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30回 面倒臭いことは、少しずつでも進めましょうよ。


(これで、山野くんともっと仲良くなれるはず!!)


この時の三好里菜という少女が、どれ程に受かれていたかは後にわかります。

それほどまでにウカれていたのです。

なにせ…

どうにか何事も忘れて帰ってもらおうと試みたものの、俺と由利亜先輩の努力はむなしく露ときえ、二人三脚には参加することになった。

最後の方はもう、

「でろ!! さもなくばいじめてやるぞ!!!」

と、完全に脅しにかかってきた。

勿論、そんな脅しに屈したわけではなく、由利亜先輩からの「二人三脚だけでもでれば?」という諭しを受け入れたのだ。

出たくもない行事に出るのは、それなりに面倒臭くてたぶん当日には眠気に負ける気しかしないのだが、この場では、

「わかった、出るよ」そうと言うことしか許されなかった。

なるべくにも、出たくはなかったのだが仕方ない、そもそもこれは俺の傲慢なのだ。



「頑なだったね」

帰り道、雲行きの怪しい空の下でとぼとぼと坂道を下る最中、隣でちょこちょこと歩く由利亜先輩が表情を窺うように下から覗き込んでくる。

「まあ、そうですね」

少ない言葉で、心のモヤモヤした部分を気づかれないようにそっぽを向く。

「なにか理由があるの?」

「いえ、特には、ただ面倒だなって思ってるだけです」

ふーん、と興味をなくしていくように相槌てから、ぼそりと、

「長谷川さん、行事出られないもんね」

ドキリとしたが態度にでないように懸命に耐えた、

「うわ、すごい心臓早いねぇ…」

「なにしてんですか!?」

俺の激しく鼓動する胸に耳をあて、その鼓動を聞く由利亜先輩がいた。背が低いことがその行動を簡単にさせていた。

肩を持って引き剥がす。

「なんか、複雑…」

「何をいってんですか」

訳がわからん。

「だって、太一くん長谷川さんが行事に参加できないから自分も参加しないで部室にいようとか考えてたんでしょ?」

何故、わかったぁ……

「ま、まあ、間違ってはないですけど」

「けど?」

ふと、視線を感じた。

ここは通学路である。

上目使いに涙目の美少女(有名人)の肩をだき、なにかを訴えるように囁きかける男(不名誉な有名人)。

もう先は見えた。

ゆっくりと手を離し、進行方向を見る。

「歩きながら話しましょう?」

「ん? うん、?」

ああ、明日から学校行きたくないなぁ…


「確かに先輩の事もありますけどね、俺は俺個人として学校行事が好きじゃないんですよ」

「なんで?」

何でと、そんなのは決まりきっていた。

「喋ったこともない人間と何かするなんて出来るわけないでしょう?」

「?」

よくわからない。顔にそうかいてあるのが見てとれる。

これ以上分かりやすい表現はないんだけどな。

「友達がいないから楽しくないってこと?」

「ま、まあそう言うことです…」

あったね、簡単な言い方。難しい言い方してそれっぽく言ってみても騙せない人っているよね。

「でもそれなら三好さんとは仲良さげだったよ?」

若干不満げな口調で小石を蹴る。コツンコツンと転がって、勢いをなくして止まる。

「仲が良いかはわかりません。向こうが合わせてくれてるだけですから」

「ふーん、そ」

ふわっと風にさらされる由利亜先輩の髪の毛が、流れるようにさらわれて、端正な横顔を露にしその横顔はどこか寂しげで。

「今日の夕飯、何にする?」

でもそんな表情はすぐに消えて、話題と共に転換する。

この人は、子供みたいな顔なのに、本当に喰えない人だ。

なんとなく、負けた気がして悔しくなって、

「ピーマンの肉詰めにしましょう」

「それ私が嫌いなの知ってるでしょ!!」

少し意地悪でもして気を張らそう。

せいぜいこの子供っぽいところがなくならないうちに。




「夕飯の食材は昨日の残りがあるの」

そう言うのでどこによることもなくアパートに帰ってきた。

正直、もうこの家のことは俺よりも由利亜先輩の方が把握している。

洗剤や食器、もろもろの事は由利亜先輩の管轄下にあり、もはや俺の預かり知るところではない。

こんなところを親に見られようものなら、より一層変人扱いが増すことだろう。ここの家賃を払っているのは両親だ、甘えている身分で女を二人も囲っているなどと知られたらたまったものではない。

兄に知られてそう思う感覚は薄くなったが、よく考えてみればあの兄が全うなことを言うとは思えない。

そもそも、仕事で会った人間のことをペラペラ喋る男でもない。

つまり、未だ両親にこの状況は伝わっていない。

とするとだ、いつかここに来たとき両親は引っ越しの際に見たガラガラの部屋と、この今の明らかに俺の物ではない部屋を見比べることになる、そしてこう思うだろう「ここまでになるまでには相当な日数がかかるはずだ」と、すると俺に向かってこういうだろう、

「太一! お前いつの間に女を作ったんだ!!」

と?

お?


「お!!?」

父がいた。

ダイニングで、文庫本片手に考え事に更ける俺の目線の先、玄関に、なぜか、どうしてか、

「とう、さん…?」

「なんだこの部屋!?」

まさかの父襲来だ。

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