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5、謎の訪問者

等間隔で刻まれる軽快なリズム。

風になびくダークグレーのたてがみ。


馬上の少年は、ただひたすら前だけを見つめ、風を切っていく。


ベルシュタイン公爵のいるヴァーニア王国王都まで3日はかかる道のりだ。


ぐずぐずはしていられない。

一分一秒が惜しい。

少年は手綱を握る手に自然と力が入る。


太陽はようやく高い位置に差しかかろうとしている。


王都への道のりは、まだ始まったばかりだった。





時を同じくして、公爵家の前に一台の馬車が停まった。


客車から出てきたのは、貴族の衣装を纏った群青色の髪の青年と淡紅色の髪の小柄な少女だった。


「ふ〜。やっと到着したかい。座りっぱなしはやっぱり疲れるねぇ。そうは思わないかい、ミーア?」


馬車から降りながら、後ろから付いてくる少女に話しかけた。


「はい、クラウス様。長旅お疲れ様です」


ミーアと呼ばれた少女は、抑揚のない口調で貴族衣装の青年に返事をする。



「いや〜、それにしてもベルシュタイン公爵家か。久しぶりだな〜」


「はい。5年と193日振です、クラウス様」


感情に乏しい口調で、ミーアは淡々と答える。



「そんなになるかぁ。確か前回も一緒だったよな」


「はい。ミーアはクラウス様に付き従うのがその役目。もちろん、ご同行いたしました」


そうだったそうだった、と言いながらクラウスは公爵家の門へと近づいていった。





「ようこそお出で下さいました、クラウス様」


二人の客人を出迎えた公爵家執事ジェラルドは、そのままクラウスとミーアを屋敷へと案内する。


「ミーア殿も長旅でお疲れでしょう」


「いえ、私はただクラウス様のお側に座らせていただいていただけですので、疲れなどございません。お気遣い感謝いたします、ジェラルド様」


ジェラルドの言葉に対し、ミーアは相変わらずの抑揚のない口調で返す。


「いや〜それより、ジェラルドさん。先ほどなんですが、恐らくこの屋敷のものだと思われる黒灰の馬とすれ違ったのですが、何かありました?」


これ以上会話が発展しないと判断したクラウスが話題を変える。


「ええ、使用人の一人が急用のために王都へと向かいました。まだ私も詳細は聞いていないのですが、メイド長のダニエラから先ほど報告を受けました」


「ああ、あの家庭教師のダニエラさんかぁ!いや〜なつかしいなぁ。ああいう年上タイプの女性ってなんだかいいですよね。ミーア、帰りに挨拶をしていこうか!」


「はい、クラウス様。年上の女性の魅力に惑わされないよう、ミーアがお守りいたします」


感情に乏しいミーアの口調が、端から見ていたジェラルドには凍てつく風のように感じられた。




老齢の執事は客人を連れ、屋敷2階にある大扉の前に着いた。

そしてジェラルドは目の前の扉をノックする。



「お嬢様。クラウス・コーネリウス辺境伯様がおいでになりました」


部屋の中から声が聞こえ、ジェラルドがクラウスを中へと誘う。


「ミーア殿はこちらでお待ちください」


クラウスと一緒に中に入ろうとしたミーアを、ジェラルドが引きとどめる。


「ジェラルド様、私も中へ。主から離れるわけにはいきません」


「申し訳ない、ミーア殿。これは我が主の意向なのです」


「しかし」クラウスと一緒に中に入ることを止められたミーアは、ジェラルドに抵抗するが


「ミーア、大丈夫だよ。そこで待っていてくれないかい。僕もリア様と二人きりで話がしたい。あ、もちろん真面目な話さ」


主からそう言われたミーアは、無言の同意をした。




ジェラルドとミーアが扉の前に立ち30分ほど経過した頃、ドアノブが回った。

そして開いたドアから、リアとクラウスが出てきた。


「クラウス様、今日は貴重な情報をいただき、どうもありがとうございました」

「いえいえ、リアお嬢様。こちらこそ思いがけないお話に恐縮するばかりでした」


ドアから出てきた二人の主が会話をしている間、それぞれの従者は自らの主の脇にすぐさま移動した。



二人の従者が定位置につくと、


「クラウス様、それにミーアさん。この後お急ぎになりますか?」


リアが客人二人に問いかける。



「いえ、特に急ぐ用はありませんよ。なあ、ミーア。まあ、久しぶりにダニエラさんにご挨拶に伺おうかと思っていたくらいです」


クラウスの返答に、ミーアが主に一瞬だけ鋭い視線を送った。

そんな様子を気にせず、リアが二人に提案をする。


「でしたら、昼食を召し上がっていって下さい。もちろん、御者の方も」


「ああ、それは何とも嬉しい提案だ。公爵家のお食事は格別ですからねぇ。なあミーア、せっかくなのでお言葉に甘えさせていただくことにしよう!リア様、ご好意感謝いたします!」


クラウスの返答を受け、リアはジェラルドに小声で指示を出す。


「かしこまりました。それでは準備が整うまで、しばしお待ちくださいますようお願い申し上げます」


ジェラルドはそう言い残し、一人で廊下の奥へと消えて行った。



「それじゃあ我々は、今の内にダニエラさんにちょっと挨拶をして来ますよ」


「分かりました。では、お食事の準備ができましたら、ダニエラの部屋に呼びに行かせます」


「ありがとうございます、リアお嬢様。では我々は一旦これで」


そう言い残し、客人二人はジェラルドとは反対側へ向かって歩いた。




「クラウス様、リア様とはどのようなお話をされたのですか?」


廊下を歩きながら、ミーアは小声でクラウスに聞いた。


「ああ、ちょっとね」


口を濁すクラウスに、ミーアは続けて問いかける。



「ミーアにも話せない内容なのですか?」

「いや、まあ」クラウスは少し言い淀んだ後、


「うん、僕と公爵家、いやリア様の将来に関わることをね」


クラウスはミーアの目を見ずに言い、「今はここまで」と付け加えた。


今回もここまでお読みいただきありがとうございます!


今回はちょっと軽さを感じられたのではないかと思います。

これまでの登場人物は、どちらかというと「真面目かよ!」っていうキャラばかりでしたから、よりギャップが感じられたかもしれません。

といっても、次の話では青髪の青年のまた違った一面を出す予定だったりもするのですが。


とりあえずサクサクと進めていこうと思いますので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。


あ、ちなみにお忙しいと思いますので、寝る前とか電車待ちの数分だったり、仕事や勉強の合間程度のちょっとした時間にお読みいただければと思います。

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