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Eランク


 第1章 Eランク



 午前中からはじまって、もう昼はすぎてる。

 厚いガラスごしに僕らの世界が蹂躙されていくのを特等席に着いてぼんやり眺めていた。

 右腕をつらぬいたナイフが椅子と僕を固定し、足元に血の池をつくりだしている。

 宇宙人の侵略だ。一方的で、姑息にじっくりと練り上げられた積み重ねの暴力。

 止められるヤツはついさっき、消え失せた。

「これから新しい世界がはじまるんだよ」

 慈悲深く、傲慢で妖艶な笑みで――。


 僕がやったんだ。



【アクイース】



「きゃあ!」

 どんがらがっしゃ~~ん!

 国立緑王学園1年E組で教鞭を振るっている先生が派手な音をたて芸術的にすっ転んだ。

 イテテテ……チャーミングに頭をさするドジっ子の完全体。メガネでおっとり。お母さんより優しいと評判の僕らのマドンナだ。ちなみに29。やった、って感じだ。

 そんな先生が尻餅をついて僕らにエムジ開脚を披露してくれているのだから、男の子はのぞきこむほかなかった。数学の授業のはずが、真奈先生のおパンツ鑑賞会になっていた。

「白い、白くて白くてどうにかなっちまいそうだぜ……」

「白、白、黒、青、白、白……ここから導き出される周期は……」

 青春真っ盛りの学園生男子たちが純白のフリルを脳に焼きつけていた。

 しかし、その甘美なる一時も長くは続かなかった。背丈の高いショートカットの女子が先生の前に立ちふさがったからだ。

「そこへなおれ。列形成は二列で前の人と間を空けないように」

 巳志長みしおさ 菜々がボギボギと拳をならしていた。

 先生を見守る塊となっている僕たちは天敵から逃れるためにザッと引く。拳が唸るたびに指の間から小さな炎がしぶきをあげていた。おまけに平均身長くらいの僕と背丈があまり変わらない。無駄に足が長くでかい。つまり、威圧感がパない。

 毎度のことながらこの破壊神にしばきまわされ、僕らは向こう側(あの世)の大きな樹の下で反省会をしたものだった。

 だが、人間は失敗から学ぶんだ。

「フォーメーションM!」

 僕が教室の後ろへ走り底辺の中心になると三角形ができあがった。

 硬く繋がれた手はちょっとやそっとじゃ離れない結合力を感じる。鋭利に尖った先端(秋山くん)は腰が引けている。菜々を始めとした女子が呆れているのを無視して、両手に意識を集中させた。

 僕はいう。この作戦は、僕がピースだ。

【アクイース】

 その瞬間、三角形構成員たちの髪の毛が漫画みたいに逆立って淡く光りだす。

 ウオオオオオオ! 青臭い三角形の力強い雄叫びが授業中の教室をうめつくした。

 新しいなにかしらの力に目覚めたような雄々しい咆哮。溢れ出るリビドーによって気が大きくなっている僕は、普段よりもキザったらしく号令をかけた。

「行くぞみんな! せーの!」

【【【スワンプソング】】】

 能力発動のかけ声をシンクロさせ、両手を水平あげる。

 人工的な十字架が15本。

 シンクロした。

 かばっていた腕を菜々がおろした。体に異常が無いか探っている。

 特になかったみたいだ。腕がなくなったり指がなくなったり動けなくなったり、もしていない。

 フォーメーションMを崩さない男子の十字架が立ち並んでいる異質な空間に、女子らは所在なさげに顔を見合わせて、きもい、とコメントした。

「殴りすぎてついにオカシクなったか……」

 昔から立派なお胸の前にかかげられた左手が、小指から順に折りたたまれていく。余程強く握りこまれているんだろう。一本ごとにパキッとなる。折られた指は炎に包まれ、最後の親指が握りこまれると、スイッチが入ったように大きく燃え上がった。

「そんならもう1回ぶっ叩いてもとに戻すしかないか」

 炎が収束して腕の全容が拝める。鋭い爪にむき出しの筋肉ような筋張った禍々しい装飾。鬼の手があったらこんな感じだろう。

 巳志長 菜々の能力【ヘッドシュリンカー】と赤く変化した瞳から放たれる威圧感と殺意が僕らを震え上がらせる。でも、ここで尻尾を巻いて逃げてしまっては、いままでとなにも変わらない。

 それにこちらの能力があと少しでその傲慢で豊満な身体を暗黒の彼方へと誘うことにお前はまだ気がついていない。

 それはそれとして足が勝手に震えてきた。

 ぶん殴られれば、乗用車より何倍もでかいダンプカーが丸めた紙くず同然に吹っ飛んで行く。そうに違いない。何度となくぶっとばされている僕がそう思うんだからそうだ。

 殺意が向いている恐怖が僕らを射抜いた。

 ヘッドシュリンカーの回りの空気が炎で歪んでいる。

 ナムサン。

「歯ぁ食いしばれ! ヘッドシュリンンンブフォ!?」

 だが、叫び声はつまった。菜々の口が布に覆われていたからだ。

 それは菜々が着ているブラウス。まくりあげられたようにバンザイしている。

「ブラァ!? ブラブラブラァ!?」

 慌てふためいてうろうろする菜々はなんとも滑稽。それを呆然と見ているその他の女子たち。次のコマにはカーディガンやらセーラー服の裾がまくりあげられ、菜々と同じくモゾモゾ蠢いていた。

 よし、うまくいった。1のE・男子たちの最弱の能力、物を浮かせられる、『ザ・スワンプ・ソング』でも力を合わせれば教室中の女子たちをイソギンチャクにだってかえられる。

 スプーンやティッシュの箱を精々10秒くらいしか浮かせられない、使えても使えなくてもいいくらいの、コロッケ屋のおばちゃんがカラッとコロッケを揚げるのに使っているくらいに特に珍しくもない駄能力。

 リハーサルではブラウスはまくり上げられなかった。だから力をあわせ、それでも足りないから僕の能力を付加することとなった。

 正直あまりこの作戦に参加したくなかった。僕は作戦を考えるところまでだったはずなんだけど。

「力におごった結果だ、ザマァミロ! いまだ! カモン中山くん!」

 調子こいた僕が呼びこむと、掃除用具入れが音をたてて開く。筋トレが趣味の中山くんがムキムキの上腕二頭筋を窮屈そうに引っ張りだした。

 僕らがこのフォーメーションを崩せばすぐにブラウスその他が元に戻り、僕らはあの世で反省会をするハメになる。攻撃するにはひとり残しておくのは当然だった。

 菜々の動きを封じ、回りの女子たちのサポートもない。

 我ながら、完璧な作戦。

 そして僕の一声によって完成する。

「やっちまいな!」

 ついに、あの悪鬼羅刹の巳志長 菜々に勝てる!

 そう思ってから3分は立った。

 どうしたんだ中山くん。早くこいつのがら空きになったボディにアバラを2、3本もっていくキツイ一発をお見舞いしてやってくれ。白い歯を見せて僕は中山くんを見た。

 真剣な目つきで、なにかを凝視したまま腕組みしていた。

 なんだ……? 気がつくとフォーメーションを組んでいるみんなの注意力が散漫になっている。

 眉間にしわをよせるヤツ。手をあわせるヤツ。鼻の下がのびてるヤツ。鼻血をたらしているヤツ。

 まさか、なにかしらの能力攻撃を受けている……? どこからだ。この戦略を見こして、菜々が対策をたてていたのか?

 いやまて。

 よく見るんだ。

 視線の先を追うと、目を奪われている……そうか。クソ。やってしまった。どうしてこれを想定していなかったんだ!

 大前提として僕らは男。健全優良男子のお年ごろの高校生。青臭く生臭く、そして何より女体に興味があってたまらない。

 周りを見渡す。

 一のE・女子全員のブラウスやらセーラー服やらが捲れ上がっていた。

 うごめく姿はイソギンチャク。衣服がそうなっているのだから花も恥らう乙女たちは当然、素肌をさらすことになっていた。

 色とりどり、形、ブランドの下着と玉の肌と、様々なお腹と背中と腋とおっぱいの展覧回会場に迷いこんだ男の子たちは、声にならない声をあげていた。

 紙面でも画面越しでもなく実物。毎日顔を合わせる女子の素肌。釘付けにならないわけがなかった。

「み、見るな!!」

 視線の先に回りこんで邪魔しても驚くほどに効果はない。

 目に焼き付けておきたい気持ちが復讐する気持ちを勝ってしまうのは、しょうがない、んだけど、清々しい程のスケベ顔だ。エロは戦意を喪失させて、別の興奮に変えるらしい。

「み、みんな戻ってこい! そっちに行っちゃダメだ!!」

 僕の能力は一瞬の効果しかない。

 たった三秒間だけ他人の能力を増加させる能力アクイース。スワンプソングとO型に並んで日本でもっとも多い能力で、八百屋のおっちゃんがくしゃみをして暴発し、歩いていたおそらく浮遊系能力の男性が三メートルほど飛び、着地した。一秒のくせにちょっと走ったくらいに疲れるからあまり使えない。僕の体力的に。

 つまりはもうとっくに切れてる。あとはなんとかみんなが服のうえんトコを浮遊させて固定させる算段だったのにスワンプソングの効果が薄まっていた。

 このままじゃまた隣町までふっ飛ばされて立ち食いそばを食って帰ってくるハメになってしまう。

 なんとか正気をたもっていられるのは僕しかいない。討伐すべき鬼に目の焦点を合わせた。

「…………なかなか」

 運動しているだけあってか引き締まってるし、スポーツのブラ、ウォーターメロン。灰色のウォーターメロン。

「それはありがとう」

 ハッ! 危ない危ない。僕としたことが、コイツので向こう側の扉に手をかけてしまうとは、場の空気は恐ろしい、いや、女体は恐ろしい。独り言に返ってきた会話ボールが無ければ今頃…………。

「どうしたの? なんか難しい顔してるけど」

「いやなんでもない、気にしないでくれ。ちょっと魔が差したというか、男に抗っていたというか、と、とにかく正気なのは君しかいない、あいつに引導をわたして――」

「くれんだ」

 また返ってくる。とても聞き慣れた女子の声帯をもつウォーターメロンが気さくに語りかけてきた。

 すぐ、そこにいる。震えてきた。あと熱い。左腕のヘッドシュリンカーが発している熱のせいだ。

 イヤな汗を吹き出させながら熱さに顔を向ける。ブラウスを脱ぎ去っている菜々のへの字がニつ並んだ笑顔があった。

「最後になんか言いたいことある?」

 やめて、と言っておいた。



 国立緑王学園は国営公園と見まごうばかりの広大な土地をもっていて、緑王町とをへだてる分厚く高々とした壁が周りを取り囲んでいる。

 その隅っこに、我らが校舎・E棟はひっそりと鎮座していた。

 築60年の平屋建て木造建築。一クラスとその他設備がある程度だから物置小屋かってくらいに小さいけど、夕日に照らされてオレンジ色に染まる姿は風情がある。

 そのオンリーワンクラスの1ーEの教室では、帰りのホームルームが繰り広げられていた。

 お帰り~~と新妻のようにおっとりポワポワと真奈先生に迎えられて席に着く。席に空きが多い。男子がいない。生き残ったのは僕だけだったようだ。

「ありがとう……」

「え……癖になっちゃった? かわいそうに……責任をもってまたやったげるわ。1回1000円ね」

 背後からするみんなをヤッた女の声を無視。

 これはみんなへの手向けの言葉だ。お前にいったんじゃないんだよ。

「いやいや、あたしが言うのもなんだけど、生きてるからねアイツラ。ただちょっとまだ意識が回復していないだけで、心臓は止まってないから」

 モノローグを読むんじゃないよ。コイツがしゃべるたびにガーゼの下の割れたアゴがうずいた。

「ねえねえ、帰りゲーセン行こ。アイドルバドライズマスターがバージョンアップ日なんだよね。ハルカがどうなってるか調べたいからちょっと付き合ってよ。1クレおごるからさ」

 もう興味が失せたらしい。コイツにとって僕らなど格ゲーの調整よりどうでもいい存在なんだ。

「こんなにされてお前と遊べるワケ無いだろうが」



 と言っても特にすることもないのでついていくことにした。

 みんなにあわせる顔がなくても戦友に挨拶しないわけにもいかない。

 菜々を玄関で待たせておいて保健室のドアに手をかけた。

 どんな顔すればいいんだ。どちらかと言えば顔に考えてることがそのまま出てしまうタイプらしい。できるだけ下を向いて歩こう。心が読まれないように。

「やめなさい貴方達! ここは病院なのよ!」

 怒鳴りがドアを突き破ってきた。保健室を病院と呼ぶのはE棟お抱えの保険医・種寺先生しかいない。それは当然僕へではなく、骨太な男の声へと向けられていた。

「たわけガァァアアアアァアァ!!」

 ドアと廊下の窓が軋んだ。ドア越しにでもハッキリ聞き取れるのだから、近くにいるみんなは鼓膜が破れてもおかしくないのではないか。

 僕は少しだけ扉を開けて恐る恐る中を覗きこんだ。ここを病院と呼ぶにはムリがある。町医者の病室だってもっと広くてもっとベッドがある。その中で14人の傷だらけの戦士たちと巨大肉ダルマが対峙しているのだからパンパンだ。

「最下級の超弩級クズ虫共ガァアアこの樋位万 武汰に意見するというかァアアア!!」

 怒声の衝撃波に戦士たちの皮膚や服が台風中継リポーターのように波打ち、僕も首がそった。

 生徒会役員だし、あのデカさだ。嫌でも覚える。特大の体躯のせいで顔と手足が異常に小さくみえ、制服も特大サイズなのに腹でパッツパツになっていた。鏡餅に小ぶりのみかんをのせて爪楊枝の手足をつける。それが樋位万だ。

「ぶ、ぼくらにだって、いいい医療を受ける権利はある! 独り占めしていいわけがないにゃ!」

 恐怖で口をつぐむ戦士たちの代弁者として秋山くんがどうにか吠えた。戦士たちがビクビク頷くと、天井にこすっている精悍な顔が鼻を鳴らした。

「貴様らのランクはなんだ」

「ら、ランク何て関係ないでし」

「ランクを答えろ屑鉄ガアアアアアアア!!」

 声の波動でみんな腰を抜かした。

「い、E、です」

「そうだ、貴様らはEクラス。それならば、そこのお前ェエエ!」

 一斉にみんなが僕を見た。バレていた。仕方なく中に入ると、樋位万が指をさしてくる。

「貴様もEだろう。最低ランクでため池を泳ぎまわるゾウリムシの口からこの学園の構造を説明してみせろ」

 別に僕じゃなくてもこの学園に通っている生徒ならば知らない訳のない構造、システムだ。

 国立緑王りょくおう学園は、能力の使える人間・『能力人』を実力順にランク分けしている。

 ランクはA~Eの5段階。

 一番席数の多いCを境に、上に上がるほど、下に下がるほど、ランクごとの席数は減っていく。頂点と底辺は一クラスのみ。クラス数を書き出していくとダイヤの形が浮かび上がる極端な座席分けになっているため、通称・緑王ダイヤと呼ばれている。

 1・2・3という学年は存在しているが、それは年齢を分けるためでしかなく、学年が上だから偉いなんてことはない。

 ランクが学園生活でのすべてだ。自分たちが有する能力の強さが絶対。

 みたいなことを言った。

「それだけではないだろぉおう。ランクを作る意味とはなんだ。言ってみろぉおお」

 距離が離れているのにこの圧迫感だ。脂肪で全身が囲いこまれているような気さえしてきて、脂汗が止まらない。

「ふん。己の置かれているランクを直視できないか。それならば教えてやろう。身分というものをなァア!!」

 地鳴りのような唸り声。薬棚が小刻みにゆれ、蛍光灯が激しく明滅する。

 誰一人として身じろぎもできなかった。豊満な腹の脂肪がゾワゾワと蠢く恐ろしい光景にただ怯えるほかなかった。

「ランクは強さだ」

 パツパツのはずの腹が凹む。服の隙間からうごめく白い脂肪が身体を覆い尽くしていく。

「我々は未熟だ。感情にまかせて能力を発動させてしまうこともあるだろう。それが同程度の強さならば、青あざ未満かすり傷程度ですむ。しかし、こういう風に、絶対的に、圧倒的に、一方的に、敵うはずもないほどに力の差が、あったとすれば! どうなるァアア!!」

 ついには全体を覆い尽くし、脂肪の甲冑が出来上がった。

 かつての武将が纏っていたような甲冑、腹の脂肪がごっそりとなくなり、代わりに逆三角形の屈強な肉体がのこった。二股に割れた兜の間には「脂」の漢字。


「出てゆかぬというのならば、引きずり出してやろう。この、ニのA、生徒会副会長・樋位万 武汰がなァアアア!!」

 暗闇が顔を溶かし、丸く赤い両眼が怪しく光る。ただでさえ巨大で強大な身体がさらに大きさを増し、天井を覆い隠していく。

 僕らはイタチに襲われるドブネズミだ。

 口をあんぐりして目をばかみたいに開けてイタチの残酷さを引き立てるためだけに命を落す役だ。

 どうか、この脂肪の魔人がどれだけ強いのか覚えて帰ってください。

 八つ裂きにされる僕らの姿を見て。

「樋位万さん」

 眼前まで迫っていた両爪の刃がピタリと止まった。

 魔物の背後。カーテンがかかっている奥のベッドからだ。

「私はもう大丈夫です」

 ベッドがきしむ。微かな音が聞えるほどに静まり返っていた。それはもう一人仲間がいることへの緊張ではなく、この澄み渡った清い美声に見蕩れているものだった。

「し、しかし、こんな騒音では、会長のお体に障ります!!」

「それは、否定」

「滅相もぉおおおォオオ!!!」

 急速に収縮すると元の脂肪たっぷりの樋位万に戻り、小さな両膝をついて土下座した。

 高圧的な態度から一変して脂汗でギトギト。服を絞ってフライパンに注ぎ込めば海老フライが揚げられそうなほどに樋位万は湿ってテカっていた。

 この脂身の塊をここまで震え上がらせるとは……。

 全ては強さが、すべて。

 Aランク以上の強さはいない。となると単純に考えて、このデカイ尻よりも……シルエットが立ち上がると空気がかわる。

 汗臭く絶望が包んでいた空気が浄化され、清々しく清く清楚に澄み渡った。

 天日干しされた洗濯や布団、新車の匂い。そういったたぐいの新しい気持ちよが部屋の隅々までいきわたる。

 カーテンからその主が姿を表した。

「申し訳ありませんでした」

 光の中に立っている。そう錯覚するほどに白かった。

 雲の白の肌。切れ長で深い海の青の瞳。気高いオオカミの銀色で長い髪。

 人間離れした神秘性だ。すぐそこにいるはずなのに、別世界の存在と対峙している気にさせられた。

 儚げで、いまにも光の泡になって消えてしまいそうな国立緑王学園生徒会生徒会長・志谷部しやべ 藍子らんこは、頭を下げた。

「自らが所属する学び舎で治療を受けなければならないことは承知しております。他校との会合を行い帰校したのですが、今日は体調がすぐれないのも相まって、AB棟まで私の体力が持ちませんでした。力尽きた場所から三号館が一番近く、種寺先生に伺ったところ快く快諾してくださったので、少しの間休ませて頂いておりました。皆様にご迷惑をお掛けして、本当に申し訳ないと思っております。申し訳ございませんでした。直ちに退散いたします」

 見惚れていないやつらだけが仲間と顔を見合わせて困惑した。

 なんだこの腰の低さは。

 無表情で声に抑揚がなく少し背が高い。クールといえば聞こえはいいが、何者も寄せ付けない雰囲気を彼女はかもしだしていた。

 この美声と気品。堂々とした立ち姿に、「ま、まあそこまで言うなら」と、みんな和解へと心変わりしているようだった。

「そ、そんなんで僕らの怒りがおおおさまるとおおもいないよ!」

 目をまったく見れていないながらも秋山くんが大声を出した。「もういいだろ」という空気をぶった切って、正義感と被害者丸出しに矢面へ踊りでた。

「ぼぼぼぼくらはななにもわわ悪くないのに、こここいつがランクがドウとか、ケガしてるのに、保健室はみんなが使えるのに、ど、どうして、ランクが、関係、Eだって、人間なんだ!」

 フィーリングで翻訳すると、「ケガしているんだから保健室が使えるはずだ。それなのに、樋位万が因縁つけてきた。僕らは何も悪くない」

「おっしゃるとおりです。申し訳ありませんでした。キツく言っておきます。無礼を承知で申し上げますが、貴方がたは、ここに居る必要はもうないのではないかと考えます」

「て、低ランクはさっさと、いなくなれってか! すぐそれだよ! 上位は! こ、このケガを見てもまだそんなこ……と?」

 服をまくって見せた秋山くんが止まった。なにかひどく混乱しているようだ。中山くんが声をかけると、振り返った。

 秋山くんは菜々のヘッドシュリンカーを腹に食らって天井にぶっ刺さっていた。あいつなりに手加減したんだろうが、拳の跡が禊のようにくっきり残っていたのをぶっ飛ぶ前にみたのを覚えている。

 それが綺麗なもんだ。肋骨が浮き上がったガリガリで貧弱な腹があるだけ。

 みんなも自分の身体をさぐりだし驚き混乱している。

 僕はガーゼを外してアゴを触ってみた。割れていたアゴが治っている。

 というか、そもそもみんな意識が戻ってなかったんじゃ……?

「それでは」

 志谷部がドアへ歩き出すと自然と道が開く。

「この樋位万、貴様らのように身分に甘えているやつらに、痩せることよりも嫌悪感をいだいている」

「樋位万さん」

 脂肪が頭を深く下げると、いい匂いとしか言い様がない甘い香りが僕の隣を通り過ぎていった。

 こいつらがAランク。住んでいる星が違う。

 それに比べて普通のパーツに普通の体躯に普通の能力。僕らは凡人だ。

 しかたないよな。そりゃEさ。そんなの………………。

「綺麗だった……」

「うおっ!? なにアレ、でっけえ……なにかあったん?」

 うっ! び、ビビった。菜々が入ってきた。Aクラス二名とすれ違ったんだろう。

「ちょっと、まあ、色々」

「色々? ん? てかあんたらもう大丈夫なの?」

 ぞろぞろと保健室を出て行くみんなから、お前が言うな! と総ツッコミがとんだ。

「キリリンの治すやつってそんな強かったっけ」

 種寺先生の下の名前が桐子だからキリリン。

「うそでしょ。貴方たち、本当に言ってるの?」

「どういうことですか」

 僕が訊くと種寺先生はメガネを外して深い溜息をついた。

「さっきの二人はAランクの中でも一際実力の高い有名人よ? これは志谷部さんの治癒能力のしわざ。生徒総会で毎回、壇上してスローガン話してるじゃない。強制参加だからあなたたちもでてるはずでしょ?」

「志谷部? 誰それ」

「流石に知ってますけど、チカラの方までは」

 14人いた怪我人を同時に治してしまうなんて余程強い治癒能力じゃないと不可能だ。なんで治してくれたのかはわからないが。

「私が悪かったわ……。いや、それにしても全然知らないなんて、ランク上げたくないわけ?」

「Aランクとか、上の上の上の上じゃん。1・2・3・4つも上じゃんか。んな上のヤツらの事より、ハルカのフレーム表覚えたほうがよっぽどマシじゃん」

「はあ……向上心のない。Eランクはみんなそうなの?」

 心底呆れかえっているため息だった。まあ、実際のところEランクの僕らがAランクのヤツラの情報を詳細に知っている所で。だし。

 ランクアップの条件は「ランクアップマッチ」。

 生徒会に申請すれば一ヶ月に一回、一クラス対1クラスの対抗戦を行うことができる。ルールは簡単、最後まで誰かが立っていたクラスが勝ち。

 しかし一つ上のランクとしか行うことができず、EがAとなんてのは無理。一方的になってしまうからだろう。樋位万も極太の声でいってた。

「とりあえずこれだけは覚えておきなさい。Aクラスの生徒とやりあうのは、やめなさい。いいわね? 何があってもよ」

「あいあい」鼻をほじりそうな勢いだ。

「私が苦労するんだから絶対よ!! あと巳志長 菜々! 貴方、何度クラスメイトを地獄めぐりさせれば気が済むのよ!」

「それならこのパンツマニアに言ってよ。マナマナのパンツばっか見ようとする女の敵に情けをかけるつもりなんてないから」

 毎度毎度のことだが僕はそこまでパンツに興味はないし、プロジェクトMの主催でもない。主催は秋山くんだ。

「また『それ』? パンツならいつでも、好きなときに私が見せてあげるから命を大事にしなさい ほら」

 種寺先生は僕に向くと、ガバっとミニスカートをたくしあげた。黒いレースのガーター付きのセクシーな下着がお目見えした。

 髪を後ろで上げてメガネで白衣の真面目そうな大人の女性。そう見えてこの露出癖だ。飽きた。それにこれはパンツやない。下着や。

「おかしいわね。最近の高校生ってみんなドライなのかしら」

「コイツは小学生んころに公園の鉄棒でキン○マうってから性欲ないんスよ。ムダムダ」

 スカートをまくり上げの痴女ポーズのままで哀れみの表情になった。

 保健室を利用する男子生徒全員に痴女しているんだから飽きられる。

「ねえもういーい? 暗くなっちゃうよ」

「ええ。つまんないからもういいわ」

 菜々のケータイが種寺先生を写メった。今回のも相当なRTを貰えるに違いない。

「もう一度いっておくわよ。Aとは関わりあいにならないこと。それと、おパンツは私のところに来るところ。いいわね? どうしても、っていうのなら、奥のベッドでヌキヌキしてあげるからね」

「……………………結構です」

「ちょっと考えてんじゃないよエッチ! ドスケベはメモとるな!」

 僕の胸ぐらを掴んでガクガクさせるのもやめてほしい。

「顔が赤いわよ? 以外に純粋よね巳志長さんって。経験はないの?」

 菜々は耳まで真っ赤にさせて口を一文字に結んだ。

「あらあら。女子高生なんて若さにまかせて食い散らかしてなんぼよ。巳志長さんスタイル良いし、セックスアピール完璧なんだからその気になれば入れ食いじゃない? いい? クラスメイトはすぐ飽きる。援交はダメよ。最初は身近な大人がいいわ。私なんて担任から校長まで――――」

「【アクイース】」

「かっ飛べ! ヘッドシュリンカァアアア~~~~ッ!!」

 底なしの性欲教師は窓を飛び出してカッ飛んでいった。

 着地地点で痴女しているに違いないし、僕らは帰った。



 時間遅延能力攻撃を受けている。そう思うくらいに一日は長い。

 未来永劫終わらなさそうな授業を六時間も受けた。能力の原理とかコントロール方法に関しての「能力」の授業が2・3個あって、授業内容は普通の高校と変わらないらしい。

 でも僕らはオンリーワンでワーストワンのEランクでおまけに1学年。

 漢字の読み書き、足し算引き算、エービーシーディーレベルの初歩の初歩の事しか能力の授業ではやらない。とりあえずやっとけ的なやつ。眠さ爆発。睡眠導入剤よりも寝れる。種寺先生も教材のビデオをかけて寝ていた。

 それでもなんとか帰りのホームルームが終わる。

 菜々と帰ろうと腰をあげると、真奈先生が壇上から僕を呼び止めた。

「ごめんねー、ちょっとお使い頼みたいんだー」

 先生はスカートの下にズボンを履いていた。防御が硬くなってる。遅すぎる防御だった。

「先生、学園長先生に呼ばれちゃったから今から行かないといけなくてー。お願いできない?」

 授業で使った教材を返し行く簡単なお仕事らしい。ダンボール箱がニ個あるからお供が必要だ。

「なんで僕なんですか」

「え、なんかあったら菜々ちゃんが君にって」

「ほれいくぞ」

 肩が叩かれて、菜々がダンボールを一個もって教室からでていく。

 アイツ、なに吹きこんでんだ。僕はさっさと家に帰りたいんだよ今日は。

「よろしくねぇ~~」

 この屈託のないぽわぽわな笑顔を曇らせるわけにはいかなかった。



 この学園には四つの学び舎がある。

 E棟にD棟に、C棟。そして広大な敷地の奥の奥にAB棟がある。

 校門近くに建っているE棟から動く歩道を駆使しても1時間かかるそこは、一見高層ビルに見えるガラス張りの建物で、学園でも上位ランクの生徒たちが集うA・B一括の校舎だ。

 まさか、ここに来るなんて。

「ヒュー! おっきいなー! すべからくタワー!」

 ずかずか入っていくEランクの女生徒の後ろをついていく。

 僕らE棟の木造建築とは大違いの現代建築だ。土地のほとんどが芝生とか木が生えそろう緑の多い学園内でここだけが都会っぽい。

 どでかい緑王の立派な校章がこれみよがしに塔の中心に張りついているのも、この一号館だけだ。

 AかBランクの学生証を駅の改札みたいになっているとこにかざして認証されないと入れないけど、許可が降りているから僕らの学生証でも入れる。

 別ランクの校舎、しかも高ランクの生徒がうごめく場所に一人で行くなんて怖くてしゃーない。なんとなく広めの背中が頼もしく見えてしまった。

「すげー……30階まである。ちょっと見てこ!」

「教室ひろーい!」

「トイレ様式ィい!」

「トレーニングルームとかあんの!? プールもある!」

「フードコート!? アイス食べてこ!」

「オオーー! 服じゃ服!」

「見てみて! 温泉だ温泉! ホテルニューしおば」

「うわー!! 観葉植物列島だ! 植物だ~~! は興味ないや」

「ゲーセンだ!」

「滝だ!!」

「スッゴーーーいーーこ~~こ~~! 千葉なのかここは!! ジャスコなのかーー!!」

 階数がおおいから全部が娯楽施設というわけではなかった。当然学校だから学習設備の方が多いけど、そもそも多いという表現もおかしな話だ、食べ物や服、本、雑貨、寮、なんでも揃っていた。まるで小さなコロニーだ。

「上のヤツらはこんなとこにかよってんのか。はえー」

 エスカレーターで上に運ばれながら、菜々はダンボールを器用に頭にのせてキョロキョロしていた。なおも物珍しそうに綺羅びやかな校舎に目を這わせている。あれだけ走り回ってアイスとか食べたのにまだ疲れを見せていない。僕はもうだいぶ疲れたんだけどな。

「アタシらの校舎なんて犬小屋じゃん。いいなー。憧れちゃうなー。いいなー。いいなー。いーーいーーなぁ~~」

「もうちょっと、慎重にうごいてくれよ……見られてるから……!」

「えー。いいじゃんべつに」

「上位のヤツラの巣に生身で飛び込んでいるんだぞ……? 下手な動きをしないでくれよ、お願いだから!」僕はまだ死にたくない。

「ふーん。じゃあこれはいらないかッ」

「ちょ!?」

 ズボンの右ポケットからAB棟ポケットティッシュを取られた。

「え。ホントにいらない」

「いるだろ! ここにABって書いてあるのなんか限定っぽいじゃん! 返せよ!」

 ダンボールを片手に持ち替えて手を延ばす。菜々はひょいっと避けて、下りエスカレーターの手すりに僕のティッシュをのせた。ゆっくりとティッシュが遠ざかっていった。

「ああ……鬼、悪魔」

「こんなトコ通えたら毎日楽しいだろうなぁ……ランクって結構意味あったんだな。あたしゃぁテッキリ、食堂の飯がうまくなるくらいだと……」

 上の空で恨み節など全然聞いていなかった。

 まあそう思うのもしょうがない。何から何まで新しく持っていないものばかりで、月とスッポンだ。力があるのとないのでここまで露骨に差があるとは、僕も体感してはじめて自覚した。

 ま。

 才能のない僕らには関係のない話で、関係のない場所だ。十分、平穏に過ごせているからなんの文句もない。

「あ! なんか集まってる。見に行こ!」

「まてまてまてまて」

 エレベーターを降りた瞬間にスタートダッシュしそうになった菜々の首根っこを捕まえた。

「ぐええ、じまる」

「そっちは教材室とは逆。寄り道しないでこっちこい」

 襟の後ろを掴んでいるのに、足だけ進んでいるからギリギリと首がしまっていく。散歩したくてたまらない犬だってもうちょっと早めに諦める。

「次いつ来れるからわからないんだから見てこうよ。なんか出し物でもやってんでしょ」やっとこっちを見た。

「いや、忘れてるかもしれないけど千葉の東京ランドじゃないんだぞ、ここ」

「ええ~~、いいじゃんいいじゃん、おとなしくしてるからさー、ちょっとだけちょっとだけだから! ね~え?」

 キャルルルン☆ 目を輝かせぱちくり。斜めしたから覗きこみ腕で胸を押し上げるのはお願いのポーズだ。

 カワイイ自分を想像しているのだろうけど、ポーズ的にヤンキーに因縁つけられてるみたいだった。

 こわいしムカツクおねだりマシーンを引き剥がさないと、ここで小一時間なにかを見るハメになりそうだ。

 けど、まともなこと言ってもコイツは一度喰らいついたものからは離れない…………よし。角度を変えよう。

「わかったいいよ」

「ホントに!? やったぜ! そんじゃー今すぐ」

「その代わりに」

「はい?」

 首を傾けた菜々に、僕は努めて冷静に言ってやった。

「おっぱいを揉ませなさい」

 。

 ?

「ハッハッハ。今おっぱい? 言うわけ無いか! タハハー耳の調子があんま良くないのかな、あれ~?」

「言った。そのドデカイおっぱい揉ませてくれたら行こう」

「…………はぁああああぁああああ?!?!」

 フロア中に響き渡るでかさのリアクションをいただいた。胸を抑えて顔真っ赤で距離をとる菜々に笑いをこらえるのが辛い。

 もちろん揉めるとは思っていない。無理難題をふっかければコイツも大人しくなるはずだ。ぶん殴られてふっとばされてもこの作りの良い厚いコンクリート製の壁ならば、突き破って隣町の公園の滑り台に着地するなんてことはまずない。

 巳志長、沈黙。

 やってやった。僕だっていつもいつもやられてばっかりじゃないんだよ!

 よーし、回りの視線が痛くなってきた。そろそろ移動するかと動き出すと、ぐいっと首根っこが引っ張られた。

 連れ込まれたのはエレベーターの影。うつむいた菜々と対峙した。誰も見えない場所でいったい、な、何をされ――。

「……よ」

「え? なに?」

 何か言ったような気がしたけど、気のせいか?

 真っ赤な顔で、上目遣いになった。

「も、もんで。いいよ」

「もんっ」

 聞き間違いか。

 いや、言った。確かに言ったぞ。

 揉んでください、って。

「くださいまでは言ってないわ!! 言ってないけど…………いいよ」

 ゴクリ。

 いいよ、って。男が女の子に言って欲しいランキングAランクの言葉じゃないか。

 鬼の末裔と呼ばれている鬼女の部分を抜きにして冷静に考えてしまう。背が高く引き締まったスレンダー体形に大きな胸。

 バッチリだった。そのスタイル抜群で強気な顔立ちの女の子から、しおらしい、いいよ。

 た、高ぶる。

「い、いいんでしゅか?」

 背筋を伸ばして胸を突きだしてきた。それが答えだ。強く目を閉じて顔ごとそらしている。相当思い切っているのが伝わってきた。

 まて、あとでぶっ飛ばされる。絶対にそうだ。

 しかしだよ僕。だからと言ってさ、この柔らかさの化身みたいな夢の膨らみに触れないわけには、いかんでしょ? どうだい僕?

 いただきます、僕は手を合わせた。

 う。

 うおぉお…………す、すごい。

 コレ、すんごーーーーーーーーーい、硬い。

 もっと柔らかもちもちしていて、触った瞬間うわぁー……と声を上げたくなるほどに幸福が押し寄せてくる、と期待していたのに、かったい。

 おかきの倍は硬くて冷たい。ずっしりとした重量感がある。コイツの乳は胸筋でしかなかったのか? JKがこんなトキメキもわかないオッパイ様でいいのか? 秘かにいるファンになんて顔して合えばいいんだ。巳志長 菜々のおっぱいのファンに。

 なぜだか心配になりながら気づかぬ内に閉じていた目を恐る恐るあけた。

「でええ?! なにいまの!! ビーム? ビーム打ったの??」

 遠く離れた人の群れの中に、ぴょこぴょこするショートカットの頭が見えた。僕は手元で大事そうに抱えてる砲丸と目があった。

 いい形の砲丸が2つ。ダンボールが足元に置かれていた。

 ダンボールからだしたんだろう。でも確か頭に乗せてたよな……なんか、安心した自分がいる。

「ンっひょー!」

 じゃなくて菜々が回りのヤツから注目されかけてる。僕は菜々ヤツの上にダンボールを乗っけて走った。



 人の群れは向かいのガラス張りの壁に張り付いていた。かき分けて菜々の腕を掴むと、なにに熱中しているのかが見下ろせた。

 ガラスの向こう側は体育館大の広々とした空間になっていた。ドーム型というのか、角がなくて丸っこく、バスケットゴールや照明など物が一切ない。どこに当たっても安全という設計になっているようだ。

 対峙する二人はヘッドギアに体操着の姿から察するに、練習試合だろう。

『ッサと死ねヤァアアア!!!』

 つんざく叫びが窓下にあるスピーカーから襲ってきた。

 白い体操着には『3ーB 吉外よしがい』のゼッケン。腰に学園指定の緑ジャージを巻き短パン。口が耳くらいまで開いているように見えるし、赤い瞳孔が開いているようにもみえるけど女子のはずだ。常に四つん這いで獰猛なケルベロスみたいな呼吸音がするけど、声からして女子に違いない。

 なんの前触れもなく激しいフラッシュ。吉外って人の眼球から赤く細い光の線が一瞬にして伸びる。

 直撃、そして爆発。

「うおおおおお! 当たった!」

 菜々を含めた歓声と煙が上がる。

 ガラスはかなり強い作りになっているようで爆風でもびくともしなかった。その安心からなのか、ギャラリーはスポーツ観戦のノリだった。

 その熱の中で僕は呆然としていた。

 これが練習試合? いや、それは僕が勝手にそう思ってるだけかもしれない。上位ランクのことは知らない。けど、コレはランクの席を一つ開けるために潰し合ってるようにしか見えない。

 だって、相手は死んだ――。

「あっ!」

 誰かの声とともに煙が晴れた。ヘッドギアがボトリと落下。

 銀色の髪が優雅に揺れた。

『たぶん、あなたは能力に飲まれています』

 爆散か蒸発しそうなビームを受けた吉外の対戦者。人間離れしたその美貌。忘れるはずもない、Aクラスで生徒会会長の志谷部 藍子だ。

 上下ジャージで、ファスナーを上までぴっちり閉めているから首がない。青い瞳は無表情でボッ立ち。手と顔以外に肌がでていない……あんまり運動できなさそうだな。

『それ故に雑です。先程の熱光線をはやくに出しておけば』

『ネみいンだらぁア!』

 人語を話す獣は助走なしで志谷部 藍子に飛びかかった。近接に持ちこんでメチャクチャで荒々しい攻撃繰り出す。

 だがどれも当たらず。かなりの運動量と打撃数、志谷部は立ったままなのにだ。

「ワザと、当ててないのか?」

「アイツ、ちょっとだけカラダ動かしただけでさばいてんだよ。生徒カイチョー様はもう全部、吉外ってやつの」

『手の内を晒しすぎるのはよくありません。パターンが読まれますと、』

 吉外は空で一回転して激しく頭を白い床にうちつけた。着地と同時に鋭い足払いが吉外を払い上げていた。確認してからなにかするには無理なスピードなのにだ。

 衝撃に目を白黒させている吉外に志谷部 藍子が歩み寄り、眉毛を摘む。手のひらにのせて、息をふきかけた。

「あ、あれなに」

 菜々が僕に訊いてくるが僕も知りたい。

 二人の間の宙空に小さい物体が浮かんでいる。

 何か、としか言えないそれは見る見るうちに見覚えのある部位へと変化していく。

 額ができて、鼻ができて、耳ができて、口ができて、頬ができて、アゴができて。眼球に火が灯る。浮遊する物体はたぶん眉毛だった。それがあっと言う間に人の顔になって、志谷部の白い手のひらにのった。

 立ち直って距離をとり、睨みつける吉外。生首はその猟奇的な顔面と瓜二つだ。

「なんだ……あれ」

「ぐ、グロぉ」

 僕らを除いた周りはあの生首をみて勝った的な祝杯ムードになっている。

 コピー能力か? でも種寺先生が、Aランクの志谷部 藍子は治癒能力だって……。

 能力は一人に一つ。命が一つしかないのと同じ。二つ能力を有している能力人なんてきいたこともない。

 ぽこん、生首の頭が叩かれると目が光った。

 赤い閃光、そして爆発。

 噴煙のそばで吉外が身体を起こす。一瞬にもかかわらず避けている。

「ンッひょー! ビームだ! ビームビームビーム!」

 脱臼しそうなほどバンバン肩を叩かれる最中に、生首が何発もビームを放つ。

 吉外は避けるばかり。攻守が逆転している。

 だが当たらない。吉外のスピードがそれをさせない。壁すらも吉外には平面で、縦横無尽に動き回って的を絞らせない。

 吉外が僕らの前のガラスを駆け抜けると、ビームで赤く染め上げられた視界。そこにいた誰もが思わずのけぞったけど、観覧窓のガラスには傷すらついていない。

 志谷部に命中はしないものの、ビームをほとばしらせて吉外が反撃するようになっていた。

 ビーム同士が相殺しあい、大きな煙の膜ができた。煙を貫いて二本のビーム伸びる。

 真横に影が走っていく。迷わず志谷部のビームが飛ぶ。

「あたった~~~~!!」

 僕の肩に抱きついて喜ぶ菜々。夢の膨らみが当たっているがそれどころじゃない。

 壁際にボトリと燃える物体が落ちた。そう、吉外に志谷部のビームが命中していた。ピクリともしない。

「だ、大丈夫なのか?」

「し、しんでなければダイジョブじゃね」

 顔を赤くしてそっぽを向いて菜々が答える。

 AB棟の治療設備とか保険医がどの程度の能力があるのかしらないけど、あんな黒焦げになるくらいに燃えて大丈夫なわけない。

 それに爆散して色々な部分が【もげて】しまったのか、とても人間の大きさではない。

 ちょうど…………頭くらいの。

『ウェエエえええええええええェェェェエエエルゥウッッ!!!!』

 荒々しい雄叫びに部屋中に視線を這わせ、見つけた。発射された弾丸のように鋭い飛びで、吉外はすでにガラ空きの志谷部の背後に迫っていた。

「あそこで燃えてるのは、ヘッドギアか……!」

「なるほど、なるほど。煙で自分が隠れた瞬間にぶん投げて攻撃させたってわけね」

 見事に騙された志谷部 藍子が振り返る。

 すでに吉外の腕がその胸の中心を貫いていた。

 大量の血が吐き出された。ジャージの緑が黒ずみ、流々と流れ出る血液で志谷部 藍子の足元で血だまりが広がっていく。

『やった、やったヤッたよォ! この程度かァAランクの皆々さん方々さん方々様達はヨォオオ!!』

 両眼がバラバラに有らぬ方向へ動き回っていた。勝ち負けが決定した喜びじゃない。積年の恨みを晴らしたような、抑圧されていた憎悪の爆発。明確な殺意と共に、どす黒いオーラが吉外の周りに渦巻いていた。

 歓声が半分くらいになっている。Aのヤツらが押し黙って、Bだけが歓喜をあげているんだろう。

 菜々が腕組みしてコクコク頷いている。

 決まった。誰もがそう視覚して、それぞれの立場の感情を発散させていた。

『たぶん』

 それは天使の歌声。

 志谷部 藍子の顔が左に向く。その横顔の右耳には、三つ目の眼球がはまっていた。

「ずっけー」

 菜々のむくれ声をかき消すように赤い光が蓄積されていく。狂った笑顔のまま腕を抜こうとしているが、抜ける気配がしない。志谷部が貫通している手を捕まえているわけじゃないけど、ハマっているのか?

 片手と足で応戦してはいるけど、全て防がれ避けられる。為す術もない。

『試合中に白い歯をみせないほうがいいでしょう』

 おもわずガラスに張りついた。

 絶対に決着が着く。

 でもそれだけですむのか?

 あんな近距離で食らったら、形も残らないんじゃ?

 目の前で、人間が粉微塵になるまであと少し。

 ……………………。

 そして閃光――――――――次元が違う。何もかも。

 【持っている】能力人は、ここまで僕らと違うのか。

 これが、上位ランク。

 これが、【能力】。



 部屋の中ではBランクの生徒らしき集団が真っ黒焦げでアフロになった吉外に駆け寄っていた。

 精も根も尽き果てたようすで、ぐったりとして動かない。

 能力はエネルギーを消費する。

 身体を使ったり脳を使ったりしてエネルギーを消費するのと同じ。当然、体力・スタミナがつきれば人間は動きが鈍ったり、果ては動けなくなる。

 志谷部の攻撃によるものもあるだろうけど、体力がつきたのもあるはずだ。

 そしてこの光景、接戦のように見えて接戦ではなかった。

 勝者の身なりは綺麗なもので、髪が噴煙で汚れてジャージの中心に穴が開いているくらい。腕が貫通してできた風穴もふさがっていた。

 無傷の志谷部 藍子に、黒焦げで横たわる吉外。

 決着した瞬間だけ見れば志谷部が一方的に勝ったと勘違いされてもおかしくないだろう。あのやかましい菜々が声を失ってる。それだけ衝撃的で、異次元の試合だった。肩を叩くとわずかに震えている。

「アンギャアアアア~~~~ッ! こっち向いて~~!」

「藍子様藍子様藍子様ぁあああ!!」

「コッチを向いてほしいい!!」

 突然、テンションが振りきれている黄色い声援があがった。

 観覧窓横にある、おそらくこの丸っこい部屋の中に入るための下り階段から、志谷部が上がってきたからだ。

 もうもみくちゃ。観覧していた生徒が志谷部に群がっていく。ライブ会場とか満員電車とかで味わう360度人間プレスに押され、内臓が破裂しそうになってきた。

 どうにかハイハイして後ろから脱出すると頭が足にぶつかった。菜々が腕組みしていた。

「有名人すげーなー」

 菜々はぼーっと口を開けて、囲まれている志谷部を目で追っていた。人垣でほとんど頭しか見えない。後からでてきた巨体の樋位万が警備しているようで、志谷部の周りには一応空間ができていて触れないようになっていた。出待ちしていたファンに囲まれている有名女優がテレビとかでこんな光景を見せていた。

「いやーー……いいもん見た。超エキサイティングってこいうことだったんだなぁ」

「まあ、上位ランクの試合何て見たことないしな」

「ああ。最高だった。ハチャメチャだった。ほとんどバケモンだな、ありゃ」

 ウズウズしている。どうやら武者震いだったようだ。あれを見せられてそんなになれるとは、呆れを通り越して尊敬するよ。

「でもあのコピー能力はなんだったんだ。能力を二つもつことなんてできるのか?」

 あの吉外の生首は戦闘が終わると小さく煙を上げて消失していた。志谷部の能力は治癒のはずなのに、説明がつかない。難しい顔で菜々が言った。

「この巳志長 菜々に小難しい事柄を尋ねるとは、なかなかの勇気をお持ちと見える」

「胸はっていうな。ちょっとぐらい考えてくれよ。気にならないのか?」

「えー、面白かったんだからイーじゃん。別に知った所で、しょうがないじゃーーん」

「そりゃそうだけどさ……もしホントにそうだったら人間じゃない」

「人間でもオットセイでもなんでもいいでしょー。あれ、っていうかもしかして気になっちゃってるかんじ?」

「あんなの見せられたら誰だって」

「ほほー。なるほどね」目を細めて菜々が覗きこんでくる。「あーいう子が好みなんだ」

 あーいう子? ああ、そういうことか。

「チカラがきになるんだよ。そんなんじゃない」

「ほんとかなぁ。かなぁ。かなかなかなかな」

 うざい。色恋沙汰が好きなんだ。事あるごとに訊いてくる。

 確かに綺麗な人だ。ただそれだけ。

 ファッション雑誌を興味本意で見たことがある。ポーズをとるファッションモデルに抱く感情。綺麗。ともすれば服しか見ていない。そういうことだ。適当にあしらおう。

「ま、身体動かすのとゲームにしか興味ないどこぞの女子よりは気になるかな」

 これは本心だ。

「…………」

 なんか黙った。

「どうした、菜々――――――ッ!?」

 その瞬間、背中に硬い衝撃が走って僕は前のめりにぶっ倒れた。たぶん、蹴りだ。

「るせーーーーよ!! ハイ、運んどいて!」

 前方に着陸した僕のダンボールに自分のダンボールを菜々がのせた。笑顔で廊下奥に走っていく。ホッ。

「ちょ待てよ、どこ行くんだ!」

「急ぐ少女に訊くなバカ!」

 綺麗なフォームのダッシュでエスカレーターを下っていった。ああ、トイレね……。

 あれ。

 なんか、静かだ。

 ケツをつきだした四つん這いのまま、首だけ振り返った。

 青い、青い瞳に射抜かれた。

 人垣が割れていて全身がよく見える。ポッカリと開いた空間から、志谷部が僕のケツを見ていた。いや、僕を見ていた。中心に穴の開いたジャージのまま、じっと。

 冷や汗が頬をつたう。みんな見てる。汚物を見る目だ。

 ダメだ。注目は、ダメだ。

「お騒がせして……すみませんでしたーーッ!!」

 僕は加速した。



 一つ上の階は閑散としていて、試合の熱気が嘘みたいだった。

 頭から湯気が出ている気がする。汗でダラダラ。我ながらすばらしい速さで逃げおおせた。

 トイレに駆け込んで、30分くらい縮こまっていた。親衛隊的なものが僕を血祭りに上げるために探している。たぶん。あってもおかしくない。

 ビクビクしながら第一教材室のドアを鍵で開けてすぐ閉めた。

「はあ……死ぬかと思った」

 安心してホコリっぽい空気を吸い込む。

 黒いカーテンの隙間から漏れだす光だけでしか部屋の輪郭をとらえられない。狭い。右側の壁はロッカーがたちならび、授業で使う地球儀とかデカイ定規が結構乱雑に箱にいれられている。

 スイッチをカチカチやっても蛍光灯がつかない。そこら辺に置いていけばいいか。整頓もしてないようだし。砲丸の入ったダンボール早く下ろしたい。

 と、気がつく。

 ドア側の部屋の隅っこに人影が立ちすくんでいた。

 人体模型か。それにしてはあまり肩幅も広くないし、シルエットが丸い。女の人っぽいような。

 よし見よう。人体模型だから。人体模型だから見てもいいでしょ。あいにく僕以外に誰もいないし。

 カーテンを開け放つと、やっぱり女の子だ! 普通の人体模型とは様子が違う。

 黒いニーソックスで制服のスカート、白い肌に引き締まったウエスト。

 長く銀色の髪に隠れたお世辞にも大きいとはいえないバストに、切れ長の青い瞳…………ついさっき獣と戦ってたAクラスの子によーく似てるような……。

「きみ、あそこにいた」

 しゃべった。天使のような声で、半裸で。

「しゅしゅしゅしゅみません!!」

 僕は思わず自分の身体を抱いて背を向けて座り込んだ。

 紛れもなく本人、生徒会会長でAランクの志谷部 藍子だ。なんで? なんで? なんでここにいるんだ??!!

「それはランコがする方じゃない」

「ラン、ランコ?」

 振り返ろうとしてやめた。だって全部みえてしまう!

「Bと練習してたとき、居たでしょ」

 聞こえていないと踏んだのかもう一度言った。

 やっぱりバレてた、か。見てたし。こ、ころされる。

「あ」

 布の擦れる音だけがやわらかく漂う。それから数秒。

「服着た」

 おそるおそる振り返った。

 スカートがファサッと落ちて純白の下着がお目見えした。

「キャ~~!」

「あまり騒がないでほしい。ここに居るのバレたくない。気に入ってるところ」

「ご、ごめんなさい」

 平坦な声のあと、また制服が擦れる音がしはじめた。

 なんだこの人。なにかおかしいぞ。

 美貌は相変わらずなのに、周りの空気まで輝いて見えるほどの神秘性を微塵も感じない。口調もだいぶ砕けてるし、突っぱねるような圧迫感も感じない。

 この人本当に、バベルの塔の頂上に咲いているような高嶺の花の志谷部 藍子、本人なのか?

 それに、怒っていないような。

「きみ、Bの人と練習してるとき、あそこに居たでしょ」

 オウムなのかってくらい同じ言葉を繰り返してくる。答えるまで続けそうな勢いがあるから、背中を向けたままならどうにか。

「い、いましたけど」

「当たった。やりましたね」

 順調に着替えが進んでいるようだ。というかなんでこんなホコリ臭くて狭い物置部屋で着替えてるんだ。

「やりましたね」

「え? よかった、ですね?」

「伝わってない」

 ロッカーが開く音。

 逃げたい。と言ってもドア側は塞がれているし、窓からいっちゃうしかないか?

 くそ、本当に使えないな僕のチカラは。あー、どうしよう。あー、ころころ。

「能力使ったでしょう。君」

「えっ」

 一気に血の気がひいた。

 心臓がドキドキしだした。

「こっちを向いてほしい。向かないと告発する。戦うもの以外の介入は禁止」

 う、やっぱり怒ってらっしゃる。

 床と目を合わせたまま声の方に向いた。

 まだブラにぱんてーだったら困るから、足の先から見るつもりで視線を上げていった。

 良かった服着てる。セーラー服を凛々しく着こなして、社長が座ってそうな高級感のある椅子に腰を下ろしていた。肘掛けで頬杖をついている。どこかの女王みたいな貫禄だ。あんな椅子この部屋にあったのか。

「ランコが治したの」

「治した?」

 思わず聞き返してしまった。

 ピクン、と志谷部の頬がうごいた。組んでいる足が組み代わった。

「ランコの『リヴ・フォーエヴァー』でネジをあるべき姿に治した。ネジは生徒会室で使ってる生徒会長椅子からあらかじめ抜いてあった物。抜かれたネジはそれだけでは不完全。欠けている。だからランコが治した。ネジは椅子の一部であることで完全になれる」

「な、なるほどぉ…………そ、それじゃあこのへんでお暇させて……」

「能力なに。教えて」

 逃げられない、か。

 告発は困る。どう困るかは知らないが、生徒会長直々の脅しだ。良くて奉仕活動、悪くて退学。どちらもゴメンだ。ここは、断固として黙秘する!

 僕は要点をまとめて簡潔に『アクイース』を伝えた。

 感想はすぐに返ってきた。

「ありきたり」

 そうです。バスの運転手さんでも使えます。

「どうしてあのタイミングでだけ使用したの」

 いいたくない。は、もう通用しないよな……。

「あのまま……」驚くほどかすれうわずった声だった。喉を鳴らして、意を決した。「あのまま、吉外さんが、会長さんの攻撃を真正面から受けたら本当に、ただじゃすまないと、思いまして……ガラスをつたわせて、僕ので、会長さんのチカラ、じゃなくて能力を一瞬だけ増幅させれば、強すぎる能力の反動で、攻撃が少しでもそれないかな……っていう、浅い考え、でしたっ……!?」

 身体をひく暇もなかった。透き通った青い瞳に、鼻がくっつきそうな近距離で見つめ返されていた。

「きみ、面白いね」

「? ふぃででででで!!」

 おもいっきり頬を引っ張られてる。

「ふぉめんなはい、ふぉめんなはい、ふぉめんなはい!」

 謝っても無表情で引き伸ばされる。Aランク式の罪人への報復なのか? 子供の喧嘩でだってやってるの見られたら写メしてツイートしてしまうようなレア行動を、まだやられている。

「次、ランコの番」

 パチンと音がするくらいに急に手が離れて頬が元に戻った。

 えらく整った顔のまぶたが下がり、両手を床に置いて前傾姿勢。

 なにかを待っている銀髪の美少女が僕の目の前にいた。

 ……いい匂いだ。そう形容するしかない香りがする。

 薄い唇が外の光で艶やかなカーブを描き光沢を放っていた。

 陽の光があまり差しこまない物置で、学園で最も強く清く美しい女の子とふたりきり。

 そして彼女は目をとじる。

 こんなお膳立てされた状況で、据え膳食わぬ男では、ない。

 みんなゴメン。

 小生、一足早く男になります。

 バーン! 力強くドアが開いた。

 あの荒々しく合理性の欠片もない破壊神性を垂れ流す女子は、巳志長さんちの菜々しかいない。

「おーい今帰ったぞ飯だ飯! あれ? いない? アイツ置きっぱでどこいったってなにこれうっひょー! 廻る廻るぅ!」

 部屋の中心に鎮座する生徒会長椅子で遊びはじめた。

 入って3秒で即、興味が僕から椅子へと移ったらしい。

「何なのあの人」

 ただでさえ切れ長の瞳が細く鋭くなった。怒っている、と肌から伝わってくる。僕はその剛気に怯えたりはしなかった。それは鼻息がかかるほどに密着しているせいだろう。

 抱き合っているといってもいい。僕がバンザイしている脇に志谷部が両手を通している感じ。ロッカーの中で僕と志谷部の間にほとんど隙間がなかった。

 僕のドキドキが伝わってしまう。は、恥ずかしい~~。

「ハンパな気持ちはいらねえ~~ッ! ブッチギリギリいええ~~~~いッ!!」

 生徒会長椅子のローラーで部屋中を滑走する菜々。ここにいるのがバレたくないから隠れているんだ。早く出ていってくれ。ああ、でもこの柔らかさと香りを味わっていたいけどこれ以上は、ちょっと、アレがアレで、マズくなりそうだ。

「あ、あの、アイツ、僕の知り合いなので、バレても口止めできます」

「ダメ。あの人には知られたくない」

 激オコだ。

 そんなことも知らずに地球儀の足の裏とか、ダンボールの裏をみておーいとか言ってる。僕をダンゴムシかなんかと思っている節があると思っていたけどホントだったんだ。なんかすごいなコイツ。

「んだよ帰ったのか。美少女おいてくとか、ホワイトハウスに睨まれるぞ」

 ホワイトハウスは難しい言葉を言いたかっただけで特に意味は無いに違いない。

 くそっ、ツッコミたい。

 でも、ここをでていったら、見惚れるほどの志谷部 藍子の……居場所が…………しら…………れ………。

「震えてる」

 ビビリすぎて低すぎる天井に頭をぶつけた。やばい、見つかる!

「もういない」

 会長のしなやかな手がロッカーを押し開けた。

 すでに自称美少女の姿はなくなっていた。

 ズボンのケータイが震えている。慌てて取ると着信は菜々からだった。

『ちょっとどこにインの。帰った?』

「いや、まだ中だけど……」

 生徒会長椅子がポンッと煙をあげて消失し、手のひらにのるほどの小さいネジが残った。

「彼女のこと、あまり信用しない方がいい」

『えぇ? 仕事もしないでなにやって――――。

 銀髪がわずかな斜光で美しく輝き、ひるがえる。

 ロッカーに収まっている僕に、ひらひらと手をふった。

「たのしかった」

「ま、まっ!?」

 呼び止める声を飲みこんだ。廊下の窓に、はち切れんばかりの巨体が影を落としたからだ。

 志谷部 藍子が下校するのに門までボディーガードする肉の塊は緑王学園名物だった。つまりいま、僕が会長に声をかけたら絶対にミンチにされる。

 最後になにか言いたかった。気がする。

 呼び止めて適当にでてきた言葉をそのまま繋ぎあわせたかった。気がする。

 よくわからない。

 体温と鼓動も感触も感じられていたのに、どうしてこんなに遠いんだ。

 ドアの鍵が重々しく回って、ロックされた。

――てんの? おーい』

「あ、ああ。ごめんなんだって?」電話していたのを忘れていた。

『誰かといるの?』

「いや、もう」

『もう?』

「や、なんでもない。お前はどこにいるんだ」

 揃いすぎた設備。異次元の能力をふるう生徒。

 そして、最も強く清く美しい女子との接触。

 一号館は僕らが生きている日常と乖離しすぎていた。

 もうさっさと帰ろう。ここは刺激が強すぎる。

『玄関いて、戻るわ。なにしてたのか教えてよ』

「別に、トイレだよ、トイレ」

『嘘こけ。声が明らかに明るいんだよ』

 なに? そんなに違うか。

 と言っても言えるわけもないし、信じてもらえるわけもない。

「わかったわかった。あとで話すから」

『そんなモッタイぶるような事してたんだ』

 しつこ。これはしっくりくる答えが出るまでまとわりつかれるパターンだ。適当に、トイレが水洗で良く掃除されてて快適だったから感動してた、とかでいいか。それをもったいぶって伝えよう。

「じゃあ、よーく聴けよ? 絶対に最後まで聴けよ? あれは遡ること三年前」

 鍵を回してドアを開けると、フルフェイスヘルメットと目があった。

 せめて一年にしろ。菜々のツッコミが薄れる意識の中に。



 眩しさに意識が覚醒してくる。

 気を失っていた、のか。

 暗闇での強い逆光。たたずむ人型の影が5つ、普通の頭より大きいくらいしか認識できない。

 宇宙人と遭遇したらこんな感じだろうなぁ……。

《ダイイッカイ、チキチキ、ダンザイクイーズ》

 音ではなく文字として脳に直接伝わってくる。身体を動かそうとして、エアロバイクらしきものに跨っているのに気がついた。

 ペダルとグリップに手足が縛られていて動けない。あれ、どういう状況なんだこれは。

「デデン」

《キサマハ、オヨソ三0プンマエ、コノキョウザイシツデ、ナニヲシテイタノデショウカ。ハイハシッテ》

「チッチッチッチッチッ…………」

 やっぱりどういう状況なんだこれは。

「チッチッチッチッチッ」

 よくわからないけど、これは時間制限なのか? 走ってって、なんだ。これか? ペダルを漕いだ。

「ティリリリリリリ」《ハイコタエテ》

「え? 何、えーと……【アクイース】!」

 僕が能力を発動した瞬間、青白い雷が僕の貫いた。

 全身が意識に反して痙攣して、脱力した。これはたぶん、電気を操る能力だ。口からアワがでているがふけない。意識はハッキリしているのが、辛い。

 いい感じにそこにいる全員を巻きこんで共倒れする能力が暴発するのを淡く期待して撃った。1対5で縛りつけられていてどうにかするには、これしか打開方法が思いつかなかったのに……大凶だ。

「ナ、ナニをしている! 丁重に扱え!」

「コイツが自分でやったんだよ! 今アクイースって! 俺のを勝手に増幅させたんだよ! なんかブワーッ!ってなったし!」

「うっわ、人のせいにするとか流石にないわーー。てかこれ着てなかったら、あたしらまで巻き込まれてたんですけど?」

「もう直接聞きませんか。この人もう、抵抗できませんよ」

「ウム、そ、そうだな!」

 固まってた人影が横一列に並び直し、真ん中のヤツが歩み出た。

「我々は志谷部 藍子生徒会長親衛隊である。貴様、藍子様の隠れ家であるところの第一教材室から藍子様が退室したのち、室内からでてくるとはどういう了見だ。我々は説明を求める」

 求めるとか言われても、しゃべるのもおっくうなんだけど。

「俺たちだって入ったことないのに」「ずっこい」「許しがたいんだけど?」

「あくまで口をわらんのなら多数決でお前を裁く」

 そんなの絶対、5:0に決まってるじゃないか。

 多数決を取らずに真ん中のリーダーっぽいヤツがピッと僕を指さす。

 みるみるうちに一つの人影が膨張していった。耳があって毛むくじゃらの巨大な獣の影にしかみえない。爪が鈍く光っていた。

 号令がこだました。

「藍子様に害を与える雄に天罰をォ!」

 一本しかない僕の首には多く、太すぎる爪が風切り音を鳴らした――。

【――――リンカァァアアア】

 その時だった。

 背後で激しくガラスが砕ける音がし、強風が吹きこんできた。

「ここか!」

 気力を振り絞って首をひねる。カーテンがはためく窓に菜々の姿があった。

 うさぎ跳びのような体勢で窓枠に両足をかけて、左手のヘッドシュリンカーの炎でカーテンが燃えている。

 ヒーロー見参みたいなポーズだ。本当、いまだけはヒーローに見えた。

「な、何者だああぁぁああリーダーーーーッ!」

 真ん中の中心人物っぽいのがドアを突き破って廊下の壁に頭を打ちつけた。

 明るくなってわかる。ここはまだ教材室で、黒いフルフェイスヘルメットに黒い作業着の黒ずくめの集団が相手だったことが。

 敵はおのおのの構えを菜々にとった。

「くっそう! 隊長のかたきッ!?」

 ゴキッ。ゴキッ。

 拳がうなる。骨が鳴るたびに関節から小さい炎が噴出、心なしか黒ずくめの四人が後ずさっていく。

「てめえら、タマぁ取られる準備はできてんだろうなぁ?」

 一人が腰を抜かした。一人が人のサイズに戻った。一人はどうにか構えてはいるが足が震えた。一人はヘルメットごしに泣き声を漏らしていた。僕は漏らしていた。

 壁が燃えている。いや、迫力による錯覚だ。真横にいるのに僕まで圧倒されている。

 迫る脅威。手に取るように親衛隊員の気持ちがわかる。

 接触すれば何か起きてしまう。悪い方に。

「た」

 耐えかねて先に動いたのは、向こうだった。

「退却ぅーーーーッ!」

 隊員はすぐさま隊長に群がってその死に体を持ち上げた。

「覚えてろよ! 絶対に、お前らに、天罰をくだす! 絶対にだ!」

「夜道にキぃつけな!」

「朝方も気をつけろ」

《歯ぁ磨いてねろ!》

 ひと睨みされて尻尾を巻いて逃げた。

「無事か!? 逃げんぞ!」

 菜々が駆け寄ってくると、複数の足音が廊下からする。

 僕が暴発させた電撃の光のあと、菜々が突っこんできたんだ。ヘルタースケルターで地面を殴って飛んできたんだろう。複数人に気づかれないわけがない。

 ヘッドシュリンカーの鋭く尖った爪でロープを切ると、僕は横向きに抱えられた。お姫様抱っこ処女が奪われた瞬間であった。

 そしてなんの迷いもなく窓から飛び降り、僕らの保健室に逃げこんだ。



「何はともあれちょっと休めば大丈夫のようね」

 僕の身体をまさぐっていた種寺先生は、満足したのか手をかざしてヒーリングを始めた。ぼんやりとした灯籠の光ににている。色情教師とは似つかない心おだやかになる光だった。

「ごめんね。私がいけばこんなことにはならなかったよね……」

 丸椅子に腰を下ろした真奈先生がベッドのかたわらで僕を見守っていてくれる。こんなに嬉しいことはない。沈んでいる真奈先生は怒られている子供のようで可愛さが溢れていて、どうにかしなくちゃと言う気にさせられた。

「先生は何も悪く無いです。一から十まで自業自得ですから」

「いいや違うね。あのフルフェイスヘルメット大好きクラブが、か弱い男ひとりに群がったせいだ」

 足元の方で菜々が鼻息荒く腕組み仁王立ちしていた。

 あの教材室は志谷部の隠れ家で、たまたま出てくる志谷部と鉢合わせたところを親衛隊に拉致られた。ということにして説明した。

 うん。ロッカーでど密着。言えるはずもなし。それに嘘はいってない。

「弱者相手に男がよってたかって、恥はないのか恥は! あーイライラする。ジャムの瓶の蓋さえ開けられないか弱い男に! マラソン大会の前半でゲロゲロ吐いてたか弱い男に! チカラの測定で一瞬すぎて先生が早くヤレって怒りだしたか弱い男に!!」

 あんまり弱い弱い言わないでほしい。そりゃ弱いけどさ。

 突然だけど僕は男だ。僕は男。

「相手はBかAだったのよ?」種寺先生が呆れたように言う。「なんでEの君が追い返せるの」

「そりゃ、アタシの溢れ出て止めどない魔性の魅力におののいたんスよ。ダメだできない。僕らには、この楊貴妃とクレオパトラとの生まれ変わりに傷をつけることはできない。撤退! ってなもんですわ」

「菜々ちゃんおっぱいでっかいからね」

「せ、セクハラはおやめください」

 種寺先生の視線から乳を隠して後退りした。

「セクハラついでにいうけど復讐なんて考えないこと」

「は? なんで! やり返さないと気が済まないでしょ!」

「奇襲まがいの状況だったんでしょ? 正々堂々とやったら貴方がただじゃすまないわ。顔を覚えられているから危険よ。遊び呆けていたのだから、他の生徒たちにも覚えられていてもおかしくないわね。知らない生徒が居る、ってね。探されたら一巻の終わりよ」

 口をつぐむ菜々。真面目な顔をしていると種寺先生はまるで先生みたいだ。

「そうだよ。けんかはダメ」

 私、がんばりゅ! みたいなポーズで真奈先生が菜々を咎めた。ナチュラルにこのポーズを使いこなせるのは世界広しといえど真奈先生しかいない。

「みんな学園の仲間なんだから仲良くしなきゃ、先生おこるよ」

 納得のいっていない様子だけど菜々は小さく頷いた。

 保母さんになっていたらさぞかし人気の先生になっていたに違いない。いまも十二分に人気だけど。真奈先生がいるから学生の間で大きな揉め事がおきないと言っても過言ではない。

 全ての邪気を払ってくれる笑顔を見せてくれた。

 菜々を鎮められるのは真奈先生以外にいない。双子の妖精が巨大不明生物を鎮める歌を響かせてもこうはならないだろう。

「よかった~。今日はずっといるから、なんでもほしいものとか言ってね。わたし、なんでもするから」

 ふんす、とする先生。ちっちゃい。かわいい。聖母だ。だからものすごい罪悪感が押し寄せてくる。もうパンツ観覧イベントに作戦提供と参加するのはやめよう。戦士達がなんと言おうと説得してやる。パンツばかりみてすみませんでした。

「大丈夫ですよ、もうかなり良くなってるんで」

「そうだぞ真奈。帰りなさい」

 種寺先生がノってくれた。正直もう少し休んでいたいけど、このままだと家にまでつれそってくれそうな勢いだ。

「いいえ。わたしがふたりを危険な目にあわせたんだから、さいごまで付き合うわ」

「仕事が残ってるでしょ」

「う……」

「やっぱり。真奈は仕事遅いからね」

「せ、生徒の前なのにぃ~~! どうして桐子ちゃんはいつも意地悪ばかりするの~~!」

 ヒーリング中の種寺先生の横っ腹をぽかぽか叩いた。学生時代からの付き合いらしいから仲が良いのだろう。

「この子もそろそろ歩けるだろうから、心置きなく残業消化してきなさい」

「うう……ごめんね。ダメな先生で……」

「そんなことないですよ!! 先生がよくなかったらこの国に教師はいない! 自信もってください!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 菜々がビクッとした。思わず声を荒げていた。でも真奈先生がダメだなんてとんでもない。他のランクのヤツラに訊いても満場一致のはずだ。こんな良い先生他にいない。

「ありがとう~。うれしい~~よ~~」

 うっ! 視界がやわかな暗さに包まれる。ハグされているんだ。ああ、いい匂いだぁ……落ち着く……。

「先生、がんばっちゃうんだかね~~」

 離れるとニコニコで立ち上がった。菜々が底冷えするような視線を送ってくるが気づかないふりをした。

「今日は守衛さんに声をかけられるまえにかえっちゃうよ~~~~」

 3人の心に不安の種が芽生える中で、真奈先生だけがおっとりぽわぽわの笑顔だった。


10


 机にカバンをかけると寒さで身悶えした。

 窓ガラスの外はあいにくの曇り空だ。E棟はエアコンがないから冬は寒く夏は暑い。

 ホッカイロを擦りながら秋山くんと中山くんと雑談。気のおけない友達と話をしていると寒さも時間の進みも感じない。心やすまるひとときだ。

「オッスオッス」

 女子と挨拶をかわしつつ教室に入ってくる菜々。二人は逃げるようにして席に戻った。僕の後ろの席がこの鬼の生まれ変わりと噂されている女だからだった。確実にトラウマを植えつけられている。

「今日、朝ごはん何食べたの」

「ふつうに、ご飯と味噌汁とかだけど」

「おいしかった?」

「普通」

「ふーんそうかぁ……それも」

 席につくと、両手を頭の後ろで組んで椅子に背中を預けた。

「あたしが助けたおかげで味わえてるんだなぁ……」

 ウザッ。

 まあでも、昨日の出来事は悪い夢だった。命の恩人といっても差し支えないし。

 下手に動くのはやめよう。

 どうせEだ。下手ができない。

 たいした起伏のない平穏な毎日がはじまるだけ。

 それが僕だ。

「はーい、みんな席について」

 チャイムとともに入ってきたのは種寺先生だった。

 あれ。真奈先生じゃない。

 もしかして残業が長引いて起きられなかったのか。

 教室がそわそわしている。

「それじゃあ出席を取ります」

「センセー、マナマナはどうしたんですか」

 菜々が手を上げる。種寺先生は教室の空気に気がついたようで、ああ、と。

 ぼんやり言った。

「死んだよ」

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