4、王都へ向けて
3週間で竜燿魔導師になる。
これがルークに与えられた試練だ。しかし、
「ルーク、厳しい条件だということは百も承知です。ただお嬢様達を救うためには、あの黒竜の力なんとかする必要があるのです。そう、あなたの力が必要なのです」
ダニエラの言葉に少年は震えた。
僕の力が必要、今僕は必要とされている。
あの3人の竜燿魔導師と同じように。
英雄を目指す少年にはこれ以上ない言葉だったが、同時に緊張とプレッシャーも感じていた。
ただ、竜燿魔導師になるといっても、どうやって?
「竜燿魔導師は、その圧倒的な魔力によってドラゴンを操ると言われています。ルーク、あなたもあの時、全身から魔力のような凄まじい力を放出していました」
ダニエラの言葉に、ルークはあの悲劇の夜の出来事を思い出す。
「はい、確かにそうでした。でも、僕はあの力をコントロールできなかった、、、」
「そうです。だから、あなたが今すべきことは魔力をコントロールできるようになることです。そうすれば、ドラゴンを思うように操れるようになるはずです」
確かにその通りだ。
ただ、今まで魔法についてのことなど何も調べてこなかったルークには、いきなり魔力のコントロールをしろと言われても、どうしたらいいか分からない。
「3週間で魔力をコントロール、ですか。・・・ああ、こんな時に公爵様がいらっしゃれば」
ルークたちの主であるヘクトール・ベルシュタイン公爵は、この国・ヴァーニア王国4賢人の1人で、【北の夢幻魔導】と呼ばれる現在における王宮筆頭魔導師を務める人物だ。
「ええ、ですからまず、公爵様にお戻りいただけるように使者を送るつもりです」
「ダニエラ様、もし公爵様がこのお屋敷に戻ってきていただけるなら、3週間後までずっといていただければ問題は解決するのではありませんか?」
そう、どんなに黒装束が大人数であろうと、彼らを排除できるくらいの力をヘクトールは持っているのである。
「もちろん、このお屋敷を黒装束から守るにはそれが最善でしょう。ですので、それも最優先で考えるものの1つです」
その言葉に、ルークは少し安堵する自分を感じた。
「ですが、仮に公爵様が戻られたとしても、あなたの力が暴走しないとも限りません」
ダニエラの言うとおりだった。
仮にヘクトールが黒装束たちを倒したとしても、ルークの力が暴走してしまえば被害は免れない。
ドラゴン相手では、さすがのヘクトールも苦慮するだろう。
「そこでルーク、あなたが王都まで公爵様をお迎えに行き、お側で魔力の遣い方を教わるのです」
「え!?自分が公爵様のお側にですか!?」
ダニエラの言葉にルークの緊張度は跳ね上がった。
ルークにとってヘクトールは雲の上の存在だ。
公爵家に来た頃に話をする機会があったくらいで、普段は滅多に話すこともない。
話をするのも憚られる存在だ。
そんな人物の側で教えを請えと言われ、緊張をしないわけがなかった。
しかし、今はそんなことを言っていられる状況ではない。
自分がやるしかないのだ。
今こそ自分が戦うべき時なのだ。
2つの憧れに向かって行動するべき時なのだ。
そう思い、ルークは決心をした。
「分かりました、ダニエラ様。すぐに準備をします」
そう言うと、ルークは部屋に戻り僅かの荷物をまとめた後、ダニエラの部屋に戻ってきた。
「馬を用意しておきました。皆には私から伝えておきます。すぐにでも発ってください」
ルークの姿を確認するや否や、ダニエラが言葉を発した。
「ありがとうございます。ただその前に、お嬢様に一言挨拶をしてきます」
ルークは荷物を一旦置き、リアの部屋へと走った。
「リアお嬢様!」
部屋の前で叫ぶルークの声に、ドアがゆっくりと開く。
「ルーク、どうしたの?」
まだ少し疲れた顔をしたリアが、息を切らしているルークに驚きながら聞く。
「お嬢様、しばし暇をいただきたいと思い、その旨を伝えにきました」
「え?暇って、急にどういうことですか?」
「申し訳ありません。どうしてもやらなければいけないことができてしまって」
リアには不安を与えたくないと思ったルークは、本当のこと――3週間後の悲劇――については触れないようにした。
ルークの真剣なまなざしにリアは何か思うところがあったのか、深くは追及してこなかった。
「・・・そうですか、分かりました。あなたがそこまで言うのなら、大事なことなのでしょう」
「お嬢様、突然の申し出で申し訳ありません」
唐突なお願いに多少の後ろめたさもあり、ルークはリアへと謝ると
「ただし」リアがルークの目を見て言った。
「必ず3週間後には戻ってきてください」
「え?」とルークが聞き返すと、リアは当然のように笑顔で言った。
「だって、3週間後はルークの誕生日でしょ」
もちろんルークは覚えている。
その日を既に2度も経験している。
今は意識したくない日でもあった。
しかしそんな最悪になるであろう日を、目の前の少女は笑顔で祝おうとしてくれている。
この人の目に涙を浮かばせるようなことがあってはならない、そう思いルークは顔を引き締めた。
「はい、その日までには必ず戻ります!待っていてください!」
ルークは少女に約束をし、屋敷を後にした。
一台の馬車が公爵家の前に止まったのは、そのしばらく後だった。
今日も暑い中、ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回のは、話を先に進めることを重視しすぎてちょっと強引だったかな、って思いました。
まあ、そういうのもWeb小説的ライブ感だと思うので、そのまま投稿しました。
次話は新キャラ登場予定ですので、是非こちらもお読みいただければと思います。
また、まだまだ暑い日が続くので、体調面もお気を付け下さい。
外回りをしているようであれば、カフェに退避した際に、この物語をサクッとお読みいただければと思っています。