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万能な男の子、優秀な美少女、必然的な美人。

 猛暑日となった球技大会以来、気温の上昇は例年通りにまで落ち込んだ。

 何をそんなに張り切ったのか、太陽はあの日以来元気を取り戻せずに気候はぐずる一方で、手に負えないほどの雨量はないものの、それでも梅雨は湿気とともにやってきた。

 にわかには信じられないが、台風も襲来しているらしく、何を冗談をと言えるほどに俺たちとは別世界でそんなことが騒がれていた。

 もちろん、俺たちは今まで通りにアパートに住んいるし、異世界への転生とか、そんな夢みたいな体験もしていなければ別の誰かの人生だって体験したりしていない。ならばなぜ、俺がそんな風に台風を遠い存在扱いするのかというと、俺の住む地域に一度として台風や地震、噴火や津波、それに竜巻なんかも一度として起きたことがないからである。

余震を体感したことはあるし、それ自体の存在はもちろん知っていて、それがどのような要因で起きるのかも、起きた時の対処法も頭に入っているのだが、喜ばしいことにそれが発揮されたことは今の一度もなかったりする。

 ちなみに、今住んでいるアパートは引っ越してくる際に俺と兄で耐震性を検査して問題ないと判断しているのでここに住むことによっての不安はないのだが、しっかりとした備蓄は由利亜先輩によってなされた。

 災害時の完全マニュアルの作成も、監修は由利亜先輩で、「すべては金の力で解決できる」が最終結果だった。

めちゃくちゃなのはいつも通りだが、これではまったくマニュアルになら無いので俺がきっちり書き直しておいた。


こんなことを書いて、やにわに災害を匂わせるような状態を作っては見たものの、残念ながら俺に至っては災害で命の危機に瀕するということはない。

ではなんなのかと言えば、いつも通りな現実逃避な訳で………

「まあね、初回で満点しか取らないなんて事をしたらそりゃ、先生たちも頑張っちゃうよね」

「でもね先輩………」

「デモもテロもないの、個人用テストになるのは仕方ないでしょ」

部室で、冷房をつけながら快適に過ごしている。

七月の始まりで、まだ梅雨は明けてないけれど初夏の暑さは俺の住む地域にも到来していた。

梅雨の湿り気と相まって、じめじめ感が最強に不快。

そんな環境でも先輩は、何かを忘れようとするかのように必死に勉学に励んでいた。

そして、今の会話である。

球技大会が終わると、我が校では一学期のまとめであるところの期末テストが目標と据えられる。

躍起になって動かしていた体を机に落ち着けて、手と脳を動かす作業、つまり学生の本文へと舵をとられる。

期末試験まで二週間。いつもいつも、二週間前になると担任から告知が入るのだ、

『えー、期末テストまで二週間になりました。しっかりと準備をして望んでもらいたいと思います。前回の試験では、職員室がざわめくことが二度起こりました。一つは知っての通り、山野くんの全教科満点。もう一つは、にもかかわらず例年よりも低い平均点です。』

ぴしゃりとお喋りが止まり、気まずい空気が流れた。俺には関係ないのだけれど。

『今回、また平均点が下がるようなことがあれば、平均点以下の生徒には補習があるので心するように。』

今回はそんな感じだった。

しかし、俺に限ってはこれだけでは終わらなかった。

『それに当たって、山野後で話があるからちょっと残ってくれ』

そう言われて、職員室へ付いていくと、自席へ着いた担任は俺の方を見ずに、

『お前、今回からテストは別で受けてくれ』

そう言い出したのだ。

いやいや待て待て、何故俺だけ。そう聞くと、

『お前がいると、全うな問題を作っているのに結果表を出すときに保護者から、な…』

どうやら学校側何やらクレームが入ったようだった。学校に一人くらい百点をとる奴がいることなんておかしくもなかろうに、一々そんなことで電話をするとは相当に暇なのか、それともこの教師に気でもあるのだろうか、シングルマザーは大変だもんな男手が欲しいのも分からなくも無い。

担任の言い訳を聞く間、そんなことを考えていた。ろくな人間じゃないなと、自分のことを卑下するのもやぶさかではない。

『兎に角、お前は別室で試験だ。それに併せて試験内容も少し難しくさせてもらう。』

とのことだった。


「何故だ!?」

「馬鹿みたいな高い点数とったからだよ」

それが当たり前とでもいうように、先輩は平然と手を止めずに、顔をこちらに向けることもなく俺をあしらう。

「馬鹿じゃないです~満点です~」

「うるさい」

すごまれた。

「はい」

「でもすごいじゃない、まさかって本当に職員室が騒然としたんだから。あ、そこの問題はそっちじゃなくてこっちの公式ね、そうそう」

もはやデフォルトに成りつつあるこの女教師。

名前はようやく覚えたが、花街和というらしい。一昔前なら大輪の花を咲かせそうな名前だが、容姿があまり妖艶とは近しくないのでそれを考えると、今ここにいない巨乳ロリの方がいくらか花魁向きか。

「すごさとか要らないんでそんな面倒で目立ちそうなのは勘弁してほしいですよ…」

「でも、山野君はもう十分目立ってるけど?」

「そんなのわかってますよ! だから尚更増長したくないんです!」

ここにいる美人の先輩、さっき頭に浮かんだ小学生な先輩。この二人のお陰で平々凡々な一般人である俺が、こんなにも何気なく目立つたち位置になってしまっている。

予想外に高校一年生の日々をめちゃくちゃにしている自分に、ほとほと呆れるばかりだがどんな風に生きていても乗り越えるべき壁として、学校の試験はやってくる。それを、

「それをわざわざ難しくさせてどうすんだよ…俺ぇ…」

机に突っ伏す。

さしもの勉強に熱中していた先輩と花街先生も苦笑いだった。

失笑されるよりはましかな、目を閉じて机に向かって諦め降伏を宣言した。

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