武器ではなくて、スコップだ。穴とか掘る時に使うものだ。」
「わかっています。自分これがいいです。さっき、貴方は使い慣れたものが1番だとおっしゃったじゃないですか。スコップなら使い慣れているから、大丈夫です。」
「いいのか?」
店主はリュージに目で訴える。
「本人があぁ言っているので、いいでしょう」
と、苦笑しながら、リュージは答える。
「まぁ、一応、これも硬化の魔法とディグの魔法が付与されているから、丈夫だし、穴も掘りやすいぞ。付与ができる素材と考えれば魔鉄もコーディングされているんだろう。大銀貨1枚だ。」
ジローはお金を払う。
「店主、スキルの店はこの近くにあるか?」
支払いの終わったリュージが聞く。
「スキルの店は、ここから、2筋向こうですよ。丸い玉の様な看板が目印です。」
「ありがとう。」
礼を言って、武器屋を後にする。