22、辺境伯の目
「クラウス・コーネリウス辺境伯、遠い所ようこそお出で下さいました」
公爵令嬢リアは相手の貴族を丁重に出迎えた。
場所は、ベルシュタイン公爵家応接室。
机を挟んでリアとルーク、反対側にクラウスとミーアが並んで腰掛けている。
「リア・ベルシュタイン様、こちらこそお時間をいただき光栄です」
抑揚のない小さな少女の隣で、群青色の髪の青年は爽やかに答える。
「それにしても、リア様と二人で話をすると思っていましたが、まさか4人でとは」
続けざまに話すクラウスに、リアが説明する。
「ここにいるルークは私が一番信頼をしている者ですので、全てを聞いておいて欲しいのです」
「一番ですか?私はてっきりジェラルドさんを一番信頼しているのかと思っていましたよ。そうですか。いや〜立派になったんだね、ルークくん。僕のこと覚えてるかい?」
ルークはクラウスと目が合ったため、緊張していた。
「あ、コ、コーネリウス、へ、辺境伯様、も、もちろんでございます」
「ああ、そんなよそよそしい言い方じゃなくて、クラウスでいいよ。で、ミーアのことも覚えてるかい?」
クラウスは、机に隠れて胸から上しか見えない少女をちらっと見る。
それにつられルークも彼女の方を見る。
「ええ、もちろん覚えています」
ルークは若干嘘をついた。5年前のことは覚えていなかったが、つい最近の2度目のループの時に会っていたからだ。
そんなルークを、ミーアは無表情な顔で一瞬見た。
「ではそろそろ本題の方に入りましょうか」
リアが切り出した。
「あ、その前に一つだけ」クラウスが言葉を挟んだ。
「ミーアもルークくんも分かっているとは思うけど、ここでの話はくれぐれも内密にしておくれよ。場合によっては僕らの命に関わるかもしれないからね」
クラウスの言葉にルークが反応した。
「え、命ですか!?」
「クラウス様、そこまでのことなのですか?」
リアが口を出す。
「ええ、場合によってはその可能性も十分にあり得ます」
クラウスは真面目な顔で答えた。
その顔を見て、ルークは「かしこまりました」と答え、ミーアも無言で頷いた。
「よし分かった!じゃあ始めましょう」
そう言うと、クラウスは懐から一通の書簡を取り出した。
「こちらが陛下からの書状です」
クラウスはリアにその書簡を渡した。
それを受け取ったリアは、クラウスの顔を見る。
「どうぞ中身をご確認下さい。中身は私も知らされておりません」
そう言われたリアは、王国の封印が押された封筒を開け中の用紙を取り出した。
その用紙を少しだけ見つめた後、すぐに顔を上げた。
「分かりました」
リアはクラウスの目を見て言った。
その言葉に対しクラウスが聞き返す。
「リア様、私は返事を聞いてくるようにと陛下から仰せつかりました。今のは承諾と受け取ってよろしいのでしょうか?」
「ええ、構いません」リアは即座に答えた。
「承知しました。ではその旨を陛下にお伝えします。ではちょっと失礼」
そう言うと、クラウスは懐から魔蝶を取り出した。
その魔蝶に文字を書き、手から放った。
すると魔蝶は壁をすり抜け飛んで行った。
ルークも一度使用したことがあるが、魔蝶は魔鉱石から作られた魔道具だ。
持ち主の元へと伝言を届けることができる便利アイテムである。
蝶の形をしているからその名が付けられているだけで、生き物ではない。
「ふぅ~、これでやっと肩の荷がおりましたよ。それにしてもリア様の決断力の速さはさすがですね」
「いえ、以前こういった夢を見たことがありましたので」
リアはそう言いながらルークの方をちらっと見た。
恐らく毎回このやり取りをしてきたのだろう、と想像したルークは思い切って聞いてみることにした。
「あの…手紙の内容をお伺いしても?」
ルークは申し訳なさそうな表情でリアを見た。
リアは一度クラウスの方を見る。
「手紙はリア様以外には見せるなということでしたが、その内容をどうするかはリア様の自由にしていいかと思いますよ。それに、私もちょっとだけ興味ありますし」
「分かりました、クラウス様。手紙の内容は、王都に来るように、ということです」
「え?王都にですか!」と聞き返すルークに対し、クラウスは、なるほどといった顔をしている。ミーアは無表情のままだ。
「精霊様の件ですか」クラウスは呟くように言った。
「ええ、そのようです」
クラウスの呟きにリアが答えた。
「精霊様…?クラウス様、それは危険なことではありませんか?」
ルークはクラウスに問いかけた。
「どういうことだい?」
ルークの問いかけに怪訝な表情を見せたクラウスが聞き返した。
「あ、えっと、リア様の身に危険が及ぶことがないか心配になりまして」
「リア様の身に危険が及ぶ心当たりでも?」
「い、いえ、そういうわけではないのですが」
本当のことを言えないルークはクラウスの質問に口を濁すしかなかった。
その様子を見たクラウスは、何かを察したようだ。
「まあ、危険はないとは思うけどねぇ。強いて言うならリア様に王都に行って欲しくない人物が途中で邪魔をするくらいかねぇ」
クラウスはルークから目線を逸らしながら言った。
「王都に行ってほしくない人?そんな人が?」
疑問をぶつけるルークに、クラウスは笑みを浮かべながら答える。
「ああ、一人だけなら心当たりはあるけどね」
「え、誰ですか?」
「君だよ」
きょとんとするルークに対し、クラウスは笑いながら話を続ける。
「まあそんな感じさ。だから危険はないと思うよ。安心したかい?」
「え、ええ、まあ」
「まあ、王都に行くにもまだ時間はあるだろうし、何かあったら知らせるよ」
そう言ったクラウスの目は、どこか遠くを見ているようだった。
その後は当たり障りのない会話が続き、会談は終了した。
リアとルークは門戸まで二人を見送った。
「ではまた、次にお会いするのは王都になるかと思います」
クラウスはリアにお辞儀をした。そしてルークの方へ向き直り
「ルークくん、何かあったらいつでも知らせておくれよ」
そう言い残し、馬車で去って行った。
いつも読んでいただきありがとうございます!
前回今回と、もしかしたら退屈に感じられてしまう可能性のある回が続いてしまいました。
最初に書いた文章は、もっと違う感じだったんですが。
まあ、後々に繋がるものとしてみて頂ければと。
それでは、引き続きよろしくお願いいたします!