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学校の学期制はどこまで共通なの?


 ……………

 …………

 ………

 ……

 …


 眠い……

 ああ…

 腕が………

 動かない……


 最近慣れてきて痺れなくなってきたと思ってたのにな…。

 思いつつ、逆手で腕枕の役目を全うし痺れてしまっている右腕を、どうも表現しづらいくすぐったいのか痛いのかの境目を、我慢しながら引っ張り抜いて体を起こす。

小柄ゆえに、丸くなると俺の寝相にすっぽりと収まる由利亜先輩の体に布団をかけなおし、頭をやさしく持ち上げて枕を差し込む。

 現在の時刻は二十四時半。

 なんだかんだ続くこの役目も、すでにひと月近くになる。

 球技大会への参加が決まり、両親が襲来したその日の夜である。

 先輩と由利亜先輩の寝る部屋にて、その日の務めを終え部屋を辞す。

 ダイニングには本を読みながらお茶を飲む先輩の姿があった。

「今日はもう寝たの?」

 俺の姿を一瞥することもなく、本に目を落としたまま問いかけてくる。

「はい、まあ本当に寝てるかはわかりませんけど」

「それは確かに」

 演技のうまい女性である。俺の目を欺くのはたやすかろう。

 しかし、

「でもまあ、たぶん寝てますね。俺の母親かなり由利亜先輩に絡んでましたし、疲れてるとは思いますよ」

 一つ嘆息し、先輩は本を閉じ机に置いた。

 俺に目を向けて、何か言おうとして、やめる。

 閉じた口を、再度開き、きっとさっき言おうとしていたこととは違うことをいう。

「他人の親っていうのは、なんとなく良く見えるものよね」

「そうですね、とは言い辛いですね。俺は他人の親を羨んだことがないもので」

 自分の分のお茶を用意して椅子に座る。

「私も、人に見せられる親を持ちたいものだわ」

 言葉の意味がさっぱりもわからなかったが、深くは聞くなと、雰囲気で言われている気がした。

「俺の親も、自慢できたものではありませんよ。一人は専業主夫ですし、一人は放浪人みたいな職業ですしね」

「お父様はちゃんと働いているのでしょう?」

「ちゃんとかどうかは意見の分かれるところでしょう。母が忙しいのでね、家のことは父がやらなきゃなんですよ、だからまあパートタイマーです」

「お母様は、ずいぶん変わった方のようだったけれど」

 ぽつりと呟く。自分の素顔を見た時の母を、思い出しているのだろう。

「あの人は、まあ変人なのは同意ですね。何せあの兄の母親ですから、変でないはずありません」

「確かに…」

 激しく納得したようで、小刻みにうなずく先輩。

「でも、それを言ったら太一君もちゃんとあの方の子供って感じね」

「恐ろしく心外ですね、何をもってそんなにも失礼なことが言えるんですか」

 俺は、若干に怒りをあらわにしながら言う。

「私たちみたいな女の子を何の気なしに家に住まわせている時点で、変でなければ異常よ」

 自分たちのことを呆気なく変人扱いするのはいいが、流されるままに行動している人間までも変人扱いするのはどうなんですか。とは、言えず。

「誰でもそうすると思いますけどね、先輩と由利亜先輩に迫られれば、誰でも」

「こんなこと、誰にでもしませんよ」

 それは全く当然だったので、

「ですか…」

 そういってお茶を口に運んだ。



「じゃあお休み」と、部屋に入っていく先輩を見送り、コップを洗って俺も布団に入った。

 今日だけで、いろいろあったなと、他人事のように思いながら、一人寝る。




「「いちに、いちに、いちに、いちに……」」

 二人一組、片方ずつの足をひとくくりにし、二人合わせて三本の足で競争する。

それが二人三脚。なのだが。

 そもそもが、二人で息を合わせて足を進めていくという難易度の高い競技にもかかわらず、それが加えて体格の違う男女、しかも身長差まで全く違うとなると、もうその難易度は尋常なものではなかったりする。

「タイム、伸びないねぇ……」

 三好さんはストップウォッチ片手に笑顔でそう言う。何故笑顔なのかはわからないが、走るのが好きなのだろう。でなければただのマゾヒストなのだろう。

「あのさ、一つ提案なんだけど、やっぱ人変えたほうがよくない? 俺と三好さんだと二十センチくらい身長差あって、歩幅が合わないからうまくいかせる難易度がすごい上がってると思うんだけど」

 素直に、というよりは切実な言葉だったのだが、

「でも引き受けてくれる人いないし」

 完全なる却下。

「言ってる暇あったら練習するよ!」

 こうして無謀なる練習は続く。

 もはや、俺が抱えて走ったほうが早いのは明らかだった。

二人三脚以前に、三好さんは恐るべきリズム感のなさを発揮し、言っているテンポとは全く違う風に足を出すのだ。おかげでこけてばかりで進みやしない。

 にもかかわらず、本人はそれに気づいていないようなのだ。すこぶる手におえない。そう思ったのは今から三十分ほど昔のこと。

「ほら! 立って立って!!」

 言われて立ちあがり、足を差出すと三好さんが自身の足と紐で結んでいく。

 校庭の片隅。放課後のことである。

 周りでは似たような光景が広がっているが、ここほどこけているペアは、なかった。

「よし、行くぞ!」

 頭一つ分、それくらいの身長差。

 一七五センチの俺と、一五三センチの三好さん。

ここまで身長差のあるペアも、他にはなかった。



 五時半ごろ、

「そろそろおわろっか」と、三好さんが提案してくれた。

 タイムは一秒も伸びなかった。むしろ遅くなった。

 紐をほどき、水道で手やら顔やらを洗うと、自分がタオルを持っていないことに気づく。

やっちゃったわあと思っていると、

「はい、太一くん?」

 と、見計らったように由利亜先輩が渡してくれる。

「見てたんですか?」

「途中から。こけてばっかりだったけど、さすがに太一くんは紳士だね~」

 からかうように言う由利亜先輩に、

「ばれてないんですから禁句ですよ」

 念を押して口の前で人差し指を立てるしぐさをした。

 すると背後から声がかかる。

「山野君、これよかったら…」

 首にタオルをかけ振り向くと、ハンカチを差し出してくる三好さんがいて、

「え!? タオル持ってたの!? じゃ、じゃあいらないね!!」

 わたわたとポケットにハンカチをしまってしまう。

 慌ただしい人だなあ、と思っていると、三好さんは俺の背後を気にするようにする。

「俺の後ろに何か?」

「え、あ、いや…、?」

 ああ、そうか、この人小さすぎて俺の体で隠れてんだ。

 思い至って振り向くと、もうそこに由利亜先輩はいなかった。

タオルのことは感謝しつつ、何しに来たんだあの人はと、不思議に思ったりもした。






 球技大会(体育祭)の練習期間が始まりました。

 今日からほぼ毎日山野君と一緒です。

 ドキドキです。


 でも、なんでこんなに心惹かれているのか、いつからなのかはもう、思い出せません。


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