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いつの間にか終わる、いつも通りの夏休み。


 夏休みなんていいものじゃないと思っていた。

 外は暑いし、することはないし、ただただダラダラするだけならば、学校に行ってだらけている方がなんとなく何かをしている気になれて楽だ。そう思っていた。

 いや、今も思っているんだけどね。

 でも、今年の夏休みはかなり過酷だ。



「いいやっほぉぉおおおおお!!!!!!」

「きゃあああああああああ!!!!!!!! たんのしい!!!!!!!」

「ギャアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 遊園地なんて二度と来ねえぞ!!!


「ねえ、一人? 向こうにダチが沢山いんだけどさ、こっちきて遊ばない?」

「(にっこり)」

「行きましょうか」

「おい! てめえ、人が声かけてんだぞ!」

 男は俺の肩をつかみスゴむ。

そうしてどこの誰とも知れぬ男の腹に、由利亜先輩の強烈な一撃が炸裂する。

海も、もう来たくないな。


 遊園地、海。

 三泊四日ずつ、計八日間を遊び倒し、海から五日空けて今日はプールに来ていた。

 



とても来年大学受験をする人間とは思えない遊びっぷりだが、

『どうせ休みボケするんだから、最後の方に追い込みかけて、学校に行くころに頭が回るようにするのが賢いと思うの』

 なんとなく間違ってはいなさそうな理屈だが、だまされてはいけない。ただ勉強していないだけだ。

 花街先生の一件にキリが付いた翌日、由利亜先輩も納得がいったのだろう、

「私、海に行きたいの」

 突然そう切り出した。

「海ですか。釣りでもするんですか?」

 この質問に、由利亜先輩は露骨にため息を吐き、やれやれと口を開ける。

「夏に海といえば海水浴でしょ? それも男女二人でとなったら泊りでしょ!」

 なんだかよくわからないが張り切っているようだ。

 俺が「へーそうなんですか」と、冷やし中華をすすると、玄関をコンコンと鳴らす誰かが現れた。

 そちらを見れば、誰が来たのかは大体わかったが、椅子から立ち上がりながら、

「はーいそなたさんですかー」と声を上げる。

「どなたさんだよ、太一君」

 鍵を開け、扉を開くと予想通り美人な先輩が、なぜか立っていた。

「あつー、病院から出たらこの暑さだよ? 死にそう…また倒れそうだよ」

「それは勘弁ですが、先輩、退院したんですか?」

 なぜか、いる?

「退院しなきゃここに来ないでしょう?」

 あ、

「そりゃそうか」

 先輩は靴を脱いでそそくさと部屋に入ると、冷房の前で大の字になる。ワンピース姿など、初めて見たから驚いた。そういえばこの人の私服は今日が初めてかもしれない。基本制服の人間が、入院着に衣装チェンジして、そこから薄黄色のワンピース。

 健康的な印象を強めようとした結果なのだろうが、

「似合ってはいるけど、なんか違う…?」

 俺は誰にも聞こえないようにつぶやくと、熱風吹きすさぶ玄関の戸を閉めて食事に戻る。

 この冷やし中華が絶品で、もうなんだかんだ三日連続で昼食にせがんでいる。(もはや俺は、自分で料理を作るなど考えられない体になっている。)

「あ、へんはいはいひんひはなはいっへふへへはむはいひ…ゴホッ…」

「食べてからでいいよ…?」

 お言葉に甘えることにした。


「それで先輩、言ってくれれば迎えに行ったりしましたよ?」

 食事を終え、食器を片付けた後。お茶を飲みながら三人で宿題に勤しみながら質問する。

 退院祝いをせねば、心に決めた。

「さっき海に行くって言ってたわね?」

 そんなことを思いながらした質問は完全に無視され、話がさかのぼる。

「言ってたような、なかったような」

「言ったよ?」

 言わなかったって言ってよ! 面倒なことになるんですよ!

「よし! 行こう!」

 次の日には由利亜先輩のコネをフル活用し、俺と先輩は由利亜先輩についていくだけで毎日遊び放題の毎日を送り、俺の心身は過労を強いられ、そして―――



―――あっ、ア、アア、アアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」

 日本一長いウォータースライダーにて、とどめを刺されたのでした。

 終わり。


「ほらまだまだ終わらないよ!!」

「マダヤルンデスカ…」

 やめて! 太一のHPはもうゼロよ!

 この後同じことを五回繰り返し、由利亜先輩にも連れまわされ、プールでの思い出といえば、言えば……特にないです…。

 という状態に追い込まれた。

「先輩たち元気ですね…」

 ゼーハーゼーハー言いながら、ベンチで飲み物を口につける。

「そりゃそうだよ」

「だって、ねえ?」

 二人で仲良さそうに顔を見合わせて、見つめあう二人。

 今このプールには三人しかいない。海は無理だったが、プールはさすがにこっちが無理だと由利亜先輩が正造氏に頼んだらしい。だから今、先輩は素顔でビキニだった。絶世の美女の水着姿など、そうそう拝めるものではないとありがたがっていたが、今は疲れでそれどころではなかった。由利亜先輩の巨乳も、最初こそ意識させられたが(以下略。

「だって、何ですか?」

「交代で太一君を分かち合うことにしたの」

「そういうことだったのか!!!!」

 道理で今日はケンカしないなと思ったよ!!

「そうでもしないと海の二の舞になるし…」

「ああ…」

 あの時は酷かった…言い合う二人、それを止めに入る無関係な人たち、ちびっこに投げられる大人、美女に踏まれるおっさん。最高にカオスを極めていた。ちなみに俺は海の家で買った焼きそばとイカ焼きを食べながらその戦いを見学していた。なんでああいうとこの料理ってうまいんだろうな!

「だからって、俺酷使しすぎじゃないです?」

 自らに指をさし訴える。

「君はあの時楽しそうに見てるだけだったんだから、少しは苦労しなさい」

 ええ…そんな理不尽な…

 思っても言わないけどね、殺されちゃうし。

「だからほら、今度は私と遊ぶんだよ!」

 笑顔の由利亜先輩は、しかしこの時ばかりは悪魔にしか見えなかったとさ。



 童顔ロリ巨乳美少女(鬼)と、絶世の美女(鬼)とのプールはそれなりの楽しさで幕を引いた。さすがに最盛期に貸切るという暴挙は、経営側も考えられないらしく、プールは一日で終了となった。

 「それじゃあ今日からは宿題&受験勉強シフトで行くよ!」

 「「がんばるぞ~」」

 的なノリで始まった夏休み後半戦。

 夏休みも残すところあと十日。

 粛々と宿題に取り組む俺に目隠しをして、先輩二人が囁いた。

「「私たちの浴衣姿を見せてあげよう」」

 言いたいことは理解できたので、それじゃあ外に出よう。今日の気温は二十八度。夏もそろそろ終わりに近い。

 立ち上がり、軽やかに一歩踏み出そうとすると、ゴンという鈍い音と共に右足の外側の先の方にえげつない鈍痛が走る。

「アガヒャッ!!」目隠しして歩くとか馬鹿なことしちゃいけない!


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