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4話 芽吹く為に糧を得る。


 ヴァドでの、最後の朝を迎え、皆さんと朝食を摂り笑顔で別れを告げた。

 アエラさん達と予定通りリシェオを目指して行く。各々のホルフスに跨がるが当然だけど、俺にはない。仮に与えられても乗り熟す自信も無いので困るだけ。だから大人しく前と同様にアエラさんと一緒だ。


 リシェオへの日数だけど簡単に説明すると最短での計算だったりする。その為普通は一ヶ月近くを掛けて“安全”な迂回路を使って街に向かうんだそうです。ええ、アエラさん達は腕に自信も有るから最短距離の“危険”な直進路を選んで向かうみたいです。まあ、皆さんを信頼していますし勉強するつもりですから、反対はしません。

 その道程ですが、途中で立ち寄る町や村は二ヶ所。先ず、今日の野営を挟んで明日の昼過ぎ辺りには着く予定の“セァボ”の町だ。規模としては、スタルトと同じ位だとか。安全な路は東回りで村二つを経由する三日間ルート。何を指して“安全”だと言うのかを。俺は訊いてみたくなるね。そのセァボを出てから三日野営を挟み、“ワーナム”という村を経由して、更に三日野営を挟んで着くのがリシェオ、となる。

 説明としては単純だけど現実問題としては簡単とは言えないと思う。だって、その辺に魔獣は当たり前に存在しているんだからね。強くなければ軽く喰われて死んでしまう。それが常の世界なんだと、再び外へと出てから再認識する。



「アエラちゃん、右奥!」


「了解っ!」


「メルザちゃん、後ろ!」


「……んっ!」



 ユーネさんが指揮を執りアエラさんとメルザさんが魔獣達──爬虫類みたいな鱗っぽい緑の表皮を持った体長50cm程度の猿っぽい素早く群れで行動している“リザザル”を倒す様子を待機状態のリゼッタさんに護られながら見学中です。相変わらず、ネーミングが雑過ぎる様な気がするのは俺だけなんでしょうか?。まあ、この世界の人達には“常識”なんだから疑問も違和感も無いだろうけど。


 それは兎も角として。

 改めて、アエラさん達が強いんだと感じる。勿論、ヴァドの宿屋で一緒だった皆さんも強いだろうけど、その彼女達からも忌憚無く「一流の冒険者よ」と称賛されている事も有り、俺は本当に運が良かったんだと感じずには居られない。

 ただ贅沢を言うのなら。是非とも、魔法が見たい。



「リゼッタちゃん、上!」


「“エア・スピア”!」



 俺の真摯な願いが誰かに届いたのか、頭上に一体のリザザルが飛び出した事でリゼッタさんが魔法を放ちリザザルの身体を貫いた。リザザルは魔法の衝撃でか重力に反して落下を中断し弾かれる様に飛んでから、再び落下。頭上で散乱する血を避け、リゼッタさんは俺を抱えて飛び退いた。




 結果から言えば、圧勝。全く危な気の無い完勝だと言えるだろう。三十二体のリザザルを討伐し終えるとアエラさん達は後始末の為作業を分担している。

 このリザザルは食用には向かないらしいけど表皮は加工素材として使える様で“皮剥ぎ”作業を要する。要らない死肉は他の魔獣が集まったりしない様に穴を深く掘り埋める。その為の穴掘り作業。それと今回は数が居たので焼いてから、という事でリゼッタさんが焼却作業。最後に警戒役。油断は出来無い場所なので当然ですよね。

 そんな俺はユーネさんと一緒に皮剥ぎ作業を。自ら「遣ってみたいです!」と言ったら微妙な顔をされ、「将来の為にも色んな事を経験したいので」と言って誤魔化しました。だけど、俺も好き好んで血生臭い事遣ろうとは思いませんて。本当に将来の為ですから。もしも、冒険者に成ったら自分も遣らないといけない作業ですからね。早い内に経験して慣れたいだけで、他意は有りません。ただ、一緒に遣るユーネさんには好印象だった様で、普通に喜んでくれています。



「……意外に思ってた程は生臭くはないんですね」


「リザザルはね〜

チキットは知ってる〜?」


「はい、食用として需要の高い魔獣ですよね?」


「そうそれ〜、チキットは解体し易いけど血生臭くて服とかに付くと大変でね〜

解体しないで持ち込む人も少なくないんだよね〜」



 そう言いながらも手元はスムーズに作業を熟して、リザザルの皮を剥ぎ取る。その手際の良さから見ても熟練しているのが判る。

 アエラさんもチキットの処理が上手かったし、解体技術は冒険者としては必須技能なのかもしれないな。──と思った所で浮かんだ疑問を口にしてみる。



「こういう事が上手くなるスキルって有りますか?」


「うん、【屍骸解体】ってスキルが有るよ〜」


「……“屍骸”という事はスキル効果の対象は魔獣に限らずに、ですか?」


「そうだね〜、基本的には死骸だったら何でもだから人も、対象になるね〜」



 俺が言いたい事を察してユーネさんは答えてくれた事に感謝する。言い難い事には違いないから。だから深くは追及せずに、話題は次の事へと流す。



「そのスキルって、どんな職業の物なんですか?」


「職業じゃないよ〜」


「そうなんですか?」


「うん、スキルの中には、経験を積んだり技術の熟練によって発現するって物も有るんだよね〜

【屍骸解体】もその一つで私達は皆持ってるよ〜」



 スキルの発現の可能性。それは必ずしも職業由来に限らない事に驚きながらも四人全員に【屍骸解体】を持っているなら、俺も手に入れられる可能性は高いと前向きに考える。それから他にも有るなら覚えたい。



「“ファイア”!」



 穴掘り作業と警戒役とをアエラさんとメルザさんが交代しながら完了させると俺とユーネさんが皮を剥ぎ不要となったリザザル達の死体を出来た穴に入れて、リゼッタさんが魔法により燃やしてしまう。

 流石に攻撃魔法だからか5分と掛からずに炭灰に。一応、山火事等に為らない様に配慮して抑えている為数分を要しているが、数が少なければ数十秒らしい。



「リゼッタさん、魔法ってスキルとして、どんな風に為ってるんですか?」



 ホルフスに跨がり、深い森の中の山道を進みながら“今は”一緒に乗っているリゼッタさんに訊く。

 先の“エア・スピア”と“ファイア”が個別なら、魔法士のスキルというのは量が多いという事になる。或いは属性等を問わないで“初級魔法”みたいな形で一括りなのか。機会が無く訊きそびれていたから。



「魔法はね、階級と属性で分けて構成されているの

さっきの“ファイア”なら【初級魔法・火】で使用が出来る可能性を得るわ」


「可能性を、ですか?」


「ええ、可能性よ

【初級魔法・火】は複数の火属性の魔法を行使出来るスキルだけれど、最初から全てを扱えはしないの

ただ発動させるだけでさえ人によっては年単位を必要とする事も有るし、上位の魔法を使えるのに初級でも一部は使えない、みたいな事も珍しくないのよ

そういう意味では魔法士は特に個人個人の違いが出る職業という事になるわね」


「それじゃあ、魔法スキルというのは、階級×属性の数だけ有る訳ですね?」


「ええ、そういう事よ」



 世知辛い現実を前にして「俺も魔法を!」と考えてワクドキしていた気持ちは空気が抜け萎む風船の様に縮んでしまった。可能性は有るとは言え、絶対という訳ではない以上、その逆でスキルを得ても使えない。その可能性が有るのだから気落ちもするというもの。まあ、そんなに都合の良い話ばっかりじゃないよね。本気で魔法を使いたいなら頑張れって事ですね。

 諦めるのは簡単。だからスキルを手に入れられたら取り敢えず頑張ってみる。遣るだけ遣って無理なら、その時に、諦めればいい。遣る前から諦める事なんて考えてちゃ駄目だよね。




 初めて経験をする野営。前世でもキャンプとかした経験は無いので、前世今生合わせても初体験。しかも美女四人と五人きりでだ。これ、勝ち組だよね〜?。自慢が出来る相手が居ないというのが辛い所だけど。そんな事は些細な問題だ。だって、野営だろうと皆とイチャつけるんだからな。万歳ネタキャラ人生っ!。グッジョブ!、昔の俺!。



「……眠ったみたいね」


「可愛い寝顔だよね〜」



 メルザに抱き抱えられて一緒に眠るシギルを見て、アエラ達は頬を緩ませる。つい先程まで自分達の事を鳴かせていた少年と同じ者だとは思えない幼い寝顔は無防備でしかなかった。

 まあ、街の宿屋とは違い“気を失うまで遣る”事は自殺行為なのでしないが、“一人一回ずつ”で交代でシギルと情事を交わした。今は夕食を終え、見張りを交代で行う為に一番最初にメルザが眠った。シギルは当然ながら戦力外。だが、快眠の関しては最高戦力。彼を抱いて眠ると不思議と翌朝の調子が良い事も有り“抱き枕”も交代制だ。



「……不思議な子ね

記憶喪失という割りには、自分の過去には拘らないで未来(前)を向いて、色々と考えているみたいだし」


「しっかりしてるしね〜

年齢的な問題さえなければ結婚したい相手だよね〜」


「結婚は兎も角、今のまま遣ってたら確実にシギルの子供を身籠るわね」


「何?、今更その心配?」



 最初に正論を説いていたリゼッタにすれば、今更に正論を口にするアエラへの軽い皮肉のつもりの一言。リゼッタ自身、シギルとの行為は気に入っているし、子供に関しても体調管理に気を付けて出来無い様にと配慮はしている。その辺は個人個人の裁量だけれど。



「心配はしてないわ

個人的には子供が出来ても構わないって思うもの

シギルが望むなら引退して何人でも産んであげるわ

正直、もう他の男との結婚なんて考えられないもの

ただ、その所為でシギルの未来を潰してしまう事には為っては欲しくはないし、したくもないわ」


「それは……そうね」


「幾ら合意の上だからって私達が襲ってるみたいには見えるだろうしね〜」



 明るく言うが、ユーネも真面目な話、シギルの事は色々悩んでもいる。ただ、今は考え過ぎない様にして先送りにしているだけ。

 孰れ、自分の答えを出す時が来るまで。




 朝が来れば、動き出す。24時間という概念自体は存在していても、此処では“時計”は超高級品であり一般には出回っておらず、街の広場に時計が有る様な事も無い。だから「あれ、時計造って売れば大儲けも可能なんじゃね?」なんて考えてしまったのは決して可笑しな事ではない筈だ。それは兎も角として人々は太陽に合わせて生活をするスタイルが主流の世界だ。アエラさん達も朝が早い。そして──招かざる客も。



「あーもうっ、最悪っ!」


「朝一で“ウナヘビ”とか有り得ませんよ〜……」


「…………」


「メルザ!、逃げない!」



 野営の後始末をしていた最中の事、茂みを鳴らして這い擦って出て来たのは、全長5m程の蛇型の魔獣。だが、その頭や胴の太さは直径10cm程と細かった。だから、動物ショーとかで見た長い蛇の印象が強くて“人喰い”っぽさが無い為俺は警戒心が薄かった。

 しかし、アエラさん達は本気で嫌そうな顔をした。一体だけだから彼女達なら魔獣とは言え、余裕な様に思えたんだけど。どうやらイノガエルと同様に物凄く体表が滑っていて、匂いも何気に凄かった。それ故に嫌がったのだと判った。

 ただ、このウナヘビ氏。一度狙いを付けると死ぬか仕留めるまでは追い続けるという厄介な質をしていて逃げるのは粗不可能らしくアエラさん達は戦闘中。

 尚、その身は名前通りに鰻みたいな感じらしくて、超高級珍味なんだそうで。食べてみたくなったのは、彼女達には内緒だ。



「くっ、このっ!」


「ぅ〜、滑ってる〜……」


「…………嫌ぃ……」



 苦戦するアエラさん達。メルザさんなんて涙目だ。──というか、ウナヘビの滑り具合がヤバ過ぎます。滑って滑って、躱す躱す。刃物は無理っぽいし、一番有効そうな鈍器は無いしで後手後手、リゼッタさんの魔法も当て難いそうだ。



「……あ、リゼッタさん、魔法って、同時に使ったり出来ますか?」


「使い方に因るけどね」



 それを聞いて、俺は思い付きを彼女に伝えてみる。戦闘には参加出来無いけど出来る事が何かは有るかもしれないから。


 話を聞きリゼッタさんは直ぐに行動に移した。先ずウナヘビから距離を取る。取る……取れないーっ!?。攻撃を隙間を潜り抜けたらアエラさん達の事無視して真っ直ぐ猛スピードで此方に来てるんですけどっ!?。



「ちょっ、待ちなさい!」


「リゼッタちゃん!、早く逃げて逃げてっ!」



 慌てるアエラさん達だが一度出来た相互間の距離を埋める為には、対象以上の速度を必要とする。現状で最も速いのはウナヘビだ。森の中という状況が此方の動きを大きく制限する。

 だから、アエラさん達もリゼッタさんに距離を取り回避する様に叫んだ。



「狙いは此方って訳ねっ、シギル、走りなさい!」


「は、はいっ!」



 リゼッタさんに下ろされ着地したのと同時に直ぐにリゼッタさんとは逆方向に向かって駆け出す。先ずはアエラさん達の方に合流し作戦を説明してぇえっ!?、ぬぁななな何でぇえっ!?。



「シギルっ!?」


「嘘っ!?、其方っ?!」



 リゼッタさんに向かって這い寄っていたウナヘビが俺が走り出した瞬間に頭をぐりんっ!、と此方に向け急転身して向かって来る。俺が狙いという、まさかの事態にアエラさん達も軽く動揺してしまう。しかし、俺はチャンスだと考えた。小柄な俺の方が地理的にはアエラさん達よりも有利に動けるだろうから。加えて得たスキルや強化補正値の恩恵も有るのだから簡単に追い付かれはしない筈だ。遣ってみる価値は有る。



「リゼッタさんっ!」


「──っ!!」



 彼女を呼び、一瞬だけ、本当に一瞬だけ重なり合う視線で俺の意図を伝える。驚き──怒った様に此方を睨み付けるリゼッタさん。「何を馬鹿な事を!」とか言われてしまいそうな程に強い憤怒の籠った眼差し。ウナヘビよりも怖いです。

 だけど、意図を、覚悟を彼女は汲んでくれた。



「アエラ!、ユーネ!

馬鹿を援護して!

メルザ!、此方に来て手を貸しなさい!」



 ある意味、一番真面目なリゼッタさんが逃げる俺を囮に使う様な真似をする。その意味を理解した三人は何も言わずに行動に移す。四人の信頼関係が、本当に羨ましく思えた。

 まあ、そんな事考えてる暇は無いんだけどねっ!。

 走りながら身を屈めると右手を伸ばして地面に有る土や小石等を適当に拾う。一々選ってる余裕は無い。抑、自分の能力が何れ位か試した事も無かったから。今に為って「ヴァドに居る間に遣るんだった!」とか後悔してしまうが、遅い。──と言うか、その当時は如何に街の女性と接触して関係を持つか。そればかり毎日考えていましたから。仕方無いと言えば仕方無い事なんですけど。やっぱり考えてしまうんですよ。


 草木の中を潜り抜けて、追い付かれない様に駆けるというのは中々に厳しい。それはアエラさん達よりは楽だけど、その所為で俺とウナヘビから引き離されてしまうから困る。実戦経験皆無な俺だと先ず高確率で追い付かれて喰われます。だからこそアエラさん達の援護は必要不可欠。



「──このぉっ!」



 そんな事は兎も角として右手の中の物をウナヘビに向けて乱雑に投げ付ける。下手に狙うよりも、兎も角投網とかを投げるみたいな大凡な感じで、点ではなく面でウナヘビ全体を狙う。

 空中で広がった土石等にウナヘビは回避ぜず頭から突っ込むが大して効かない事は想定済み。重要なのは僅かでも意識が逸れる事。如何に滑っていても無敵な訳ではないのだから。必ず僅かには反応する筈だ。

 その僅かな隙を利用して目の前の木の幹を駆け上る様にして大きく蹴って跳び──4m程の距離に迫ったウナヘビの上を入れ替わる様にして越える。出来れば木に激突して、気絶したりしてくれたら最高だけど、そんなに都合良くはない。ビヂャベンッ!、と身体が頭に激突するが効いた様子なんてなく、直ぐに此方に方向転換して動き出す。

 着地し、受け身を取って地面を転がりながら勢いを何とか往なして立ち上がりアエラさん達の方に向けて駆けながら、右手に拾った小石を一つ、ウナヘビへと向けて投げる。【狙撃】のスキルを使ってだ。説明文からして移動中でも問題は無い筈だし、仮に効果等が落ちても構わない。兎も角当たりさえすれば十分。



「──ていっ!」



 右手から放たれた小石は先程より怒った様に見えるウナヘビの右目に命中し、その視界を潰した。不快な耳障りな鳴き声を上げて、予期せぬダメージに地面をのたうち回るウナヘビ。

 その隙に距離を稼いで、見えていたアエラさん達に合流し、直ぐアエラさんの左腕に抱え上げられる。

 情けないけど、一安心。

 スキルの発動に判り易い発光現象みたいなのが無い事が救い。アエラさん達の前で使ってもバレないし、当たったのも偶然を装えば不自然ではないから。


 ウナヘビは更に激昂した様子で吼える様に鳴いた。そして、俺を追っていた時よりも早い速度で迫る。



「リゼッタさんの所に!」



 俺が言うと二人は上手くウナヘビを引き付けながら振り切らない様に駆ける。やはり経験が違う。二人の“誘導”は巧みだ。

 小脇に抱えられたまま、チラッと後ろを振り返れば目を血走らせたウナヘビが追い掛けてくる。右の目は文字通りに血が流れている訳かんだけど。スキルって本当に凄いね。


 森を駆け、野営していた場所にまで戻ってくれば、リゼッタさん達の姿が有り準備が出来ていると察し、アエラさん達に言う。



「前に、低く跳んで!」



 少しだけ変わった場所の手前から、アエラさん達は走り幅跳びをするみたいに全速力にまで加速してから前に、低く、大きく跳ぶ。

 その後を二人以上の速度にて追い掛けて迫っていたウナヘビは勢いのまま駆け──地獄へと落ちる。

 ジジュジュウーッ!!、と音を上げてウナヘビを被う滑りを蒸発させ、その身を焼くのは、地面を掘られて敷き詰められた“焼き石”だったりする。足掻いても逃げ出す事は困難。だが、動かなければ焼き殺され、動いても焼かれる必殺罠。

 苦痛に奇声を上げているウナヘビを見て俺を下ろし槍を構えるとアエラさんが一突きして──終了。


 苦戦していたウナヘビをあっさりと仕留めた事実にアエラさん達は複雑そうな表情で互いを見合う。ただ焼かれたウナヘビから良い匂いがしています。なので「食べてみませんか?」と提案し片付けの途中だった荷物から調理器具を借りてウナヘビを捌いて、焼く。一応、料理は出来ますよ。独り身で自炊してたので。

 ウナヘビの切り身を焼きながら蒲焼きのタレが凄く欲しくなりました。材料が有れば作りたいですね。



「よく思い付いたわね?」


「私じゃないわ」



 他の片付けをしながら、アエラさんの質問に答えるリゼッタさんが右手で俺の頭を撫でてくる。優しく、でも、ちょっと怒った様に力の入った感じで。

 話は聞こえていますから下手に勘繰られるより先に自分から口を開く。



「滑って刃が通らないなら先ず滑りを取ろうと考えて思い付いた事を伝えてみただけですから

後はリゼッタさんが上手く遣ってくれたお陰です」


「謙遜しなくていいわよ

貴男の発想が無かったら、こんなに簡単にウナヘビを倒せなかったわ」


「でも、シー君、よく思い付いたよね〜」


「それはほら、熱した鍋に油を入れず肉とか入れたら焼け付きますよね?

ウナヘビは早いですけど、飛び跳ねる行動は出来無いみたいでしたから

だから、石を焼いて熱して敷き詰めた所に誘導すれば滑りも取れて、槍で突いて倒せるかなって

でも、それをバレない様に仕掛けて、上手く誘導したアエラさん達が実力が有り信頼し合ってるパーティーだからの成功ですよ」



 少年の「尊敬します」なキラキラ・スマイルを使い何とか誤魔化し切った。

 目潰しに関しては本当に「運が良かったですね」で通ったから良かったです。決して「チョロいな」とか思ったりしません。そんな自爆フラグは要りません。ノーサンキューです。


 尚、ウナヘビの白焼きは想像以上に美味しかった。それなりに量は有ったけど五人で、ペロリです。

 「……近くにもう一匹位居ないかな?」と真面目に“おかわり”を口に出したメルザさんに俺達は苦笑。だって、一番嫌がってたのメルザさんなんだもん。

 因みに、ウナヘビの骨は薬の材料としても使える為高額で売れるんだそうで。でも、それは稀少だからで大量には獲れないからで。その辺りは仕方が無い事。「美味い上に漢方薬にも、ウナヘビ、恐るべし……」なんて考えたのは内緒。


 そんな感じで、のんびりだらだらしたい派の俺には朝からトップギアに入れるモーニング・インパクトは中々に厳しかった。食べた白焼きという名の睡眠薬も良く効いていたのだろう。ホルフスに一緒に乗ってたメルザさんと仲良く居眠りしてしまい──落下した。衝撃で目は覚めましたが、何故だか愚息も起きまして──少々寄り道をば。


 それでも、予想していた到着時刻よりも早かった。それだけ昨日は移動距離を順調に稼げていた証拠だとアエラさん達に言われた。特に俺が魔獣の後始末等を手伝ってくれる分、全体の時間短縮にもなるんだと。それを聞いたら、一生懸命出来る事を遣ろうと思う。ええっ、今夜も頑張らせて頂きますとも!。

 流石に口にはしませんが「期待してるからね〜」と耳許で囁き序でに甘噛みを繰り出すのはユーネさん。直後にはリゼッタさんから後頭部に平手打ちを貰って窘められていましたけど。これもコミュニケーションであり、スキンシップだと俺は学びましたよ。


 セァボの町に入ってから最初に宿を取る。俺以外は初めてではないのだろう。俺みたいにキョロキョロと彼方此方見たりはしない。

 聞いていた通りに規模はスタルトに近い。しかし、一番の違いは町の人々だ。

多種多様な獣耳に尻尾が。そう、“獣人族(ズゥマ)”の人達が沢山。ヴァドでは人族としかしていない。

 文化・風習・価値観からトラブってバレる事を懸念していますから。だから、余計に気になるんです。


 今回の宿は食事は朝のみなんだそうで、夕飯は当然外食に為ります。基本的に昼は提供していないという事はクィエさんから聞いて知っていますが。こういう形態の宿も有るんですね。意外に商業関係のサービス・システムは多様性が有る世界なのかもしれないな。


 そんな事を考えながら、アエラさん達と入ったのは肉料理の御店。朝が白身魚──ウナヘビだったので、昼は肉料理が欲しいそうで決定しました。只飯です。異論なんて有りませんよ。でも、“肉食系”な女性に密かにドキドキしてます。

 注文は品が判らないので適当に質問しながら基本はアエラさん達に合わせる。外れは少ない筈だから。



「セァボって獣人族の人が多いみたいですけど、何か理由とか有るんですか?」


「理由って程じゃないけど単純に習慣とかの違いから“住み分け”してる格好に為ってるってだけよ

人族も獣人族も括りとして見れば一つでも、地域毎に違ったりするでしょ?

人族・獣人族同士でも壁は有ったりするものよ」



 言われてみれば確かに。簡単な様で微妙に難しい話なんだと思う。そういった面倒事を避けると結果的に同じ習慣や価値観の人達で集まってしまう訳だ。

 そうだとすれば、下手に接触しない方が良いかな。まあ、セァボでは一泊だし遣りたくても無理だけど。



「シー君は獣人族の人達に興味が有るのかな〜?」


「そう、ですね……無いと言えば嘘に為ります

だからもし、「興味本意で訊くな」と言われた場合は否定も出来ません

ただ、知らないから知る

その為の理由として興味を持つ事が悪いとは個人的に思いはしませんけど」


「へぇー……言うわね」


「あ、いえ、飽く迄個人的意見ですから……」



 つい、昔有った揉め事を思い出して真面目に言ってリゼッタさんの注意を引き慌てて誤魔化す。今の俺は十歳の子供。この世界での十歳の子供の普通が如何な感じなのかは不明だけど。今のは普通の子供の価値観ではないだろうから。

 ただ、今までの関係から深くは追及されないで済み内心で安堵する。内と外のギャップって思った以上に危なっかしいみたいだ。


 ──とは言え、念の為に話題を変えたい所。ただ、下手に自分から振るよりも然り気無く、興味を示して意識を向ける事にする。

 店内に居る獣人族の──女性の耳や尻尾を追う様に視線と顔を動かす。



「シー君は獣人族の女性に興味津々なのかな〜?」



 俺の右の席に座っているユーネさんが右手人差し指で頬を突っ突いてきながら揶揄う様に笑顔で訊く。

 誤魔化す様に照れながら「ち、違います!」と少し吃りながら言いたいけど、敢えて冷静な反応をする。



「そう、ですね……獣人族の方が気になります」


「…………ぇ?」



 敢えて、視線を獣人族の女性に向けたまま、まるで「貴女が気になります」と言うかの様な態度を取る。すると、ユーネさんからは戸惑いと驚きを孕んだ声が微風にも消えそうな感じで俺の耳に届いた。その声に揶揄いの仕返しが出来たと確信して正面に振り向けば──アエラさん達が物凄く悲しそうな顔をしていた。「──あっ、マズった」と瞬間的に察し、慌てて弁明しようとして──止める。此処で誤解だと言い訳した場合には逆に本当っぽい。疚しい感じがするからだ。だから、冷静に話す。



「種族が違うというだけで理解し合えないのは寂しい事だと思うんです

アエラさん達や、ヴァドで会った皆さんは自分の事を快く受け入れてくれました

だけど、それが“誰でも”という訳ではないのなら、自分から相手の事を知って歩み寄れる様に為りたい

そう思うので……えっと、可笑しいですか?」


「いいえ、立派な事よ」


「良い心掛けだわ」


「……ん、良い子」


「うん、お姉さん感動〜」



 この世の終わりみたいな或いは御通夜ムードは消えアエラさん達は微笑む。

 上手く乗り切れた事実に俺は内心で安堵し、大きく息を吐いて脱力する。自業自得とは言え心臓に悪い。こういった真似は軽々しく遣るべき事じゃあないね。ラブコメなんかで有るのは現実性を無視しているから成立してるだけで。本当は揶揄う様な展開には為らず今みたいに修羅場化する。



(【性皇剣】のスキルには好感度上昇効果は無いから失念してたけど……

抑、好きでもない相手ならアエラさん達だって何度も遣らないよなぁ……)



 根本的な凡ミスだった。スキルの効果で女性の持つスキルを複写する事ばかり考えていたけど、こうして一緒に居るアエラさん達はスキルに関係無く俺に対し好意を懐いてくれている。それを忘れてはならないと今認識出来たのは大きい。

 一度限りの関係とは違い真剣に考え、向き合って、一人の男として彼女達との将来を見据えなくては。

 同時に、他の女性達との接し方についてもね。



「そういう事だったら色々私達も教えてあげるね〜

シー君は“人類”って一番大きく分けると幾つなのか知ってるかな〜?」


「一応……人族・獣人族・“亜人族(ディム)”の三つですよね?」


「うん、正解〜

私達、人族は髪・瞳・肌の色は違うけど、一種族しか居ないんだけど〜

獣人族・亜人族は多種族の総称としての名称だから、正確には固有の種族名じゃないんだよね〜」


「だから、獣人族・亜人族という呼び方を嫌う人達も少なからず居るわ

此処は大丈夫だけどね」



 ユーネさんの説明に加えアエラさんの一言。確かに言われてみれば、種族名が獣人族・亜人族ではない。だから、そう言われた場合不快に思う人達が居るのは当然と言えば当然の事だ。そういう意味でなら今生が人族で良かったと思う。



「獣人族は今現存している種族は全部で十一種よ

代表格が、犬人(ディグ)猫人(キャニス)

次いで、猿人(モンカラ)兎人(ラピル)が多いわ

この四種族が獣人族全体の半数以上を占めているわ」


「その分、同じ種族だけど風習・価値観の違う場合も珍しくはないから、接する際には気を付ける様にね」



 アエラさんの説明の後にリゼッタさんからの一言。自分で言った事なんだけど真面目に受け取られると、ちょっと恥ずかしいです。勿論、気を付けますけど。

 ──と言うか、獣人族の半分以上を四種族が占める種族バランスが……いや、これはアレなんですか?。前世のペット数的な意味で比率が反映されているとかみたいな事ですか?。……いや、うん、まさかね〜。あはは、無い無い。ええ、考えない事にします。



「でも、そんなに分かれて固まっていると、派閥間の争いみたいな事も絶えないんじゃないですか?」


「ええ、少なくはないわ

でも、戦争とかになる程に激化しそうなら“議会”が介入してくるわね」


「確か……“獣人部族議会(ズゥソミュット)”?」


「そう、通称が議会ね

それでも駄目な場合には、“獣人王(ビーステア)”の御登場!、って訳よ」



 獣人族獣議会というのは三十三の部族長により構成されている組織。前世での“国会”みたいな存在だ。表立って対立している事は滅多に無いけど、基本的に足の引っ張り合いをしたり嫌がらせをしたり、互いにスキャンダルを探したりと前世の政治家と変わらない面倒臭い“御偉いさん”の集まりだったりする。

 つまり、そういう連中は何処にで居るって事だね。異世界にも居るんだから。人類の業って深いんだね。


 獣人王は名前の通りに、獣人族の王様。議会により一定期間毎に選定されて、候補者数名の中から色んな試練みたいな事を突破した一人が与えられる王位。

 人族・亜人族に対しても王位を認められる存在だ。ただ、支配権みたいな物は無いみたいで、象徴という意味合いの強い“名誉職”なんだとも言われている。実際の所は判らないけど。まあ、先ず会う機会なんて無いだろうから、飽く迄も知識としては、だね。



「他には〜……」


「……獣人族は弱肉強食、強い者は認められ易い」


「あー、確かになぁ……」



 ユーネさんが考え込んだ所にメルザさんから一言。物凄く判り易い説明です。そして、その話に苦笑するアエラさん達。多分だけど過去に何か有ったんだね。あまり女性が話したくない感じの武勇伝が。

 正直、気にはなるけど、藪を突っ突く気はない。



「亜人族の人達は?」


「亜人族は多種多様ね

言い方は悪いけど、人族と獣人族以外を一括りにして分類したって感じよ

だから、色々と有るわ」


「有名な所だとドワーフ、ホビット、エルフだね〜

同じ種族でも部族数が結構多いから獣人族よりも断然纏まりがないんだよね〜」


「亜人族と関わる場合には相手側に合わせるか、色々気にしない様にするのが、一番簡単な方法よ

本当に面倒臭いから」


「……頭固過ぎ」



 獣人族の説明と比べると亜人族に関しての説明は、本当に簡単だった。ただ、アエラさん達全員の纏った雰囲気から“事実”だって察しましたよ、ええ。

 「エルフの美女と!」と異世界転生で懐いた期待は唐突に遠ざかって行った。まるで新幹線を見送る様に意外な程に、あっさりと。


 其処に料理が運ばれて、気を取り直して食べ始めて──ふと、気になった事を訊いてみる事にした。



「そう言えば、食文化ってどうなんですか?

お店なんかは客商売だからメニューは色々と有るとは思いますけど、家庭料理や伝統料理みたいな物だと、種族的に合わない物とかも有るんじゃないですか?」


「んー、大体は同じよ

個人個人の好き嫌いとか、地方事の違いみたいなのは当然有るけどね」


「一応、種族で食べる物が全く違うという事は無いわ

勿論、文化・風習としての材料や味付けの違いとかは普通に有るけどね」


「“獣人族は肉食で野菜は食べない!”なんて偏見が大昔は有ったみたいだけど今は全く無いしね〜」


「……食に境界は無い」


「……メルザさん、それ、至言ですね」


「だけど、食文化に興味を持つのは意外ね

何が気になったの?」


「いえ、単純な疑問です

冒険者の人達の中にも色々種族は居ますよね?

パーティーを組んだ場合、その辺りをどうするのか

それから──異種族同士で結婚した場合とかです」



 アエラさんの質問に俺が答えたら僅かに場の空気が固まったかの様に感じた。一瞬の事だったんだけど。“結婚”に反応した辺り、女性には禁句かも。

 冒険者とか遣っていたら結婚も難しいそうだから。想像だと大体が職場恋愛に為るんだろうけど。その、喧嘩して離婚!、みたいな事も少なくなさそうだし。大変そうな気がします。

 そんな俺の心配を他所にアエラさんが話し出す。



「パーティーを組む場合は短期だと互いに妥協して、長期だと合わない相手とは先ず組まないわよ

御互いに我慢してたって、良い事は無いからね」


「まあ、そうですよね」


「それから、結婚した場合なんだけど、その辺の事は私達も経験が無いから」


「あっ、すみません……」


「いいのよ、仕方無いわ

あ、序でに教えとくわね

異種族同士の結婚だけど、人族は種族問わずに子供を作る事が出来るわ

だけど、獣人族は獣人族、亜人族は同種族同士でしか子供は作れないのよ」


「そうなんですか?」


「ええ、だから、異種族の両親の間に生まれる子供は全員“混血者(ミコス)”と呼ばれるの

当然、片親は必ず人族ね

それでね、混血者は人族か片親の種族の異性とでしか子供は作れなくて、子供は混血者の伴侶になった人の種族で生まれるのよ

人族が相手なら人族に

獣人族や亜人族なら其方に引っ張られる形でね

だから、混血者は一代しか存在しないの」


「勉強になります」



 「遺伝子無視ですか」や「不思議ですね」みたいな迂闊な感想は言いません。下手に疑問を持った場合、俺が“異常性”を内包した可能性を勘繰られるから。“この世界の常識”が未だ正しく判らない状態な以上“何も知らない”様にした方が安全だからね。勿論、大丈夫そうな事は遠慮せず言ったり遣ったりします。ほら、料理とかね。

 ただ、“子供”の部分は嫌でも意識します。ええ、十歳で父親は……ねぇ?。出来たら責任は取りますが出来れば待って下さい。


 内心で一人冷や汗を掻きながらの昼食は終了。

 その足でウナヘビの骨を売却しに行くそうなので、同行出来てラッキーです。何しろ、小遣い貰ってても一度も使う事が無いままに今日まで来ましたからね。ええ、ヴァドでは他に遣る事が色々有りましたから。そんな余裕なかったので。今、ワクワクしてます。


 ──といった期待は儚く砕け散りました。あまりに淡々とした遣り取りでして逆に驚きました。時代劇の質屋みたいに「これなら、これ位までだな」「まあ、それなら」「毎度有り」の短い応酬。交渉シーンなど皆無でしたよ!。



「さてと、シギル?、貴男どんなのが欲しい?」


「……えっと、何を?」


「貴男の装備品よ

最低限だけど武器と防具を用意した方が良いって事で一致したのよ」



 ……い、何時の間に?。いや、装備品買って貰える事自体は嬉しいですけど。せめて、一言相談してから──じゃあ、サプライズに為りませんよね、ええ。

 ただ……ただですね?、養われている身ですけど、買い与えられるというのは幾らか抵抗感がね。頭では理解も納得してますよ?。突然だから驚いてるだけで嬉しい事は確かなので。



「ウナヘビを相手に、自ら囮役に為ろうとする馬鹿を装備品も無しに置いておく事は不安だからよ」


「……御尤もです」



 「全く、貴男は」と姉に心配されながらも怒られる弟な気分でリゼッタさんの言葉に項垂れる。その俺の頭を「大丈夫だからね」と励ます様に優しく叩くのはメルザさんだ。もう、掌の感触だけで判りますから。それだけアエラさん達とは触れ合っていますので。



「まあ、ウナヘビを倒せた決め手は貴男だしね

だから、貴男が初めて自ら得た“成功報酬”と思ってくれたらいいわ」


「……っ……はいっ」



 然り気無く、そう言われ思わず呆然としてしまうがアエラさんの言葉の意味を理解したら、思わず目頭が熱く為ってしまう。景色が滲んでしまう。一瞬だけ、俯いてから直ぐ切り替えて顔を上げて、笑う。

 何気無い事なんだろう。だけど、俺には特別な事で確かな“第一歩”だから。素直に嬉しい。


 歓喜する内なる俺達を、取り敢えず今は無視する。嬉しいのは嬉しいが先ずは冷静に為って考えてみる。ゲーム等とは違う。自分の身体に、能力に合致した、ちゃんとした装備品を選ぶ必要が有るからだ。まあ、もしも可笑しな事を言えばアエラさん達からの指摘が有るだろうから、その辺は心配はしていない。

 考えるべきは金銭面だ。ウナヘビの骨の買取り額は15万ルーダ。その全額が軍資金という訳ではない。──と言うか、そんなのを持たされても困りますし。しかし、相場が判らない。何故なら俺は子供だから。



「あの、装備品って幾ら位する物なんですか?」


「そういった事は心配する必要は無いわよ?」


「あ、いえ、遠慮している訳じゃなくて初心者だから最初は“壊れても大丈夫”な安い物の方が扱い易くて気持ちが楽かな、と……」


「それが、遠慮でしょう」


「ぁうっ……」



 そう言うリゼッタさんにデコピンされて、軽く痛む額を右手で押さえながら、そっと視線を逸らす。

 生暖かい眼差しが物凄く恥ずかしいです。



「でもまあ、シギルの言う事も正しいわね

初心者に新品を持たせても扱い切れないなら、最初は中古品を使って慣れさせる方が良いでしょうね」


「そうだね〜、シー君にも変に気負わせたくないし、そうしよっか〜?」


「……ん、異議無し」


「それじゃあ……彼処ね」


「彼処だね〜」



 俺の意見が尊重された事自体は喜ばしのですけど。あの〜、質問の答えは?。あと、何処に行くので?。苦笑と溜め息といい笑顔に不安が沸くのですけど?。もしかしてアレですか?。知る人ぞ知る隠れた名店的隠れ家みたいな?。それか色んな意味で有名とか?。或いはギャンブル性満載の“迷店”ですか?。


 戦々恐々としながら俺はアエラさんに右手を握られ町の中を歩いて行く。その姿は端から見たら姉弟か、親子に思えるんだろうね。でも残念!、この女性達は俺とは深い仲ですから!。はははっ、ザマァッ!。


 ──という感じで若干の現実逃避をしている間に、目の前には一軒の店舗が。……店舗ですか?、はい、どうみても民間ですよね。



「え〜と……此処は?」


「多くの冒険者が利用する中古品を扱う御店よ

名前が無いから冒険者達は“骨董屋”って呼んでるわ

店主が元・冒険者なのよ」



 アエラさんが話している間にもユーネさんはドアを開けて民間──じゃなくて店内へと入って行く。その後にメルザさん達も普通に続いて行き、アエラさんに手を引かれて、踏み込む。

 この瞬間の気持ちとは、未知のダンジョンに初めて踏み入る時の様な感じか。知らないんだけどね。


 店内は薄暗い。だけど、空気が淀んでいたりとか、滅多に開けない押し入れの黴た臭いがする事も無い。少し見た感じでも埃っぽい印象も受けない。きちんと掃除と手入れがされている管理された店内だと判る。「怪しんで御免なさい」と心の中で謝っておく。



「ムヴァ様、居る〜?」



 キョロキョロしているとユーネさんは店内の奥へと向かって声を掛ける。その言葉通りなら店主の名前は“ムヴァ”なんだろうね。ユーネさんの性格的に見て男性店主なら「おじさん」「お爺ちゃん」と言う様な気がするから、その店主は女性の可能性が高いかな。雰囲気的には店主は老齢の女性という事に。あ、別に他意は有りませんから?。いや、本当にね、マジで。単なる事実確認なだけで、深い意味は一切無いので。



「誰だぃ?」


「あ、ムヴァ様〜

お久し振りです〜」


「おや、アンタ達かぃ

久し振りだね、元気そうで何よりだよ」


「ムヴァ様も御元気な様で安心しました」


「はんっ、まだアンタ達に心配されやしないよ」



 予想に反して奥から姿を見せたのは三十歳後半位の貫禄と凛々しさを自然体で纏った女性だった。熟れた肢体は簡素な衣服だろうと関係無く色香を匂わせる。もし、ヴァドで経験せずに逢っていたなら、無意識に生唾を飲み込んでいた事は間違い無いと思える程に。彼女は艶かしい。指先が、眼差しが、長い髪が、唇が動く度に誘われる。篝火に飛び込む夏の夜の虫の様に疑う事無く、魅入られる。そんな圧倒的な妖艶さ。

 老人臭い口調も本人とのギャップで考えれば有り。“姐さん肌”な印象のする彼女には違和感は無いし、歳上という事も有るからか殆んど気にならない。


 談笑する様に挨拶をするムヴァさんの視線が俺へと向けられた瞬間、反射的に身を強張らせた。疚しさは無かったが、妙齢の女性を相手に誤魔化せる程、俺は経験豊富ではない。だから無意識に警戒してしまう。

 ただ、幸いにも手を繋ぐアエラさんが「初対面だし緊張もするわよね」という感じで俺の反応を受け取り「大丈夫よ」と言って俺の事を紹介してくれた後で、簡単に自己紹介をした。


 くすんだ灰色の長い髪、頭部に有る形の良い耳から“狼人(ウォルド)”である事が一目で判る。切れ長な綺麗で鋭い目元も有ってか“女教師”といった印象を懐いてしまう。尤も、そう思うのは前世の知識を持つ俺だからだろう。他の人が同様の印象を懐く可能性は高くはないと思う。まあ、面倒見の良さそうな事には違いないんだけど。厳しい感じもするんだよね。



「成る程ねぇ……」



 アエラさん達から事情を説明され、ムヴァさんから“品定め”されるみたいに見詰められて、緊張する。ただ、怪しむというよりも“獲物を前に舌舐め擦り”している肉食獣の熱視線に晒されているかの様にだ。……ムヴァさんが相手なら個人的には大歓迎ですけど状況的に厳しいでしょう。アエラさん達が一緒だし、宿屋に泊まるんだからね。残念だけど、仕方が無い。



「まあ、ウチに有る物なら武器と防具、一つずつまで好きなのを持ってきな

代金は要らないよ

新人への御祝い代わりだ」


「二つ目からは有料?」


「其処は当然だね」



 ムヴァさんの言葉を聞きアエラさん達は苦笑する。「まあ、其処まで旨い話は無いわよね」という感じで顔を見合せた後、俺を見て選ぶ様に促してくる。


 改めて、店内を見回す。通称通り骨董品屋みたいに色んな物が置かれている。剣・槍・杖・弓矢・手斧、兜・盾・軽鎧・全身鎧、と一通り揃っている感じだ。共通点は“使用済みの品”という事だろう。その辺の詳しい経緯は訊かない程が良い気がする。その品々に各々の歴史が有るのだから全てが同じではない以上、一々気にする事ではない。気にしない、気にしない。


 先ずは防具から考える。当然だけど、俺は十歳だ。内緒のスキル持ちとは言え身体のリーチ等は基本的に大人とは違う。大半の物は大人の冒険者の装備品だ。普通に考えて、合わない。だけど、全く無いという訳ではない。少なくとも中に幾つかは有る筈だ。



「ホビットやドワーフ用の防具って判りますか?」


「ええ、判るわよ

どういった物を探す?」


「胸当てに、手甲・脚甲、軽い頭部用、ですかね」


「ちょっと待っててね」



 俺の希望を聞いて直ぐにアエラさん達は店内に散り商品を見繕ってくれる中、ムヴァさんと二人で待つ。武器を見る振りをしながら彼女と視線が合わない様にキョロキョロとして兎に角落ち着かない様な感じで。だって、下手に会話したら口を滑らせそうなんです。仕方無いじゃないですか。


 それは兎も角、装備品を身に付けたイメージは一応頭の中に有る。小柄な俺が重装備で固めても動けない方が命の危険性は高まる。だから、ある程度軽装備で動き易い方が回避が出来て生存率は上がると思える。全身鎧は個人的には無い。暑苦しそうだし、手入れが大変そうだからね。防具は最小限で十分です。


 10分と経たない内に、アエラさん達が戻ってきて探して来た防具を店内奥の中央に有るレジカウンターみたいな卓の上に並べる。その数、三十七点。何れも中古品だが、素人の自分が見ても状態は悪くはない。そういう風にアエラさん達が選んでくれた訳ではなくムヴァさんの管理が本当に丁寧なんだと判る。まあ、陳列なんかは雑だけど。



「これとかどう〜?」



 そう言ってユーネさんに手渡されたのは頭部防具。ぱっと見では、工事現場の黄色いヘルメットみたいな感じがした。勿論、これも職人さんが真面目に造った防具なんだとは思うけど。どうしても、前世の知識が重なってしまう。その辺は良くも悪くも、だろうね。それが役立つ事も有るし、弊害になる事も有るから。何事も都合の良い事ばかりではないのだから。


 気を取り直して渡されたヘルメット擬きを頭に被る──直前で、中を見て手を止めてしまった。だって、深さが……可笑しいんだ。被るって感じじゃあない。直径30cmの丸いスイカがすっぽりと入る。しかし、フルフェイスタイプだとは思えないデザインだもん。



「……ユーネさん、これ、ドワーフの人が?」


「うん?、ムヴァ様〜?」


「ああ、ドワーフのだよ

頭、デカイだろ?」


「鍋にした方が、使い道が有りそうです」


「ははっ、ドワーフ以外にとっちゃあ、そうだね」



 ムヴァさんが笑いながら答えてくれて、納得する。ヴァドで見たドワーフ達は冒険者だろう装備を着けた男ばかりだったけど、頭は客観的に見ても大きかったですからね。

 そういう訳で、このコは残念ながら不採用ですね。そっと卓の上に戻し置く。キャッチ&リリースは基本マナーですから。きっと、いつか君にも良い出逢いが有る筈だから、頑張って。元気と希望を持ってね。



「む〜……良さそうだって思ったのに〜」


「良い物だとは思います

ただ、合いませんから」


「へー、昔のアンタ達よりしっかりしてるじゃない

装備を見た目や値段で選ぶ様な真似をしない辺り」



 そのムヴァさんの言葉にアエラさん達が苦笑しつつ然り気無く外方を向いた。ユーネさんだけは見たけど三人の事は見ません。特に深い意味は無いんだけど。何と無くですよ?。だから拗ねないで下さい。


 気を取り直して、先ずは頭部用の防具を一通り見てドワーフ用を除外して残るホビット用の物を試着し、映画の飛行機パイロットが被っていたみたいな革製の帽子っぽい物をキープ。


 次に胸当てを見る。既に俺に合わない物は弾かれ、残ったのは僅か三つだけ。ホビットの冒険者が少ないという事なのか。只単純にムヴァさんの関係者の中にホビットが少ないだけか。その辺りは定かではない。

 一つ目は無骨な黒い物。傷付いていても、それさえ深い“味わい”に思える。歴戦感の有る見た目に心が躍るのは男だからか。

 二つ目は白を基調とした派手目な装飾が施された、高価そうな物。此方も傷は有るけど骨董品だと思えば大して気にはならない。

 三つ目はピンク色の物。大小のハートが白と赤にて描かれている女性用だろう可愛らしい品ですね。


 それらを見ながら何れを選ぶか考える。先ず無難に考えるのなら、一つ目だ。二つ目は目立ち、三つ目は言うまでもない。しかし、妙に気になるのが三つ目。自分が着ける事を考えると抵抗感が強いんだけど。



(……あ、これ【直感】が働いているのかな?)



 物に対して使った経験は今までに一度も無かった。──と言うより、意識した事は初めてかもしれない。何しろ、そういう事自体を気にする事が必要無かったというのが実情だったし。気にする以上、訊いてみて損はないと思う。



「あの、この胸当てって、どんな人が使っていたのか訊いても良いですか?」


「ん?、ああ、それか

それはホビットの女だよ

六人パーティーの一人で、パーティー内の人族の男と出来て冒険者を止める時に置いてった物だよ」


「だから他に比べて状態が良いんですね」



 “出来て”の部分が何を指しているかは訊かない。何方等でも関係無いしね。


 それより二つを手に取り【直感】を頼って何方等を選ぶべきかを探る。効果の“一定以上”という部分が評価値的な意味合いなら、三つ目の方が掘り出し物と考えるべきだろう。

 そう考え、三つ目の方の胸当てをキープする。後、念の為に上塗りで塗装する事が出来るのかを訊ねた。鍛冶屋に持って行けば可能だそうです。


 残るは、手甲・脚甲類。それらは両手用・両脚用・両手脚用・片手用・片脚用に分けられる。後者二つは片方が無くなった物という可能性も有るけど、其処はあまり気にしない。

 さっきの胸当ての件での【直感】の効果が有るなら良い物を得られる可能性が高いだろうからね。本当、スキル持ってて良かった。……あれ?、でも、これはユーネさんから複写をした筈だよね?。だとしたら、ユーネさんが良い物を選ぶ可能性が高いのでは?。



(……もしかして、説明に無い効果の適用外の場合も有るって事かな?

もしそうだとしたら、気を付けないと駄目だね……)



 あと、ユーネさん自身の智力・魔力・幸運が俺より低いから、という可能性。まあ、俺みたいに把握する事が出来無い以上、それを確かめる術は無いけど。


 今は、考え過ぎない様に目の前の事に集中する。

 一通り手に取った感じで三つを手元に引き寄せる。一つ目は紺色の両手脚用。特に目立つ装飾も無いので個人的には好ましいけど、肘・膝から先を覆う造りで動き難い印象が有る。

 二つ目は灰黒の両脚用。シューズの上にサッカーの脛当てを付けたみたいな形なんだけれど動き易そう。ただ、防御力的には過度な期待は過酷だと思う。

 三つ目は黒い左用手甲。少し重いけど、盾代わりを兼ねている様で肘近くまで外側の装甲は届く。正直、一番【直感】が選ぶ様にと語り掛けてくる。



「……あの、これとこれを貰うとしたら、御幾ら位に為りますか?」


「そんな下らない事子供が気にしてるんじゃないよ

代金なら“お姉さん達”が払ってくれるから」



 「だから好きに選びな」とでも言う様にウインクしムヴァさんは俺の質問には答えなかった。正直、その気遣いは嬉しくは有るけど相場等の情報が欲しいので出来れば聞きたい所ですが余計な事は言えません。

 アエラさん達も苦笑して「まあ、そういう事よ」と言外に示している。だから御言葉に甘えて、二つ目と三つ目をキープした。

 胸当ては欲しい所だけど頭部用は暫定でしかない。其処まで必要でもないし。


 その辺りをアエラさんに伝えて、後は何れを選んで代金を無料にして貰うのか任せる事にした。だって、相場が判らないし、装備品自体の良し悪しも【直感】任せでしかないからね。

 リシェオに着いたら一度一人で買い物してみよう。買わなくても御店を覗いて色々と情報を集めないと。今のままだと世間とズレた価値観を持ちそうで怖い。


 アエラさん達も過保護な訳じゃないし、ムヴァさんだって普通の反応だけど。俺自身は中身が大人だから“子供扱い”された場合に戸惑うんです。今みたいな場合とかでね。


 胸当てを無料にして貰い他の三つは購入する事に。「頭部用も一応有った方が良いでしょうから」というリゼッタさんの一言により加えられています。ええ、ウナヘビの時の事が有る為「要らない」とは俺からは絶対に言えませんよ。


 さてと、それは兎も角。ある意味でメインイベントとなる武器選びです。妙に緊張してますし、同じ位に期待もしてます。だって、“自分の武器”ですから。仕方無いですよね。それが“凶器”として生み出され“殺戮こそが本質”という側面を持つのだとしても。惹かれてしまうのは。

 此処からは自分の感覚で選ばないと駄目。他の人に意見を訊ねる事はしても、自分で決めなくては武器が手に馴染む事は無い。そう個人的には考えている。


 アエラさんに付き添って貰いながら店内を歩き回り気になった物を持って貰い15分程で卓の所に戻る。候補として並べられた物は全部で六つ。

 一つ目は片刃の白い槍。刺突が中心の槍には珍しく斬り薙ぎも出来る。勿論、刺突も問題無く可能。

 二つ目は緑のレイピア。刃長50cm程の両刃の物。特徴としては両刃の左右の厚みが違う事。偶々なのか意図的な造りかは不明。

 三つ目は黒い杖。黒檀で造られているのかと思うが此方に黒檀が有るのか不明なので置いておく。錫杖の様なデザインで、先端には直径5cm程のエメラルドの様な綺麗な水晶体が有り、如何にも魔法の杖っぽい。

 四つ目は大剣。鞘の無い抜き身の刃は数々の死線を潜り抜けたのだろう傷跡がデザインの様に刻まれる。だが、それで傷んだ様には見えず、寧ろ威圧感を放つ様に感じられる。飾り気は無いので無骨だけと其処が玄人好みな気がする。



「これ、使えるの?」


「あ、いえ、これは自分のではなく、アエラさん達が使えば良さそうだなって、何と無く思ったんです」


「貴男ねぇ……」


「でも、リゼッタちゃん、悪くないかもよ〜

私、これ欲しいし〜」


「……私も、悪くない」



 呆れるリゼッタさんだが俺が言った側から手に取り直に確かめていた【直感】持ちであるユーネさんと、経験等から手に馴染む様に感じる様でメルザさんから肯定の意思を示されると、一つ溜め息を吐いてから、アエラさんと一緒に各々に槍と杖を手に取った。

 次の瞬間、驚きを見せ、一度俺を見てから、真剣に手に持った杖に見入った。それはアエラさんも同様。メルザさんの様に経験から感じる何かが有るのかも。今の俺には判らないけど。何気無い所に四人と自分の差を感じさせられる。



「……確かに、そうね

正直、今使ってる杖よりも手に馴染む感じがするわ」


「長さ・重さは大差無いし薙げるのはいいわね

戦い方に幅が出るから」



 そう言いアエラさん達は顔を見合わせて頷き合うとムヴァさんの方を向いて、自分達の今の武器を彼女の前に並べる。多分、武器の“下取り”をして貰って、差額を支払うか受け取る。そんな所なんだと思う。


 アエラさん達の方は一旦置いておくとして。改めて自分の武器選びに戻る。

 目の前に有るのは二つ。一つ目は大本命の脇差し。今は“脇差し”と呼ぶのが正しいか否かは兎も角だ。日本刀が有るなら選ばない理由は俺には無い。何しろ前世では銃刀法で持つ事は難しい世の中だった。直に本物に触れる機会も稀少。それが、此処では問題無く手にする事が出来る訳だ。その上、長さ・重さも今の自分でも扱える。ならば、迷わずゲットでしょう!。


 そんな熱を奪うかの様に脇差しの隣に置かれている真っ赤な短剣。鞘は無く、剥き出しの刃は血を浴びた直後の様に、赫い。

 アエラさんでさえ、柄を持つ時に「え?、これ?」という戸惑う反応を見せた明らかに怪しい存在だけど──物凄く気になる。

 ただ、【直感】の反応が本気で怖い。振り子の様に良し悪しの間を揺れていて何方等にも全く定まらない感じが続いている。これを受け取ると“物凄く良いか悪いかは貴方次第”という事なのかもしれない。要はハイリスク・ハイリターンなギャンブル的な逸品だ。



(“鑑定”的なスキルとか有れば判るのに……)



 無い物強請りだとは俺も判ってはいるけど。本当に有るのなら今一番欲しいと言えるスキルです。同様に人物鑑定的な意味でもね。

 それはそうとして。今は決断しなくては。脇差しを貰う事は決定、これは絶対変わらないから問題無い。重要なのは短剣。貰うなら悪い方に傾いた場合の事を覚悟しなくてはならない。「幸運を上げて行ければ、上手く行きそうだし此処は買いの一沢っしょっ!」とチャラく軽くは行けない。下手すると自分だけでなくアエラさん達にまで影響が及ぶかもしれないから。

 これがゲームとかなら、取り敢えず入手しておいてセーブしてから装備したらどうなるのかを試してみて駄目ならリセット&ロードすればいいし、アイテムのコレクションとして装備はしないで所持だけしてれば問題無い、という所だが。いざ現実として直面すると大きな問題だった。



「……あの、これを二つ共貰ってもいいですか?」



 そうアエラさん達に向き自分の決断を示す。だが、直ぐに受け入れる事は無く四人の視線は、当然の様に短剣へと向けられている。その後、俺を見詰める目は「本気?」と問う。だから首肯しようとした。



「それが、どういった物か判って言ってるのかぃ?」



 その直前で、ムヴァさんから声を掛けられた。選び始めてからは初めての事に内心で驚くが、その視線を受けて本気だと感じ取る。忠告の意味も含めて。



「勘も良さそうだし、見る眼も有りそうだ

なら、判るだろ?

ソレが普通じゃないって

それでも欲しいのかぃ?」


「……確かに危うい感じは有りますが、それはきっと可能性なんだと思います」


「楽観的だねぇ……」


「いえ、楽観視ではなく、このコは未だ“種”のまま芽吹いてもいないんだと、そう思うんです

だから、もし悪い方に傾く事に成れば、それは自分の責任だと思います

武器は凶器、それが不変の本質だとしても、他の意も“共存”出来る筈です

だから、このコが咲かせる“未来()”を見たいと、そう思うんです」


「…………くっ、くくっ、あはははははっ!」



 我慢し恥ずかしい台詞を真面目に答えたら、暫しの間を置いてムヴァさんから爆笑を頂きました。うん、訊いたのムヴァさんなのに酷いんじゃないですか?。かなり、凹みますけど?。



「く、くくっ、いや、急に笑って悪かったね

いいよ、二つ共持ってきな

アタシからの祝いだ」


「……いいんですか?」


「その短剣はね、アタシの兄が、更に言えば、祖父が生前使ってた物なんだけど中々使い手が居なくてね

まあ、勘の良い奴以外でも忌避する様な物だし、正直アタシも遠慮したい位だ

だから、初めてだよ

(可能性)”だなんて、言い方をした奴はね

そんなアンタだから貰ってやってくれないか?

そして、いつか見せとくれ

アンタ達の咲かせる花を」


「はいっ!」



 冷静に考えると重い話と言えるんだけど。今は只、認められた事が嬉しくて。そんな彼是は気にならず。一緒に歩き始める事になる相棒達に各々に手を置き、「宜しく頼むな」と心中で語り掛ける。返事が有った訳ではないけど、共に掌に鼓動を感じた気がした。




 ムヴァさんに御礼を言い御店を後にしてからは町を適当に案内して貰った後、夕食を済ませて宿に。

 クィエさんの宿とは違い汗を流す為の湯は少なく、平均的な桶一杯分が一人前という感じだった。話ではクィエさんの所は女性専用だけあって、サービス等も素晴らしい物という事を、改めて感じさせられた。

 その後は──ええまあ、いつも通りです。僅か一日だったとは言え、性欲とは溜まる物なんだなと改めて思い知らされました。



「────っ!?」



 思わず「ふぁっ!?」とか叫びそうになった。今まで宿に居る間は毎日欠かさず遣っていた確認作業だった事も有ってなのか無意識にステータスを頭に呼び出し「あ、必要無いよな〜」と自分に苦笑しようとした時──気付いたんです。


[スキル]

【屍骸解体】

屍骸を解体の技術・知識の精度・修得速度の上昇。

熟練する程に解体して得る素材の状態も良くなる。

但し、元々の状態より上の状態に成る訳ではない。


 は?、いやいや、え?、何で?、どうして?──と混乱する思考を深呼吸して無理矢理に破棄する。今は落ち着くのが最優先です。鼻腔を刺激する抱き締めるリゼッタさんの匂いにより愚息が張り切り出すけど、それでも構わない。兎に角意識を別の方に向ける。


 十数秒で落ち着いたから改めて考えてみる。愚息の事は今は無視です。

 【屍骸解体】のスキルは職業とは関係無く修得する事が出来るらしいので別に修得自体は可笑しくない。問題は修得までの速度だ。明らかに異常でしょうが。だって、魔獣の解体だって昨日が初めてだし、人体の解体なんてした事も無い。今朝のウナヘビは、一人で捌いたけど。それにしても可笑しいでしょ。



(……いや、もしかしたら前世での料理の経験とかも加味されてるとか?)



 経験という意味でなら、自分の場合は前世の事でも含まれるのかもしれない。其処に【食の匠】の効果が重なっていたとしたら?。……有り得なくはないか。本来なら職業に就いてからスキルを得て、それから。それが先にスキルが有り、内包する経験値が有るなら起きない事ではない筈。

 普通ではない事だけど。





《ステータス》

:オリヴィア・リクサス

(偽名:シギル・ハィデ)


年齢:10歳

種族:人族(ヒューム)

職業:──


   評価 強化補正

体力:EX +214

呪力:EX  +88

筋力:G+ +139

耐久:G+ +101

器用:F− +206

敏捷:G   +97

智力:F− +118

魔力:G   +75

魅力:──  +83

幸運:── +162

性数:──  27人


[スキル]

【屍骸解体】

屍骸を解体の技術・知識の精度・修得速度の上昇。

熟練する程に解体して得る素材の状態も良くなる。

但し、元々の状態より上の状態に成る訳ではない。




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