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19、堕ちる

小鳥の囀る穏やかな朝。


少年はベットに横になったまま天井を見つめている。


「ああ、また、戻って来てしまったんだ…」


誰に言うとでもなく、そう呟いた。



あの時、


何とかできたかもしれない。


誰一人として命を落とさせずに済んだかもしれない。


僕がもっと力を付けていれば。

僕がもっと冷静でいられれば。

僕があの時周りを見ていられれば。


全て自分のせいだ。自分の不甲斐なさのせいだ。



少年が見つめていた天井が次第にぼやけて来た。



もしあの場にいたのが僕じゃなかったら。

もし力を宿しているのが僕じゃなかったら。

もし時を遡ったのが僕じゃなかったら。


他の誰かだったら、上手くやれたはずだ。



天井を見つめる目尻から、幾筋もの涙が落ちていく。



やっぱり僕じゃ駄目なんだ。

やっぱり僕には守れないんだ。

やっぱり僕は英雄になんてなれないんだ。


誰かを守るなんて、軽々しく言っちゃ駄目なんだ。

英雄なんて選ばれた人しかなれないんだ。


少年の頭の中は、次から次へとタラレバが繰り返されていた。



そんなルークの部屋のドアを、誰かがノックした。


しかし少年は一切の反応を見せない。


再度叩かれるドア。


それでも反応しない少年。


すると、ゆっくりとドアが開いた。



そのドアから顔を覗かせたのは、公爵令嬢のリアだった。



「ルーク、大丈夫ですか?」


その透き通った声を聞き、ようやくルークは反応を示した。


「あ、お嬢様。申し訳ありません」そう言いながら、ベッドから体を立ち上がり


「いかがされましたか?」とリアに問いかけた。


「ええ、今朝はルークの姿が見えなかったもので、ちょっと心配になりました。体調でも悪いのですか?」


「はい、少し気分が優れなくて。でも仕事は責任を持っていたします」


ルークは覇気のない声で返す。


「そう、無理はしないでね。私からジェラルドに言っておきましょうか?」


「あ、いえ、大丈夫ですので。ご心配していただきありがとうございます」


そう答えながらリアの顔を見たルークは気付いた。


「あの、お嬢様こそ顔色が優れないようですが?」


「ああ、ちょっと寝不足と貧血のせいかしら。最近はいろいろと考えることがあるので。でもこうしてルークとお話ができたので、少し元気が出ました」


「そうですか。お嬢様にそう言っていただけると光栄です」


「ルークも元気出してねっ!もしあなたがいなくなったら、私一人になってしまうんだから!」


……(一人になってしまう)その言葉に、ルークは何も返すことができなかった。(リアお嬢様を一人に…)


「ルーク?大丈夫ですか?」リアの声でルークは我に返る。


「あ、申し訳ありません。はい、僕もお嬢様と話ができて元気が出て来ました。ありがとうございます!」


空元気でルークは言葉を返した。


「ルーク、それじゃあ今日も頑張りましょうね!あ、あと、3週間後のあなたの誕生日、パーティをやりますからね!」と言うと、リアは部屋を出て行った。



リアと会話をしたことで多少気も紛れたルークだったが、正直これからどうしたらいいのか分からなかった。


しかし、このまま部屋に篭っていても気が滅入るだけだと思ったルークは、全てを話すことができる唯一の人物の部屋へ行くことにした。



「ダニエラ様、今少しお時間よろしいでしょうか?」


部屋のドアをノックし、中に声をかけた。

すぐにドアは開き、中からダニエラが顔を出した。


「ルーク、朝からどうしたのですか?」


「あの、僕はどうしたらいいのか分からなくて…」


俯いて話すルークを見たダニエラは、


「分かりました、とにかく中へ入ってください」


とルークを部屋の中へと誘導した。



綺麗に片付けられた部屋の中で、向かい合って座るルークとダニエラ。


「ルーク、今日はどうしました?」


優しく話を切り出したダニエラに対して、ルークは泣きそうな顔で話し始めた。


「あの、ダニエラ様…。やっぱり僕じゃ、無理なのかもしれません。魔法の特訓をしても、最低限の力しか身に付けられませんでした。リアお嬢様も、公爵家の人たちも、それにダニエラ様も…守れませんでした…」


ダニエラはただ黙って聞き続けている。


「対策を練って準備をしても、結局結果は変えられないんです。皆、死んでしまうんです。僕くは…僕はもうこれ以上、人が死ぬのを見たくないんです。リアお嬢様もダニエラ様も、命を奪われる姿を僕はもう見たくはないんです!」



そこまで言った時、


「ちょっと、ルーク?ちょっといいですか?」


ダニエラが言葉を挟んで来た。その彼女をルークは赤く腫れた目で見つめる。


「いったい何の話をしているのですか?リアお嬢様や私の命が奪われる?」


ルークはダニエラの発言を理解できず、目と口を開いたままだ。


「ルーク、あなた悪い夢でも見ましたか?」


「え?ダニエラ様こそ何を言ってらっしゃるんですか?」


今度は逆に、ダニエラが怪訝そうな顔でツークを見つめ返してくる。


「あっ」とルークは声を上げた。


「申し訳ありませんでした。ダニエラ様は最後どうなったご存知ではないのでしたね。失礼いたしました。結局僕は、今回も力をコントロールすることができず、お嬢様を守ることができませんでした」


ルークはそう言うと、頭を深々と下げた。



「ルーク、ちょっと待ってもらえますか?力とかお嬢様を守るとか、いったい何なのですか?」


「え?ダニエラ様。以前、僕の誕生日にこの屋敷が襲撃される場面に遭遇したではありませんか。そしてその後一緒に」



そこまで言った時だった。


ダニエラは突然苦しみ出した。


胸を押さえ上半身を前に倒す。

呼吸がどんどん荒くなる。

そしてそのまま床に倒れ動かなくなった。


一瞬の出来事だった。


ルークはただ立ち尽くしているだけだった。


一体何が起こったのだ?ルークは困惑した表情でダニエラを見つめている。



「もしかして…僕のせい…なのか?」


ダニエラの反応

噛み合わない会話


ここに来て、ルークはやっとある考えに辿り着いた。


「前回のジェラルド様と同じ状況…。もしかして、今回ダニエラ様は時を遡っていない?だから…」



そう、今回ダニエラは時を遡っていなかったのだ。

だからルークがその話をしようとしたために呪いにかけられてしまったのだった。


ルークがそのことに気付いた時には、もう全てが手遅れだった。



「ダニエラ様…ダニエラさまーーーーーーーーーーーーーーっ!」



申し訳ありません!申し訳ありません!!申し訳……ああああああああ!!!!!


もう駄目だもう駄目だもう駄目だもう駄目だもう駄目だもう駄目だもう駄目だもう駄目だ

僕は駄目だ僕は駄目だ僕は駄目だ僕は駄目だ僕は駄目だ僕は駄目だ僕は駄目だ僕は駄目だ


ルークは頭をかきむしる。爪が皮膚に食い込む。髪が抜ける。血が滲む。



あああああ、僕はもう駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ!!!!!!



ルークは廃人同然となった。



そして3週間後、リアに手を取られたルークは誕生パーティの会場にいた。


最後までお読みいただきありがとうございます!


もうすぐ一つの謎が解決する予定です。

次回あたりできっと。(これから書くのですが)


ということで、引き続きお読みいただければと思います!


よろしくお願いします!

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