24、業火に焼かれる
公爵家に続く街道沿いで行われている戦闘。
ルークは再び紫闇魔導の結界を発動させた。
その数分前、公爵家で行われているルークの誕生日パーティ。
まもなく運命の時刻を迎えようとしていた。
リアは時間を気にしている。
彼女に取ってはもう何度も経験をしている瞬間だ。
だから襲撃される時刻は既に頭に刻み込まれている。
その時刻が迫るにつれ、彼女の鼓動も早まっていた。
一方ルークは、部屋の隅にある椅子に腰掛けたままだ。
まだ具合が悪そうにしている。
リアはルークに近寄り声をかける。
「大丈夫ですか、ルーク?」
「はい、お嬢様。もう少し休めば大丈夫だと思います」
「そうですか。もうすぐあなたの挨拶の時間ですよ。そして運命の時刻」
リアは真剣な眼差しでルークに告げた。
「はい、承知しております。必ず今度こそ成功させてみます」
優れない体調の中、目には力を込めてルークは返答した。
「分かりました。では、ギリギリまで休んでいて下さい」
リアはそう言うと、ルークの隣に腰掛けた。
「お嬢様?」
「私も少し休みます。ずっと立っていたので少し疲れてしまいました」
リアはルークに笑顔を向けた。
その笑顔を見たルークは、何か観念したような表情を見せた。
そして、いよいよ運命の時刻。
今までのループ同様、ルークの挨拶をする時間になった。
リアは立ち上がり皆に向かって声を出そうとした時、あることに気づいた。
隣に座っていたはずのルークの姿が消えていたのだ。
その椅子の上に、紫色の拳大の魔道具を残して。
「さすがにこの結界を発動させるためには、屋敷の残してきた魔力を戻すしかありませんでしたよ。でも今回は逃がしません」
ルークは両手を広げながらピエロの剣士に向かって言い放った。
「くっ!や、や〜るじゃな〜いですか。ま、ま〜さか結界と〜は。それにし〜ても、前回と〜か今回と〜か、以前に会ったことがあ〜りましたか?」
「いえ、今回は初めてですよ」
「よく分〜かりませんが、まあい〜いです。こんな結界、す〜ぐに破ってみせますよ!」
「そうはいきませんよ。なぜなら今回のはより強力なのにしてありますからね」
その言葉を言った後、ルークは周りに視線を移した。
そこには先ほどルークが投げつけた塊が紫色の怪しい光を放ち、それぞれの塊同士をその光が結びつけていた。
そう、それが結界の外周になっていたのだ。
「アレには、僕よりも数千倍強い方にマナを込めてもらってます。だから並大抵のことではこの結界を打ち破ることはできませんよ」
「な〜るほどですね。確かに動〜くのがちょっと大変ですね。でも、外からだ〜ったらどうですか?さあ、皆の者!」
ピエロ剣士は、配下の黒装束達に向かって声を上げた。
外からその塊を壊させるつもりのようだ。
しかし、何の動きもない。
「ピエロさん、僕の目的は分かりますか?」
「ん?な〜んですか?」
「僕の目的はですね、公爵家を襲わせないことです。つまり、あなた方を誰一人として、ここから先に通さないことです!」
ピエロの剣士は周囲を見渡す。
「つまり、僕はあなた一人だけを食い止めるつもりなんてないということですよ!」
ピエロの剣士の目に飛び込んで来たのは、動きを封じられている黒装束達の姿だった。
「あなたに対する結界ほど強力ではありませんが、事前に同じような魔道具をこの周囲に置かせてもらいました。つまり、二重で結界を張っているということです」
「くっ!小癪で〜すね!」
ピエロの剣士はしきりに体を動かそうとする。
しかし一向に体は動かない。
「残念ですが、動くのは無理ですよ」
ルークはそう告げたのだが
「ふっ、は〜っはっはっはっはっは!」
突然ピエロの剣士が笑い出した。
「何がおかしいんですか?」
その笑いに警戒したルークはピエロの剣士に問いかけた。
「あ〜あ、すみません。い〜や、動きを止めただ〜けで勝ったつもりのよ〜うなのでね」
笑いながらピエロの剣士は言葉を続ける。
「あなたのマナが尽きたら、そこで終〜わりじゃないですか」
しかし今度は逆にルークが笑みを浮かべた。
「そんな意味のないことを僕がするとお思いですか?」
「ん?何か策でもあ〜るのですか?」
ピエロの剣士は余裕のある表情で言い返した。
「例えばこんなのはどうでしょうか」
ルークの紫色のローブから影が滑り落ちて来た。
その影はルークの前で動きを止め、姿を顕にした。
それは角と手足の生えた紫色の蛟だった。
「今日のために、先生から借りてきました」
この蛟はグリシナの契約する精霊の一種だ。
3週間前に公爵家で行われた会談で精霊の話が出たので、ルークはグリシナに「自分も精霊を使えないか?」と相談をしたのだ。
すると、「精霊を扱うには、特別な資質とマナが必要だから、今のお前には無理」と言われたのだが、引き下がったところこの蛟を一時的に貸す、という方法をとってくれたのだ。
「ま、ま〜さか、ここまでやるとは…」
ピエロの剣士の顔から笑みが消えた。
「あなたさえ倒せれば、残りの黒装束達は何とかできますからね。それじゃあいきますよ」
ルークはそう言うと、目の前の蛟に攻撃の指示を出した。
その蛟はスルスルとピエロ剣士の方へ近寄っていった。
そして頭を高く上げ、口を大きく開いた。
「や、やめろおおおおおおおーーーーーーー!」
ピエロの剣士は叫んだ。
しかし、その叫び声を打ち消すように別の音が響いた。
蛟の口から業火が放たれたのだった。
その火は辺り一帯を焼き尽くした。