11、紫闇魔導
「くっ!」
ルークは馬上でまたも身動きを封じられている。
「ん〜、また会いにきてくれるなんて嬉しいじゃなぁい、坊やったらぁ」
舐め回すような声が辺りに響く。
「私のおもちゃになる気になってくれたのねぇ。ヘクトールじゃなくて、私を選んでくれてありがとうね!じゃあ、さっそく」
「い、いや、ちょ、ちょっと待って下さい!コリーナ・ベルシュタイン様!」
ルークは慌てて口を挟む。
「ちょっと坊や〜。その名前で呼ぶんじゃないよ!」
声の主は、突然語気を強めた。その豹変に、ルークは心拍数が上がった。
だが、すぐに元の艶かしい声に戻った。
「私にはねぇ、紫闇魔導っていう名前があるのよ。い〜い?」
「は、はい。グリシナ様」
「そう、いい子ねぇ。で、何かしらぁ?」
「じ、実は、グリシナ様へのお手紙を預かっています。僕のカバンの中に入っています」
身動きが取れない中、目線で手紙の在処を示した。
「手紙ねぇ」
声がするのと同時に、黒灰の馬に積んであった荷物が宙に浮き、木々の間へと飛んで行った。
「ふ〜ん、ジェラルドね。なつかしいわねぇ」
その言葉が聞こえた後、紙が擦れる音がしてきた。そして紙を折りたたむ音がした後、
「なるほどねぇ。彼には世話になったしね、分かったわ、話くらい聞いてあげるわよ。言ってごらんなさぁい」
話を促されたルークは荷物が飛んで行った方に目を向け、口を開く。
「あの、僕を強くして下さい!!!」
緊張していたルークは、気付くとそう叫んでいた。
「強く?はあ?」
突然、強くして下さいと言われて意味がわからなかったのだろう、すぐさま
「どういうことかしらぁ?」と聞き返した。
「あ、す、すみません」と謝ったルークは、再度お願いをした。
「あ、あの、僕に魔力のコントロールの仕方を教えて下さい!!!」
「魔力のコントロール、なるほどねぇ。それは私にぴったりなお願いねぇ。何と言っても紫闇魔導なんて呼ばれてるわけですもの」
「お、お願いしますっ!」
ルークは声と目だけで訴えかける。
「で、それを教える代わりに、坊やは私に何をくれるのかしらぁ?」
「え?」ルークは言葉に詰まってしまった。
「まさか、タダで教えてもらおうと思ったのかしらぁ?世間ではね、何かを頼む時にはそれ相応の対価を用意する必要があるのよぉ。特に裏の世界ではなおさらねぇ」
ずっと使用人として勤めてきたルークは、そのようなことは全く考えていなかった。
そもそも最初からそのような考えが頭になかったのだ。
「え、えっと…」
「普通は大金やレアアイテムを用意したりするものだけど。でも用意してないみたいね。じゃあ私が決めてあげるわ。坊や、あなたの体を差し出してもらうかしら!ふふふっ!」
自分の体?それだけは…拒絶の意思がルークの顔に表れる。
その表情を見たグリシナの声がさらにルークに迫る。
「いいのかしら〜?魔力の使い方を教えて欲しいんでしょ?ねえ、欲しいんでしょ?」
確かにそうだ。リアお嬢様を公爵家を救うために、魔力をコントロールできるようにならなければいけない。僕はみんなを失いたくない。
でも、条件を飲んだら皆と一緒にいることはできなくなってしまう。
でも、条件を飲まなければ皆を救えない。
でも、皆と一緒にいたい。
でも、皆を救いたい。
でも、でも、でも、でもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでも
使用人として生きてきたルークには、決断をする機会なんて今までなかった。
だから決断をしろと言われてもなかなかできるものではなかった。
今まではただ言われたことをやってきただけだ。
自分の意思で決めたことなんて何一つなかったからだ。
自分で決めたことを唯一挙げるとすれば、それは自分がなりたいものだけだった。
そう、彼がなりたいもの。
「僕は英雄になりたい!」
「グリシナ様。分かりました。僕のこの体をグリシナ様へ捧げます。ただ、3週間だけ待って下さい。3週間後、全てが片付いたらこの体を自由にしてもらって構いません。だから、僕に魔力の使い方を教えて下さいっ!」
ルークは真剣な眼差しで言い放った。
「ん〜、いい顔ねぇ。分かったわ。じゃあ交渉成立ね!」
「よ、よろしくお願いします!」
ルークは体が動かないのを分かりつつ、いつもの癖で頭を下げようとした。
すると、突然体が動くようになり、馬上から転げ落ちてしまった。
「いてて」打ち付けた頭を抑える。
「ふふふっ。交渉が成立したんだから、結界は解いてるわよ」
ふいに真上から声がした。
ルークは声がした場所を見上げると、黒いローブに身を包んだ紫紺の髪の美女が立っていた。
「坊や、これからよろしくね!いろいろと」
こんばんは、今日もお読みいただきありがとうございます!
なんだか年上の女性キャラが多くないか?って言う声が聞こえてきそうな気がします。
ただそこは、主人公がまだ16歳でしかも使用人なのでご容赦いただければと思います。
まあ後は、一応展開上の関係とかもありますので。とだけ言っておきます。