15、迎撃の時
「ルーク、誕生日おめでとう!」
いよいよルークの誕生日が始まった。
黒装束達の襲撃まで残りわずか。
パーティ会場でルークとダニエラは常に互いの位置が確認できる位置にいる。
公爵家の人たちからのお祝いの言葉に答えながらも、ルークはダニエラと視線を交わしながら常に警戒を解かずにいる。
そんな二人の様子を、リアは遠くから時折眺めていた。
「来た」ルークは何かを察知したかのように呟き、ダニエラに合図を送った。
その合図でダニエラは「伏せて!」と叫んだ。
公爵家の人々は、突然のダニエラの叫び声に驚き、全員がしゃがみ込んだ。
なおも「床に伏せて!」と叫ぶ声に、全員が床に伏せながら顔を見合わせた。
その瞬間、照明が消え、ガラスの割れる音が室内に響いた。
次に聞こえて来たのは、人がバタバタと倒れる音。
響き渡る悲鳴。床を這う気配。室内は騒然となる。
暗くて状況が分からない。
突然明かりが灯った。
広い室内が隅々まで見渡せる。
そこに広がっていた光景は、窓際に倒れる黒装束達の姿だった。
部屋の中央には床に伏せる公爵家の人々の姿。そしてその中心に立つダニエラ。
窓には新たな黒装束達の姿が見えている。
すぐさま彼女は全員に向かって言い放つ。
「早く避難を。皆こっちへ!」
その声で、公爵家の人々は全員立ち上がり、ダニエラの誘導の元、部屋の外へと走り出した。
「地下の食料庫へ!みんな、急いで!」
ダニエラは扉の外で全員を誘導する。そして、最後の一人が部屋から出た。しかし
「おかしいわ。一人足らない…」ダニエラが呟いた。
事前の打ち合わせでは、黒装束達を迎え撃つルークを残して、屋敷の人たちを地下の食料庫に誘導する手筈になっていた。
黒装束達が窓から侵入する瞬間に、あらかじめ仕掛けておいた魔道具を使い、黒装束達を迎撃する。
これは、いざという時のためにヘクトールがジェラルドとダニエラに密かに渡していたものだ。
初動で黒装束達の人数を減らし、その隙に公爵家の人たちを地下へと避難させる。そして残った黒装束達をルークが相手をする。
そういう予定だったのだが、ドアの外で出てくる人の数を数えていたダニエラは、自分とルークを除いても、一人足らないことに気付いたのだ。
「ルーク、一人足らないわ!」
部屋の中に残ったルークに向かって叫ぶ。
「本当ですか!?誰ですか!」
ルークは窓から侵入してこようとする黒装束達から目を離さずに聞き返す。
出ていたた人の顔を一人一人思い返すダニエラ。
「まさか…」彼女がそう呟いた瞬間、窓際を黒装束達が埋め尽くしていた。
「ダニエラ様も早く地下へ!」振り返らずに叫ぶルーク。
「でも」
「早く!」ダニエラの言葉を遮り、急かすルーク。
「リアお嬢様よっ!この部屋から出て来ていないのは!」
「えっ!?」この状況で一番聞きたくない人の名前が出て、一瞬ルークはダニエラの方を振り返った。
しかしその隙を敵は見逃さなかった。
ルークが後ろを振り返った瞬間に、黒装束達は一斉に動き始めた。
「ルーク!」ダニエラの叫び声が室内に響いた。
体の向きを戻すルークに黒装束達が襲いかかる。
背中越しに、「お嬢様は僕が何とかします!ダニエラ様も早く地下へ!」と叫んだ。
その声を聞いたダニエラは「ごめん!」と呟いた。そして走り出した視界の端に入って来たのは、黒装束達に囲まれるルークの姿だった。