14、運命の時に向けて
木漏れ日の差し込む公爵家の中庭に透き通った声が響く。
「ダニエラ、カミラ」
その声に反応するように、二人の女性が声の主に近づいてくる。
「はい、お嬢様」
「準備はいかがかしら?」お嬢様と呼ばれた金髪のハーフエルフの女性リアは、二人の女性に確認する。
「はい、順調に進んでおります。もう間もなく終わるかと思います」
「そうですか、いろいろとありがとう。じゃあ、後は」
リアはそう言うと、風に髪を靡かせながら屋敷の方へ歩いて行った。
その数時間後、一匹の馬が公爵家の門前に止まった。
馬上にいるのは黒いフード付きマントにを羽織った人物。
目深にフードを被ったその人物は、公爵邸をじっと見つめていたが、しばらくすると、馬を進めた。公爵家の敷地の屏まで至った時、再度馬を止めた。そして馬から颯爽と降りると、壁に手を当て小声で何かを呟き始めた。
「お嬢様」
リアの部屋の前。一人の少年がそう呼びかけた。
ドアが開き中から少女が顔を出す。
「ルーク!お帰りなさい!」
「お暇いただきありがとうございました。ただ今戻りました」
ルークは深々と頭を下げた。
「いかがでした?この3週間は」
「はい、お陰様で実のあるものとなりました」
「そう、それはよかったですね!では、今日のパーティも楽しめますね!」
「はい、いろいろとありがとうございます。お嬢様」
再度頭をさげるルーク。それを見たリアは、
「パーティが始まるまで、部屋でゆっくり休んでください」と笑顔で言葉をかけた。
「はい、お言葉に甘えさせていただきます」
ルークはお辞儀をし、廊下を歩き始めた。しかし向かったのは自室ではなく、メイド長の部屋。
メイド長の部屋のドアをノックしたルークは、「どうぞ」という声を聞き中へ入っていった。
「ダニエラ様、失礼いたします」
部屋の中では猫人のメイド長ダニエラが神妙な顔つきで待っていた。
「ルーク、お帰りなさい。特訓はいかがでしたか?」
「はい、やれるだけのことはやりました。ただ、自信はありません」
ルークの顔にも笑みはない。
「ダニエラ様、黒装束の方はいかがでしたか?」
「ごめんなさい。首謀者は誰なのかは分かりませんでしたので、手を打てませんでした」
ダニエラは目を瞑りながら答えた。
「ではやはり、今日このお屋敷は」
「ええ、そうね。きっと襲撃される」
その言葉をきっかけに、二人の間にしばし無言の時が流れる。
「ジェラルド様のご容態はいかがですか?」
ルークは沈黙を破った。
「ええ、変わらずです。ずっと眠られたまま」
「そうですか」
「ダニエラ様、必ず僕が何とかしてみせます!そのための3週間だったのですから」
ルークは真剣な眼差しをダニエラに向けた。
「ルーク、この3週間で見違えましたね。いい顔つきになりました」
「はい、紫闇魔導さん…コリーナ様のおかげです。とてもお世話になりました」
「そうですか。ではルーク、あなたに全てを任せていいのですね」
「はいっ!」
力強い声で返事をしたルークに、ダニエラは初めて安心と頼り甲斐を感じたのであった。
そして、
「ルーク、誕生日おめでとう!」
運命の誕生日パーティが始まった。
今日もお読みいただきありがとうございます!
9月最初の投稿です。
構成上、今回はかなり短めになりました。
いよいよ運命の戦いに突入です。
ということで、引き続きよろしくお願いします!