3、短かき3週間の始まり
少年はベッドから飛び起きた。
額に冷や汗。
鮮明に残る凄惨な光景。
何だ、これは?
以前にも同じ夢を見た記憶がある。
恐らくこれが2度目だ。
あれは夢なのか?
いや、夢のようには思えない。
脳裏に焼き付いたリアルな光景。
手に残っている少女の感触。
自分が憧れの少女を殺してしまった?
少年はあまりにも鮮明過ぎる夢に、現実との区別がつかず頭の整理が追いつかない。
乱れていた呼吸を一度整える。
状況を整理しよう。ルークがそう思った時だった。
「お嬢様!」
突如、屋敷に声が響き渡った。
リアの身に何か起きた!?
ルークはすぐさま部屋を飛び出し、リアの部屋へと走った。
すると、リアの部屋の前で叫ぶダニエラの姿があった。
彼女がドアのノブに手をかけようとした時、ゆっくりと部屋のドアが内側に開いた。
そしてドアの隙間から寝間着に上着を羽織ったリアが出てきて、
「おはようございます、ダニエラ?どうかしました?」
少し疲れたような表情をしながらダニエラに話しかけた。
「お嬢様・・・」
ダニエラは、少し安心をしたような顔をし言葉を続ける。
「いえ、申し訳ありません。少し嫌な夢を見たもので」
「あら、そうですか。大丈夫?私は昨晩ちょっと寝付けなくて。もうちょっと寝かせてくれるかしら」
ダニエラはリアの顔を見て安堵したようだったが、リアは低血圧に加え寝不足の様で辛そうな顔をしていた。
「申し訳ございません、お嬢様。それでは後程カミラに起こしにくるように伝えておきます」
「お願いします」
リアはそう言うと、ゆっくりとドアを閉めた。
ドアが閉まったのを見届けたダニエラは、ドアを見つめたまま数秒の間佇んでいた。
ようやくその場を立ち去ろうとした時、少し離れた場所に立っていたルークと目があった。
「・・・ルーク」
ルークはこっそり見ていたことの気まずさから、名前を呼ばれてビクッとしてしまった。
「お、おはようございます。ダニエラ様」
とっさに朝の挨拶をしたが、そんなルークの言葉を無視するようにダニエラは言った。
「ちょっとよろしいですか」
隅々まで掃除の行き届いた部屋。
ここはダニエラの部屋だ。
リアの部屋の前から二人はここに場所を移した。
小さなテーブルにダニエラとルークは向かい合って腰掛けている。
「・・・ルーク」
ダニエラは少し考える素振りを見せ、そして話し始めた。
「あなた以前、お嬢様の部屋に駆け込もうとしたことはなかったかしら?そう、さっきの私みたいに」
ルークはドキッとした。そう、あれは夢の中の出来事だったからだ。
「いや、私の記憶違いかもしれないんだけど。若しくは夢の中の出来事か」
・・・夢の中の出来事。
自分とダニエラが同じ夢を見た?
でも、そんな奇妙な偶然はありえないだろう。
そう判断したルークは、自分が見た夢の話をした。
「はい、恐らく夢の中の出来事だと思うんですが、お嬢様の部屋へ駆け込もうとしたことがありました」
「そう、そうなのね」
ダニエラは目を瞑って何やら考え込んでいるようだ。
この際だ全部話してみよう、そう思ったルークは言葉を続ける。
「あの、ダニエラ様。僕が見た夢には続きがあって」
ルークは夢の内容を事細かに説明した。
自分の誕生日、黒装束の集団、黒竜、皆の死。
その話をしていくにつれ、ダニエラの目がどんどん見開いていった。
そしてルークの話が終わったところで、ダニエラが口を開いた。
「ルーク、実は私も同じ夢を見ました」
ルークは目を見開き、ダニエラと数秒間見つめあった。
そして再度ダニエラが口を開いた。
「ルーク、これから突拍子も無い話をしようと思うんですが、聞いてくれますか?」
「は、はい」
ルークはむしろ聞きたい気持ちでいっぱいだった。
「普通に考えて、私とルークが同じ夢を見るなんていうことは有りえないと思いませんか?しかも細部まで全く同じだなんて」
ルークは素直に頷く。
それを確認したダニエラは話を続ける。
「だとすると、考えられることは1つしかないと思うんです。それは、二人とも時間を遡ったのではないか、ということです」
「え!?」
実は、ルークも一瞬だけ考えたことだったが、すぐに打ち消した考えだった。
しかし、その考えを他人から聞かされるとやはり驚きが先行する。
「あの、ダニエラ様。そうなると、僕の誕生日の日にこの屋敷が襲われ、皆死んでしまうということに」
「ええ、そうなりますね」
ダニエラは、俯き目を瞑りながら答えた。
「そんな!ダニエラ様!僕は、、、僕が変な力を、、、変な力を使ってしまうから、、、皆を、、、お嬢様を、、、お嬢様を殺して、、、、、ああ、、、何で、、、何で?何でですかーっ!」
「ルーク!落ち着きなさい!」
「落ち着いてなんかいられません!だって、僕が、僕のせいで」
「黙りなさい!」
パニックになるルークに、ダニエラが声を荒げる。
今までに無いくらいの声に、ルークは息を飲みダニエラを見つめた。
すると、ダニエラが目を潤ませながら体全体が小刻みに震えているのに気付いた。
「ルーク、私もあなたと同じ気持ちです。あんな状況は2度と経験したくありません」
ダニエラは自分を落ち着かせるように一度息を吐き、そしてゆっくりと話を続ける。
「だからこそです。だからこそ、私たち二人で何とかしましょう」
「え?何とかって。ダニエラ様!何をどうするっていうんです?」
ダニエラの話が無謀なことに思え、ルークは再び声を荒げてしまう。
「ルーク、落ち着いて下さい。あの惨劇を回避する方法は、恐らく二つだけだと私は思います」
「二つですか?」今度は冷静に聞き返す。
「そうです。一つは、このお屋敷が襲われないようにすること。つまり襲われる前に然るべき処置をするということです」
「然るべき処理、ですか。もう一つは?」
「ええ、もう一つは、襲われてしまった場合に備え、何とかして黒装束達を倒す手段を考えることです」
「倒す手段、、、」
「そうです。時間がありませんから手分けしましょう。私は前者を考えます。ルーク、あなたは後者をお願いします」
「え、僕が黒装束を倒す方法を考えるということですか?」
「いえ、正確に言うと、黒装束を倒すために『あの力』をコントロールできるようになって下さい」
「え?コントロール?僕が?」
「そうです。もしまた同じ状況になるのであれば、あの場で戦うことができるのは、ルークあなただけです」
「僕だけ?」
「そう、あの状況では、あなたが公爵家を守れる唯一の存在なのです」
「・・・唯一の存在」
「そうです。そしてタイムリミットは、あなたの誕生日までの3週間。あなたはこの3週間で、竜燿魔導師になって下さい!」
3週間で竜燿魔導師になる。
公爵家の人々、リアお嬢様を救う。
そして、英雄になる。
今、少年の心に火が灯った。
日曜日の深夜だというのに、ここまで読んでいただきありがとうございます!
もうお分かりかと思いますが、タイムリープものです。
竜の力の方は王道的な展開になりそうな雰囲気になっていますが、タイムリープの方は別方向に着地しそうな展開になってきています。(さてどうなるか)
といっても、まだ3話目ですからね。
ということで、引き続き次話もお読みいただけると嬉しいです。
それでは、また新たな1週間が始まってしまいますが、今週もよろしくお願いいたします!