21、きっかけを見つけに
ルークは目を開けた瞬間、ベッドから飛び起きた。
まぶたに残っている光景は、まだつい先ほどの出来事だ。
公爵令嬢リアが黒装束たちに無残に虐殺されたのは。
何度も見てきたが、死の瞬間を目撃するのは彼にとっては辛いものだった。
特に、自分に近い人間であれば、その苦しみは計り知れない。
しかし、今のルークは冷静だった。
自分よりもはるかに辛い状況を経験している少女の気持ちを理解できたからだ。
「こんなのはもう終わりにしなきゃいけない」
ルークは決意ともいえる言葉を呟き、部屋を後にした。
窓から朝の柔らかな日差しが差し込む部屋。
白いレースのカーテンがそよ風に揺れている。
全体を白を基調としたその部屋の中央に設置されたテーブルに、リアとルークは向かい合って座っている。
「お嬢様、先ほどは申し訳ありませんでした。ただ立っているだけしかできなくて」
「何を言っているの、ルーク。あれは私が勝手にやったことですよ、全てをやり直すために。絶対に今回で終わりにしましょう」
「は、はい、お嬢様」ルークの返事に、リアは笑顔を浮かべる。
「でも嬉しい。こうやってあなたとこの話ができて。もう私は一人じゃないのですね」
リアは本当にうれしそうだった。
この少女はずっと孤独に闘ってきたのだ。何度も何度も自らの命を奪われながら。ルークはそのことを考え、改めて自分の決意を確認した。
「はい、お嬢様のお側にはいつも僕が控えております。必ず今回で全部終わりにしましょう」
「ありがとう、ルーク。それで、何かいい案はありますか?」
ルークもリアも、これまでに対策は講じてきた。しかし今までは、どれも上手くいかなかった。
「はい、僕はグリシ…いやコリーナ・ベルシュタイン様に魔法の特訓をしてもらいに行こうと思います」
「え、コリーナ叔母様?ああ、そういうことだったのね、前々回の時にあなたが急に魔法を使えるようになったのは」
リアは納得した顔をした。
「はい。3週間ほど特訓をしてもらいました。ただあの時は基礎しかできるようにならなくて。だから今度は、もっと強力な魔法を使えるように頑張ります!」
「そうですか。分かりました。じゃあルークは魔法を頑張ってください。ただ、あのピエロ剣士はかなり強かったですから、念のため別の対策も考えておく必要がありますね」
月下の奇剣士となのるピエロ姿の剣士は、過去のループで一度しか出てきていないが、紫闇魔導の魔力を借りた結界を破った実力の持ち主だ。ルークが実力をつけたとしても勝てる保証はない。それに、ピエロの剣士以外の手練れがいないとも限らない。
「このお屋敷で戦える人と言えば…」考え込むルークに
「ジェラルドぐらいでしょうね」リアが答える。
「ジェラルド様…。でもジェラルド様は」
「そう。無事であれば、お父様に呼ばれて襲撃の前日に屋敷を発ってしまう」
ルークもリアも何度も経験していたのだ。ダニエラが発した禁忌の言葉により昏睡状態になった時を除いて、襲撃日には必ず屋敷を不在にしていた。
「なんとかこのお屋敷に残ってもらえれば…」
「そうですね。お父様次第…ということですね。何とかならないか考えてみます」
「申し訳ありません、お力になれずに」
リアの言葉に対し、ルークは頭を下げる。
確かに、使用人であるルークには、ジェラルドを引き留めることなどできるわけはないのだ。
「あの、僕もグリシ、いやコリーナ様にこのお屋敷に来てもらえないか相談してみます」
「…うん。多分、来てくれないとは思いますが、でもとりあえずお願いします」
そのやり取りをしている時、ルークはふと思い出した。
「そういえば、コリーナ様が仰っていたのですが、お嬢様は襲撃されることついての心当たりがあるのでは?」
そう、以前のループの時に、裏の世界の情報に精通している紫闇魔導から、リアに恨みを持つ人物がいるとの情報を聞かされていたのだ。そのことをダニエラに伝えたのだが、結局襲撃犯を特定するには至らなかったのだが。
「コリーナ様がですか?いえ、特に思い当たる節はないのですが」
「そうですか。お嬢様のことを恨んでいる人がいる可能性があると聞いたもので」
「私を恨む人…。」
そう呟くと、リアは目を瞑りしばらく無言になった。
しばらく続いた沈黙だったが、それを破ったのはドアをノックする音だった。
「お嬢様」ノックオンに続いて、侍女のカミラの声が聞こえてきた。
「どうしました?」
ドアの方へリアが話しかける。
「クラウス・コーネリウス辺境伯様が到着いたしました」
カミラの声にリアはハッとした表情を見せた。
「あら、もうそんな時間でしたか!?すぐに支度をいたします。カミラ、クラウス様には少々お待ちいただくように伝えて頂けますか」
「かしこまりました、お嬢様」
カミラの言葉を聞いた後、リアは今度はルークに向かって言った。
「ルーク、あなたも同席してもらえるかしら?」
「え、僕がですか?よろしいのですか?」
「ええ、もしかしたら何かのきっかけが見つかるかもしれませんから」
「はい、かしこまりました」
そう言ったルークは、緊張しながら辺境伯とリアの会談の場を想像した。
その姿を見たリアがひとこと言った。
「着替えるので部屋の外で待っていてもらえませんか」
今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。
北海道の方、被害は大丈夫でしょうか
心よりお見舞い申し上げます