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70回 バニー、ロリ巨乳、と来て巫女だから、次はメイドかな………?


「神に仕える者として、清く美しくなければいけないの。神との関係は主従。だからこそ信頼を損ねるわけにはいかないし、絶対に見限られるわけにはいかない。そういうものなの」

 彼女が自然な居住まいで、それでいて美しいのはそれが理由らしい。

 神。俺には無関係きわまるその存在の話題に、とてもではないがついて行ける自信がなかった。何しろ俺は無神論者だ。お盆に仏を迎えることもなければ、彼岸に仏壇にお供え物もしないし、大晦日や正月に神社に行って見たりもしない。七五三もしなかったし、葬式なんて見たこともない。

 父の墓だけはあるが、仏壇もなければ写真も飾っていやしない。

 まあ多分、それは母の心の整理がついていないからこそなのだろうが、だからこそ、俺には神の話など遠い存在以外の何ものでもなかった。



 

 ―――図書館を出て、少し歩いた所までは記憶がある。

 司書さんから逃げて、次は区立の図書館に行ってみようかなと考えていた途中、記憶がぷっつりと途絶えて、起きた俺は見覚えのない天井を見上げていた。

 枕元に座って俺を見ているのは、制服姿の弓削さんだった。

 板張りの床に敷かれた布団に、仰向けで寝ている俺を照らしているのは橙の濃い西日。

 何だ、この状況は。

「あ、気付きましたか?」

 正座の姿勢は崩さず、俺の顔を上からのぞき込んでくる弓削さんに縦に頷くことで肯定を返し、体を起こす。

「もう、起きても大丈夫ですか?」

 不安そうに尋ねてくる彼女に、答えを返すことなく質問を返す。

「ご…は?」

 痰が絡んで変な声になってしまい、慌ててのどを鳴らし再度「ここは?」と尋ねる。

「ここは私の家の境内です。うちは女系家族で、家の中に男性を上げるのは憚られて、その、こんなところで申し訳ないんですが………」

 こんな所。境内をこんな所呼ばわりとは恐れ入る、と思ったのだが、どうやらそうではないらしく、寝ぼけていた頭が覚醒し、いま自分が寝転がっている横で何が行われているのかを知る。

 そこには、弓を持ち、ただ静かに構える人たちがいた。弓道場、というところなのだろう。

 直接的にそう言わなかったのは、彼女の中でここが弓道場という役割よりも、境内の中にある建物だというイメージが強いからだろうか。

 ともかく、布団を掛けられ寝ていた自分がどれだけ場違いなのかは、考えたくもなかった。

「休め!! 五分の黙想の後射練開始!」

 急に大きな声を出した弓削さんを見て仰天する。何事かと驚いていると、寄ってきた少年に「私抜けるから後よろしくね」と一言って、こちらに目を向ける。

「移動しよっか」

 そう俺に声を掛けてくる。

「あ、はい…いっ…!」

 立ち上がる弓削さんに併せて布団から出て立ち上がると、腹部と首筋に疼痛が走る。

「大丈夫ですか!?」

 ふらっとした足取りを意識的に強く踏むことで治め、駆け寄ってきた弓削さんを手のひらで制して笑顔を見せる。

「大丈夫です、ちょっと痛んだだけですから」

 意味の分からない激痛をねじ伏せ、心配そうな弓削さんの後を歩く。歩く姿にも一本の筋が入っているようにすら見える美しさがあって、つい見とれてしまう。

 学校で見るときは、おとなしいといった印象だったが、今は何というか、静か、印象として言い表せているか微妙だが、静寂としている。そういう印象。

 こちらも板張りの、長い廊下を歩き道場らしき部分から抜けると、ガラス戸の縁側になり少し日差しが暑い。

「あの布団、あのままでよかったのかな?」

 痛みで片付けるのを忘れていたが、邪魔じゃないかと思い出す。

「誰かが片付けますよ、邪魔ならなおのこと。あ、ここで少し待っていてください。絶対、ここから動いちゃ駄目ですからね?」

 指で俺の足下を差し示しながら言って、一つの襖から中に入っていってしまう。

 動くなと言われても、こんなに広いと、動いたら迷子になりそうで動くに動けそうにない。

 弓削さんが来る前に、俺の中で現状の整理をしておこう。

 俺の最後の記憶は図書館から出たところだ。つまり朝、学校に行ってすぐの八時半前。そして現在、日の傾き加減から見ても時間は六時前後、俺は今日学校をサボって寝ていたことになる。しかも学校に行ったのにだ。

 またぞろ三好さんに笑うネタを提供してしまったかもしれない。

 そして、この痛み。

 完全に俺が寝こけていた理由はこれだよな、腹部と首への打撃。

 誰がこんなことしてくれたか知らないけれど、並大抵の人間じゃないことは確かだろう。人間、そんなにヤワに出来てないし、相当な力がなければ気絶するほどのパンチは打てない。と、思う。

 簡単にそんなことが出来るなら、ボクシングの試合は成り立たないしな。

 さて、ここまで考えて順路を立ててみると、学校で襲われて倒れている俺を、弓削さんが見つけて連れて帰ってきたことになりそうだな。なんでそんな事したのかは解らないけれど、保健室に運ばれたなら真っ先に由利亜先輩あたりに捕まりそうだし、そうなれば今頃病院の最高級の個室のベットで寝ていたかもしれない。

 それを防いでくれただけでも弓削さんには感謝だが、俺を看病する理由が解らない。

 昨日今日の面識の人間を、自分の家に連れてきてまで看病する、その理由。保健室に連れて行かなかった理由。そしてこの疼痛の理由。

 聞くことがまとまると、ほぼ同時に弓削さんが姿を現した。制服とは全く違う、巫女装束で。

「それは、いったい?」

 動揺を隠せない俺の表情を流し見て、答えるでもなく足を進め始めてしまう。

「これから全てをお話しします。あなたのお兄さんから頼まれていることもありますので」

 凜とした声。

 さっきまでの雰囲気が濃くなったような弓削さんは、

「場を用意しますので」

 その言葉で、ここではこれ以上聞くなと、そう言っていた。



 山野太一は嫌われている。

 学校の全校生徒にアンケートを行えば、八割の人間が嫌いと答えるだろう。

 それだけ、彼の満点と言う功績は学内にとどろいているし、それに付随して、と言うかこっちが本命の理由として、鷲崎由利亜と言う女の子を独占している現状は、彼の立場を知らず知らずのうちに危ういものにしていた。

 なぜ鷲崎由利亜が生徒会長にならなかったのか、疑問に思うことはあれど理由を知っているものはいなかったくらいだ。

 生徒会長、由井幹晴。だから彼は嫉妬していた。鷲崎由利亜の人望の厚さに。

 そんな彼女から信頼され、あまつさえ好意を寄せられる人物にも、良い感情を抱いてはいなかった。

 だが、彼は別に鷲崎由利亜に好意を抱いていたわけではなかったし、山野太一に対しても、個人的な恨みは一切なかったので、手を出す気はなかったのだ。彼女たちの、あの会話を聞くまでは。

 三好里奈、彼女は弓削綾音の親友と言ってもいい人物だ。

 そんな彼女には片恋相手がいる。山野太一、その人だ。しかし、山野太一の周りには有り得ないほど有望株な女子生徒がそろっていた。美しすぎる先輩と、可愛すぎる先輩に挟まれている彼に対して、三好里奈のできるアプローチと言うのは少なく、かつ時間も短い。

 困り果てている時、山野太一の隣の席の親友が珍しく自分から男子生徒に声をかけているのを目撃してしまう。

 勘違い、と言えばその通りなのだがそれでは片づけられない何かを感じ、開けてはいけない扉を開けた。

 弓削綾音に好きな人がいると言う、そういう嘘を吐かせたのだ。

 嘘を吐いたのは本人で、しかも押しに弱かったという様にならない理由によるものだったが、これにフィアンセであるはずだった由井幹晴は衝撃を受けた。

 その会話を聞いたのは本当にたまたまで、近くを歩くフィアンセの友達との会話を盗み聞く度胸は彼にはない。そんな彼をして、許せない内容が聞こえてきたのだ。

 そしてその翌日、由井幹晴は山野太一に接触し、弁明を受けた。そんな人物は知らないと。

 しかしその日の昼、山野太一がしらないと言っていた自分の許嫁と談笑しながら昼食を共にしているのを目撃し、由井幹治は我を忘れ自分を謀った山野太一を殺そうとした。殺そうとしたのだ。そこに弓削綾音が待ったをかけた。味噌汁を投げることで。

 

 正直者は馬鹿を見ると言うが、この場合、馬鹿だからこそ馬鹿を見たといえる山野太一の嫌われ方には一考の余地もない。

 記憶力、状況判断能力、身体能力、群を抜いて最高値にいる天才に、出来ないことなど何もない。

 馬鹿な事ばかりしていると、馬鹿を見るのだと言う事を、ご理解の上でお読みいただければと。



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