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20、リアとルーク

ルーク4度目の17歳の誕生日の夜。


誕生パーティは開かれなかった。


当の主役が3週間前から廃人同然の状態になってしまったために。




月の光に照らされる公爵家の中庭。


公爵令嬢リアに手を引かれ、ルークはおぼつかない足取りで歩を進める。


そして、二人掛けのベンチに揃って腰掛けた。



「ルーク、誕生日おめでとうございます」


リアがルークに向けてお祝いの言葉を告げるも、それがルークの耳には届いているのかは分からない。

ただ焦点の定まらない視線を前に向け、半開きの口で息を繰り返しているだけだ。


「何回目のおめでとうだったかしら」


リアは星空を眺めながら言った。


「ルーク。私ね、いろいろと悩んでいたの。でも、決心した。仮にあなたに何か危険が及ぼうとしても、あなたは私が絶対に死なせない」


『死』という言葉に、一瞬ルークが反応したようにリアは感じた。


「ルークは、今夜のような月の光を浴びると咲く花があるのは知ってる?」


リアは独り言を言うかのごとく、話を進めていく。


(ムーン)麗花(ライトセレナーデ)っていう花なんだけどね、満ちた月の光を浴びることで何度でも花を咲かせる不思議な植物なの」


ルークは微かに上を向いたように見えた。


「昔はね、何だか不気味な花って思ってたの。だって月が満ちる度に花を咲かせるのよ。月の光を浴びて蘇るゾンビみたいじゃない?」


リアはルークの方を見て笑みを浮かべた。


「でもね、最近になって、やっぱり素敵だなって思うようになったの」


リアはルークの顔が自分の方に少しだけ動いたような気がした。


「だってね、何度も何度も花を咲かせるっていうことは、他の植物とか人間の人生をずっと見守り続けているっていうことでしょ」


リアはベンチから立ち上がり、ルークの正面に立った。


「私ね、昔は自分のことを皆に見て欲しいって思ってたの。自分のことをいっぱい知ってもらいたいって。でもね、ある時、私の役割って何だろうって考えた時があったの」


リアは背中の後ろで手を握った。


「その時にね、私は皆に見てもらうんじゃなくて、皆のことを見てあげるべきなんじゃないかって思ったの。だってね、お父様や私のために皆一生懸命に尽くしてくれているんですもの」


ルークの目は変わらず焦点が定まっていない。


「皆には本当に感謝しかないの、私は。小さい頃から本当にたくさんお世話をしてもらったし。だから、少しでも皆の為になることをしたいと思って。それで、これからずっと私は皆のことを見続けていこうと思ったの!」


そこで息を吐き、次の言葉を言った。



「何度死んだとしても」



「!?」


ルークの目が見開いた。

それは3週間ぶりに見せる反応だった。



(何度死んだとしても?)


しかし、ルークの頭の中では情報を処理できていない。



(何度死んだとしても。何度死んだとしても。何度死んだとしても)


ルークの混沌とした意識の中をこのフレーズが何度も行き交う。


そして、徐々に意識が覚醒し始める。



何度…死んだ…お嬢様が



どういうこと?


ルークの頭の中を様々な記憶が洪水のごとく押し寄せる。



命を落とす前にリアが発した言葉

時を遡った朝のリアの表情、言葉

ルークの部屋に来てくれた時の言葉


そして「一人にしないで」という言葉



まさか…自分とダニエラ様の他に



ルークはそこまで考えた時、リアが自分の顔をじっと見つめているのに気づいた。



そして、


「よかった。ルークはやっぱり大丈夫だったみたい」


大丈夫?何が?リアのその発言の意味がルークには分からなかったが、リアはさらに話を続ける。



「実はね、ルーク。…私、何度も死んでいるの」


リアの発言にルークは何の反応もできない。



「正確に言うとね、何度も死に戻りしているの。あなたの誕生日の夜に」


何度も?



「最初はね、もう訳が分からなかった。死に戻りをしたことを誰かに話すと、その人が呪いにかけられたかのように倒れてしまうし」


「お、お嬢…」ルークは言葉を発しようとするも上手く言葉にできない。



「あなたやダニエラや皆の死ぬ姿を何度も見るうちに気が狂いそうにもなった」


「え、あ…」



「もう生き返りたくないって思っても、それでも死に戻ってしまうの。でもね、ある時、ルークだけは死なないで欲しい、って心の中で願ったの」


「え?」



「そうしたら、死に戻った直後に、あなたが私の部屋に駆けつけてくれたの、大声を出して」


「あ、あの」



「次の時は、あなたとダニエラとカミラの3人は、って願ったの。そうしたら、あなたとダニエラが来てくれた。でもカミラはいなかった。もしかしたら彼女は、私が願う前に死んでしまったからなのかも」


「え、あ…」



「でもその次は、死に戻った直後、誰も来てくれなかった。だからあなたの部屋に行ってみたの」


「あ、あの、お嬢様はいったい何度、その、死に戻りを」ルークは震える声を抑えつつ聞いた。



「多分10回以上になると思う」


「10回以上…そんなに…」ルークは言葉が続かない。



「でもね、私は決めたの。全員が生き残れるまで何度でも挑戦するって。それが皆を見守り続ける私の役目だって」



ルークは言葉が出なかった。

自分はたった3回失敗しただけ、たった3回皆の死に直面しただけ。

それだけで打ちひしがれ、絶望に陥っていた。


でも、リアは違った。

大切な人たちの死に10回以上直面したにも関わらず、まだ挑戦し続けようとしている。

しかもたった一人で。


それに、自分も精神的に辛いにも関わらず、落ち込むルークのことを気にかけてくれている。

ちゃんと周りの人間のことを見続けている。



ルークは自分の甘さが情けなかった。

憧れの女性の足元にも及ばない自分の心の弱さに腹が立った。

挑戦を止めてしまった自分の意志に嫌気がさしていた。


自分の決意は何だったんだ。


皆を守るって決めただろう。

自分がやるって決めただろう。

英雄になってやるって決めただろう。


何で自分はすぐに諦めてしまったんだ。

たった3回の失敗で。


こんなんじゃだめだ。

お嬢様だけに辛い思いをさせちゃだめだ。


僕もやらなきゃ。

僕がやらなきゃ。

僕は変わらなきゃ。



少年は再び目を見開いた。


「お嬢様っ!僕はっ、僕が絶対にお嬢様を守ります!絶対にお嬢様を一人にはさせません!だから、だから必ず、一緒に生き延びましょう!」


するとリアは笑みを浮かべ、


「ありがとう、ルーク!どんなことがあっても、私はあなたのことは忘れない。あなたも私のことは忘れないでいてくれますよね」


「はいっ!もちろんです!」


「ありがとう。じゃあ、ダニエラのために、皆のために。もうこれで最後にしましょう!」



そう言うと、リアは塀の方へと走って行った。


(!?)突然の彼女のその行動に、ルークは一瞬思考が止まった。



すると、タイミングを合わせるように黒装束の集団がそこに現れた。


「あ!」ルークは小さい言葉を発した。



黒装束たちと接触する寸前で、リアはルークの方を振り返り叫んだ。


「また後で!」



その言葉を言い終わるや否や、リアは黒装束たちに切り刻まれた。



「お嬢様、お嬢様ああああああーーーーーーー!!!!!」


ルークは叫び声と共に白い光に包まれた。


今回も最後までお読みいただきありがとうございます!


4回目のループも終了しました。

いよいよ次が5回目です。

もちろん、これまでとほぼすべて違う展開になる予定です。


引き続き、よろしくお願いします!

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