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26、誰の為に

ルークは地面に座り、目の前で繰り広げられている戦闘を見ていた。


凄まじい展開だった。


自分では手も足も出なかったピエロの剣士とクラウスは互角に戦っている。


両者とも武器は剣だ。

互いに剣を弾き合い一進一退の攻防を続けている。


「ん〜、君はそんな格好の割になかなかやるじゃないかい!」


相手の剣さばきを払いながらクラウスが言った。


「いえいえ、あな〜たと戦り合えて光栄で〜すよ。剣神クラウスさん!」


「おやおや、僕の名前を知ってるのかい?」


クラウスは両手で剣を握り直しながら言った。


「有名じゃな~いですか、あなたは。なにせぇ、あなたの首を獲〜れば、一躍有名になれま~すからね」


「そうなのかい?まあどうせなら女性の間で有名になりたいところだけどね。あとさ、剣神っていうのはやめてくれないかい。こそばゆいんだよね」


今度はクラウスの攻撃を、ピエロの剣士が自らの剣で受け止める。


「安心し〜てください!そう呼~ばれるのも、今日までで〜すから!なぜな〜ら、あなたは私に倒され〜るからです!」


「ほぉ、そうかい。いやあ、僕はさあ、そういうビッグマウスも嫌いじゃないよ。ただし、実力が伴えばだけどね!」


その言葉の後、両者は互いに剣をはじき、一度距離をとった。




一方、少女と黒装束たちの戦いは一方的だった。


ミーアは微動だにせず魔法を連打していく。


彼女の手から放たれた魔法が黒装束の前で次々と爆ぜる。

そして、次々と黒木死体が積み上げられていく。


力の差は歴然だった。

しかし逆に、数的優位性は相手の方にあった。


倒しても倒しても次から次へと黒い影が湧き出してくる。

あたかも闇が彼らを生み出しているようだった。


一気に殲滅するために、より広範囲を攻撃する上級魔法を使おうにも、詠唱時間が必要になる。

しかし数的に勝る黒装束たちは、詠唱時間を与える暇もないペースでミーアに襲いかかる。


さすがのミーアもこのままではマナが切れてしまう

そう思ったルークは、ミーアの詠唱時間を稼ぐために助太刀しようと立ち上がった。


すると、ミーアが手で制し、抑揚のない声で言った。


「構うな、おまえは休んでいろ」


「え、でも」食い下がろうとするルークに、


「私を甘く見るな」


と冷たい声が飛んだ。



その声を聞き、ルークはその場で立ち止まった。





「さてさて、じゃあそろそろ終わりにしようかね、ピエロ君。僕はリア様に挨拶しておきたいんでね」


クラウスはピエロの剣士に対して宣言した。

そして、その言葉を聞いたミーアも顔つきを変えた。


突然上昇気流が巻き上がったかと思うと、彼女は滑らかに空中へと浮かんでいく。

5mほどの高さまで浮かび上がったところで、彼女は動きを止めた。


そして、上空に向かって攻撃をしかけようとする黒装束たちを見下ろしながら、彼女は詠唱を始めた。



一方、クラウスは剣を上段に構え、切っ先を相手の方へ向けた。

すると、剣全体がクラウスの髪と同じ蒼く輝き始めた。

同時に、剣を中心として空気が流れ始めた。

その流れはどんどん強くなり、やがて大きなうねりとなった。



ピエロの剣士の顔から笑みが消えた。

彼はクラウスに襲いかかろうとするも、その大気のうねりによって全く近づくことができない。


ルークの結界を破った力も、クラウスが放つ力の前では無力のようだった。


そして、遂にクラウスの持つ剣から放たれる輝きが最高潮に達した。

同時に、上空に浮かんでいるミーアの詠唱も完了した。


目を見開くピエロの剣士。

後ずさる黒装束たち。


そして二つの声が重なる。



青燿閃(アズロストラトス)!』

天燿爆(フレアフレイム)!』



クラウスの剣から放たれる蒼閃光。

それは大気のうねりに乗り、ピエロの剣士を一気に包み込む。


また上空から放たれる高出力魔法。

一瞬で周囲に立ち上る業火の爆発。



まるで嵐が起きているかのようだった。

全身を押し付ける爆風と爆圧。

ルークは目を開けていることさえできない。

地面に伏せ、右腕で頭をかかえるしかなかった。






「ふぅ〜、終わったね。ミーア、ご苦労様!」


クラウスはミーアに向かって話しかけた。

ミーアもゆっくり空から降りてきてクラウスの隣に立つ。


辺りは完全に静まり返っている。


ルークはようやく立ち上がり、状況を確認する。

そこで立っているものは、クラウスとミーアだけだった。


公爵家の襲撃犯達は、この二人によって殲滅させられたのだ。

状況を把握したルークは二人の方へ体を向けた。


「クラウス様、ミーア様、この度はありがとうございました!で、でも、どうして?」


ルークは二人に感謝の言葉を述べつつも、ずっと思っていた疑問を口に出した。


「ルークくん、それは決まっているじゃないか。それはね」


クラウスがそう答えた時



「ルーク!」遠くから声が聞こえてきた。


声がした方を振り返ると、公爵令嬢リアの走ってくる姿があった。


「お嬢様!」ルークは手を振りながら呼び返す。


リアは近づいてくるにつれ、ルーク一人ではないことに気付いたようだ。

互いに顔が見える位置まで来ると、二人の訪問者の方を見てリアは改めて口を開いた。



「クラウス様にミーアさん。どうしてここに?」


クラウスは右足を引き、リアにお辞儀をする。


「リア様、ご機嫌いかがですか」と挨拶をした後、

「それにしても、何という絶妙なタイミング。ちょうど今、ルークくんにも同じ質問をされたところだったんですよ」


クラウスが陽気に言った。


「そ、そうですか。それで一体?」状況が理解できていないリアは、きょとんとしている。


「ええ、まあ一言で言うなら、この前に会った時のルークくんの目がちょっと危なっかしい感じだったからですかね」


「え!?僕の目が、ですか?そ、そんなでした!?」


思わず聞き返すルーク。


「そうだね、凄く思いつめて一人で抱えこんでる感じでね、なんか危険なことに首を突っ込みそうな雰囲気だったよ。なあ、ミーア」


「はい、クラウス様」


ミーアは相変わらず抑揚のない声で返答する。


「だからね、ベルシュタイン領を見張らせていたんだ。おかしな動きがないかどうか。そうしたら見事にヒットしたわけだよ」


クラウスは状況を説明した。



「そうでしたか。では、クラウス様とミーアさんに助けていただいたのですね。本当にありがとうございます」


リアは深々と頭を下げた。


「リア様、ちょっとちょっと。そんな頭を下げないでくださいよ。フィアンセの危機を守るのは当然じゃないですか」



「…フィアンセ?」


ルークとミーアは一瞬思考が止まった。



「あ、あの」「クラウス様、どういうことですか?」


喋りかけたルークの声に、ミーアが上から言葉を被せた。


「うん、まあ、小さい頃にさ、親同士が勝手に決めたことなんだけどさ」


クラウスは小さな声で言い訳を始めた。


「なぜミーアに黙っていたのですか?」


抑揚のないミーアの口調に、より一層冷たさを感じる。

いや、冷たさを通り越して冷酷さの域に達している。


「ほら、この前も言っただろう。僕らの話を聞くことは、場合によっては命の危険を感じることになるって。まさに今この状態のことだよ。僕は命の危険を感じてる!」


クラウスとミーアがそのようなやり取りをしている中、リアがルークの元に近づいてきた。



「ルーク、どうして一人で行ってしまったんですか?」


「申し訳ありません。もうこれ以上、お嬢様を危険な目に合わせたくなくて」


ルークは下を向きながらリアの言葉に答えた。


「ルーク。あの時、言ったじゃないですか…一人にしないでって。私…、もう一人にはなりなくないの」


「お嬢様…」


ルークは顔を上げリアの方を見ると、リアも下を向いていた。


「あなたが…あなたにはいなくなって欲しくないの…」


「お嬢様…」


下を向いたままリアは顔を上げない。

肩が震えている。


「お嬢様?」ルークは再度リアに声をかけるも、未だ下を向いたままだ。



「ルークくん」後ろから声がかけられた。


ルークは振り返り、クラウスを目を合わせた。


「君はさ、もっと人のことを考えた方がいい。君が考えていることは、自分の気持ちだけだ。誰かを助けたいって思っているのも、結局は自分の気持ちにすぎないんだよ。本当にその人がどうして欲しいか、それを考えることが一番大事なことなんだよ。僕はさ、リア様とは親同士が決めた関係でしかないけど、でもリア様が今どう思っているかは分かっているつもりだよ」


「クラウス様…」


ルークは己の行動を振り返った。



確かにそうだった。


リアを救いたい。

屋敷の人たちを守りたい。

英雄になりたい。


全て自分の気持ちだけを考えていた。

相手の気持ちなんて考えていなかった。


じゃあ、今のお嬢様の気持ちは?



ルークがそう考えた時だった。


ルークの視界に、リアの背後に忍び寄る影に入ってきた。



「ほぉ~ほっほっほっ!まだで~すよ、まだ終わりませ~んよ!」


ボロボロになったピエロの剣士が剣を振りかざして姿で、そこに立っていた。


「しまった!油断した!」


クラウスが叫んだ。

ミーアも目を見開いている。


まずい!ルークの心拍数が一気に上がった。


クラウスとミーアが動き出そうとするが、既にピエロの剣士の腕は動いている。


間に合わない!



と、そこに何かが飛び込んできた。


次の瞬間、ルークが目にしたのは、地面に倒れる二人の女性と流れる血だった。


今回もここまでお読みいただきありがとうございます!


無事解決と思いきや、というお決まりのパターンです。

屋敷の戦いももう少し続きます。


是非次もお読みいただければと思います!

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